新小児科医のつぶやき

2011-11-28 奥歯に物が挟まったような記事

まず11/26付読売新聞・九州発より、

「無理な授乳指示で脳障害」国立病院機構提訴へ

 長女(9か月)に重い脳障害が起きたのは、出産直後に病院側の指示で母乳育児などを無理に続けさせられたためだとして、神奈川県の両親らが九州医療センター(福岡市)を運営する独立行政法人・国立病院機構(東京都)を相手取り、約2億3000万円の損害賠償を求める訴訟を26日、福岡地裁に起こす。同病院を巡っては5月、出産後の経過措置に問題があり、別の女児が植物状態になったとして同様の訴訟が起こされている。

 訴状によると、里帰りしていた母親(40)は2月14日、同病院で女児を出産した。出産時に異常はなかった。その後、病院側は直接授乳を指示。しかし母乳が十分出ず、長女もほとんど吸わなかった。約12時間後、心肺が停止していることが判明。呼吸は戻ったものの、低酸素性脳症により意識不明の寝たきり状態になっている。

 同病院は、出産直後の母乳育児や母子同室、新生児を母親の素肌の胸に抱かせるカンガルーケアを推奨している。母親らは、病院側は母乳が出にくい母親に新生児を長時間預けたままにし、経過観察を十分行わず、人工栄養も与えなかったと主張。その結果、低血糖、低体温症に陥り、脳に届く酸素が少なくなり障害を引き起こしたと訴えている。

こういう訴訟が起こる事自体については置いておきます。今日は今回の訴訟で原告側が何を強調しているかです。つまり被告側である病院の何が悪いかです。長くもない記事ですが

    母親らは、病院側は母乳が出にくい母親に新生児を長時間預けたままにし、経過観察を十分行わず、人工栄養も与えなかったと主張。その結果、低血糖、低体温症に陥り、脳に届く酸素が少なくなり障害を引き起こしたと訴えている。

ここの部分がそうだとは考えますが、少し整理すると2点で、

  • 出産直後の新生児を母親に預けっぱなしにし、十分な観察を怠り、その結果としての低体温症
  • 母乳が飲めていないのに人工栄養を与えなかったので起こった低血糖症

この結果として心肺停止状態に陥ったと主張していると解釈します。ほんの少しだけ医学的考察を加えると、心肺停止状態で見つかったのは出生の12時間後であり、とくに分娩にトラブル無く、正期産の正常児であれば、12時間で低血糖は早すぎると思います。あったとするならばあのカンガルーケアですから、名大病院事件の時と同じような展開で不適切なカンガルーケアにより、

  1. 低体温症
  2. 母体との密着による窒息

こちらの方が原因として有力のような気がします。ここでSIDS的な話とか、先天的な要因についてはあえて置いておきます。言い出すとキリがなくなります。もっとも訴訟ですから、原告として思いつきそうな原因は主張しても構わないといえば構わないのですが、力点としては「低体温症 > 低血糖症」になると考えるのが妥当です。ところが見出しは、

    「無理な授乳指示で脳障害」

どう読んでも「低体温症 < 低血糖症」です。私の興味は原告側がそういうニュアンスで強調したのか、読売が編集権でそう強調したのかです。読売は同日に全国版に記事をアップしています。こちらは若干の修正があり、

訴状によると、女児の母親(40)は2月14日、里帰り先の同病院で出産。病院側は授乳を指示したが、母乳が十分に出ず、女児は一時心肺停止。その後、呼吸は戻ったが、低酸素性脳症により意識不明の寝たきり状態になった。母親らは、病院側が母乳が出にくい母親に新生児を預けたままにし、経過観察を十分行わなかったため、低血糖、低体温症に陥り、障害が残ったと主張している。

今度は「訴状によると」になっています。ここは読みようですが、出生後の児の観察が不十分であった事を主張しています。観察が不十分であったために低血糖症と低体温症が起こったなんですが、見出しは、

    出産直後の母乳育児で障害、両親が病院機構提訴

これも「低体温症 < 低血糖症」で、母乳の代わりに人工栄養を与えていれば良かったみたいに受け取られそうなものになっています。それと個人的にはすごい不思議なんですが、低体温症の原因は多かれ少なかれカンガルーケアに起因していると考えて良さそうなものですが、読売記事は病院がカンガルーケアを行なっている事のみに記述をとどめている事です。


ここで11/26付Asahi.comの記事を挟みます。

 母乳だけによる育児や、出産直後の母親に子どもを抱かせるカンガルーケアが原因で、子どもが死亡したり脳性まひなどの後遺症が残ったりしたとして、九州や関西、関東の家族らが26日、福岡市で患者・家族の会を発足させた。この日、医療機関側を福岡地裁に提訴した両親も加わった。

 発会式には、福岡や大阪などの6家族と弁護士ら計約20人が集まった。6家族とも医療機関を提訴したか提訴を準備中。参加した医師によると、「完全母乳」を勧める病院で母乳以外の糖分を与えないと、母乳が十分に出ない場合、赤ちゃんが低血糖になる可能性があるという。また、出産直後の母親は汗をかいて体の表面温度が下がりやすいため、カンガルーケアだと赤ちゃんが低体温になって脳性まひなどを誘発することもある、と指摘している。

この被害者の会については完全母乳栄養訴訟で取り上げています。この会は完全母乳栄養を無理強いする事も問題としていますが、カンガルーケアも問題視しています。どっちがと言うより両方です。当然の様に推測されるのは、今回の訴訟を起した家族もこの会からのアドバイスを受けているはずです。

母乳を飲んでいないことによる低血糖症と、不適切なカンガルーケアによる低体温症はある程度一体になったものとは言え、「母乳 > カンガルーケア」の関係ではなく「母乳 ≒ カンガルーケア」であるはずです。ですから家族による訴状もそういう内容になっていると考えて良さそうに思います。出生後12時間の間に授乳が出来ていなかった事を中心に据えるのは不自然ですし、カンガルーケアについて問題視しない事も不自然です。


朝日が伝えた被害者の会の結成の様子を読売も11/27付記事で伝えています。内容はさすがに

会合には福岡、長崎、宮崎、愛媛、大阪、神奈川の6府県から6家族が参加。新生児のケアを研究している久保田産婦人科麻酔科医院(福岡市)の久保田史郎院長がカンガルーケアなどの危険性を指摘、「出産直後の母子同室はやめるべきだ」などと語った。

カンガルーケアの問題点を掲載していますが、見出しは、

    授乳ケアで障害防ぎたい

やはり「母乳 >> カンガルーケア」です。そういえば朝日の見出しも捻ったもので、

    「出産直後預けられ後遺症」 母乳推進の病院を両親提訴

なんじゃこりゃ、と言いたいような新用語を創作されています。



これは私の感想ですが、病院における死亡事故ですから記事にすると言うのは決定事項であったと考えます。その記事にするに当たってタブーがあるように感じます。つまり「カンガルーケア批判は禁忌」です。しかし記事にするには原告側の主張の掲載が必要です。原告側の主張は大きく2つで、

  1. カンガルーケア問題
  2. 母乳栄養問題

おそらく並列で主張していると考えても良いかと思います。母乳栄養問題もなんとなく積極的には取り上げたくない雰囲気を感じますが、カンガルーケア問題はさらにさらに積極的に取り上げたくないです。どっちも取り上げたくないが、理由を書かないわけには行かないので、

    母乳問題 >> カンガルーケア問題

こういう構成になっていると私は見ます。ココロは完全母乳主義もカンガルーケアも絶賛推進中なので、この訴訟記事で水を差したくないぐらいのところでしょうか。水を差したくなければ記事にしない選択もあったと思いますが、そこはマスコミの横並び体質で、特オチ防止心理が優先して取り上げざるを得なかったと言うところでしょうか。

カンガルーケアより母乳問題にシフトしたのは、例外的なケースへの人工栄養投与に話を持っていけるので、この程度なら完全母乳主義への影響は最低限の範囲に留められる判断と見ています。死んでしまうほどの完全母乳主義への警鐘ぐらいなら大丈夫と言うところです。


しっかし面白いものです。マスコミはしばしば根拠不明の是非の判断者に勝手になります。マスコミ内で是か非かを決定したら、高度の創作性を駆使して徹底的にどちらかに偏った論調を、それこそ全マスコミ挙げて金太郎飴式に展開するのは周知の事です。その点を考えると完全母乳主義もカンガルーケアもマスコミ内では完全に「是」と判断されていると見て良さそうです。

基本判断が「是」のものを「非」として訴えた記事の一つの書き方の一つの見本みたいなものと考えればよいのでしょうか。いや、そうではなくてもう一つの価値判断がさらなる前提であると考えても良いかもしれません。訴えを起こされるような病院での医療事故は「非」であるです。附帯条件として生まれたばかりの新生児と言うのもあります。つまり、

  1. 医療事故は「非」として報道しなければならない
  2. カンガルーケアも完全母乳主義も「是」の判断は変えられない

かなり難しい前提条件の下に出来上がった記事と私は感じます。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/28 08:12 こういった場合には
まず早急にいわゆる被害者の会のHPをまず立ち上げてほしいです。
でないと主張がわかりづらいです。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/28 08:27 個人的な関心ですが
「苦しむ家庭を減らしたい」と訴える家族ら
の写真があり、記者会見をされたと推測しますが
この場合、どうやって記者会見を設定(メディア対応:記者クラブ)されたのでしょうか
記者会見の会場場所がどこかも気になります。(未確認です)

Med_LawMed_Law 2011/11/28 08:39 抱いた新生児の経過観察をして、異常があれば看護師・医師に伝える・・・という、
当たり前の母親の義務が問われることがないのが、非常に不思議です。というか異常です。

被害者批判は禁忌のメディアですが、誰かを訴える人は、認められるまでは、自称”被害者”であって、他称”加害者”が本当の被害者であることも多いのは、完全に無視されています。

他罰的に振る舞って自己正当化を果たす風潮は、どこかでしっぺ返ししないといけないと思ってます

YosyanYosyan 2011/11/28 08:56 Med_Law様

難しい問題です。一つの流れとして、カンガルーケアとか完全母乳主義を行うにしても危険性の説明と同意書が必要になるかもしれません。なんと言っても現実に死亡事故が起こっているのですから、「そんな危険がある説明はなかった」と言われれば、現在ではどれほど強力な正義になるかはよく御存知かと思います。

ま、カンガルーケアに関してはリスクの説明はやっておいても良さそうな気はしてます。とにかく説明がなく起こった障害は、すべて管理が悪かったになりますからねぇ。もっとも説明があっても言われますけど。

元ライダー元ライダー 2011/11/28 09:07 カンガルーケアは知りませんが、「母乳教」は医学的指導のように積極的に指導しますからね。
医療機関側が「指導を怠って」というケースとは全く違います。「指導を怠って」であれば、母子側も一般人としての常識的対応を問われて良いかもしれませんが、意図的に誘導しているのですから、「指導を怠ってしまった」以上の責任は当然かと。

当直明け当直明け 2011/11/28 09:31 専門外ですが、母乳育児とカンガルーケアは分けて考えるべきではと思うんですが。
またカンガルーケア中の新生児に関しての責任の所在を明確にすべきかと。カンガルーケアをやりたいという母親には承諾書をとるくらいやってよいのでは。でもそれは推進派には問題なんでしょうね。
別件ですが帝切後で麻酔でボーッとしている状態でカンガルーケアをやらされて児に異状が
発生したという裁判があったように思います。

BugsyBugsy 2011/11/28 09:49 >母乳が十分出ず、長女もほとんど吸わなかった。約12時間後、心肺が停止していることが判明。

判明という言い方が妙にひっかかります。
出生後のモニタリングはどうやってだのでしょうか?あ やはり母親でしょうか。それとも病院側でしょうか。
息をしたり泣いていれば 呼吸してるか停止など簡単にわかりませんかね。ECGモニターは通常新生児にはつけないのでしょうか。カンガルーケアなので新生児室にまとめておいてはいなかったのでしょうか。

素人で恐縮ですが 新生児ってそんなに簡単に低血糖になるものなんですか。そして低血糖ってすぐに心肺停止を新生児では起こすものなのですか。成人でもたしかに意識障害はおこしてますがねえ。

一産科医一産科医 2011/11/28 09:56 この会のバックにはこちらの先生がいらっしゃると思います。
以前、会の参加者がここのホームページを見たという発言をされていたように記憶しています。
主張も概ねまとまっています。参考にしてください。

http://www.s-kubota.net/Stan/28.htm

こちらの主張でいけば、カンガルーケアもいわゆるWHOの勧告に基づいた母乳哺育も間違った新生児管理であり、直さないといけないということになります。この主張に全面的に沿った形で訴訟を起こしているため。カンガルーケア/母乳哺育共に問題視されているのだと思います。

現場としては、変な宗教論争みたいになってしまうのは一番困ります。カンガルーケア派vsアンチカンガルーケア派とか、母乳教vsアンチ母乳教みたいな。
ミルクを与えれば母乳教信者から「余計なことをするな!」と罵られ、ミルクを与えなければ「そのせいで発達障害児が増えている!」と怒られるのでは、現場はどうしていいのやら困惑してしまいます。
「新生児に何かあって欲しい」と願う医療従事者なんていないですから、妙な対立軸になって欲しくはないんですが・・・。

現場の一医者としては、こういう事故を防ぐには新生児の観察のためにもっと人手が必要だと思いますし、そのためには最低限人件費のコスト負担が必要です。そういう方向に議論が進んでくれるのであれば、意味があると思えるのですが・・・。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/28 10:40 >抱いた新生児の経過観察をして、異常があれば看護師・医師に伝える・・・という、
当たり前の母親の義務が問われることがないのが、非常に不思議です。というか異常です。
ちょっと異端の意見ですが・・・
出産は病気ではありませんので、通常新生児のカルテはない場合が多いと
思います。この場合、通常新生児に何か医学的な問題があればカルテを作成されます。
新生児のカルテがない場合(病院に入院していない場合)は
新生児の経過観察は母親の義務という考え方もありうるのではとも思いました。

当直明け当直明け 2011/11/28 10:54 一産科医様
リンク先のHPも見せて頂きました。リンク先でも母乳哺育には条件付きで容認、カンガルーケアにはリスク管理上問題多しと感じました。

>こういう事故を防ぐには新生児の観察のためにもっと人手が必要だと思いますし、そのためには最低限人件費のコスト負担が必要です。そういう方向に議論が進んでくれるのであれば・・・

カンガルーケアは今後資金と医療資源を投入して推進していくべきことなのでしょうか?

10年ドロッポ10年ドロッポ 2011/11/28 11:06 >現場はどうしていいのやら困惑してしまいます。

(現場を)やめればいいと思うよ(爽やかな笑顔)。

>そういう方向に議論が進んでくれるのであれば、

ほぼ絶対にあり得ない事を夢想するのって時間の無駄だからもっと建設的な事を考えましょうよ。産科医をやめるとか産科医をやめるとか産科医をやめるとかw

YosyanYosyan 2011/11/28 11:09 カンガルーケアにしろ、母乳主義にしろ、問題なのは推進派が「一律」である点と思っています。やらなければ育児の負け組みたいな雰囲気でやられる点です。出来る人はやってみようぐらいのスタンスであればさしての問題では無いと思うのですが、「出来て当然、出来なければ問題あり」みたいになると問題かと思っています。

元ライダー元ライダー 2011/11/28 11:12 >カンガルーケアは今後資金と医療資源を投入して推進していくべきことなのでしょうか?

ついつい産科は基本自由診療だということを忘れてしまいがちです。カンガルー飼育に資金と資源が必要なら、カンガルー愛好家に御負担いただければ問題解決です。
「当院はカンガルーですので割高です」
「当院では出産費用を安価に設定していますので、カンガルーは取り扱っておりません」
このくらいの説明は必要でしょうが。

いや、この割り切りは産科に限ったことではなく。
「JBMに沿った医療は保険適応外ですので自由診療になります。」
この件に関する周知徹底も推進すべきです。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/28 11:31 >カンガルーケアにしろ、母乳主義にしろ、問題なのは推進派が「一律」である点と思っています。やらなければ育児の負け組みたいな雰囲気でやられる点
こういった「一律」に推進するグループは実は、自身はミルクで育って、カンガルーケアとは無縁の状態で出産されたかたが大部分であると理解しています。

タカ派の麻酔科医タカ派の麻酔科医 2011/11/28 13:42  Med Law様、この件では確か母親は術後の鎮痛剤の影響で新生児の面倒を十分みることができる状況ではなかったということが、以前報道されておりました。長崎での類似の事例でも、母親が十分に動くことができない状況でナースコールもなく、助産師や看護師が呼んでも来なかったということでした。一概に母親を責めても気の毒では。

釈浄圓釈浄圓 2011/11/28 14:22 ヒトにとって早期新生児期は人生で最もリスクの高い時期なのですが、日本の周産期医療関係者が頑張った結果、めでたく世界一安全な国になりました。そこでまれに起こる一見正常そうにみえた赤ちゃんの突然の急変が目立つようになりました。

私はWHO/ユニセフの母乳育児推進に賛成の立場です。母子分離と人工乳OKの環境で、ほおって置いても1ヵ月で母乳だけで育つ赤ちゃんは30%くらいになりますが、母児同室など環境を整えることで余り無理せずに80%くらいまで増えます。もちろんそのあたりの話しは予め妊娠中からしておいて、人工乳を足したときにも心の傷にならないように配慮が必要です。若い女性は一般に母乳分泌で苦労することは少ないですが、どんどん増えてる高齢出産の方は意識は非常に高いのですが身体がついていかないので難しいです。

いわゆるカンガルケアー(NICUでのカンガルーケアと区別する意味で「早期皮膚接触」と言っていますが)以外にもその後の母子の添い寝の状況で呼吸停止や心停止の例があり、いつ起こったか一緒にいた母親にも分からないことが実際にあります。

産科では赤ちゃんは母親の付属物扱いで病床数にはいっていないので看護スタッフの配置数にも赤ちゃんは勘定にはいっていない施設が多いです。それを補うために、酸素飽和度モニターやベビーブレスといったセンサーを導入する施設も増えていますが、それでも完全にこのような事例を防ぐことは難しいかもしれません。

http://www.s-kubota.net/Stan/28.htmのDrは随分以前からWHO/ユニセフの姿勢に批判的で出生後の赤ちゃんを全員保育器で管理するといった独特な方法を編み出しておられます。母乳育児には積極的なようですが、私からみれば違和感があります。

母乳育児推進によって乳幼児の急性感染症による入院が半減すれば年間日本中で500億から1000億円の医療費が削減できます(私の病院では年間300人の入院減で6000万円の減収になりました)。年間12,000人の乳ガン死亡が1,000人くらい減ります。おそらく母子関係や子育てにも良い影響があります。
出産後の赤ちゃんとお母さんを如何に安全に過ごせることは大切ですが、母子分離をしないできるだけ母乳で育てるのも重要だと考えています。

ちなみに動物愛護法の改正に向けてパブリックコメントの募集がありました。
何か複雑です。
 生後間もないペット販売禁止へ 「動物愛護法」改正で「国民の声」12万件
 http://www.j-cast.com/2011/11/23113828.html?p=all
   環境省が募集したパブリックコメントに12万件超の異例の数の意見。
 注目ポイントの一つが犬や猫について、生後一定期間は販売してはいけないという規制
「生まれて一定期間たたない犬や猫を親や兄弟から引き離すと、
 社会化できず、しつけがしにくくなって、
 将来、ほえたり、かんだりなどの問題行動を起こす」と言われる。

当直明け当直明け 2011/11/28 15:23 釈浄圓様
>母乳育児推進によって乳幼児の急性感染症による入院が半減すれば年間日本中で500億から1000億円の医療費が削減できます(私の病院では年間300人の入院減で6000万円の減収になりました)。年間12,000人の乳ガン死亡が1,000人くらい減ります。

上記に関してエビデンスレベルの高い根拠等ございますでしょうか。乳癌の発生率に関しても人工乳だけでは危険因子とは通常は見なされないと思いますが。

当直明け当直明け 2011/11/28 17:36 質問の補足ですが完全母乳がやはり望ましいのかという質問でした。授乳行為はスキンシップもとれますし、授乳期間が長くなると乳癌の発生源にも寄与するのでしょうが余り完母に固執するとやはり反発が出てくるんだと思うんですよ。混合派はどうなるんでしょうか。
私もYosyan様が書かれているやらなければ負け組みたいな風潮はどうかなと思います。

釈浄圓釈浄圓 2011/11/28 17:47 当直明け様

乳幼児の急性期感染症による入院について、
Quigley MA, Kelly YJ, Sacker A : Breastfeeding and Hospitalization for Diarrheal and Respiratory Infection in the United Kingdom Millennium Cohort Study. Pediatrics 2007; 119: e837-42.
Betran AP, de Onis M, Lauer JA, Villar J. Ecological study of effect of breast feeding on
infant mortality in Latin America. BMJ 2001; 323(7308):303-6.
入院単価1回20万円とし、私の病院のカバーする人口が5万人として大ざっぱに計算しました。

乳ガンについて
Beral V, et.al. Breast cancer and breastfeeding: collaborative reanalysis of individual data from 47 epidemiological studies in 30 countries, including 50,302 women with breast cancer and 96,973 women without the disease. Lancet 2002; 360: 187-95.
乳ガン罹患リスクは授乳期間が12ヵ月増えると4.3%減少する(95.7%になる)から二人子どもを生んで一生涯で24ヵ月母乳育児をすれば、0.957×0.957=0.916で乳ガンの発症が減少するのですが、このまま死亡にも効果があると仮定して乱暴に計算すると約1000名死亡が減少することになります。

その他子育てや子どもの精神発達について以下の様な報告があります。
Montgomery SM, et al. : Breast feeding and resilience against psychosocial stress.
Arch Dis Child 2006; 91・12: 990-994.
Strathearn L, et al. : Does Breastfeeding Protect Against Substantiated Child Abuse and
Neglect? A 15-Year Cohort Study. Pediatrics 2009;123・2: 483–493.
Oddy WH, et al. : The Long-Term Effects of Breastfeeding on Child and Adolescent
Mental Health: A Pregnancy Cohort Study Followed for 14 Years.
J Pediatric 2010; 156・4: 568-574.

すわわすわわ 2011/11/28 20:38 産婦人科医です。釈浄圓さんの見解に賛成です。

ごく一部の、ファナティックな母乳至上主義助産師は困ったものですが、
全体としてみると、母乳哺育が人工乳哺育よりも優れていることは明らかだと思います。

乳幼児突然死症候群は、母乳哺育児に少ないことが知られていますが、
今回のような早期新生児の突然死によって、母乳哺育に批判的な風潮が広まり、
逆にSIDSが増加するとしたら、悲劇的な皮肉といってもいでしょう。

さてさて、カンガルーケア中の新生児がほとんど泣かないということはご存じでしょうか。
私がカンガルーケアを始めた頃、静かな分娩室ということに衝撃を受けました。
出生直後に、口腔内吸引、モニター、物理的刺激、酸素投与など、
様々な医療処置(ほとんどは不必要)を施される新生児は、ぎゃんぎゃん泣きます。

お母さんの胸の上でじっとしている新生児は、ほとんど泣きません。静かです。
最初のうちは、なぜ泣かないんだろうと思いました。
しかし、ほとんどの赤ちゃんが泣かないという事実を見て思い当たりました。
なぜ泣かないのかではなくて、なぜ泣くのか、ということです。

生まれたばかりの赤ちゃんは泣かないのが普通であって、
泣きたくないのに、医療行為や処置によって泣かされているということです。
「わたしのことはほっといてや〜」と言えない代わりに、泣いて抗議をしているんです。

これはエビデンスの話ではありません。
正常新生児の、出生後早期の行動に対する理解度の問題です。
問題の無い新生児であっても、介入やむなしとする先生方には理解できない世界ではないかと思います。

いかんせん、昨今の産科を取り巻く医療事情は、悪くなりすぎました。
WHOの勧告や母児早期接触が有益のエビデンスは、
今回のような訴訟提起の前には、吹き飛んでしまいます。

しかしながら、カンガルーケアが問いかけたものは、単純に自然志向かどうか、
厳重な管理によって新生児死亡や乳幼児期の神経学的後遺症が減少するかという医学的評価だけではありません。
今の日本の産科・新生児医療が、安全という美名の下に、
多くの新生児の人権を侵害しているのではないかということに思い至るべきではないかと、
問いかけていると思います。

リスボン宣言 6 a)
「患者の意思に反する診断上の処置あるいは治療は、法が特に許容し、かつ医の倫理の諸原則に合致する場合にのみ、例外的に行なうことができる。」

ふぃっしゅふぃっしゅ 2011/11/28 22:32 Yosyan先生、こんばんは。
今回の記事も、何を伝えたいのか、何が問題点なのか、産科に勤務する人が読んでもよくわからない記事ですね。

医療事故の観点ではなく、何かの主義主張のメッセージにすりかわっているからだと思います。まさに、先生のまとめの通りだと思いました。

カンガルーケアーは通常、分娩室(帝王切開の場合は帰室して)1時間以内程度、直接母親の胸の上に新生児を乗せるスキンシップと理解しています。今回の事故は発見した時点までまさかカンガルーケアをしていたわけではないでしょうから、そういう意味でもまったく事故の原因を周知し再発防止のために書かれた記事ではなさそうですね。
お母さんたちにしても産科関係者にしても、原因と再発防止策につながる事実を一番知りたいのですが。

すわわ先生、はじめまして。
カンガルーケアーに限らず、生まれた直後の赤ちゃんは静かですよ。
お母さんだけでなく、取り上げたスタッフが声をかけてあげるだけでも、優しくさわって目を見てあげるだけでも静かになりますよ。
以前は「病院で生まれた新生児はおお泣きするけれど、助産院や自宅分娩で生まれた新生児は静かだ」といろいろなところで目にしました。
結局は、新生児をみなあまり知らないままなのではないでしょうか。特に医療従事者自体が。
新生児が何故泣くのか、新生児は何を伝えたいのか、まだまだ未知の世界だと思います。人権うんぬん以前に。

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