私は30分ルールについて大きな事実誤認をしていたかも知れません。昨日の元ライダー様のコメントでようやく気がつく間抜けぶりに自分で笑っています。これまで30分ルールについては平成19年7月20日付医政指発第0720001号「疾病又は事業ごとの医療体制について」にあるように、
(エ)医療従事者
以下の医療従事者を配置するよう努めることが望ましい。
(a)24時間体制で小児科を担当する医師が勤務していること。
- 産科及び小児科(新生児診療を担当するもの)は、それぞれ24時間体制を確保するために必要な職員
- 産科については、帝王切開術が必要な場合30分以内に児の娩出が可能となるような医師及びその他の各種職員
- 新生児病室には、以下の職員
(b)新生児集中治療管理室には、常時3床に1名の看護師が勤務していること。
(c)後方病室には、常時8床に1名の看護師が勤務していること。
ここに書かれている様に
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努めることが望ましい
今日は30分ルールの話ですから、産科関係の話にしますが、総合周産期センターもある種の条件を満たして認定されます。総合周産期センターになれば保険診療上は総合周産期特定集中治療室管理料の算定が出来ることになるはずです。「なるはず」と言うのは、たしかセンターの認定は都道府県の管轄であり、診療報酬の設定は国の管轄であったはずだからです。
ここで診療報酬での総合周産期特定集中治療室管理料を受けるにも施設基準が存在します。平成20年3月5日付保医発第0305002号「基本診療料の施設基準等及びその届出に関する手続きの取扱いについて」という通達があり、そこの冒頭には、
標記については、本日、「診療報酬の算定方法」(平成20年厚生労働省告示第59号)の規定に基づき、「基本診療料の施設基準等」(平成20年厚生労働省告示第62号)が公布され、平成20年4月1日より適用されることとなったところであるが、保険医療機関からの届出を受理する際には、下記の事項に留意の上、貴管下の保険医療機関及び審査支払機関等に周知徹底を図り、その取扱いに遺漏のないよう特段の御配慮を願いたい。
診療報酬の規定での基準は医療経営者にとって要注意のもので、少なくとも記載されている事を満たしていなければ、査定と言う怖ろしい結果がもたらされます。そこの総合周産期特定集中治療室管理料の項目を一部引用すると、
(1) 母体・胎児集中治療室管理料に関する施設基準
- 専任の医師が常時、母体・胎児集中治療室内に勤務していること。
- 母体・胎児集中治療室管理を行うにふさわしい専用の母体・胎児集中治療室を有しており、当該集中治療室の広さは、1床当たり15平方メートル以上であること。また、当該治療室に3床以上設置されていること。
- 帝王切開術が必要な場合、30分以内に児の娩出が可能となるよう保険医療機関内に、医師、その他の各職員が配置されていること。
- 当該管理を行うために必要な次に掲げる装置及び器具を母体・胎児集中治療室内に常時備えていること。
- 救急蘇生装置(気管内挿管セット、人工呼吸装置等)
- 心電計
- 呼吸循環監視装置
- 分娩監視装置
- 超音波診断装置(カラードップラー法による血流測定が可能なものに限る。)
- 自家発電装置を有している病院であって、当該病院において電解質定量検査及び血液ガス分析を含む必要な検査が常時実施できること。
- 原則として、当該治療室はバイオクリーンルームであること。
- 当該治療室勤務の医師及び看護師は、当該治療室に勤務している時間帯は、当該治療室以外での当直勤務を併せて行わないものとすること。
ここに明記されているのは、
30分ルールの記載が平成19年7月20日付医政指発第0720001号「疾病又は事業ごとの医療体制について」の「努めることが望ましい」とかなり異なっている事がわかるかと思います。診療報酬上は30分ルールのために医師、その他の各職員が配置されていないと総合周産期特定集中治療室管理料の算定を認めないとしています。ここの運用の解釈は現実にどうなっているかわかりませんが、総合周産期センターとして認定されるためには30分ルールは「努力する事が望ましい」で必ずしも満たしていなくとも可と受け取れますが、保険診療上は30分ルールのためのスタッフ配置を行なっていないと、総合周産期特定集中治療室管理料は査定される可能性があります。そういう運用と言うか解釈は保険診療上でしばしばあります。
ここでなんですが大阪府地域周産期母子医療センターの認定基準があります。これは地域周産期医療センターの認定基準ですが、30分ルールについて、
特に産科については、帝王切開が必要な場合、30分以内に児の娩出が可能となるような医師及びその他の各種職員
(注:この場合、あくまでも帝王切開に必要な医療従事者の配置基準をいうものであって、30分以内の児の娩出を意味するものではない。)
これは地域周産期センターの認定基準ですが、30分ルールの「努めることが望ましい」の一つの解釈があるように思われます。これが保険診療とどれほど関連するかは不明なのですが、30分ルールはそれが出来るだけの職員の配置さえ行なえば、実際に30分以内に娩出できなくともOKであるとも受け取る事は可能です。保険診療の施設基準もよく読むと職員の配置を求めるだけで、30分ルールを必ず行なえとは書いていないと読むことも不可能ではありません。
もっとも平成19年7月20日付医政指発第0720001号「疾病又は事業ごとの医療体制について」では職員配置さえ「努めることが望ましい」でしたから、大阪の基準は職員配置を条件に明記しているだけ厳しいとも言えます。
ここでなんですが、周産期センターの認定基準と診療報酬の施設基準が乖離している事は勤務する産科医にとってあまり関係ないことです。問題はJBMから見た30分ルールです。現状はどうやら周産期センターの30分ルールへの対応は、
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必要な職員の配置
JBMにおいて職員の配置は満たされているのに30分ルールが出来ないことは、ほとんど抗弁のしようが無い事態に陥ると考えます。院内慣行などを持ち出しても一顧だにされないのもまた良く知られています。また今時の事ですから、医療機関だけではなく担当医個人にも責任追及がなされてもさして驚く事態と言えなくなっています。
そういう観点から考えると、一般的に30分ルールは行なえるはずだと認知され、そのための職員配置も行なわれている建前があり、実際はできない病院が最も危険な病院になります。地雷を踏めば「はい、サヨナラよ!」に確実になると考えます。そうなると産科医が選ぶべき病院は、
- 実質も30分ルールを確実に行なえる周産期センター
- あの病院で30分ルールなど絶対無理だと一般的に思われる病院