新小児科医のつぶやき

2009-09-14 日本にもステラ賞ができるかも

ステラ賞については前にも取り上げた事があるのですが、簡単にご紹介すると知る人には有名なマクドナルド・コーヒー事件に由来しています。訴訟大国アメリカでも「さすがに・・・」と言わしめる訴訟(判決ではありません)にランクを付けて賞を贈ると言う企画です。

前のエントリーからだけのものでラクをしますが、2006年度の1位は、

2006年度優勝者:アラン・ヘッカード

 オレゴンのポートランドに住むヘッカードは、バスケットボールのスター選手であるマイケルジョーダンより3インチ(≒8センチ)も背がひくく、体重も25ポンド(≒11.5キロ)軽く、8歳以上年上であるにもかかわらず、ジョーダンと似ているため頻繁に間違われることがあると言い張っていた。それにより、ジョーダンに対し「名誉毀損と永久的な(心的)外傷」を負ったとして5200万ドル、「精神的苦痛に対する懲罰的損害賠償」として3億6400万ドルの訴えを起こした。さらに彼は同額の訴えをナイキ社の共同創業者であるフィル・ナイトに対し起こし、総額8億3200万ドルを要求した。しかしながら、彼はナイキ社の代理人との話し合いでこのまま訴訟を続けた場合逆に訴えるなど強硬な措置に打って出ると聞かされ、すぐに訴えを取り下げてしまった。

And the winner of the 2006 True Stella Award: Allen Ray Heckard. Even though Heckard is 3 inches shorter, 25 pounds lighter, and 8 years older than former basketball star Michael Jordan, the Portland, Oregon, man says he looks a lot like Jordan, and is often confused for him -- and thus he deserves $52 million "for defamation and permanent injury" -- plus $364 million in "punitive damage for emotional pain and suffering", plus the SAME amount from Nike co-founder Phil Knight, for a grand total of $832 million. He dropped the suit after Nike's lawyers chatted with him, where they presumably explained how they'd counter-sue if he pressed on.

2007年度の1位は、

ズボンなくされた裁判官、クリーニング店に66億円賠償請求

【6月13日 AFP】クリーニング店にズボンをなくされたとして裁判官が店を相手取り5400万ドル(約66億円)の損害賠償を求めた訴訟で12日、審理が開かれた。裁判所関係者が明らかにした。

 訴えを起したロイ・ピアソン(Roy Pearson)さんは、ワシントンD.C.(Washington D.C.)の裁判官。韓国系移民チャンさん一家が経営するクリーニング店「Custom Cleaners」に青と赤のストライプが入ったグレーのズボンを出したところ、同店がズボンを紛失。店の看板にある「満足保証」との文言に欺かれたと主張している。

 米テレビ局ABCのニュースによると、ピアソンさんは同店がコロンビア地区消費者保護法(District of Columbia consumer protection laws)に違反するとして、5400万ドル(約66億円)の損害賠償を求めた。この請求額は、同店が「満足保証」の看板を掲げていた日数に、1日1500ドル(約18万円)を掛けて算出した。

 ピアソンさんは、チャン夫妻とその息子を別々に提訴。消費者保護法違反に加え、心理的ダメージへの賠償と訴訟費用も併せて請求している。なお、訴訟手続きはピアソンさん自身が行った。

 チャン夫妻はABCニュースのインタービューで、年収の2倍の弁護士費用を払ったと述べた。

 ABCの報道によれば、ピアソンさんは訴状で、チャン一家の店でズボンをなくされたのはこれが2度目だと記している。

 裁判所の広報がAFPに語ったところでは、ピアソンさんはチャン一家のクリーニング店の顧客を含む、地元住民を証人として出廷させた。ワシントン・ポスト(Washington Post)紙の法廷ブログ記者の記事によれば、このうち89歳の退役軍人は、以前同じクリーニング店でズボンを台無しにされたと証言した。ピアソンさんは証言台に立ち、自身のつらい離婚経験や金銭トラブルについて、涙ながらに語ったという。

 弁護側のクリストファー・マニング(Christopher Manning)弁護士は、「アメリカ人の裁判好きもここまできたか」と述べたと、ブログは伝えている。審理は13日に結審の見込み。(c)AFP

さすがはアメリカで、ステラ賞1位となると日本はまだまだだろうと思っていたのが去年の話です。しかし何でもアメリカを追いかける日本で、ステラ賞に匹敵するように感じさせる訴訟記事があります。マクドナルド相手と言うのも因縁を感じますし、さらにそれ報じているソースがタブロイド紙(9/11)であるというのも取り合わせの妙です。もちろん記事の内容がそう読めるように感じるだけで、実際のところは知りようもないので、誤解無いようにお願いします。

マクドナルド損害賠償訴訟:店先で転倒し障害 熊本地裁で口頭弁論 /熊本

 熊本市新市街のハンバーガーチェーン「マクドナルド新市街店」出入り口付近で転び、障害を負ったのは店側が安全管理を怠ったためだとして、市内の女性(61)が日本マクドナルドに約2600万円の損害賠償を求めた訴訟の第1回口頭弁論が10日、熊本地裁(古市文孝裁判官)であった。被告側は事故が起きた詳しい場所の資料提出を女性側に求め、争う姿勢を見せた。

 訴状によると08年12月8日午前11時45分ごろ、女性は店内で食事した後、出入り口の自動ドアから新市街アーケードに出る際、雨で濡れていた出入り口外側の同社の管理敷地内の床タイルで転倒して左大たい骨を折った。1カ月以上入院し、左股関節に後遺障害が残った。

 女性は「アーケードは工事中で店先に雨が降り注ぐ状態だったにもかかわらず、店側はモップなどで水をふいたり、吸水シートを敷いたりするなどの安全義務を尽くさなかった」と主張している。

 マクドナルドの代理人弁護士は「原告側からの資料を見た上で、主張を明らかにしていく」としている。

大怪我をされた原告の女性は御不幸な事です。事件の経緯は単純なようで、雨の日にマクドを利用した原告が、マクドの出口で転んで大怪我をしたと言うものです。転んだ場所が出口とは言え

    同社の管理敷地内の床タイル

おそらく雨に濡れて滑りやすくなっているので、それによる転倒は「予見できるはず」であり、予見が出来るのだからそれを予防する「注意義務」は生じるの主張と想定されます。具体的には、

    店側はモップなどで水をふいたり、吸水シートを敷いたりするなどの安全義務を尽くさなかった

なるほど、なるほどの訴訟理由と思います。転倒したマクドはどこにあるかと言えば、

新市街アーケード

熊本は一度しか行った事がないので、新市街アーケードと言われてもよくわからないのですが、おそらく「サンロード新市街」ではないかと推測されます。住所も「熊本市新市街」となっていますから、おそらくこの商店街であると考えられます。探せば写真があったので示しておきます。満遊くまもとに、

この写真には残念ながらマクドは写っていませんが、こういう感じの並びの一角にマクドナルドはあるのだろうとしても良いと思います。見ればわかるように、アーケード街は中央部に暗めの色のカラータイルによる舗装が行なわれ、左右はもう少し自然の石の様な色のタイルで舗装されています。写真で見る限り、左右の舗装は店の前までビッシリ行なわれている様に見えます。

問題のマクドの店ははマクドナルド・熊本新市街店としてもよいかと思います。この店がアーケード街のどの辺にあるかと言えば、食べログ グルメレビュアーによりますと、

新市街店は熊本市街にあるアーケードの、下通と新市街のちょうど曲がり角にあるため、通称「角(かど)マック」と呼ばれ

店の写真がないかとググってみると、熊本民主商工会の2005.12.28の記事にありました。

デモ風景は御愛嬌ですが、ベスト電器が筋向いにあることから、これが問題のマクド店である事がわかります。どうやらマクド店はほぼ通路に接する様に作られており、タイル舗装も店まで敷き詰められている事が確認できます。もちろんタイル舗装が敷いてあっても「管理敷地内」の部分はあるはずで、強いて言えばマクド寄りのタイル一枚分ぐらいが色合いが違うようにも見えます。

この「管理敷地内」ですが、どうやら幅は狭そうな印象はあります。商店街の店舗で、さらに角地ですから、通路(道路)側に出来るだけ接して作られる事が通常は多いと考えます。それと記事にある、

被告側は事故が起きた詳しい場所の資料提出を女性側に求め

原告はマクドの「管理敷地内」で転倒したので賠償を求めていますから、管理敷地外であれば被告のマクドに責任がなくなります。管理敷地の幅が1メートルも2メートルもあれば転倒場所について争う可能性が低下しますから、幅はタイル1枚程度のものであるかもしれません。つまりそこを跨いでから転倒したのか、そうでないのかです。

転倒場所については水掛け論になるかもしれませんが、仮にマクドの管理敷地を跨いで転倒したのなら、その先はたぶん熊本市が管理する道路の可能性が強いですから、今度は道路管理者に、

    モップなどで水をふいたり、吸水シートを敷いたりするなどの安全義務を尽くさなかった

そこまで求めるかどうかはわかりません。訴訟を起す自由は誰にも手厚く保証されていますから、原告となられた女性を批判する気は毛頭ありません。公正な裁判が行われる様に願うばかりです。



民事訴訟は誰でも起こせますから、この訴訟がそうであると言っているわけではありませんが、聞くと「なぜに訴訟」みたいなものは決して少なくありません。裁判所の統計によると、平成20年度の民事訴訟の新受だけでも80万件を越えていますから、いろんな訴訟があると言う事です。

マスコミは今回の様に訴訟が起きた事を時にニュースとして伝えますが、当たり前ですがすべてを伝えているわけではありません。すべてどころか、殆んどすべては伝えていないとして良いと考えます。伝えるのは重要性・話題性を考慮して価値を見出したものに限定される事になります。こんな事は説明しなくとも常識です。

そういう観点からすると、今回の事件を幾多の民事訴訟の中からわざわざ取り上げたのは、やはり首を傾げざるを得ないところがあります。記事が伝える限りの内容であれば、原告が勝利したら伝える価値はあると感じますが、訴訟を起した時点ではそこまで価値のあるものかどうかに疑問を強く感じます。

マスコミが「???」の内容の民事訴訟を記事にするときに、しばしばあるのはマスコミが原告を強く支援しているときがあります。とくにタブロイド紙は明らかな実績があります。原告の追跡取材を優先的に行う事により記事にするという手法です。時には渋る原告を説き伏せ、弁護士までセットアップして訴訟に及ぶ時があります。

今回がそうであるかどうかはまったく不明ですが、マクド・タブロイド紙・ステラ賞と3つ並べると、なぜか関連性があるように感じてしまうのが本当に摩訶不思議です。

卵の名無し卵の名無し 2009/09/14 10:24 日本でステラ賞なみの妄言といえばさしずめ朝三暮四、朝令暮改だらけの厚労省通達が筆頭かも。

BugsyBugsy 2009/09/14 10:39 随分前までは この訴訟額の違いは日米の文化の相違かと思っていました。

常に自己主張が強く少しでも相手の瑕疵があるとみるや ふっかけるだけふっかける米国。
かたや社会的な調和『和を尊ぶ」日本では相手の立場 自分が社会的に笑い者になるのではないかという懸念から訴訟に踏み切りにくい部分の違いかなと思っていました。

どうもそれはオイラの思い過ごしだったんですかね。

うろ覚えで恐縮ですが アメリカのTV番組で電話の呼び出し音を使ったら、自宅の電話が鳴ったと勘違いした人が怪我をしたらしいです。訴えてテレビ局が敗訴して 以来TV番組では通常の電話の呼び出し音を使わなくなったと聞きました。
当時自分は まさか、バカな話と笑い話のネタにいただきましたが、日本でも同じ事がおこりそうですね。

SeisanSeisan 2009/09/14 12:24 Bugsy様

だから、ジャックバウアーの呼び出し音はあんなんだったんですね(笑)

chukanochukano 2009/09/14 12:27 1枚目の写真は新市街アーケードで、右側に写っているセブンの2・3軒手前に問題のマクドがあります。
工事自体は新市街ではなく下通り側で行われていました。(2枚目の写真でデモが行われている側の通り)
アーケードの全面的な改修工事だったため、雨天時は水溜りがたくさんできていましたが。

しかし、この道は熊本市が管理しているのだろうか?
少なくとも工事は下通り商店街が行っていたものだったと思いますが。

YosyanYosyan 2009/09/14 12:45 chukano様

詳細な事情など知る由もないのですが、道路が商店街の私道である可能性は低いと考えています。アーケード自体は市の許可を得て商店街が設けたとするのが一般的です。もちろん舗装も含めてです。熊本がどうであるかはもちろんわかりませんし、またそういう場合の管理責任がどう分担されるかなんて、私には答えが出ません。

ただ訴訟記事を読む限り、転倒場所が誰の所有地であるかで責任は問う事は出来るようです。写真で見る限りですが、タイル舗装はマクドの店先まで連続して続いている様に見えます。美観の統一のためにそうしたと考えられますが、舗装が連続しても責任地域は所有地で分けられると考えても良さそうです。誰が舗装したかではなく、そこが誰の所有であるかが責任の有無になるとして良さそうです。

訴訟で少し不思議であったのは、アーケード工事による雨の影響ですから、アーケード工事を行なうに当たり、雨対策の不備を訴える方向性もあったかと思うのです。しかし訴訟はアーケード工事自体に責任を問うていません。どうしてなのかは、法律上の解釈とか、訴え安さの問題もあるとは思うのですが、私では手に負えない範囲です。

TOMTOM 2009/09/14 16:59  相手がマック(関東人なんで(^^ゞ)か県かはともかく、本件原告女性は
「私が転ばないように注意する義務が、他人にある」
と確信してらっしゃる訳ですね。別に批判も非難もしません。私は賛同できないというだけで、そういう人生の人もいるでしょう。

 さて話は変わりますが、我々が良く話題にする医療訴訟はじめ、いいがかりつけてカネを取ろうという輩は少なくありません。古くはヤクザやチンピラが恐喝・脅迫という手法でこれを実現しました。昨今ではこれに司法を絡めてくる者もいますね。いずれもいいがかり付けられた方には非常な迷惑であり、それに関わらされる事は精神的苦痛であるばかりでなく、経済的・時間的ともに実害のある損失を伴います。身体に不調を来す者もいるでしょう。しかしそれに対する補償はほとんどの場合行われません。
 私はこれは正義のバランスを欠いていると見ます。ふっかけた方は、相手に要求したのと同等のペナルティを負うべきです。たとえば三下がうっかりヨソの組のシマでやんちゃすると、シバキ倒された上に落とし前を付けさせられるように。我々「真っ当な市民」の社会が、チンピラやヤクザの社会より無秩序だなんて事、あっていいわけないじゃないですか。あはは、あは、あは。

 私が訴訟起こすとしたらそうだなぁ、マスコミがばらまいた嘘を信じた患者から「TVで××って言ってたんですけどぉ、」って訊かれていちいち答えるのにかかる時間のロス、「○○でやせる!」って信じて血糖出鱈目になった患者を元に戻す手間、その他あれやこれ、ぜーんぶマスコミ人共に賠償請求してやりたいよ。ステラ賞取れるかな。

参謀支部参謀支部 2009/09/14 18:12 う〜む。
床を滑りやすくした雨が悪いのですから天に向かってツバはけばよいのでは・。

元ライダー元ライダー 2009/09/14 18:25 米国でステラ賞が発表され続けているってことは、トンデモをトンデモだと思うメンタリティが米国人にもあるって事ですよ。一方、日本ステラ賞を発表したらどうなりますかね。皆さん御想像の通り1回で粉砕されるでしょうね。誰が先頭に立って日本ステラ賞選考委員会を糾弾するのか言うまでもありませんね。米国のほうがトンデモをトンデモだと言える言論の自由がある点では日本より健全とも言えます。日本よりもトンデモ訴訟がはるかに多いから、当然の帰結なのかもしれませんがね。その米国でも未だにトンデモ訴訟がはびこる理由を考えることが日本の明日につながります。私が思うにトンデモ訴訟がはびこる最大の原因は『トンデモでも勝てる』これに尽きます。制度的には日本も、トンデモでも勝てますから米国追従の可能性はありますね。そうではなくて、日本では「トンデモは勝てないよ」という状況を作り出すのが最大多数の最大幸福につながると思うのですが、「100%勝てない」という状況にもまた問題があるでしょうし、実際に作り上げるのもまた無理です。そうすると次善の策「トンデモはほとんど勝てないんだよ」という現実を周知することですが、またその周知を担う機関がアレと言いますか、Yosyan先生のおっしゃるとおり逆を行ってますからねえ。

卵の名無し卵の名無し 2009/09/14 18:28 >あれやこれ、ぜーんぶマスコミ人共に賠償請求してやりたいよ。ステラ賞取れるかな。

受賞候補としてはなかなかいい線だと思うけど、やっぱ厚労省の妄言には内容的にも金額的にもかなわないと思う。ただしマスコミの妄言の黒幕には厚労省が存在してて(cf:医療情報の豆知識http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20090910)もちつもたれつの彼らは同一の非科学的人治政治的妄念を共有しているようにも見えますな。

YosyanYosyan 2009/09/14 19:04 シチュエーションが微妙に違うので、今回の訴訟と同じとは必ずしも言えないのですが、滑って転倒の損害賠償は先例が幾つか存在するようです。それも原告勝利の前例です。訴訟を請け負った弁護士も当然知っているでしょうから、それをテコに訴訟に臨んだのだと考えています。判決はしばしば被害者の被害の程度で左右される様に感じるところがありますから、今回もそういう意味では「トンデモ」とか「論外」とは言い切れないかもしれません。

もっとも勝ってしまうと、雨が降るたびに管理責任者は大変な目にあうことになるので、後の影響は甚大なのだけは間違いありません。原告勝訴になれば吸水シートを製造している会社の株を買っておいた方が良いかもしれません。

IkegamiIkegami 2009/09/15 12:24 その昔、上野駅で転倒した旅客が賠償を請求した事件がありました。
昭和47年(オ)第1109号
「夏期に駅構内に撒水し床の湿ることはしばしば見受けられることで、このような場合歩行者が足を滑らせないように歩行することはごく軽度の注意を払えば可能であるから、旅客がこれに滑って負傷しても国鉄に過失はない。」

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