久々に滋賀

滋賀県立成人病センターで名ばかり管理職や時間外労働についてスッタモンダがあったのがもう2年前になります。賃金の不払いについては散々書いたのですが、時間外労働については36協定による特別条項での妥協になったはずです。どこかでこれについて書いたはずなのですが、どうしても見つかりません。そこで記憶に頼りますが、

    月に120時間を上限として年に6回(6ヶ月)まで
この36協定については賛否両論(批判の方が多かったかな)でしたが、この36協定が更新になったそうです。滋賀では今でも粘り強く交渉が行なわれているようです。ここでちょっと復習ですが、36協定の特別条項は何かですが、

限度時間を超える一定の時間まで労働時間を延長することができる旨をあらかじめ協定によって定めるとともに、延長する場合の(1)特別な事情、(2)手続き、(3)特別に延長する時間を届け出れば、限度時間を超えて、その届出を行った時間まで時間外労働を行うことが可能となります。この協定を特別条項付き協定といいます。

この特別条項で合意した時間外労働時間は原則として青天井だそうですが、特別条項は「特別」ですから協定を結ぶ上の制約があります。36協定に特別条項が適用される条件は、

    「特別な事情」は「臨時的なものに限る」と明示され
「臨時的なもの」の定義として
    「一時的又は突発的に時間外労働を行わせる必要」があるもの
さらにこれに補足説明が加わり、
    「業務の都合上必要な時」とか「業務上やむを得ないとき」などのような、恒常的な長時間労働を招く様なおそれがある場合には、「臨時的なもの」には該当しない
さらにさらに特別条項の適用期間も定められ、
    「限度時間を超えて労働を行う特定の労働者については特別条項付き協定の適用が一年のうち半分を超えないもの」
でもって新たな36協定の原文自治労経由で入手できましたので、120時間が6ヶ月がどうなっているかを確認してみます。まず特別条項による時間外勤務が命じる事が出来る臨時的な状況ですが、

  1. 診療等が、時間内に終了しないと判断される場合
  2. 救急患者への診療等必要やむを得ないと判断される場合
  3. 入院患者の容態急変等の場合で勤務引き継ぎ者に引き継ぐことが困難と判断される場合
  4. 時期的、時間的に加重する業務を処理するため必要やむを得ないと判断される場合
  5. 機械、機器若しくは施股等の障害等により、業務遂行上必要やむを得ないと判断される場合
  6. 不慮の事態に対応するための代替者がいない場合
  7. 予算、経理事務、議会関係業務等が繁忙なとき
  8. その他前各号に準ずる事由が生じたとき

そうそう予めお断りしておきますが、この協定は医師だけでなく病院職員全員が適用されます。ですから、

    予算、経理事務、議会関係業務等が繁忙なとき
議会関係業務が含まれているのが県立病院らしいと思います。とりあえず読む限り妥当な「臨時的」な状況の様に思えます。職員の分類が10種類にも分かれていますので、医師の分を取り上げてみたいと思います。まずこれは基本の36協定部分と考えられます。

所定労働時間 延長する事の出来る時間
1日 1日を超える一定期間
1ヶ月 1年
7時間45分 15時間 45時間 360時間


1日15時間は長いようにも感じますが、重症患者に一晩付き合わざるを得ないケースも考慮してのものかもしれません。それと1日は15時間可能ですが、月間や年間の縛りが明記されていますから、協定通りなら連日連夜はありえないことになります。ここはこんなものではないかと思います。あんまりと言うか36協定の原文なんて読んだことがないので、詳しい方がおられれば御意見下さい。


次は休日労働に関する協定です。え〜と、休日労働と時間外労働は労働時間の計算方法が若干違ったはずのなのですが、うろ覚えなので協定内容を紹介しておきます。

所定休日 労働させることが出来る休日並びに始業及終業の時間
滋賀県痛院率業庁職員の服務等に関する規程」に定める週休日および休日 法定休日について1月に2日

必要とされる時間帯
(0時から24時まで)


月に2日が休日労働の上限と明記されています。ここもこんなものかと言われれば、正直なところ比較する情報が無いので「こんなもの」ぐらいしか言い様がありません。次がよく判らなかったのですが、有害業務の特例協定です。

有害業務として指定する業務 有害業務についての時間外労働時間数
放射線取扱業務 2時間


放射線取扱業務」と言えば放射線技師が相当するかと思うのですが、放射線を取り扱う医師はどうなっているのでしょうか。たとえば放射線科医師とか循環器科医師です。カテなんかやれば相当放射線を取り扱うのですが、協定文だけではその辺がよく判りませんでした。


さて最後は特別条項に関する取り決めです。ここは「特別の事情がある場合の時間外労働時間数および割増賃金の率」と題されていますが、運用の趣旨がまず記載されています。

 一定期間についての時間外労働時間数は、第2条に定めるとおりとするが、予想を超える突発的な患者の集中、予算決算業務など通常の業務壁を大幅に超える業務が生じ、期限が逼迫した場合には、甲乙双方の協磯を経て、次の通りこれを延長することができる。ただし、乙との事前協磯に付することが出来なかった場合は、事後における確認により、この手続きを取ったものとして取り扱うことが出来る。

 なお、延長した後の時間外労働時間数が1月について45時間を超えた場合または1年について360時間を超えた場合の割増賃金率は25%とする。

これが前回の協定までは「120時間の6ヶ月」であったわけです。これが新しい協定によりどうなったかですが、まず2つに分かれています。どう2つに分けられているかが最初読んだ時にはわからなかったのですが、並べてようやく判明しました。

  • 第2条に掲げる業務のうち(1)(5)および(9)の業務で、予想を大幅に超える突発的な患者の集中や予算決算業務など通常の業務量を大幅に超える業務が生じ期限が逼迫した場合
  • 第2条に掲げる業務のうち(1)(5)および(9)の業務で、予想を大幅に超える突発的な患者の集中や予算決算業務など通常の業務量を超える業務が生じ期限が逼迫した場合
並べても判り難いかと思って青字にしておきましたが、「大幅に超える」と「超える」の2ケースに別れています。で、具体的にどうなったかですが、

業務の種類 延長する事が出来る時間数 延長する事が出来る回数 1年を通して延長する事が
出来る時間数
大幅に超える 1ヶ月あたり80時間まで 年2回まで 670時間
超える 1ヶ月あたり60時間まで 年4回まで


これだけでも十分なのですが従来の協定との対照表を作ってみます。

項目 従来の協定 新たな協定
月45時間 6回 6回
月60時間 4回
月80時間 2回
月120時間 6回
年間上限 990時間 670時間


これでも「長い」の意見は当然出るでしょうが、それでも相当な改善が行われている様に考えられます。理想的には特別条項無しですが、現実として目の前に患者は居るわけですし、医師だって余るほど居るわけではありませんから、この程度の特別条項であれば現実的な妥協の線として評価してよいようにも思います。

現実の医師の労働環境は滋賀のレベルで云々どころではなく、36協定そのものが存在しないどころか、労基法41条3号の宿日直許可の存在さえ怪しい病院が多々あり、36協定や宿日直許可の無い病院が救急の重大な一翼を担い、事あれば「たらい回し」と指弾されて袋叩きにされているからです。

もう一つ問題はあります。どんなに立派な協定があってもそれが遵守されているかどうかの問題です。これもまた病院だけではなく他の業界でも多々あるのですが、協定を帳簿上で遵守するために、事務の担当者が奮闘されて時間外出勤簿を作成されているケースです。簡単に言えばサービス残業の山を築き上げている状態です。

これについては伝え聞く内部情報しかわかりませんが、内部情報の信憑性は高いと考えています。どうもこの36協定はかなり守られているとの事です。見ようなんですが、それまで120時間の6ヶ月の特別条項が、80時間2ヶ月と60時間4ヶ月になったのは、その程度の時間で業務に支障が無いとの判断の結果であるとも聞いています。

ここではもう書くまでも無いかもしれませんが、労使協定は結ぶだけでは実効性を必ずしも保証されず、とくに労働者側が常に監視の目を怠らずにいる必要があります。そうしないと協定だけありきの出勤簿の創作が使用者側に横行します。そういう点でも滋賀はかなり模範的なようにも思います。病院によって事情が異なりますから画一的に滋賀のモデルを導入するわけにはいかないかもしれませんが、勤務医の労働環境改善の具体的なモデルとして、参考になりそうな気がしています。


以上、簡単ですが報告まで。