新小児科医のつぶやき

2011-11-05 医療経済実態調査の診療所収支差を追ってみる

医療経済実態調査は実施毎に調査項目が変わります。今日は診療所の話なんですが、診療所の分類も変わっています。有床・無床、介護保険収入のあるなし、前回からは医療法人か個人立かみたいなわけ方です。そのため経年変化を追うのは難しいものになっています。唯一追えるのはそういう分類をすべてひっくるめた「全体」です。

医療経済実態調査が中医協での診療所の診療報酬削減の理由に使われるのは風物詩ですが、その影響を一貫して追えるのは「全体」ぐらいしかありません。「全体」の収支差をウェブで拾える第13回から表にしてみます。


実態調査 収支差(万円) 診療所数 一人医療法人数 法人化率
13回(2001) 240.8 94019 27504 29.3%
14回(2003) 206.1 96050 30331 31.6%
15回(2005) 201.3 97442 33057 33.9%
16回(2007) 165.4 99532 36979 37.1%
17回(2009) 128.3 99727 37878 38.0%
18回(2011) 118.0 99750 39102 39.2%


これまでの実態調査の使われ方からして、2001年に240.8万円あった収支差が、10年後の2011年には118.0万円に半減したと結論しても粗過ぎる分析とは言えないとは思いますが、それでは厚労省のデータ利用と同じレベルなので注釈だけつけておきます。


医療法人

個人診療所の医療法人は一人医療法人と見なして良いかと考えます。100%とは言いませんが、一人医療法人以外は誤差の範囲ぐらいの数になるはずです。この医療法人の収支差の支出には院長給が含まれます。法人では院長も法人の社員であり、法人から決まった月給をもらう事になるからです。つまり医療法人の収支差とは院長給が差し引かれた残りの金額になります。簡単には個人立より院長給が差し引かれている分だけ収支差は小さくなります。

診療所の医療法人は個人立からスタートして、医療法人を取得する形態になります。これも診療所であればどこでも取得できるかと言うとそうでもはなく、経営実績が必要になります。ここも簡単にはある程度の黒字経営を続けている事が医療法人を取得するための必要条件になります。非常に粗い類型化ですが、

    ツブクリ・・・医療法人を取得したくても現実的には無理
    フツクリ・・・取得できるがメリット・デメリットは微妙な時が多い
    ウハクリ・・・とくに税金面で有利で取得する事が多い

これもまた簡単には医療法人はフツクリとウハクリで占められているです。例外もまたありますが、大雑把にはそんな感じで、蛇足ですが個人立は逆にツブクリとフツクリで占められているとしても、そんなに間違いではありません。


記事

10/15付ロハスメディカル「「わが国の医療費の水準と診療報酬」 ─ 中医協・遠藤会長の講演 (2)」からですが、

 ただし、これは会計のやり方が違うわけでありまして、施設の院長の収入が利益の中に含まれているわけです。(医科診療所の)「その他」には、ここ(スライドの注釈)に書きましたように、病院の収支率と単純比較はできない。

 ですから、「医科診療所が多いじゃないか」ということは言えない。これは誰もが認めるところです。では、どうすればちゃんと比較できるのかというと、1つ考えられることは医療法人の診療所と病院を比較すること。

・・・・・・・・・・・・・・・(中略)・・・・・・・・・・・・・・・

 実は、今回の「医療経済実態調査」では、医科診療所に関して無床、有床それぞれに、「その他」ではなくて、「医療法人」という枠を別途つくりました。従いまして、そこから出てくるデータを見れば、同じような会計基準ですので、診療所と病院の収支率の差が明らかになる。

 ただ、設置者の給与をうんと増やせば、収支率は下がりますので、当然、給与も見なければならないということになります。「医療経済実態調査」では、病院と診療所の給与調査をしていますので、医療法人の医科診療所の院長先生の収入も今回は調べています。

遠藤会長は診療所と病院の経営比較をするのに、会計手法が基本的に同じである医療法人の診療所の結果を用いると明言されています。診療所の経営実態は医療法人の結果で判断すると解釈できます。もう一つ2011/11/3付日本経済新聞朝刊より、

 厚生労働省が2日まとめた医療経済実態調査で、開業医の月収が大幅に増えている実態が明らかになった。病院の収支も大幅に改善した。小宮山洋子厚労相は医療機関に払う公定価格である診療報酬を来年度改定で引き上げる方針を示しているが、実態調査は報酬引き下げが妥当と読める結果で、論拠は揺らいだ。それでも政権「公約」である引き上げを強行するのか。結論は年内に出る。

 実態調査は2年に一度、診療報酬の改定幅を決めるための基礎資料。調査によると、今年6月の月収は2年前と比べて開業医で9.9%、民間病院の勤務医で4.9%増えた。開業医の月収は231万円で勤務医の約1.7倍に上る。デフレで会社員や公務員の給与が下がり続けるなか、医師だけは例外の状況だ。

これも診療所の経営状況は医療法人の経営結果を代表値として判断するとしていると解釈します。この前提のためには経営状況が、

    個人立診療所 = 医療法人診療所

こうである必要があります。


チェリーピッキング

個人立診療所の平均収支差は183.2万円です。ここから院長の取り分が生まれるわけです。また個人立診療所は全体の6割を占めます。しかし診療所の経営実態として個人立診療所は排除されています。判断材料は残りの4割の医療法人診療所からするとしています。大雑把な表現ですが、同じ業種の優良企業の結果で全体を判断していくとしているわけです。

ま、診療所の役割は医療では軽視されていますし、6割の個人立診療所がバタバタ倒産しても病院の勤務医が増えるぐらいと考えているとも見れます。受難の時代だと感じています。どうやってサバイバルするか、私も頭が痛いところです。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/05 09:01 すいません。

ここで
10/15付ロハスメディカル「「わが国の医療費の水準と診療報酬」 ─ 中医協・遠藤会長の講演 (2)」
を出されてもいいのですが
この記事は2009年10月15日の記事です。

今のメンバーは
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001thr0.html
で会長は
森田 朗(東京大学大学院法学政治学研究科教授)氏です。

うらぶれ内科うらぶれ内科 2011/11/05 09:10 当院の自慢は無借金。自宅のローンはありますが、引き当ては済んでます。
来年は契約更改と時期改定と同時に来ます。状況によってはさっさと撤退します。
サバイバルなぞ考えるだけで面倒です。
健康保険が立ち行かなくなって、混合診療が大幅に導入されたときおそらくビジネスチャンスが訪れるのでしょうが、そこまでがんばるつもりもありません。

これから自由な時間が増え、好きなことをして暮らせるなんて考えただけでもわくわくします ・・・・てなことになればいいんですがね。贅沢さえ言わなければ何とかなるかな。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/05 09:13 森田 朗氏は
「会議の政治学」の著者で
http://100satsu.cocolog-nifty.com/blog/2006/12/post-3643-1.html
(戸崎将宏の行政経営百夜百冊様のブロクより)
厚生労働省のからくりはアカデミックな立場でよく御存じとは思いますが

開業医の給与、大幅に上昇 「公約」診療報酬上げの矛盾
2011/11/3付 日本経済新聞 朝刊
http://blogs.yahoo.co.jp/taddy442000/33251579.html
(うろうろドクター様のブロクより)
デフレで会社員や公務員の給与が下がり続けるなか、医師だけは例外の状況だ。
という情報操作に対して何もされないのはないでしょうか。

SeisanSeisan 2011/11/05 09:47 もちろん、医療法人診療所(個人立)であっても、診療所開設に当たり、相当額の借金をしていることが多いと思いますが、その場合の借金は、ほとんど医療法人の借金ではなく、院長の借金であるため、院長の給与から返済されていますから、可処分所得は相当に減額されると思いますけど、そういうのも丸無視ですね。

なんか、パナソニックとDeNAを比較して、DeNAのほうが、利益がいいのはけしからん、って言ってるみたいですねぇ。

BugsyBugsy 2011/11/05 16:45 昨日の 人生それぞれ様のコメントが全くごもっともで

>医療経済実態調査で、開業医の月収が大幅に増えている実態が明らかになった。........実態調査は報酬引き下げが妥当と読める結果で、論拠は揺らいだ。

さっぱり意味がわかりません。おっしゃるように借金の返済という問題もあるし、法に触れない個人の営業努力で月収が増えたのなら大変喜ばしい事であります。そこに口をはさむのは全く持って理解しがたい。医療機関が次々にデフォルトを宣言し始めたら社会不安になりますぞ。

テレビ会社の収益が上がって、社員は世間が驚くような高給をとっているなら電波の許認可権を再考しようという意見は出ませんな。銀行員が医者が金に困りだしたら、顧客から患者から金を取ってやろうという目論む輩がでないとは限らない。役人が金に困窮したら賄賂に心が揺れることでしょう。国会議員だって一緒ですよ。
金がない恒産のない奴は危なくってしかたがない。

しかしTPPに参入しようという時に国内のマスコミが安泰で居られるわけはなく 他の業種だって同様です。
なんだか公共工事だって医療産業だって外国の会社が乗り込もうという、どでかい黒船が押し寄せようという予感を国民もそろそろ持ち始めた時に、なんでちまちま国内で論うかねえ。
馬鹿じゃないのでしょうか。もうじきTPPに参入してしまえば こんな議論は無意味のはずです。

元もと保健所長元もと保健所長 2011/11/05 17:19 京都の小児科医 2011/11/05 09:13 さん
>デフレで会社員や公務員の給与が下がり続けるなか、医師だけは例外の状況だ。

国家公務員給与の2年連続引き下げという人事院勧告がありましたが、医療職1表だけは2年連続据え置きとなり、多くの地方公務員給与もこれに準じることになりました。
つまり、公務員の世界でも「医師だけは例外の状況だ。」です。
アハハ

none_2217none_2217 2011/11/05 20:38 >健康保険が立ち行かなくなって、混合診療が大幅に導入されたときおそらくビジネスチャンスが訪れるのでしょうが、そこまでがんばるつもりもありません。
ご存じだとは思いますが、TPPに加入すると、お前の国にはこういう法律があるから利益を得ることができなかったと投資家から訴えられる可能性があります
そして、もし、日本が訴えられた場合、100%負けるので、投資家にとって都合のいいように制度を改変させられる可能性が高いです
下手すると、日本の健康保険制度アメリカの保険会社や製薬会社が利益を得ることができないということで訴えられ、保険制度が骨抜きにされます
仮に訴えられないとしても、薬価を製薬会社が自由に決めることができるようになるので、医療費が増大し、保険制度自体が崩壊するかもしれません
個人的には健康保険でやっている医者がますます疲弊する&貧乏人がまともな治療を受けられるのでTPPには反対ですが、加入すれば、1もかからずに破綻すると思われるので
待たない方がいいのかもしれませんw

http://gigazine.net/news/20111105_tpp_trade/
TPPは全世界で反対されている、自由貿易ではなく公正貿易が必要
http://gigazine.net/news/20111104_tpp/
「TPP」とは一体何か?国家戦略室の資料を読めば問題点がわかる
http://gigazine.net/news/20111104_tpp_mastermind/
アメリカで「TPP」を推進して米政府を操る黒幕たちの正体

そういえば、TPPに加入すると消費者余剰分が増えるので入るべきだと池田信夫が言っていましたが、本当に得なんでしょうか?
生産者が海外勢と競争により打撃を受け、失業者が増加。社会保障費が増大するので、トータルで見ると損をするような気もしなくもないのですが…

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/05 23:28 「TTP」のことはよくわかりませんが・・・

医療経済実態調査のような重要な調査は厚生労働省が自由にされるので話がおかしくなると思います。
近未来的には 国内外を問わず信頼できる民間の調査会社に委託して公正な医療経済実態調査をおこなうことで話はすっきりすると理解しました。

BugsyBugsy 2011/11/05 23:47 TPPというか関税がなくなれば 裸のグローブがない重量ランク別のないボクシングですね。
医療において何かメリットはありますかね。英語がド下手な日本の医師や患者には不可能でしょう。

>国内外を問わず信頼できる民間の調査会社に委託して公正な医療経済実態調査をおこなうことで話はすっきりする

ええ 患者という市場が決めると思います。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/06 10:56 Bugsy様

>患者という市場が決めると思います。

あくまでTPPの私のイメージですが、医療経済実態調査の部分から国内外の大企業が参入してくるように思いますが、これらはすべてお金が絡むように感じます。
したがって、患者という市場→お金をもっている患者という市場のように思いました。

これも私のイメージですが中医協=笑点のように感じます。
(Yasyon様は風物詩ネタとされていますが)
現在のお笑い田舎芝居のような中医協でいいのかといういう議論もあるとも思います。

で、全世界からの疑問の答えが
『ランセット』日本特集号出版記念シンポジウム
 http://www.jcie.or.jp/japan/csc/ghhs/lancet/2011symposium.html
『ランセット』日本特集号「国民皆保険達成から50年」
 http://www.jcie.or.jp/japan/csc/ghhs/lancetjapan/
かなとも思いますが・・・よくわかりません。

元法学部生元法学部生 2011/11/07 00:51 >TPPに加入すると、お前の国にはこういう法律があるから利益を得ることができなかったと投資家から訴えられる可能性があります
>そして、もし、日本が訴えられた場合、100%負けるので、投資家にとって都合のいいように制度を改変させられる可能性が高いです

よくわからないのですが、法律が存在すること自体に関する賠償責任を政府が負うという条項が盛り込まれる見込みなんでしょうか?
国賠法にはそのような条項は無いので、もし条約締結したとしても、それこそ国内法を条約に合わせて変更する必要がありますね。
国内法を変えない限り、国内の裁判所では国内法と違う判決は出せないですから。

相手国の制度について問題にするように自国政府に陳情するだけなら、今と変わらない気がしますが…。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/07 05:10 元法学部生様

サルにもわかるTPPには
http://luna-organic.org/tpp/tpp-3-1.html
それでも日本政府が国民皆保険制度を廃止しない、と言い張るとどうなるか。アメリカの保険会社は日本政府を裁判で訴えることができる。その判定をするのは世界銀行の中に事務局がある「国際投資紛争解決裁判所」だ。この裁判所の判断基準は、自由貿易のルールに則っているかどうかだけ。それが日本人のためになるかどうかなんてまったく考慮してもらえない。そして、日本政府が負けたら、賠償金を支払うか制度を変えなければならないんだ。

となっていますが本当かどうかは不明です。

私は下記のレベルですので・・・
「TTP」の意味を知らない〇〇〇
http://gyao.yahoo.co.jp/player/00397/v09402/v0991200000000543827/
大問題ということはわかりますが・・・

none_2217none_2217 2011/11/07 20:56 >元法学部生様へ
日本政府自身がISD条項というのも盛り込むつもりのようです
http://www.asyura2.com/11/hasan73/msg/762.html

元法学部生元法学部生 2011/11/07 23:58 ISD条項についてのご指摘ありがとうございます。

確認しましたが、すでに締結済みの各国との投資協定にも
cf.http://www.meti.go.jp/policy/trade_policy/epa/index.html

「一方の締約国と他方の締約国の投資家との間の投資紛争の解決」
に関する条項は含まれているようです。

条約の条文解釈に大して自信はありませんが、現状Web上にあるISD条項についての解説は
条文原文に当たる限り多分にミスリードが含まれているような感触を受けます。

元法学部生元法学部生 2011/11/08 00:06 少なくとも、締結した投資協定の条項に違反する措置を締結国が実施したことによる実損失で以外のもの(たとえば、投資協定上義務を負う措置以外の国内制度存在による「チャンスロス」により期待利益が得られなかったなど)が投資紛争の定義に当てはまりそうな条文では無いと思われます。

元法学部生元法学部生 2011/11/08 00:15 でもまあ外資系保険会社が個人向け健康保険組合の設立認可申請を出したら内外無差別原則からして却下できないということにはなりそうな気もしなくないのでその辺からの解釈なのかな?

none_2217none_2217 2011/11/10 19:18 元法学部生様へ

ISD条項をアメリカとカナダが締結したのですが、カナダ政府は規制をかけられたということでアメリカの企業から訴えられてしまいました

http://azplanning.cocolog-nifty.com/neko/2011/10/tppisd-c525.html

そんなバカな・・・では現実にNAFTA(北米自由貿易協定)でISD条項を受諾してしまった事で起こった問題を記述します。

ある米国の廃棄物処理業者が、カナダで処理をした廃棄物(PCB)を米国国内に輸送してリサイクルする計画を立てたところ、カナダ政府は環境上の理由から米国への廃棄物の輸出を一定期間禁止しました。これに対し、米国の廃棄物処理業者はISD条項に従ってカナダ政府を提訴し、カナダ政府は823万ドルの賠償を支払わなければならなくなりました。

メキシコでは、地方自治体がある米国企業による有害物質の埋め立て計画の危険性を考慮して許可を与えませんでした。すると、当然のようにこの米国企業はメキシコ政府を訴え、1670万ドルの賠償金を獲得することに成功したのです。

トラックバック - http://d.hatena.ne.jp/Yosyan/20111105