新小児科医のつぶやき

2009-07-24 医学部定員増加効果

7/17付共同通信(47NEWS版)より、

医学部定員来年度も369人増へ 「地域枠」県外大学もOK

 深刻な医師不足を解消するため、文部科学省は17日、本年度に過去最多となった大学医学部の総入学定員枠を来年度も369人増やし、国公私立79校で総定員8855人にすることを決めた。文科省は今後10年間、この総定員規模を臨時措置として続ける方針。

 都道府県が地元勤務を義務付ける代わりに奨学金を出す「地域枠」は、近隣の都道府県の大学にも設定できるように変更したのが特徴。都道府県ごとに7人まで認める。

 文科省は「医師不足解消のため県境をこえて積極的に連携してほしい」としている。

 また、歯学部の定員を減らす大学は、減員の範囲で最大10人の医学部増員を認め、大学全体では30人の増員枠とする。具体的な増員計画は各大学が10月末までに文科省に申請する。

医師不足が叫ばれているので医学部の定員を増やす事が決定されたことを報じる記事です。この記事によりますと、医学部定員は8855人になり、なおかつ、

    文科省は今後10年間、この総定員規模を臨時措置として続ける方針

とりあえず8855人で固定されるとして考えてみます。この医学部定員増は去年ぐらい(一昨年もそうだったかな)から始まっていたはずですが、その前は7700人でした。もう少し細かく言うと1981年に8360人になった後、医師数抑制政策が始まり、1993年に7725人になり、2006年には7700人になっています。7700人時代からすると15.0%の定員増加になります。

この15%の定員増加がどれぐらいの医師増加に効果があるかになります。こういう計算は将来の推定人口の計算も絡んでめんどくさいのですが、2006年の医師の需給に関する検討会報告書の参考資料で試算してくれているので利用します。おそらく現時点で厚労省公認の人口推計モデルを使っていると考えますし、医師数に関しては単純な四則演算なので信用できると考えるからです。


定員モデル 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040
7700人 282 299 314 326 334 339 340
8085人(5%増) 282 300 317 330 340 347 350
8470人(10%増) 282 301 319 335 346 355 359

ちょっと補足しておきますが、このモデルでの医師数は御存知の通り定年は無く、男性医師も、女性医師もまったく同等に働く前提で計算されています。それと全医師数の中の5%が非臨床活動に従事しているので除外となっています。従来の7700人定員に対する5%増、10%増の医師数推定モデルがあるわけですから、グラフにしてプロットすれば15%増の医師数もおおよそ推定できるはずです。で、やってみると、

黒色の破線が15%増の8855人モデルの増加曲線になると考えられます。プロットによる推測なので精度はそれなりですが、そんなに大きな誤差は無いものと考えられます。この推測の15%増のモデルの推測値も加えて表にすれば、


定員モデル 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040
7700人 282 299 314 326 334 339 340
8855人(15%増) 282 302 322 340 353 363 368
7700人に対する
増加数
0 3 8 14 19 24 28
7700人に対する
増加率
0% 1.0% 2.5% 4.3% 5.7% 7.1% 8.2%


もちろんこれは定員増が10年限定ではなく、永続するとの前提ですから、10年先に医学部定員の削減が再び行なわれれば、20年後、30年後の推計はもっと小さくなります。もちろん逆にさらなる定員増加が行なわれれば推計は大きくなります。どう展開していくかの予想は現時点では非常に困難ですが、15%増の8855人では、20年ぐらいでは影響はそれほど大きくないとも思われます。

このあたりの影響は現在の医師の年齢により気になり方は違うでしょうが、10年先でもそうですし、20年先、30年先となると幾ら試算しても、その時の医療がどうなっているか、日本がどうなっているかなんて誰にも予測できないと考えています。一部に医師過剰を強く懸念する声がありますし、すぐにも歯科の二の舞を心配する声もありますが、とりあえず30年ぐらいはそんなに心配しなくても良いような気もしています。

ちなみに社会実情データ図録様の2007年のOECD諸国の医師数がありますが、表を引用すると、

このグラフでなら30年後に2007年時点のイタリア、スウェーデン、チェコあたりに追いつきます。ただこのOECD統計では

    2007年時点で日本の人口10万人当りの医師数は210人

こうなっていますから、どうもOECD調査と医師の需給に関する検討会報告書と集計法が異なっている可能性があります。2007年で210人だったのが2010年に282人に同じ統計手法でなるわけないからです。そうなれば30年後に追いつくかどうかも疑問です。もっとも今日のエントリーの基礎データは医師の需給に関する検討会報告書にかなり依存していますから、「そんなものが信用できるのか」「基礎から間違っている」「根性が曲がっている」「お前はアホか」と言われれば、それはそれで非常に正しい指摘と存じます。

元ライダー元ライダー 2009/07/24 08:24 >OECD調査と医師の需給に関する検討会報告書と集計法

最初のテーブルの数値が人口10万人対医師数ではなくて、全国総(実働?)医師数(単位千人)であれば、おおよそ辻褄が合うと思われますが。

YosyanYosyan 2009/07/24 08:36 元ライダー様

どこかでやったはずなのですが、2007年時点の集計法は70歳定年の女性医師労働係数0.7のはずです。問題はOECDに提出したデータがどういう集計で行なわれていたかで、これはチョットわかりません。医師数とか実働医師数のデータは今なお謎に包まれている部分が少なくないですからね。

法務業の末席法務業の末席 2009/07/24 09:30 Yosyan様
エントリ本文にて引用された医師の需給に関する検討会報告書のデータですが、原典のデータ数字は、人口10万人あたりの医師数ではなく、医師の絶対人数のデータです。Yosyan様は絶対人数を人口10万人あたり医師数と勘違いなさって、そのままダイレクトにOECDの数値と比較されています。(原典のデータは万人単位で、小数点以下1位の千人単位まで表示されていますが、Yosyan様はその小数点を見落とされておられるようです)

「医師の需給に関する検討会報告書」
http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0728-9c.pdf

この38頁の中ほどに表記された「表8 供給将来推計医師数」が、原典データと思われます。

法務業の末席法務業の末席 2009/07/24 09:43 前投稿に追記
>38頁の中ほどに表記された「表8 供給将来推計医師数」

「医師の需給に関する検討会報告書」http://www.mhlw.go.jp/shingi/2006/07/dl/s0728-9c.pdf
このPDFファイル(全52頁)の38頁めです。

検討会報告書の本文は28頁までで、29頁からは参考資料として、『日本の医師需給の実証的調査研究』(平成18年度厚生労働科学研究費補助金での医療技術評価総合研究事業 )の研究報告書がそのまま附属文書として添付されています。「表8 供給将来推計医師数」は研究報告書としては、全21頁中の8頁目にあたります。

PDFファイル下端のページ番号の数字で見る場合は、研究報告書のページ番号そのままに、「8」と表記されていますので注意して下さい。

法務業の末席法務業の末席 2009/07/24 10:09 Yosyan様の8855人モデルの推計医師数と、国立社会保障・人口問題研究所の「日本の将来推計人口」(平成18年12月推計、出生率中位・死亡率中位での推計、http://www.ipss.go.jp/pp-newest/j/newest03/h1_1.html)での将来人口とと比較すると次のようになります。

<年>:医師人数:日本の人口:10万人アタリ医師:指数(2010年を100とする)
2010年:282千人:127,176千人:221.7人/10万人:100.0
2015年:302千人:125,430千人:240.8人/10万人:108.6
2020年:322千人:122,735千人:262.4人/10万人:118.4
2025年:340千人:119,270千人:285.1人/10万人:128.6
2030年:353千人:115,224千人:306.3人/10万人:138.2
2035年:363千人:110,679千人:328.0人/10万人:147.9
2040年:368千人:105,695千人:348.2人/10万人:157.1

30年後には、人口10万人あたり医師数は、現状の1.5倍〜1.6倍程度になる見込みです。

ssd666ssd666 2009/07/24 11:15 この手の話でちょっと欠落しがちなのが、一般国民がどれだけ医療にアクセスできるかという視点ではないでしょうか。
もちろん、その辺で野垂れ死にしかけているホームレスも拾って病院に連れて行く日本は、ダントツに医者がこき使われるでしょうが、韓国やメキシコやトルコで貧乏人がまともな治療を受けられるとは思えません。
実質日本はビリなんでしょう。

僻地外科医僻地外科医 2009/07/24 11:55  ssd先生同様の指摘になりますが、OECDの報告にしても「医師の需給に関する検討会報告書」にしても供給面は過剰と言えるほど扱っているのに対し、需要についてはごく触り程度しか扱っていません。

 経済学では需要と供給の問題は等価に考えるべき、と言うのが普通だと思いますが、なぜか医療に関してだけは供給面だけに目が向けられるようです。
 OECDはそれでも付表で供給面についての調査もしています。

 古いデータで恐縮ですが{ネット上には付表のデータがないので)2003年の国民一人当りの受診回数は
 日本14.1回でOECDダントツトップ。ちなみに韓国は10.6回でOECD4位、メキシコは2.5回、トルコは2.6回でこの2ヵ国が最下位争いをしてます。

 急性期病床の病床利用率は日本が80.0%でOECDトップ5のひとつです。韓国は65.2%、メキシコは70.6%、トルコは57.1%

 このデータを人口千人当りの急性期病床数を合わせて考えてみると
日本は8.9床でOECDダントツトップ(他には7床台の国もありません)、韓国は5.7床、メキシコは1.0床、トルコは2.1床でやはりこの2ヵ国が最下位争いです。

 つまり医師一人当りの外来患者数でも入院患者数でも日本は他国に比べて圧倒的に負担が高いと言えます。

僻地外科医僻地外科医 2009/07/24 11:59  この状況下で、即効性の低い医師数増加に目を向けるというのは、経済効果の考え方からすると明らかにおかしいです。

 通常は需要をどうやって抑制するかに目を向けるはずなのですが、政府の誰もその話はしません。せいぜい「コンビニ救急を控えましょう」程度です。

BugsyBugsy 2009/07/24 12:16 医学部の定員を増やすと云う方針には首肯せざるをえません。

ただし教官を増やしてほしいです。医学部、大学院、研修医の教育、研究、臨床と多岐にわたります。
おまけに時間外の外来も診ろと言われ、各種委員会も教育、研究、臨床部門にもあり 各自が割り振られた委員会にまともに出席していたら診療業務に差支えがあり 集まらないので、結局そうした委員会は夕方5時や7時からになっています。

これはもう労働基準法以前に そういった時間に開催しなけりゃ委員会が出来ないからです。
研究だってそういった仕事が終わった夜間にせざるをえません。少なくとも労働基準法を守っていたら、今の少ない人数じゃ医学部のスタッフの仕事は終わりません。

理科系の研究室ではポスドクが就職に困ってるなんてよく聞きます。
一方で医学部の研究室では 研究職のポストに限りがあって、臨床系の教室でPhDをたくさん雇用出来るほどの人件費はなく、大型の科研費を分捕ってきても、せいぜい5年までの臨時雇用で引き続き雇用可能とは限りません。常勤のポストが無ければ とてもとても。もうちょっと有給職を増やして彼らにも門戸を広げてほしいですね。

たしかに大学院に行くことを嫌がる医師も多いですが、いったん入学した連中の指導を命ぜられたら大変です。
研究技官がいないので 全部自分で彼らの実験準備をしています。自分は研究指導者なのか実験助手なのか わからなくなっています。

これも自分の研究とは別にしてるんです(涙)。

numachinomajonumachinomajo 2009/07/24 13:56 長期的には医師は増やさないといけないんでしょうが、今これほど大学病院が苦しいときにさらに教育にあてる人手は無い大学のほうが多いんじゃないでしょうか。
私の観測範囲では臨床と研究と教育のバランスが保てなくなってる気がします。
勝ち組の大学や科もどっかにはあるのかもしれませんが、私の周りでは聞こえてくるのは人手不足の悲鳴ばかり。
そこに学生が増えて、ポリクリに回ってくるグループも増えたりしたらますますみんな逃げていくんじゃないかと。
ともかく今、現場で踏みとどまってる人たちにこれ以上の負担をかけたら崩壊は早まりそうな気がします。

元外科医元外科医 2009/07/24 17:17 >教育にあてる人手は無い大学のほうが多い
元はと言えば国の教育予算が少ないのが原因です。学生だけ増やしても問題は解決しません。
民主党は教育予算は増やすのでしょうかね?

天灰シナ中凶天灰シナ中凶 2009/07/24 17:23 ミンスの馬鹿は、定員さえふやせば
一人前の医師ができるとおもってるのか、、
 インスタントラーメンじゃあるまいし。。。

つっちーつっちー 2009/07/24 19:15 ギリシャはなんでこんなに看護師が少ないのだ!!

看護学生としては、看護師の方が大事だろって思う!!なんて言ったら怒られますね^^

僻地外科医僻地外科医 2009/07/25 07:26 >ギリシャはなんでこんなに看護師が少ないのだ!!

 よ〜するに医者が看護師の仕事をたっぷりしていると言うことかと(大学病院と一緒)

都内病院勤務医都内病院勤務医 2009/07/25 07:33 民主党は大盤振る舞いの政策の財源案として「公務員給与20%削減」を出してるんですよ。
地方の国立大病院の勤務医は身分としては国家公務員ではなくなったけど給与も各種扱い
もは国家公務員のまま(常勤ポスト以上は国家公務員共済組合加入)なわけで……。

大学の定員増やして仕事が激増するのに、給与は20%減。

もう地方の医学部の崩壊がめちゃくちゃ加速しそうで、もうすごく楽しみです (笑。

BugsyBugsy 2009/07/25 12:28 教育スタッフもそうですが、設備の増設も必要です。

医学部の定員を増やすことは簡単だと思ってる連中は おそらく授業は階段教室で6年間座学での講義だけだと思ってるんでしょう。基礎医学だと解剖から生化学、病理まで実習があります。

定員を増やすのなら 顕微鏡、実習室のスペースの拡充を終わってそれからでしょう。
講義は代返ですます学生も多いけど 実習だけは全員出席が基本ですから。

いっそのこと新しい医科大学を創設したほうが早いんじゃないですか?ハコモノやポストが出来て喜ばれるかもしれません。

cobonzucobonzu 2009/07/25 14:02 定員増の話題になると多くの場合に教官増の話題になります。

20年ほど前に、定員120から定員100に減らされた医学科がいくつもあったように思いますが、そのときは教官の人数は減らされていたのでしょうかね?

昔、定員削減したところが戻るぶんには問題なさそうに思うのですが・・・、私の母校はまだ戻していないようだし・・・、と思ったら、今の総人数は過去のピークよりも多いんですか。

ya98ya98 2009/07/25 20:00 医学部の定員増は国試の合格率にもよりますが、確実に医師数を増やします。病院で医師が増えると確実に医療費は増大する。だからこそ、医師過剰を吹聴して定員を削減した。逆に定員増を言うときには、皆保険制度を諦めるつもりだろうと思っていました。ついに来たかというところです。選挙前に定員増、選挙後に混合診療導入を出すつもりなのかという勘ぐりをしてしまいます。

ただ、後期高齢者医療制度の廃止にしろ、医療保険制度の数字の帳尻は合わず一般会計から繰り入れするにしても限界があるでしょう。どうやっても小手先の制度改革では修正がきかないところに来ている。2,3年後には今の制度はアウトという気がしています。

恐慌で税収の落ち込みがひどく、相当な国債増発は避けられない。もし国内の金融機関だけで引き受けられない事態が出現すると、制度として混合診療導入がなくても旧ソ連型の医療崩壊が起きそうです。こうした事態をすでに予想している連中もいます。

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/07/25 22:17 旧ソ連型の医療崩壊というのは、医者になっても給与が安くて食えない(全員公務員)ので、ヤミで自費診療するか、外国人相手に観光タクシード運転手する、ってのですね。
はじめてロシアに行ったとき、ウラジオストックでたまたま乗ったタクシーの運ちゃんが「実は自分はウラジオストック大学の医学部を出ている」と言ったんで、びっくりしました。
イギリスは英語だから、医者はアメリカに逃げることができましたが、ロシア人の医者は英語話せません。だからロシアにとどまるしかなかった。
日本の医者が増えると旧ソ連型になるってのは、ありそうな気がします。

moto-tclinicmoto-tclinic 2009/07/25 22:24 変なはなしですが、わたしが空恐ろしいと感じたのは、そんな状況でも、ロシアの医学部の偏差値は他学部にくらべて、高いまま落ちなかった、ってことです。
これからの日本の医療、薬剤費は、新薬出るたびに薬価が上がって安い旧薬製造中止になって、伸び続けますが、医者の労働費はどんどん下がるでしょう。
それでも医者になりたい、っていう高校偏差値の高い若者は、尽きないからです。

ya98ya98 2009/07/25 23:02 moto-tclinic様

> 旧ソ連型の医療崩壊というのは、医者になっても給与が安くて食えない(全員公務員)ので、ヤミで自費診療するか、外国人相手に観光タクシード運転手する、ってのですね。
通貨の価値下落し、医療費は2年に一回の改定では上のようになります。制度はなくても必然的に自費診療になっていく。

> これからの日本の医療、薬剤費は、新薬出るたびに薬価が上がって安い旧薬製造中止になって、伸び続けますが、医者の労働費はどんどん下がるでしょう。

旧ソ連型の崩壊というのは、経済破綻(特にインフレ)から公的な制度が根底から壊れてしまって、ヤミの形で自由診療が急激に入ってくる形です。国が医師の労働費、薬剤などの価格を決められなくなる。質的な面でも保証はされませんので、患者サイドにとっては最悪のコースです。下手な告発するとマフィアに消されたりします。

卵の名無し卵の名無し 2009/07/26 00:43 医療崩壊の話になるといつも思うのは医療費の穴を塞ぐには介護崩壊とどっちをtriage?

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