公益通報者保護法

これは尖閣ビデオ問題に対する元ライダー様のコメントなんですが、

>どうしても情報を流出させた事実と、流出した情報の価値を混ぜて考えてしまいたくなりますが、根本的には別立ての事柄として考えるべきと思っています。

冷静な考え方としては仰るとおりですが、もしビデオを流出させた人物が特定され、刑事事件化した場合、どうしてもその処分・処遇を処分保留のまま釈放された中国人船長に対する処分・処遇と比較してしまいます。確かに冷静に考えればまったく別種の事件なので比較できるものではありませんが、仮にビデオを流出させた人物が即行起訴となった場合、あまりに体感バランスが悪いですね。

心情的には共鳴できる話なのですが、なんとも答えようがなくて困っていました。確かにバランスが悪いと感じるかと言われれば反論は難しく、法治とはそういう部分があるとしか言い様がないというところです。とはいえ私も心情的にはどうにかならないかと考えていましたが、ちょっと参考になりそうなものが出てきました。タイトルにもした公益通報者保護法です。

尖閣ビデオ問題は昨日コメ欄で紹介してくれた方がいられるように、まるで宮崎の口蹄疫問題の時のように様々な情報が飛び交っています。この公益情報者保護法も某野党有力政治家が唱えたみたいな情報もありますが、これもまた根拠は不明瞭です。某野党有力政治家云々は眉唾だとしても、現実にこの法は存在し、名前だけ見れば「かもしれない」と期待を抱かせてくれそうではありますから、苦手な法解釈ですが検証してみます。

条文は砂を噛むようですから、わかりやすいwikipediaからまず引用しておきます。

内部告発者に対する解雇や減給その他不利益な取り扱いを無効としたものである。保護されることとなる通報対象を約400の法律を規定する他、保護される要件が決められている。

労働法の一つとして位置づけられ、保護の対象となるのは、労働者のみである。通報対象事実は、同法別表にある7の法律のほか、政令にある約400の法律の違反行為のうち、犯罪とされているもの又は最終的に刑罰で強制されている法規制の違反行為(最初は監督官庁から勧告、命令などを受けるだけだが、それを無視していると刑罰が科されるもの)である。つまり、あらゆる法令違反行為が対象となっているわけではないし、倫理違反行為が対象となっているわけでもなく、刑罰で強制しなければならないような重大な法令違反行為に限られる。

う〜ん、判るようなわからないような表現です。とりあえず通報対象事実が定められているようです。まず7つの法律ですが、

別表 (第二条関係)

  1. 刑法(明治四十年法律第四十五号)
  2. 食品衛生法(昭和二十二年法律第二百三十三号)
  3. 証券取引法(昭和二十三年法律第二十五号)
  4. 農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(昭和二十五年法律第百七十五号)
  5. 大気汚染防止法(昭和四十三年法律第九十七号)
  6. 廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和四十五年法律第百三十七号)
  7. 個人情報の保護に関する法律(平成十五年法律第五十七号)
  8. 前各号に掲げるもののほか、個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として政令で定めるもの

たぶん8.に該当するものが同法別表と考えられるのですが、426の法律が定められ、数えてみると16個が削除となっているようです。この中に尖閣ビデオのを公益通報とみなせる法律があるかどうかは私には難解です。目に付いたところでは外国人漁業の規制に関する法律てなものもありますが、ちょっと違うような気もしないでもありません。

よく考えてみれば、尖閣ビデオ流出が具体的に何法違反にあたるかの知見も大いに不足しています。ビデオ流出自体は公務員の守秘義務違反に当たるでしょうが、これは流出行為に当てはめられる法律であって、流出させる事で具体的に監督者に当たるものが何法の違反を明らかにしている、つまり公益を図ったかが私にはよく判らないところです。wikipediaにある、

    刑罰で強制しなければならないような重大な法令違反行為に限られる
これも難解と言えば難解なんですが、公益通報保護法はどうやら、
  1. 通報する法令違反は法に定められたものに限定される
  2. 趣旨としても刑罰が下るような法令違反に限られる
解釈に全然自信が無いのですが、尖閣ビデオを公開しないことにより、少なくとも公開しないことを決めていた責任者に何らかの刑事罰とか行政罰が下るような状況でないと成立しないような気がします。尖閣ビデオが公開されることにより、政府与党は慌てふためいているようにも見えますが、現在のところビデオにより責任者なり、監督者の法令違反が明らかになった事実はないように感じます。

中国人船長はどうかの問題はありますが、逮捕され司法の手に渡っているわけであり、なおかつ不起訴処分(だったと思う)を検察の決定として下されているわけですから、それこそ検察審査会で起訴議決を2回しない限り不起訴のままです。そう言えば検察審査会が要求したらビデオは見れるのかなぁ?

どうにも私は素人ですから、法の実際の運用がどうであるのか、また別表に定められた法律への適用がどうであるのか深い判断はできませんが、なんとなく難しそうな気だけします。その辺が法2条3項なのだと思いますが、

3  この法律において「通報対象事実」とは、次のいずれかの事実をいう。

  1. 個人の生命又は身体の保護、消費者の利益の擁護、環境の保全、公正な競争の確保その他の国民の生命、身体、財産その他の利益の保護にかかわる法律として別表に掲げるもの(これらの法律に基づく命令を含む。次号において同じ。)に規定する罪の犯罪行為の事実
  2. 別表に掲げる法律の規定に基づく処分に違反することが前号に掲げる事実となる場合における当該処分の理由とされている事実(当該処分の理由とされている事実が同表に掲げる法律の規定に基づく他の処分に違反し、又は勧告等に従わない事実である場合における当該他の処分又は勧告等の理由とされている事実を含む。)

う〜ん、う〜ん、なんですが、これで話を終わりにすると短いので、あくまでも仮に法が適用される余地があるとして話を強引に進めます。とりあえずですが、内部通報者は現在の情報から推測すると公務員である公算が高そうです。公務員でなければ、それこそ海保なり検察庁に忍び込んでビデオをコピーする必要が出てくるからです。では公務員に公益通報保護法が適用されるかどうかですが、

第七条

 第三条各号に定める公益通報をしたことを理由とする一般職の国家公務員、裁判所職員臨時措置法の適用を受ける裁判所職員、国会職員法の適用を受ける国会職員、自衛隊法第二条第五項に規定する隊員及び一般職の地方公務員、国会職員法、自衛隊法及び地方公務員法の定めるところによる。この場合において、一般職の国家公務員等の任命権者その他の第二条第一項第一号に掲げる事業者は、第三条各号に定める公益通報をしたことを理由として一般職の国家公務員等に対して免職その他不利益な取扱いがされることのないよう、これらの法律の規定を適用しなければならない。

非常に難解な言い回しなんですが、公務員でも適用されると読むことにします。実は通報先も定められており、これはwikipediaからなんですが、

通報先は以下の3つ。

  1. 事業者内部
  2. 監督官庁や警察・検察等の取締り当局
  3. その他外部(マスコミ・消費者団体等)
上記通報先によって、それぞれ保護されるための要件が異なる。これは、事業者内部への通報は企業イメージが下がるなどのおそれがまったくないことから虚偽の通報に伴う弊害が生じないのに対し、事業者外部への通報はそのような弊害が生じるおそれがあることから設けられた差異である。なお、3.の通報は要件が極めて厳しい。

気になるのは

    なお、3.の通報は要件が極めて厳しい。
これもまた何がどう厳しいのかサッパリわからないのですが、どうやら法3条の事を指すようです。

第三条

 公益通報者が次の各号に掲げる場合においてそれぞれ当該各号に定める公益通報をしたことを理由として前条第一項第一号に掲げる事業者が行った解雇は、無効とする。

  1. 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合 当該労務提供先等に対する公益通報
  2. 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合 当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報
  3. 通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合 その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報


    1. 前二号に定める公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
    2. 第一号に定める公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
    3. 労務提供先から前二号に定める公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
    4. 書面(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録を含む。第九条において同じ。)により第一号に定める公益通報をした日から二十日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
    5. 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

「その他外部」に通報しても良い場合は、事業者内部や取締り当局に通報しても効果が無いと言うか、無理だと判定される時に限ると読み取らなければならないのかもしれません。今日のエントリーの後半部は仮に公益通報者保護法の適用の余地がある場合の話をしていますが、公務員であっても尖閣ビデオを「その他外部」に公益として通報する事は可能なように思われます。

ただもう1回念を押しておきますが、法を読む限り、そもそもである尖閣ビデオの流出が、法の適用を受けるかどうかとなると正直なところ低そうな気がします。法や政令で定められた適用条件にどうにも合いそうな気がしないからです。法で規定している公益はかなり狭く定義されていると考えられ、たとえば国民の知る権利を満たした通報ぐらいでは難しそうな感触がします。

毎度思いますが、こういう議論は能力の範疇を越えていると痛感しています。どこかの法律系のブログなりで煮詰めた話があると思いますから、良ければググって下さい。