新小児科医のつぶやき

2011-11-30 白血病患者7倍増デマ

ネット上で話題になったモトネタは、

 各都道府県の国公立医師会病院の統計によると、今年の4月から10月にかけて、「白血病」と診断された患者数が、昨年の約7倍にのぼったことが21日に判明した。これを受けて、日本医師会会長原中勝征は、原発事故との因果関係は不明として、原因が判明次第発表するとした。

 白血病と診断された患者の約60%以上が急性白血病で、統計をとりはじめた1978年以来、このような比率は例が無いという。

 また、患者の約80%が東北・関東地方で、福島県が最も多く、次に茨城、栃木、東京の順に多かった。

これに対し日医は、11/29付ネット上の書き込み「白血病患者急増 医学界で高まる不安」についてで、

日本医師会が、このような発表を行った事実はありません。

 本文中には、「各都道府県の国公立医師会病院」との表現がありますが、そもそも医師会病院は、国公立ではありませんし、統計の数値につきましても、現段階でそのようなデータについて確認できず、信憑性を疑わざるを得ないものであります。

 また、一部一般紙に掲載されたものであるとの噂もございますが、確認したところ掲載した事実はないとの回答を得ております。

 日本医師会は、今回の福島第一原子力発電所事故に関しては、政府に対し正確な情報を国民の皆様に提供するよう求めているところでありますし、本会からの情報の提供に関しては、正確な情報提供に心がけております。

 国民の皆様とともに安心・安全な医療を進めて参る所存でございますので、今後ともご理解いただきますようお願い申し上げます。

 

平成23年11月29日

日本医師会長
原 中 勝 征

明瞭に否定しています。つまりは、

    白血病患者7倍増説はデマだった!

かなり出回ったようなので、今回は日医に協力させて頂きました。


この7倍増説ですが、モトネタからして怪しげで、新聞記事風ではありますが、要所がかなり雑です。雑な記事も多々あるので一概には言えませんが、まず誰が調査し、誰が公表したかを明記してありません。無理やり取れば、日医会長がこれを受けてのコメント(これも捏造)しているので日医が調査した様に解釈できないこともありませんが、通常は誰が調査発表したかを明記するのが基本です。

それと医療関係者でなくても不思議な表現は、

    各都道府県の国公立医師会病院の統計

これも中途半端な範囲の統計で、国公立病院ならまだしも、医師会病院が並列されるのは極めて珍妙です。なぜに私立病院が省かれているかも意味不明です。デマとわかってからの後出しジャンケンかもしれませんが、わざわざ「医師会」の言葉を入れたのは、日医が調査したことの補強の意味ぐらいじゃなかったかと推察されます。その割りには日医発表と明記していないのはもう良いでしょう。


それと白血病がいきなり7倍になると言う意味がデマ作者にはわかっていなかったと思います。白血病治療なんて医療カテゴリーは、サブスペの専門医がほぼすべてカバーしています。一定数の発生患者を限られた医師が診療にあたる関係であり、いきなり患者発生数が7倍になれば即パニックになります。もし本当なら調査以前に社会問題となるはずです。

とくに急性白血病が60%以上となれば、inductionが昨年の4倍以上になりますから、たとえ全国で満遍なく増えたとしても施設的にパンク状態に陥るのは間違いありません。これがせめて2割とか3割、せめて7割増ぐらいならまだしも信憑性がでますが、インパクトを狙いすぎて7倍にしたのは、医療現場の現実を知らない人が書いた事は間違いないでしょう。

7割増だってデマ記事では東北関東に偏っていますから、最低限、医療現場の声として話題騒然で福島からの治療難民が社会問題として取り上げられているのがあり得る状態です。


もう一つ、このデマにマジレスしようと基礎データを調べ始めていたのですが、白血病による死亡数統計は人口動態統計から得る事はできますが、発生数を調べるのは厄介至極です。私が調べた範囲の最新版は、独立行政法人国立がん研究センターがん対策情報センターがん情報サービスで、そこでの最新版公表分が、

2011年07月26日 「がん診療連携拠点病院院内がん登録全国集計 2008年全国集計報告書」を掲載しました。

今年の7月にようやく2008年版が出たところです。ここを上回るデータと言うか、わざわざ独自に集計しているところは、そうそうないと考えられ、日医もまたそんなマメな事はやっていません。もし日医なり、厚労省がやろうと思えば昨年分と今年分の緊急調査が必要になり、それも

    今年の4月から10月にかけて

驚異的なペースで調査と集計を行なった事になります。デマ記事を書いた者は、そういう統計が毎月の様に出されていると想定していたようですが、現実には出ていません。


デマ元を追跡している方もおられる様ですが、昨日時点では2chより以前に遡れないそうです。たいした話ではなかったので、今日はこの程度で簡単に終わらせていただきます。

luckdragon2009luckdragon2009 2011/11/30 08:20 エントリー、被っちゃいましたね。(^^;;
ちなみに、日本の急性白血病と慢性白血病の比率、4:1 くらい(3:1というのもあったが。)だそうですから、60% とすると減ったか、同じなので。

「例年にない比率って何だ?」と、不思議に思いました。もしかして、書いた人は、急性白血病って少ないと思ってたのかな。日本は多いですよね。

luckdragon2009luckdragon2009 2011/11/30 08:26 あ、失礼。日本が少ないのは「慢性リンパ性白血病」でした。別に、日本で急性白血病が多い、というわけではない。(まあ、比率が変わると思うけど。)

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/30 08:35 この話は知らなかったのですが・・
>昨年の約7倍にのぼったことが21日に判明
から
平成23年11月29日の日本医師会長原 中 勝 征氏のコメントですから
21日が11月とすると約10日以内の医師会会長対応で

>現在、ネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等において、「白血病患者急増 医学界で高まる不安」として、以下の内容が出回っています。

をどういうプロセスで日本医師会会長が対応されたかに興味をもちました。
日本医師会にこういったネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等を監視している
システムがあるのかとか
本件は会長の独断の判断で発言されたのかなど・・・

luckdragon2009luckdragon2009 2011/11/30 08:37 > 白血病と診断された患者の約60%以上が急性白血病で、統計をとりはじめた1978年以来、このような比率は例が無いという。

まあ、急性白血病は進行も劇的ですから、それを問題視したかったのかも。
でも、元比率が書いてないと、どう変わったのか、が不明で。

思わず、「その数字じゃあ、特に変わってないから」と突っ込みいれられるレベルですねえ。

YosyanYosyan 2011/11/30 08:38 京都の小児科医様

 >日本医師会にこういったネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等を監視している
 >システムがあるのかとか

個人的にネットを見ている日医幹部もいるでしょうが、監視システムみたいな大層なものではなく、会員からの問合せが多かっただけと見ています。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/30 08:51 Yosyan様

>個人的にネットを見ている日医幹部もいるでしょうが、監視システムみたいな大層なものではなく、会員からの問合せが多かっただけと見ています。

はい、たぶんそうだと理解しています。

ただ、本件の噂が厚生労働省発の統計ではなく、日本医師会での話でよかったと思います。
これが厚生労働省だと個人的にネットみている厚生労働省幹部もおられると
思いますが、公式には厚生労働省に検閲になりますから(憲法違反)
厚生労働大臣としての反論は事実上不可能になると思います。

すでに現状ではまだ日本医師会発の統計は信憑性があるかも知れないが厚生労働省発の統計はまったく信憑性がないとしてそもそのデマにすらならないとの状況かも知れませんが

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/30 08:54 公式には厚生労働省に検閲になりますから(憲法違反)

公式に厚生労働省が検閲をおこなっている証拠になりますから

元ライダー元ライダー 2011/11/30 11:11 「ありゃ、読売新聞の記事をコピーしたんだが消されてるのは何故?」だそうです。
読売新聞の記事がソースと言いたいようです。
読売記事が元々存在しないならば、デマの発信源は2chですね。
最初からリンクを貼っていないところを見れば、たぶん元々存在しないのでしょうが。

http://logsoku.com/thread/hato.2ch.net/lifeline/1321939352/ID:fzZxm7vy0

京都の小児科医様
公開されているネット上の情報収集は検閲ではないですよ。

元ライダー元ライダー 2011/11/30 11:49 デマ文の一部でググると面白いのが見つかりました。

「玄海原発周辺で白血病が増加 全国平均の6倍」
http://www.windfarm.co.jp/blog/blog_kaze/post-4139

こーゆー情報が今回のデマの素地になっているんでしょうが、玄海に関しては年齢補正していないのが明らか。原発立地町村では高齢者が多いですから、その分、悪性疾患も多いですよね。

元法学部生元法学部生 2011/11/30 13:28 京都の小児科医様
>公式に厚生労働省が検閲をおこなっている証拠になりますから

最高裁の判例としては「憲法二一条二項前段にいう検閲とは、行政権が主体となつて、思想内容等の表現物を対象とし、その全部又は一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき網羅的一般的に、発表前にその内容を審査したうえ、不適当と認める
ものの発表を禁止することを、その特質として備えるものを指すと解すべき」だそうです。
cf.http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121048334926.pdf
cf.http://www.courts.go.jp/hanrei/pdf/js_20100319121102647721.pdf
(下が判例となった判決書ですが、肝心の部分が出てくるのが遅いので、冒頭で判例を引用している上の最高裁判決がおすすめ)

また最高裁の判例には「行政権」が「発表前」にと限定して検閲をとらえていることについて異論が唱えられていますが(「司法」が「事後」に「販売差し止め・回収」や「文書削除」を命じることは出来る)、少なくとも情報流布を強制力を伴った措置で禁止するわけではない情報収集が検閲にあたるという理解はあまり妥当なものではないような気がします。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/30 14:33 法素人の理解ですが・・・

情報収集は誰でもされていますのでこれが検閲にあたらないと思います。
ただ、官僚が情報取集をおこない、何等かのアクション(発表等)を起こした場合
は個別にかつ巨視的に個々の事案が検閲にあたるかどうかはチェックが必要と
思います。
理由は官僚はとかく検閲をしたがる人間集団だと思うからです。

個別の事案としてたとえば
不活化ポリオワクチンの導入に関する新聞報道について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/dl/houdou.pdf
等も巨視的(数年後の不活化ポリオワクチン導入史)から
本当はこれは検閲だったかどうかは判断する必要があると思います。

麻酔科医麻酔科医 2011/11/30 14:51 私もその記事本当?と思いました。でもそもそも集計が2008年っておそ過ぎませんか?
まあ、全国の無菌室の数なんて、限られていますから、急性白血病とか、骨髄移植の患者数が7倍になったら、あっというまにパンクでしょうね。
血液疾患というのは、手術にならないから私の知らない世界です。
(1回だけ、急性白血病がアッペという名前で手術申し込みされたのをみたことがあります。末血を顕微鏡でみただけで、素人目にも、え、、と血液内科の先生を呼んできてくださいっっって言うレベルでしたが。)
あと、急性腎不全の患者さんが来て、頭の写真をみたら(転倒したから研修医が撮影していた)水玉模様が見えて、研修医の先生に、パンチアウトリージョンって何の病気で起こるんだっけ、、と国試レベルの質問をしてしまいました。

luckdragon2009luckdragon2009 2011/11/30 16:04 > http://ganjoho.jp/public/statistics/pub/statistics01.html

2009年は、こちらに。
多分、そろそろ 2010年分が掲載予定。

元法学部生元法学部生 2011/11/30 16:39 >理由は官僚はとかく検閲をしたがる人間集団だと思うからです。

これには同意します。
というか公権力をもつ人が公権力を維持・行使しにくくなる状況を歓迎しないのは自然なことだと思います。
財産を持つ人が財産を維持・行使しにくくなる状況を歓迎しないことや、技能を持つ人が技能を維持・行使しにくくなる状況を歓迎しないことと同じくらい自然でしょう。

ですが、何らかの言説に対して、公権力が否定なり肯定なりの見解を表明することは、元になる言説に個々人が直接アクセスすることを妨害しない範囲においては、元の言説と、公権力の見解と、それぞれを個別に判断する機会があるのですから、検閲と呼ぶのは言い過ぎな気がします。

検閲が禁止されるべきなのは、自由な表現を保障し、また自由な表現にアクセスする機会を保障するためだと思います。
全ての自由な表現が保障されるべきなのは、「自由な政治的表現」を公権力から安全に保障したいからです。「政治的表現に当たるか否か」を判断すること無く全ての表現に自由を与えないと、政治的理由以外をもって「自由な政治的表現」を弾圧する方法を与えることになるからです。
自由な政治的表現を保障するべきなのは、公権力が無能あるいは不効率な統治をしている場合に、より有能または効率のよい統治機構への交換を可能とするために安価な方法だからです。

京都の小児科医京都の小児科医 2011/11/30 19:26 元法学部生様

公権力が情報を集めて何らかのアクションをされることは程度の差があっても
すべて検閲であると考えます。
(情報を集めて何もアクションされないこともありえますが・・)
したがって、どこの部分まで容認できるかの程度問題が重要と思います。

>ですが、何らかの言説に対して、公権力が否定なり肯定なりの見解を表明することは、元になる言説に個々人が直接アクセスすることを妨害しない範囲においては、元の言説と、公権力の見解と、それぞれを個別に判断する機会があるのですから、検閲と呼ぶのは言い過ぎな気がします。

はい、この許容範囲の例として
不活化ポリオワクチンの導入に関する新聞報道について
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/polio/dl/houdou.pdf
をあげました。ただし、これも検証が必要と思います。

ただ、今回の場合は不特定(情報源が特定されないので元になる言説に個々人が直接アクセスできない)の噂話だと理解しています。新聞記事や週刊誌の記事(元になる言説に個々人が直接アクセスできる)に
反論されるのは検閲ではないように思いますが
ネット上の掲示板、ツイッター、ブログ等に仮に厚生労働省が反論したとしたら
やり過ぎと思います。ワンクッションおいて新聞報道によれば「今年の4月から10月にかけて、「白血病」と診断された患者数が、昨年の約7倍にのぼったとされているが21日に判明した。」という噂が流れている
となった段階で反論すればいいと思います

IT系非公務員IT系非公務員 2011/12/01 07:23 >>公権力が情報を集めて何らかのアクションをされることは程度の差があっても
>>すべて検閲であると考えます。
「医療過誤」も「医療事故」も「ヒヤリ・ハット事例」も、全部「医療ミス」なんだ!!っと叫ぶ「プロ市民」みたいに見えちゃいますよ?そんなこと言っていると。「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」だとしてもね。

JSJJSJ 2011/12/01 10:17 J-Castがが取材に来たみたいですね。(ブログを読んだだけなのでしょうけれど)

京都の小児科医京都の小児科医 2011/12/01 10:57 IT系非公務員様
>「坊主憎けりゃ袈裟まで憎い」だとしてもね。

情報化社会における公権力(官僚)による検閲は非常に恐ろしい状況と思います。
たぶん、すでに一部ではそうなっているかも知れませんが、噂どころか人間の良心・信念・行動・心情・愛情まで検閲してくると推測しています。私は警戒しています。

元法学部生元法学部生 2011/12/01 11:41 >人間の良心・信念・行動・心情・愛情まで検閲してくると推測しています。

私見に過ぎませんが、「干渉」と「検閲」は区別した方がいい気がします。

健康に関する嗜好品規制に例えると

「喫煙は、あなたにとって脳卒中の危険性を高めます。(中略)詳細については、厚生労働省のホームページをご参照ください。」とタバコの箱にデカデカと書くことを義務づけるのが「干渉」

「あへん煙を吸食した者は、三年以下の懲役に処する。 」と刑法に定めるのが「検閲」

ぐらい違うと思うので。