554人トライ

出ましたね。もう少し大人しい数を予想していましたが、ドト〜んと554人です。あんまりシビアに論評する気が無いのでソースを4/24付タブロイド紙にします。その程度が今日の姿勢とお受け取り下さい。まず平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律で支給要件にあたる第4条を確認してみます。

第四条

 子ども手当は、次の各号のいずれかに該当する者が日本国内に住所を有するときに支給する。

  1. 子どもを監護し、かつ、これと生計を同じくするその父又は母
  2. 父母に監護されず又はこれと生計を同じくしない子どもを監護し、かつ、その生計を維持する者
  3. 子どもを監護し、かつ、これと生計を同じくするその父又は母であって、父母に監護されず又はこれと生計を同じくしない子どもを監護し、かつ、その生計を維持するもの
 2 前項第一号又は第三号の場合において、父及び母が共に当該父及び母の子である子どもを監護し、かつ、これと生計を同じくするときは、当該子どもは、当該父又は母のうちいずれか当該子どもの生計を維持する程度の高い者によって監護され、かつ、これと生計を同じくするものとみなす。

ここで問題になる用語が「監護」になります。この言葉の解釈としては、

    (子どもを)保護し監督する
保護と監督から監護と言う言葉が出来ているとぐらいに考えて良さそうです。監督するぐらいですから同居が条件にもなりそうに思いますが、同居でなくとも支給は可能となっているのは周知の通りです。この条文をどう読めばそう解釈できるかについては、正直なところお手上げなのですが、平成二十二年度における子ども手当の支給に関する法律施行規則の第1条2項2号が判りやすいので引用しておきます。

受給資格者がその子である子どもと同居しないでこれを監護し、かつ、これと生計を同じくする者であるときは、当該事実を明らかにすることができる書類

ここは判りやすくて「同居しないで監護」が可能な事が確認できますし、そのための証明書類が必要なこともわかります。「同居しないで監護」とは国内に留まらず世界どこでも可能です。また子ども手当の支給対象は国内に居住する子どもを監護する者に支給されますから、父母が外国人で「同居しないで監護」している子供が国外に居ても支給はされる事になります。

法を読みながら改めて気が付いたのですが、どうも戸籍上の子どもであるかどうかは必要条件とされていないような気がします。つまり実態として監護している事が必要条件であり、戸籍上のつながりは十分条件みたいな感じです。とは言うものの書類で監護を証明となれば、実態は書類では証明しにくく、戸籍は書類で証明しやすいのは確かです。

子ども手当法案で最終的に問題となったのはこの点で、国内であるならまだしもですが、国外で実態として監護している証明をいかにして行なうかです。これについての平成22年3月12日衆議院厚生労働委員会議事録の該当部分を引用します。

○平沢委員

     では、例えば、海外の牧師さんが自分のところの教会で五十人ほどの子供さんを養子縁組して、その牧師さんが日本に来て、また牧師活動をしていた。本国に五十人の養子した子供さんを置いてきた場合はどうなるんですか。
○長妻国務大臣
     慈善というか、そういうような形で、例えば今五十人というふうに言われましたけれども、そういう場合は、監護、あるいは生計を一にするという要件に当たるのかどうか、それは我々としては判断をする必要があると思いますけれども、一般論としては、先ほど申し上げました要件があればということでありますが、厳格に、海外での実態があらわせる書類をいただいて確認していくということであります。
○平沢委員
     海外で、それが間違いないかどうかという実態把握はどうやってやるんですか。書類だけでやるんですか、それとも実際に現地に赴いてやるんですか、どっちでやるんですか。
○長妻国務大臣
     今までは書類でやっていたわけでありますけれども、仮に書類だけで例えば出てきて、今おっしゃられた五十人というような書類が出てきた場合、本当に五十人というのはそうなのかどうなのかというのは、私は、地方自治体としては、例えば現地に問い合わせるなり、そういうアクションを起こすというような可能性があってもいいのではないかと思います。今、五十人と言われましたので、そういう場合については、私はそういうアクションが、地方自治体においてとるということも考えられるのではないかと思います。

長妻答弁をまとめると、

  1. 厳格に、海外での実態があらわせる書類をいただいて確認していくということであります
  2. 私は、地方自治体としては、例えば現地に問い合わせるなり、そういうアクションを起こすというような可能性があってもいいのではないかと思います
書類審査を厳格にし、窓口である地方自治体が怪しければ調査するはずだとしています。ここは前にやったので、長妻大臣はそういう対処法で事足りると強行採決にもって行きましたが、ここで言う書類が何になるかになります。これは子ども手当について 一問一答にあり、
  1. 少なくとも年2回以上子どもと面会が行われていること。
  2. 親と子どもの間で生活費、学資金等の送金が概ね4ヶ月に1度は継続的に行われていること。
  3. 来日前は親と子どもが同居していたことを居住証明書等により確認すること。
これについてのより具体的な内容はH22.4.6(火)付長妻大臣閣議後記者会見概要の中の山井政務官の発言にあり、

当然会ったという事実がないと駄目です。お子さんに会ったかどうか疑わしい場合には、出入国のパスポートだけでなく、写真などで確認することも考えられます。

山井政務官が自ら具体的に挙げたものとして、

  1. パスポートの記録
  2. 写真
これをあげています。他にも送金記録なども必要でしょう。これらが現在確認できる監護の条件ですが、554人トライをされた外国人はかなり入念に準備されていた事がわかります。

  • 妻の母国・タイにある修道院と孤児院の子どもと養子縁組をしていると説明し、タイ政府が発行したという証明書を持参した。証明書は十数ページに及び、子どもの名前や出生地、生年月日などが1人につき1行ずつ書かれていた。
  • 子どもへの送金証明や面会を裏付けるパスポートのコピーなど外国人に求められる書類をそろえており

554人トライの外国人のそろえたものは、パスポート、送金証明、戸籍です。その他にもあるかもしれませんが、とりあえず山井政務官が「必要」としたものをそろえたようです。もう少し言い換えれば子ども手当の支給条件の十分条件を整えたと言っても良いかと考えられます。ただし申請した外国人には悪いと思いますが、正直「怪しい」とは思います。

怪しいと考えるのは良いとして、怪しいと考えればこれを立証しなければなりません。申請が怪しいと感じれば、申請の不審点が不正である事を指摘しないといけないはずです。もう一度子ども手当の受給資格をまとめておくと、

    必要条件・・・実態としての監護
    十分条件・・・書類上での監護
窓口で出来うる事は書類上での不備の指摘です。実際にどうであったかなんて、知りようが無いので今日は書類上では不備が無いとします。書類上で不備がなければ、実態としての監護がないことを指摘する必要が出てきます。子ども手当の支給で優先されるのは必要条件ですから、これが整っていなければ十分条件である書類が整っていても申請を却下する事は可能と考えます。長妻大臣も答弁で、
    今、五十人と言われましたので、そういう場合については、私はそういうアクションが、地方自治体においてとるということも考えられるのではないかと思います。
50人が554人になればなおさらでしょうし、「そういうアクション」とは現地への問い合わせ、さらには現地調査を含めてのものと考えるのが妥当です。ここで長妻大臣が答弁した時点と現在では少々変わっている点があります。長妻大臣が答弁した時には、あくまでも地方自治体が対応する方針でしたが、その後、厚労省地方自治体からの相談窓口を設けております。

今回の554人でも、申請段階で怪しいと感じた地方自治体の担当者は厚労省に問合せを行なっております。ここで厚労省の相談窓口がどういう対応をしたかが問題です。これは報道各社の記事を読み比べればわかるのですが、4/22昼前に申請に訪れた外国人に対し、同日中に受給を認めないの回答を行なったと判断できます。

返答までどれだけの時間を要したかの記載はありませんが、長くて5時間以内の判断だと考えられます。厚労省はその間に現地に問い合わせて、554人に監護の実態がないとの証拠を得たのでしょうか。長妻答弁からすると、厚労省の担当者は当然それを行なわなければならないはずですが、時間からして行なっていない可能性が非常に高いと考えられます。

理由としては554人だからです。ここについては確たる事が言えませんが、とりあえず書類は整っています。調査の目的は554人の中に実態としての監護が成立していない子供がいるかどうかのものになるはずです。もう一度言いますが、十分条件である書類が整っているのですから、監護の実態が整っていない子供の数だけ支給を却下するのが本筋ではないかと考えます。

外国人の申請は554人ですから、本来は554人の1人1人について却下の理由が必要なはずです。そんな膨大な作業が出来るはずがないと考えます。厚労省が554人トライを却下した理由はマスコミ記事を信じる限り、

    554人だから
今回の申請の時間経過からしても、至極単純に人数だけでこれを根こそぎ却下している事になります。誤解無い様に言っておきますが、私は554人を認めよと主張するつもりはありません。常識的に考えて「怪しい」からです。しかし却下理由が「怪しい」だけでは法治国家とは言えないように思います。もう少し具体的な基準を明示しなければならないはずです。

具体的な基準も明示されています。子ども手当の受給のための必要条件である「実態としての監護」です。怪しければこれを調査すると長妻大臣が答弁しているにも関らず、厚労省は大雑把に「554人だから」で申請を却下しています。それも地方自治体のみが担当者の時は「調査せよ」であったのが厚労省に担当が替われば「554人だから」でチョンです。

もちろん厚労省にも言い分はあると思います。子ども手当について 一問一答に、

母国で50人の孤児と養子縁組を行った外国人については、支給要件を満たしませんので、子ども手当は支給されません。

50人が支給されないのですから554人は調査するまでも無く申請は却下されるとの判断です。確かに明示された基準に副っての判断であるとは言えますが、49人ならどうなんだの声ぐらいは誰にでも上ります。もう少し言えば「何人ならOK」かの基準を示せの声が出ても不思議ではありません。人数での機械的判断はそういう批判を誘発します。

厚労省の50人判断は、そんな大人数と居住をともにし、生計を一つにすることが出来ないがあるとは思いますが、委員会質疑でもあったように孤児院では可能です。孤児院と言う単一の建物で居住すれば居住条件は満たしますし、寄付であれ、なんであれ生活費を捻出していれば生計条件も満たしますから、実態として監護しているは理屈の上では成立可能です。

何でも訴訟にするのは好まないのですが、Q&Aよりも法が優先します。仮に書類による十分条件ではなく、実態として必要条件の備えた申請を人数条件で却下すれば訴訟になれば負けます。厚労省は大臣も含めて、申請は申請者の努力によるとしていますが、申請者が努力するのはあくまでも書類による十分条件です。これに必要条件があるかどうかを調査審査するのは厚労省の責任です。

つうか、そういう制度設計にして法案を強行採決しているわけです。あれだけ法案審査で不備な点を指摘されながらも「対応できる」と強弁したのですから、審査の運用の根本に戻って調査をすべき問題であると思います。ここは考えようですが、実際に大々的に調査団を送る実例を見せ付けたほうが抑止力になると言う考え方も成立します。それが面倒なら受給条件そのものを早期に改正する事です。


もう一つ、厚労省はどれだけ自覚しているかわかりませんが、外国人がらみの問題ですから、丁寧に対応しておかないと国際問題に発展する危険性もあると言う事です。十分条件である書類を整えて申請しているのに「50人以上だから一律却下」なんて対応は反発を招きます。実態調査もせずに窓口で門前払いとは何事ぞの反応が起こる国は存在します。

そういう国で反応が起こると手強くなります。「実態は存在する」の補強資料が外交ルートで強い抗議とともに送られるなんて事態にも発展しかねませんし、あちこちに飛び火して子ども手当と関係ない反日運動がヒートアップするなんて事態も起こりかねません。どこの国とは言いませんが、なんとも不器用と言うか、エエ加減な対応を行っている様に見えてしかたありません。