平成25年6月14日付健感発0614第1号「風しんの任意の予防接種の取扱いについて(協力依頼)」より、
昨年からの風しん患者の増加については、「風しん患者の地域的な増加について」(平成24年5月25日付事務連絡)、「風しん対策の更なる徹底について」(平成24年7月19日付健感発0719第2号厚生労働省健康局結核感染症課長通知)及び「先天性風しん症候群の発生予防等を含む風しん対策の一層の徹底について」(平成25年1月29日付健感発0129第1号厚生労働省健康局結核感染症課長通知。平成25年2月26日一部改正)に基づき、対策をお願いしたところです。風しんの任意の予防接種の接種者数については、例年、年間30万回程度(推計)で推移していましたが、本年5月は、月間約32万回(推計)と急激に増加しています。厚生労働省としては、予防接種法(昭和23年法律第68号)第5条第1項の規定による予防接種(以下「定期接種」という。)で主に使用されている乾燥弱毒生麻しん風しん混合ワクチン(以下「MRワクチン」という。)の製造販売業者に対して予定前倒しの出荷及び増産の対応をお願いしているところですが、現在の接種者数の水準がこのまま続いた場合、今夏以降にMRワクチンが一時的に不足することが懸念される状況となっています。
そのため、厚生労働省においては、安定供給の目途がつくまでの間、効果的な先天性風しん症候群の発生の予防及び今後の安定的な定期接種の実施のため、任意の予防接種について、妊婦の周囲の方、及び妊娠希望者又は妊娠する可能性の高い方で、抗体価が十分であると確認できた方以外の方が優先して接種を実施できるよう、ホームページ等において情報提供と協力依頼を行う予定であり、貴職におかれては、その旨ご承知いただくとともに、貴管内市町村及び関係機関に対し、周知方よろしくお願いします。
また、MRワクチンの安定供給のためには、特定の医療機関に偏ることなく、各医療機関に適切な量が提供されることが必要であることから、予約状況等を勘案した上で、必要最低限の量を発注いただくよう、関係医療機関に対し併せて協力依頼をお願いします。
風疹に関しては一昨年度より我がのぢぎく県では増加が問題になっており、昨年度には関東の方でも増えてようやく社会問題化してくれました。風疹流行を抑制するための具体的な手段となるとワクチンなんですが、これの数が足りなくなりそうだから「協力依頼」てなところです。ちょっと数値的なことを徒然にムックしてみます。
どれぐらい厚労省が準備していたかもリンクした協力依頼にそれなりに書いてあります。まず厚労省情報では2013年度が24.5万本であるのはわかります。それ以前はどうだったかは大阪市阿倍野区薬剤師会の情報が参考になります。
厚労省健康局結核感染症課によると、風疹ワクチンの任意接種の需要は2010年度、11年度とも約7万本だったが、12年度は2月時点で約15万本と倍増した。
武田薬品工業は昨年の風疹の流行を受け、昨夏ごろから風疹ワクチンの生産量を増やした。12年度の生産量は前年度の2倍以上となったが、それでも需要に追い付かなくなったという。3月下旬に医薬品卸に対し、出荷調整の実施と品薄に対するおわびを伝えた。13年度の風疹ワクチンの生産量はさらに多い前年度比1.5倍を見込む。
まとめておくと、
年度 | 風疹ワクチン供給本数 |
2010 | 7.0万本 |
2011 | 7.0万本 |
2012 | 15.0万本 |
2013 | 24.5万本 |
これは出荷ベースと見るべきですが、大雑把に
-
出荷数 ≒ 接種本数 ≒ 接種人数
* | 4月 | 5月 |
任意接種 | 9万本 | 32万本 |
風疹単独ワクチンが品切れだからと高価なMRワクチンにせざるを得なかったの不満の声を見た事がありますが、そりゃなかなか当たりませんわ。単純計算で1ヶ月2万本ぐらいしかありませんから、希望者10人に1人程度しかない事になります。ちなみにうちは去年から風疹単独ワクチンは殆んど入手不可能になっています。
MRワクチンは昨年度と今年度とでは定期接種の必要本数が違います。昨年度までは3期と4期があったからです。2012年度の接種の集計は終わっていないようなので2011年度を参考にしてみます。ソースは麻しん風しん予防接種の実施状況からです。
接種時期 | 対象者 | MR | 麻疹単独 | 風疹単独 |
1期 | 1080996 | 1030193 | 158 | 120 |
2期 | 1076327 | 998884 | 140 | 141 |
3期 | 1207874 | 1064415 | 312 | 838 |
4期 | 1201664 | 977482 | 958 | 2089 |
合計 | 4566861 | 4070974 | 1568 | 3188 |
実接種者数が400万人で、このうち3期と4期が200万人です。接種対象者が450万人ですから生産量もそれぐらいあったと見たいところです。でもって今年の計画数ですが、
MRワクチン:約430万本(うち、定期接種として約210万本の使用を想定。年度当初見込みより約70万本追加)
「約70万本」の追加となっていますから当初見込みは360万本。このうち定期接種に200万本が必要ですから、160万本が風疹流行対策に当初は予定され、これがさらに70万本増えて230万本になったと解釈して良さそうです。この経緯から考えると2011年度も2012年度も計画数は430万本だった可能性が高そうです。今年度は3期と4期がなくなりますから通常なら210万本に減らすところですが、流行対策として減らさず、以前は3期と4期の定期接種に使っていた分をそのまま風疹対策に回したと見れそうです。
MRと風疹単独ワクチンで、風疹流行阻止のために厚労省が計画したワクチン本数を2012年度と2013年度で推測すると、
年度 | MR | 風疹単独 | 風疹対策用 合計 |
||||
計画本数 | うち定期分 | 風疹対策用 | 計画本数 | うち妊婦用 | 風疹対策用 | ||
2012 | 430万本 | 400万本 | 30万本 | 15万本 | 7万本 | 8万本 | 38万本 |
2013 | 430万本 | 200万本 | 230万本 | 24.5万本 | 7万本 | 17.5万本 | 247.5万本 |
風疹単独ワクチンの「うち妊婦用」は風疹流行前の接種本数がそれぐらいであったとあり、小児に接種する事は非常に少ないので他に大きな用途として思いつくのが、妊娠時の風疹抗体チェックで抗体がない、もしくは不十分な者の対して接種されているんじゃないかの推測に基づくものです。昨年度が38万本程度であったのが247.5万本になっているわけですから、209.5万本の大幅増です。
まあ、これだけ供給量を一挙に増やせたのは「たまたま」3期と4期が去年終了したためと見れない事もありませんが、数値上は大幅増の計画を立てているぐらいは評価しても良さそうです。
風疹流行阻止のためには風疹抗体保有者が95%程度になる必要があるとされます。それぐらいあれば、たとえ風疹発症者が出現しても周囲への感染は阻止され、散発例で終わるぐらいの考え方です。ここはチト曖昧で抗体保有率ではなく接種率だった気もするのですが、抗体保有率の方がより望ましいと言うか、それしかデータが見つからなかったので御容赦下さい。国立感染症研究所の風疹抗体保有状況2012から引用して表にまとめてみます。
年齢階級 | 合計 | HI 16倍以下 | HI 32倍以上 | 16倍比率(%) | 年齢別人口 | 接種必要者 |
0-4歳 | 603 | 207 | 396 | 34.3 | 5255000 | 1803955 |
5-9歳 | 365 | 62 | 303 | 17.0 | 5446000 | 925074 |
10-14歳 | 438 | 76 | 362 | 17.4 | 5865000 | 1017671 |
15-19歳 | 373 | 59 | 314 | 15.8 | 6009000 | 950485 |
20-24歳 | 459 | 93 | 366 | 20.3 | 6169000 | 1249928 |
25-29歳 | 534 | 70 | 464 | 13.1 | 7004000 | 918127 |
30-34歳 | 569 | 70 | 499 | 12.3 | 7897000 | 971511 |
35-39歳 | 556 | 102 | 454 | 18.3 | 9545000 | 1751061 |
40-44歳 | 406 | 39 | 367 | 9.6 | 9155000 | 879421 |
45-49歳 | 257 | 34 | 223 | 13.2 | 7837000 | 1036802 |
50-54歳 | 228 | 51 | 177 | 22.4 | 7546000 | 1687921 |
55-59歳 | 146 | 31 | 115 | 21.2 | 8247000 | 1751075 |
60歳以上 | 160 | 20 | 140 | 12.5 | 40205000 | 5025625 |
風疹のHI抗体価は8倍未満であれば免疫は無しとされ、16倍以下では不十分とされます。全体で約2000万人、10歳以上に限っても1700万人が接種が必要と概算されます。ただし流行阻止の観点で言うと抗体保有率は現在でも85%ぐらいあります。であれば後10%増やせば95%になるわけですから、実人数としては1200万人程度の低抗体価の人に接種すれば理論上は風疹流行を阻止できます。
年月 | 経緯 |
1976年 | 任意にてスタート |
1977年8月 | 女子中学生のみに定期接種 |
1989年4月 | MMR導入。1歳児への接種に変更 |
1993年4月 | MMRによる髄膜炎問題で中止 |
1984年4月 | 風疹単独接種で再開 |
2006年4月 | MR導入、2回接種に変更 |
2008年4月 | 2回接種の経過措置が行なわれる |
とりあえず1989年生まれで今年34歳です。1200万人程度の低抗体価の人にピンポイントでワクチン接種を行えば流行を阻止できるとはしましたが、誰が低抗体価であるかは外見上判断不能です。医師が見たってわかるはずがありません。ピンポイントをやろうと思えばどうしたって抗体価を測定しないとなりません。厚労省も、
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抗体価が十分であると確認できた方以外の方が優先
-
妊婦の周囲の方、及び妊娠希望者又は妊娠する可能性の高い方
-
妊婦の周囲の方
- 当初殺人インフルエンザの観測もあったのが、普通のインフルエンザとさほど変わらないになった
- 流行が秋から始まり、真っ盛りになると予想されていた冬には終息してしまった
- 流行も小児が中心で成人にはさほど拡がらなかった
- 足りないはずの国産ワクチンの生産量が急に増え、さらに1回接種になった事で「かなり足りてしまった」
- 承認手続きのスピードアップは行なわれた様だが、それでも輸入ワクチンが使えるようになったのはようやく2月になってからになった
今回の風疹は言ったら悪いですが、まだ新型インフルエンザの時と較べて騒ぎは格段に穏やかです。穏やかと言うのがある意味、厚労省官僚にとって厄介な点に見えない事もありません。新型インフルエンザ騒動クラスにヒートアップしてくれたら、政治も首相自ら積極的に動き、政治が積極的に動けば財務省から予算を引き出しやすくなります。
今回の風疹騒動クラスでは「なんとなく」そこまでの風疹対策予算をゲットしにくいのではないかと見ています。厚労官僚も予算範囲でしか風疹対策はしょせん行えません。風疹ワクチン(MRワクチン)の大量生産、それを国で全量買い上げて新型インフルエンザ・ワクチンの様に大量接種に持ち込めるだけの予算がそもそもないぐらいのところです。
予算すらないところで大量生産を国産メーカーに命じ、大量に売れ残り、それの補償なんて年度末にでもやらかそうものなら、新型の輸入ワクチンの時以上の批判は必至と言うところでしょうか。そういう姿勢が「なっとらん」との批判も可能ですが、後出しジャンケンの失敗の批判も強烈なところですから判断として難しかろうぐらいは思っています。
国立感染症研究所のデータから麻疹と風疹の有効抗体価保有率の推移をグラフにしてみます。ちなみに麻疹はPA抗体価で評価され、256倍以上を有効抗体価としています。
まず抗体価は麻疹の方がわかりやすいですが、2010〜2011年あたりから増加傾向に転じていると見れそうです。理由として思いつくのは2008年から導入されたMRワクチンの2回接種ではないかと考えています。経過措置として昨年度まで3期・4期があり、この効果が2010年度辺りから現れ始めたぐらいの推測です。年数が経つほどカバー範囲が広がっていったと言うところでしょうか。
それより注目しておいて良い点としては、麻疹の方が有効抗体価の保有率が低い事がわかります。麻疹騒動は2007年のお話ですが、あの時が74.1%、2012年でも78.5%です。上ってはいますが風疹より低く、抗体保有率の高い風疹が流行するのなら麻疹が再び流行しても不思議は無いところです。風疹流行も嫌ですが、麻疹流行も困ります。
そうであれば今回の風疹流行に合わせて麻疹流行の阻止も行っておくのが良さそうに思います。これもワクチンの供給状況からしてMR接種が主力になりますから、風疹対策を行えば麻疹対策も自然に同時に行えるというメリットがあります。現在の風疹流行を阻止するだけでなく、同時に麻疹流行も未然に阻止できるのなら文字通りの一石二鳥になります。
ただなんですが、未然の対策はとくに医療政策では必ずしも支持されない傾向がありそうです。たぶんですが未然の予防と言うのは「今困っていない」が結構大きなポイントになるようです。とくにワクチンにはワクチン敵視論者が一定数おられるわけですが、これらの方々は「今困っている」状況では声が小さくなります。典型的なのは新型インフルエンザ騒ぎの時で、あの時には誰もワクチン敵視論者の声には耳を傾けなかったと記憶しています。
ところが状況が落ち着いて「今困っていない」になると急に大きくなります。大きくなるとは賛同者が増えてくるです。ワクチンに限らずですが、医療には確率論的な有害事象は必ず起こります。それを非常に重視するようになるぐらいで宜しいでしょうか。そのため未然のメリットよりも「今目に見える」確率論的なデメリットに耳を傾ける人がどうしても増える感じです。
そういう現象は別に日本に限ったものではなさそうですが、もちろん日本でも起こります。風疹だけではなく、麻疹の流行をも未然に防ぐ良い機会と思ってはいますが、なかなかそういう方向にスムーズには進んでくれないようです。