第3回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会

1/27付ロハス・メディカルより、

 27日に開かれた『第3回厚生科学審議会感染症分科会予防接種部会』(委員長・加藤達夫成育医療センター総長)で、今通常国会で行われる予防接種法改正の論点として示された。

 厚生労働省の提出したペーパーには「○今回の予防接種事業においては、国が定めた優先順位に従わずに接種を行う医療機関が見られたところであり、こうした医療機関に対してとり得る措置を検討することが必要。また、接種時の問診、接種してはいけない者への対応等を遵守していただくことが必要。  ○このため、適正な臨時接種の実施の確保のため、医療機関に対し必要な調査、報告徴収を行えるような仕組みを導入することが必要でないか。」となっている。

この予防接種法改正の論点は新型インフルエンザ対策として緊急に対応が必要であると考えられる事項について(案)としてupされています。ロハス記事が伝える部分以外に二つほど補足しておくと、

臨時接種は、現在、厚生労働大臣が対象疾病を定めるものの、対象者の決定や実施の判断は、都道府県知事の権限とされているが、今回の新型インフルエンザ(A/H1N1)での対応を踏まえて、国が接種対象者を定めることとし、対象疾病の流行状況や病原性等を勘案しつつ、「まん延の予防上(緊急の)必要があると認めるとき」は、その接種を都道府県又は市町村に指示(優先接種の仕組みの導入等)ができることが必要。

失笑と言うか苦笑してしまいました。あくまでも予防接種法の解釈になるのでしょうが、今回の新型接種での優先順位の決定権は都道府県知事にあり、厚労省には厳密には無かったそうです。そうなると国がワクチンを全量買い上げした理由としては、優先順位を決定する権限が無い代わりに、ワクチンの供給権を握る事により、実質的な権限を握ろうとしたとも解釈できます。

そう考えてみれば、どこかの県が浪人生へのワクチン接種をやろうとしていましたが、その度に厚労省は「待った」をかけていました。あの「待った」には法的根拠が無いので、脅しとして「都道府県が勝手をやったらワクチンを供給しない」であったと記憶しています。そうそう何回か厚労省は記者会見を開き、「接種の前倒しの決定」をやっていましたが、あれって本当は何の法的根拠もなかったんですねぇ。

もう一つですが、この審議会の一つの目的として、今回の新型接種のようなワクチン接種時の法的位置付けを策定するというのがあります。新型ワクチンについても公費による無料接種を行うべきであったとの意見がありますが、これについての厚労省の意思は、

新たな臨時接種については、現行の臨時接種ほど緊急性が高くないことから、接種に係る費用について経済的困窮者を除く被接種者から実費を徴収することが適当。

今回のような全国統一公定価格制度が望ましいとしているようです。ここまで明記しているので、これはもう決定でしょう。



さてとロハス記事に戻りますが、新型ワクチン接種に関る様々なトラブルをどう総括されているかです。並べだせばキリがないぐらいあるのですが、検討時間が1日とか2日程度(下手したら数時間)で強要された白紙契約、接種価格は早々と公表しながら、ワクチン価格やワクチンの規格は開けてビックリ玉手箱状態、猫の目の様にクルクル変わる優先順位・・・

たぶんなんですが、もともとの新型ワクチン接種計画は集団接種がメインで、集団接種でカバーしきれない者を個別の医療機関でフォローするものであったと考えています。フォローする医療機関も基幹病院等に限定して行い、他の予防接種のように多くの医療機関で行なう考えはなかったと思っています。だからパーティボトルがメインであったと。

もう少し考えを進めれば、一番最初は公費による集団接種計画であり、これが自費になっても接種方法自体はそのままで進められていたと思います。なんつうても、パーティボトルは承認される前に先に作ってしまっていたからです。受託医療機関の契約が遅れに遅れたのも、最終段階まで限定された医療機関による集団接種であったと考えれば筋が通ります。

幻の集団接種計画が遂行されていたら、事態はかなり変わったと思います。ワクチンの配給に合わせて自治体単位で集団接種会場を運用し、その時々の優先接種者を広報で呼び集めて接種すれば、ワクチン騒動も違った展開になった可能性が高いと思います。こうしていれば、個々の医療機関にとってワクチンの卸値はたいした問題ではなくなります。ロスは自治体が被るだけだからです。

ところがどこでどうなったかは不明ですが、集団接種用のワクチンで個別接種を行うみたいな無理が通れば道理が引っ込む計画を強引に遂行しています。ここもおそらくですが、任意接種にした時点で集団接種を自治体が主催する根拠が失われ、中央統制による全国規模の集団接種を行うのは難しくなったの判断と考えています。

結局のところ、すべてのツケは医療機関に押し付けられ、必然的に起こる混乱を強引に収拾するために、雨霰のような事務連絡が乱舞する事になったと考えています。タブロイド紙風に表現すれば「人工呼吸器を気管に挿入しよう」とする状態であり、読売新聞風に表現すれば「新型ワクチンが疾患した」ドタバタを展開したと思っています。



その時点でのワクチン供給数が需要を下回っている場合に、優先順位を設定する発想自体は間違いとは思っていません。私が考えても、誰が考えても他に方法が無いからです。ところがワクチン接種計画の根本で、集団接種用に大量生産されたワクチンを個別接種で強引に運用するという大無理を行なっている事を今回は失念したというより、その失敗を隠蔽しようとしているようにしか見えません。

大無理がもたらしたものが何であったかが本当の問題です。11月から12月時点に於ては、マクロのワクチン供給量は希望者を下回っていましたが、ミクロのレベルになると供給過多になる現象を全国各地で引き起こす事になります。矛盾したお話に聞こえるかもしれませんが、ミクロレベルではパーティボトルを消費しきれない問題が頻発する事になったのです。

パーティボトルは1本で成人なら18回分以上、小児なら40回以上も接種が可能な代物であり、さらに消費期限は開封してから24時間と言う限定商品です。厚労省の会議室の中では「予約」さえしておけば整然と予約分の希望者が当日に訪れるとしているみたいですが、キャンセル料の発生しない予約制度ではドタキャンが頻発する事になります。

神戸の集団接種を例にすると実に1/4がキャンセルで、当日不可も含めると3割も接種が出来ていません。個別の医療機関でも人数が増えれば増えるほど似たような傾向になると考えられます。これに対する厚労省の会議室の中の対策も実にユニークで、キャンセル待ちを設定せよとしています。一見合理的ですが、キャンセル待ちにさせられた希望者は、当日に仕事を休んで待機する必要が生じます。それでも接種できればまだしもですが、キャンセルが少なければ一日無駄になります。

無駄を承知でキャンセル待ちをしてもらえる希望者はさほど多くありません。キャンセル待ちをするぐらいなら、他の医療機関で正規の予約で接種しようと考える方がよほど真っ当な考え方の様に思いますし、重複予約も多発することになります。とどの詰りとして、ワクチンは全体で足りないのに、その日には余るという現象が起こる事になります。


根本のワクチン計画の大無理により、マクロで足りないのにミクロで余るという事態に直面した時にどうするかが、今回の新型ワクチン接種で発生した問題です。消費期限までに優先接種者が現れないときにどうするかと言う事です。ワクチン接種の真の目的は、優先者限定を守る事ではなく、一人でも多くの希望者に接種するのが大原則だと通常は思います。厚労省資料の中にも「接種の必要性に応じた公的関与の在り方」として、

適正な医療提供体制の確保や社会的混乱の回避のため、できるだけ多くの接種対象者に対して接種の意義を徹底し、円滑な接種を実施するための条件整備を行うことを検討することが必要。

ここに厚労省自ら提案している事として、

    できるだけ多くの接種対象者に対して接種の意義を徹底
これの意味がなんじゃろって事になります。医療者は「より多くの希望者に接種する」と考えますが、厚労省の考え方は違うようです。「意義の徹底」とは優先順位が来ていない希望者に、いかなる状況、たとえ廃棄するしかない状態のワクチンであっても「接種を禁じる」事の意義の徹底のようです。つまり、
    優先順位 >>> 有効利用
厚労省朝令暮改で猫の目の様に変更を頻発する「優先順位」がなにより重要であるとしているのは事務連絡でも明記され、冒頭のロハス記事が伝える様に
    国が定めた優先順位に従わずに接種を行う医療機関が見られたところであり、こうした医療機関に対してとり得る措置を検討することが必要
医療者にとって何がため息が出るかと言えば、「接種を禁じる」意義の徹底も医療機関にいつものように丸投げされる事です。希望者の目の前に余って廃棄するしかないワクチンがあっても、優先順位が来ていないから「あなたには接種できない」と説明する汚れ役は、すべて医療機関に一任と言う事にウンザリします。

正直なところ、医療者にとっても何故禁止なのか理解しにくい事ですからシンドイお話です。


私に言わせれば、厚労省の大無理のツケを医療機関はよく耐えて支払ったと感じています。耐えに耐えてツケを支払いましたが、それでも支払いきれなかったのがミクロで余る問題です。ミクロで余る問題は医療機関が作ったのではなく、厚労省が人為的に作ったものです。

優先順位問題もシリンジ規格で起これば医療機関の責任は大きいと私も思います。しかし厚労省が大無理を押し付けたパーティボトルで発生したものは人災です。いやこれさえも医療機関は融通で解決しようとしましたが、融通は決して許さないとの総括を頑張られているのだけはわかります。最後にTOM様からの見聞談を少しモディファイしてショート・コントをお届けします。

    厚労省:「優先順位を守らなかったと聞いていますが?」
    医療者:「はい接種しました」
    厚労省:「それは契約違反になり、処分の対象になります」
    医療者:「ではあんたらは、接種を希望する患者の目の前で、ボトボトボトとワクチンを捨てて見せろと言うのですか?」
    厚労省:「あたり前でしょう。目の前でボトボトと捨てて、希望者を追い返すのが正しいワクチン接種です。あなたは非常識です!」
次の時に、どれほどの医療機関厚労省のドタバタにお付き合いするかを今から心配しておきます。医師はお人よしの側面も強いですが、記憶力もまた強いですから、一度味わった経験はそう簡単には忘れません。