大阪市長のマスコミ対策を評価する

市長の政治手腕・政治実績の評価はすべて保留にさせて頂きます。これをやると徒らに議論が変な方向に過熱しますから保留です。注目したいのはマスコミ対策です。これはごく素直に評価しています。

ネットの成長が既製マスコミ(マスコミ)の地位を脅かしてる事は、これまでも何度かエントリーにしています。ネットの成長は著しく、これまでにも瞬間最大風速的にマスコミの足許を揺るがした事例は出ています。それでもマスコミの力が強大であるのは誰しも認めているところであり、敵に回すと厄介どころか身の破滅になるぐらい怖ろしいものです。

市長は時の人であるだけではなく、かなり個性的な人物であるのは周知の事です。こういう人物に対しマスコミは利用価値のあるうちは褒めそやし、気に入らなくなると叩き潰すの激しい毀誉褒貶を演出するのが常です。市長に対しても、そろそろ叩きを入れても良い時期になってはいます。いや、そうしたくてウズウズしている徴候を感じています。

しかし有効な攻撃が出来ていません。出来ていない理由は様々にあると思いますが、ネットの速度・波及力を上手く活用している風に見えます。戦略的には「先の先を取る」と表現すれば良いでしょうか。マスコミが動き出す前に素早い先制攻撃を常に行い、マスコミ側の攻撃を無力化している様に見えます。


どういう事か分かり難いと思いますので、解説してみます。従来は市長の発言は記者クラブの独占情報です。現在の大阪市記者クラブ制度が生き残っているかどうかは存じませんから、マスコミによる独占情報としておきます。マスコミに独占された情報を最初に公開するのは当然ですがマスコミです。この最初に公開すると言うのが大きな攻撃力になっていると見ます。整理しておくと、ネット時代の前は、

  1. 市長記者会見(会見内容はマスコミ独占)
  2. 記者会見内容をマスコミが記事にする
  3. 市長反論記者会見(これもマスコミが独占)
  4. 反論内容をマスコミが記事にする(しないかもしれない)
記者会見場にいない人間にとって、市長が実際に何をどういうニュアンスで話したかは、すべてマスコミ経由でしか知りようがなかった訳です。ネット時代が到来した後も、
  1. 市長記者会見(会見内容はマスコミ独占)
  2. 記者会見内容をマスコミが記事にする
  3. 市長反論記者会見(これもマスコミが独占)
  4. 反論内容をマスコミが記事にする(しないかもしれない)
  5. 市のHPなどでホソボソ反論
ネット時代の前も、またネット時代になってからも先制攻撃権はマスコミが握っており、先制攻撃により植えつけられた先入観は、ネットがあっても余程効果的な反撃を行なわないと「引かれ者の小唄」状態に陥るわけです。ネットを使っての反撃が可能になっても、マスコミによる先制攻撃のダメージは相当重いです。つまり宣伝戦でも
    攻撃は最大の武器であり、とくに先制攻撃は重要
これが活きていると考えます。市長の手法は御存知の通り、
  1. 記者会見より前にツイッターで自分の意見を広く公開してしまう
  2. 記者会見もマスコミより早く「オレはこう言った」と公開してしまう
  3. 記事に対する反論も同様
マスコミに対するネットの最大の優位点は速度です。これはマスコミがどうしても及ばない点です。この速度を最大限に活かして先制攻撃を行なっているのが市長と見ます。ネットには速度の優位性はありますが、個人では発信力が劣る弱点があります。この点について、自ら育て上げたツイッターの影響力で補っていると考えています。速度で勝るネットに波及力が加われば、マスコミも手も足も出なくなってしまう実例を展開しているのが市長だと感じています。

話題になった例の記者会見にしても、ツイッターだけではなくYouTubeも駆使した市長の先制攻撃は非常に効果的で、マスコミの反撃は尻すぼみにならざるを得ない状況に追い込まれています。これはこれまでのマスコミとの攻撃関係と逆転しているとしても良さそうです。


市長の手法は誰もが指摘していたマスコミの既得権を奪い去ったと言えば良いでしょうか。マスコミ最大の強みは、マスコミ・フィルターを通らない情報は拡散されないです。情報を広めたい人間はマスコミがどんな記事にしてくれるかを固唾を呑んで待つしかなく、酷い記事でもこれを甘受するしかなかったわけです。反論さえもマスコミ・フィルターを通さざるを得ませんから宣伝戦の立場は極め付けの弱者です。つまり、

    一次情報の独占による先制攻撃権
これこそがマスコミ最大の既得権であり、今でさえこれがマスコミの生命線です。ここを握り締めている限り、大阪市長程度ならいつでも生殺与奪の権利を持っているのと同じだったと言うわけです。ところが一次情報の独占が崩れるとこんなに脆いのかです。言ったら悪いですが、市長だって無謬の人間ではなく、派手に動くだけにアラもあります。それでもマスコミはまともに動けなくなるです。


市長が用いた戦略・戦術はマスコミ対策として評価できるものと思います。同様の手法を取られると、マスコミが対応に苦労する証明が一つなされたと思っています。もちろん「これが出来るのは、あの市長だから」の部分はありますが、それでも有効な手法として参考に出来る部分もまたあると感じています。