民主党の小沢一郎元代表が動画配信サイト「ニコニコ動画」の番組に出演するなど、既存のメディアと距離を置く政治家が目につく。この傾向について、橋元良明・東京大大学院教授(コミュニケーション論)は「編集されたり、批判的なコメントを加えられたりすることを嫌がる権力者に都合のよい手法」と分析。さらに、「国際的に関心の高い問題をめぐる投稿は、ほぼリアルタイムで翻訳されている現状もある」と世界につながるネットに期待をかけた可能性も指摘。「既存メディアのフィルターを通さず、直接伝えようとする政治家は今後増えていくのではないか」と予測する。
動画には「マスコミには歪曲(わいきょく)される可能性がある」「記者クラブを拒否したことを評価」などと投稿を支持するコメントが多く寄せられた。
ただ、秋葉市長の周囲には戸惑いや批判もある。
広島市長になる前から交流のある新藤宗幸・千葉大教授(行政学)は「市民との距離を縮めようとしてきた秋葉さんがこんなやり方を選ぶとは不可解だ」と首をかしげる。「動画で功績を語るだけでなく耳の痛い批判も聞いて、それに答えるべきではないか」
リンク元を読んで頂ければ判ると思いますが、秋葉広島市長が退任声明を記者会見で行わず、YouTubeで行った事に関する朝日の批判記事です。出来るだけ冷静に話を進めようと努力したいのですが、とりあえず引用した部分は批判記事の結論部分です。ここについて考察してみます。
結論部分にはこれも常套手段ですが、有識者のコメントが引用されています。読み手はついつい有識者のコメントにも噛み付いてしまうのですが、やはり注意が必要と考えます。有識者のコメントもまた朝日の編集権の下で報道されているからです。つまり本当にコメント通りの趣旨の発言かどうかは、御本人以外には不明と言う事です。たとえば橋元良明・東京大大学院教授(コミュニケーション論)のコメントを見てみます。3ヶ所「」で引用されているのですが、よく読むと微妙です。
最初の引用部分は、
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編集されたり、批判的なコメントを加えられたりすることを嫌がる権力者に都合のよい手法
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国際的に関心の高い問題をめぐる投稿は、ほぼリアルタイムで翻訳されている現状もある
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既存メディアのフィルターを通さず、直接伝えようとする政治家は今後増えていくのではないか
それと朝日の編集能力の問題があるのかもしれませんが、個人的には橋元教授のコメントは並び方を変えた方が朝日にとって良かったんじゃないかと感じています。ちょっと書き換えてみます。
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民主党の小沢一郎元代表が動画配信サイト「ニコニコ動画」の番組に出演するなど、既存のメディアと距離を置く政治家が目につく。この傾向について、橋元良明・東京大大学院教授(コミュニケーション論)は、世界につながるネットに期待をかけた可能性から「国際的に関心の高い問題をめぐる投稿は、ほぼリアルタイムで翻訳されている現状もあると指摘し、「既存メディアのフィルターを通さず、直接伝えようとする政治家は今後増えていくのではないか」と予測している。しかし「編集されたり、批判的なコメントを加えられたりすることを嫌がる権力者に都合のよい手法」と分析し懸念を示してる。
そうしなかったのは、橋元教授の3つのコメントの間にかなりの説明や注釈が存在していたからだと推測しています。もうちょっと言えば、3つのコメントは文脈上必ずしもつながってなかった可能性です。とくに最初のコメントは完全に分離した形態で存在したと推測しています。
あくまでも推測ですが、最初のコメントはある仮定に基いた質問に対する回答で、例えば大本営発表的な情報発信について聞かれた可能性を考えます。発表を聞くだけで、質問を許さず、発表内容をそのまま記事にする形態が好ましいか否かみたいな感じです。それに対して、情報を編集し、発表時に疑問点を質問を行わなければならないぐらいは誰でも答えるかと思います。
後の2つのコメントにもある前提が抜けているように感じています。メディアの変化です。かつては新聞・テレビ・ラジオなどの既製メディアが情報発信を独占していましたが、ネットメディアが急速に肥大化する現状では、考え方、見方を変える必要があるの前提です。メディアの環境が変われば、情報発信の形態も当然変化します。後半2つのコメントが妙に広島市長に好意的なのは、話の前提が違うためと推測しています。
まとめておくと、
- 最初のコメントは、既製メディアしか無い状態で、権力者がメディアの頭ごなしに情報発信を行なうのは好ましくない。もっと言えば片方向のメディアでは好ましくない。
- 残りの2つのコメントは、ネットのような双方向メディア下では、広島市長の様な情報発信も認められ、国際的にもそういう動きが広がっている。
もう一度、念を押しておきますが、全部推測ですからその点は御了承下さい。
朝日が主張している論法はそれでも橋元教授から苦労して取ったコメントにあると考えます。もう一度あげておきますが、
補足するように新藤宗幸・千葉大教授(行政学)のコメントである
この3つのコメントから朝日の主張を考えて見ます。まずなんですが、「批判的なコメント」「耳の痛い批判」とは記者クラブでの記者会見を行なう事を指し示していると考えるのが妥当でしょう。記者会見で記者の質問を受け、それに返答し、返答部分を記事にする必要があると主張していると解釈します。もう一つ大きなポイントですが、「編集」の主張を行っています。マスコミに編集権はありますが、いつの時点の「編集」を主張しているかです。これは記事をどう読んでも、退任会見の報道権の主張にしか読めません。
つまり朝日の主張と言うか要求は
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退任会見は閉鎖空間である記者クラブで行わねばならず、そこから情報を編集し、発信する権利はすべてマスコミにある
後は情報の介在者が多いほどニュアンスは混乱していきます。いわゆる「又聞き」とか「伝聞」状態になると言う事です。伝言ゲームになるとしても良いかもしれません。朝日の主張では、情報はすべて伝言レベル以下のものでなければならないになります。
広島市長のケースと朝日の主張するケースが具体的にどう違うかを簡単に記しておくと、
方式 | 情報伝達ルート |
市長 | YouTubeで一次情報公開 → 公開された一次情報に頼ってマスコミが報道 → 周辺情報はその後に取材 |
朝日 | 記者クラブで非公開で記者会見 → 編集してマスコミが一次情報と称して報道 |
情報の受け手としてはどちらが好ましいか、メリットがあるかになります。朝日と言うか既製メディアの主張としては、一度に情報として報道できるメリットを挙げるかもしれません。市長方式なら情報を二度以上に渡って分割して報道する必要性が生じるかもしれないからです。ただし情報としてはすべて報道機関のフィルターを通したものしか受け取れません。もっともマスコミ報道後に一次情報をYouTubeに公表するのもアリですけどね。
では市長式ならどうかですが、一次情報を先入観なしで映像付で見れるのはまず大きなメリットです。次にこれが市民に伝わる速度は、報道機関がサポタージュを行わなければ記者会見と同じです。違いは周辺情報ですが、これは遅れる代わりに取材側も十分に準備した質問を行えるかと考えます。一次情報を聞いてすぐに質問するのではなく、事前に聞いて質問するのですから精度は普通は高くなるはずです。
それと今回の件に限って言えば、周辺情報が送れる事にどれだけのデメリットがあるかです。これは朝日記事の中にあるのですが、
これが市長方式では不明で困るとしていますが、退任発表と同時に知らなければならない情報かと言われれば疑問です。情報として必要なら、これから取材して提供すればどうかと思います。市長の任期はまだまだ残っていますから、これから退任するまでに取材できないなんて事は無いと思いますし、取材できた時点で報道しても差し支えないと考えます。
それとこの市長退任ニュースで一番重要なのは、市長が続投するか否かであるはずです。これが任期満了を待たずの突然の辞任であるなら、辞任理由は説明する責任が市長に生じるは思いますが、任期満了で辞任するのであれば、辞任理由は重要度がかなり下がると考えます。つまり少々遅くとも支障は少ないと言う事です。
朝日を含むマスコミ側が批判するなら、政令指定都市の市長が、今後辞任に至るまで、一切の取材を拒むような事態が生じれば、これを批判するのはアリかと思います。市長の態度は若干微妙ではありますが、現時点ではそうなるかどうかは不明です。
勘ぐり過ぎかもしれませんが、市長が続投しないのニュースをマスコミが第1報として報じられない事に嫌味を並べているように見えて仕方がありません。真意とか辞任理由とか、9年も先の将来構想の責任をどれほど真剣に問いかけ、それを本当に記事にする気があったかが問われそうなところです。せいぜい「健康上の理由」とか、「後任に託したい」程度しか報道されないような気がしています。
間違い無く言えるのは、取材される側の市長が従来の方式に相当強い嫌悪感を催していた事だけはわかります。話が前後しますが、市長方式と朝日(既製マスコミ)方式の一番の違いは既製マスコミへの信用とか、信頼が鍵となります。既製マスコミによるフィルター(編集)を通す事で、相当の不利益が生じていないと、長年の慣行をそうは変えないからです。
現在でも強い影響力を残している既製マスコミにこれだけの態度を示すのは、再選を目指さなくなった事も大きいですが、余程積もり積もった怨念があったと考えています。
記者クラブでの記者会見をジャンプしてYouTubeに直接発表されるのは、朝日を含む既製メディアにとって、残された既得権益の侵害と映ったのはわかります。これまでは記者クラブと言うフィルターを通らない限り、情報の広報はほぼ不可能であったのが、広島市長の行為により風穴が開いてしまったからです。既得権益の死守に動きたくなるのは、社の利益として理解します。
こういう行為がどんどん波及する事は、既製メディアにとって好ましくない事であるはずです。好ましくないどころか、死活問題になりかねないとも考えられます。だから反論するのは利害問題としては理解できるとしておきます。
ただそれだけの問題であるにも関らず、反論の根拠と言うか、理論構成がこの程度しか出来ないのは不思議です。それこそ知恵を絞って、容易に論駁できないぐらいの反論を用意すべきではないかと思います。それでもって記事の朝日の反論がそういうレベルかと言えば、首を捻らざるを得ません。一番肝心のマスコミフィルターを通る事で、情報の受け手である国民にどれほどのメリットがあるかを説明できているとは思えません。
素直に読んで、
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市長の会見は昔からマスコミのシマ(縄張り)だから、それを破るやつは許さん! (適宜、広島弁に脳内置換してください)