新小児科医のつぶやき

2013-09-03 産科無過失補償制度の剰余金

現状

平成24年度事業実績報告から表を作って見ます。


年生 保険収入 確定補償金 剰余金 剰余率 除事務経費

(利益率)

利益
2009 315.3億円 56.1億円 259.2億円 82.2% 68.3% 215.3億円
2010 323.8億円 48.0億円 275.8億円 85.2% 72.2% 233.7億円
2011 318.0億円 27.3億円 290.7億円 91.4% 79.6% 253.2億円
2012 313.5億円 54.0億円 308.1億円 98.3% 86.4% 270.7億円


事務経費に関しては

保険料に占める事務経費の割合は、13.9%(平成21年)、13.0%(平成22年)、11.8%(平成23年)、11.9%(平成24年)である

これに従っています。それとこういう制度は初期の周知不足による影響を考慮しないといけません。制度発足時は、そういう制度の存在を知らずに利用できなかった人々が多く出る可能性です。ですから制度が続き周知が広まる事により尻上がりに利用者が増えていくはずです。手許に保管している平成21年度〜平成23年度の事業実績報告書からグラフを作ってみます。

ごくごく素直に見て尻下がりです。年を追う毎に利用率が下がっているようにしか私には見えません。不思議な事です。この制度の適用は5歳の誕生日までの申請が必要となっているので、2009年生れの人々は2004年中に順次適用資格を失っていく事になります。早ければ来年早々にも適用資格を失うのですが、これからどれだけ補償者が増えるかはかなり疑問です。とりあえず現在のところ事務経費を除いた2009年生れの利益は、

    215億3300万円(利益率68.3%)

この数字は2004年が終了するまでに、それほど大きく変わらないの予想はかなりの確率で立てられそうです。


事務経費

事務経費は現在の事務料でおおよそ12%前後であるぐらいと理解して宜しそうです。事務経費は事務量によって当然変わるでしょうが、現在の事務経費の日本医療機能評価機構(機構)の見解が平成24年度事業実績報告書にあります。

同様の仕組みでないものの、公的制度である自動車損害賠償責任保険(自賠責)では保険料に占める事務経費の割合は約25.5%となっている

自賠責以下と言うか、その半分ぐらいだから事務経費は適正と言うか効率的に使っているの主張ぐらいと理解すれば良いのでしょうか。なんとなく自賠責と比較するのはかなり無理がありそうな気がしてならないのですが、制度設計時の最大事務経費がどれぐらいであったかの試算は可能です。これは平成21年度事業実績報告書にあるのですが、

年間の補償対象者数は最大800人と推計している

読み替えれば年間800人までは補償原資の不足は起こらないと見れます。補償原資の不足は事務経費を含めてのものと考えるのが妥当なのでここから計算が可能になります。


年生 保険収入 800人補償金 剰余金 剰余率
(事務経費率)
2009 315.3億円 240.0億円 75.3億円 23.9%
2010 323.8億円 240.0億円 83.8億円 25.9%
2011 318.0億円 240.0億円 78.0億円 24.5%
2012 313.5億円 240.0億円 73.5億円 23.4%


制度が目一杯仕事をした状態で「25.5%」も事務経費を取っていたら補償原資が不足します。もっとも確定に近い2009年生れの審査件数が現在のところ222件。このうち補償認定されたのが191件です。仮に同じ比率で800人補償した時の審査件数が930件になります。審査件数が約4倍になった時でも自賠責の事務経費率に及ばない制度設計であった事だけはわかります。


500人試算

平成21年度事業計画には最大補償人数が800人となっている事は上記しましたが、どこかでとりあえず500人補償が目標であったと書いてあったと記憶しています。500人であれば審査件数は580件ぐらいになり、現在の2.6倍ぐらいになります。この時の事務経費率がどれぐらいになるかのデータはないのですが、仮に甘くとって20%ぐらいとしてみます。この時の剰余金計算は、


年生 保険収入 500人補償金 剰余金 剰余率 除事務経費 利益
2009 315.3億円 150.0億円 165.3億円 52.4% 32.4% 102.2億円
2010 323.8億円 150.0億円 173.8億円 53.7% 33.7% 109.1億円
2011 318.0億円 150.0億円 168.0億円 52.8% 32.8% 104.4億円
2012 313.5億円 150.0億円 163.5億円 52.1% 32.1% 100.8億円


保険と言うものの仕組みがこうなのかもしれませんが、300億円の集金に対してだいたい100億円の利益が生れる計算になります。もちろん予想に反して補償金支払額が増えるリスクに対する備えもあるのでしょうが、現状の運営結果は4年間で509件の審査、補償確定人数は461件です。


産科無過失補償制度の趣旨と目的

制度としての補償人数は、

    補償対象は少なくとも年間500人以上、制度的に800人ぐらいが限界

こうなるように運営する事が委託された機構の課題であり使命であったと考えたいところです。これが民間保険商品であればビジネス・モデルとして大成功で社内表彰モノになるかもしれませんが、保険と言う仕組みは利用しているものの、産科無過失補償制度はビジネス・モデルとして儲けるために作られたものではないからです。もう少し言えばこの制度を利用して食い物するのは言うまでもなく論外ですが、結果として大儲けになる状態さえ全く宜しくないと言う事です。

機構の制度運用がわかりやすいグラフをもう一つ作ってみます。上で作ったグラフをモディファイしたものですが、

4年間の運用実績は制度の趣旨・目的にまったく満たしていないのは余りにも明白に示されています。これも制度設立時には想定外はありえます。これに対する対応も平成25年度事業計画書にあるのですが、平成24年2月から制度の見直しの検討が始まり、延々と検討を兼ねた末に平成26年1月に漸く手直しに着手すると明記してあります。たぶん制度発足後5年後の見直しを絶対化されているものと解しております。これらの機構の運用振り、対応振りを鑑みると

    機構は産科無過失補償制度の委託先として不適切であった

こういう結論で良いかと存じます。どういう理由で機構が委託先になったかの理由など知る由もありませんが、とにもかくにも委託され運営実績は目に見える形で示されたわけです。この実績はどう贔屓目に見ても制度の趣旨も目的も満たしていません。また満たしていない事への対応も鈍重その物です。つまりは機構には産科無過失補償制度を委託するに足りる能力が無かった事の証明と見ます。能力が無ければ委託を取消しにより適切な委託先に変更するのが最も適切な対策と存じます。

ここであえて政治的・行政的に問題になるのは機構と行政との関与です。世の中には国との特殊な関係で委託関係を取り消せない不条理がしばしば起こります。その点については

こういうものを機構は公表されています。

 当法人は、平成20年12月31日に施行された改正国家公務員法等の規定に関し、国家公務員であった者が法人の役員として再就職する場合に事前に政府に届出をおこなうことが必要な「国と特に密接な関係がある法人」に該当しませんので、その旨公表いたします。

なにが言いたいのか良くわからんところのある文章ですが、単純に解釈して「タダの公益法人」であると言いたいぐらいには解釈できます。それなら産科無過失補償制度の運用能力が欠けていれば、何の顧慮も無く委託解消は可能と存じます。国との「特別な関係」を配慮する必要がない団体と自ら公表宣言されておられます。

かっちーかっちー 2013/09/03 12:42 [日本医療機能評価機構]評価委員会、というのを作って見解を発表するという作戦で。
産科無過失補償制度の運用:★☆☆☆☆(剰余金などの問題山積)
医療事故数のマスコミ発表:★☆☆☆☆(因果関係不明なのに数だけ独り歩きする)

素人の浅知恵素人の浅知恵 2013/09/03 15:54 エントリ本文中に登場する「国と特に密接な関係がある公益法人」とは、平成20年12月31日に効力が生じた国家公務員法第106条の24第1項第4号に該当する公益法人のことを言います。
この時の国家公務員法等の改正は、主として「国家公務員の退職管理に関する法規制の強化」を主眼として行なわれた国家公務員法等の改正でした。
なので、「国と特に密接な関係がある公益法人」という考え方は「国家公務員の退職管理に関する法令の適用」に関して用いられます。

具体的には、以下の4条件の何れかに該当する公益法人が「国と特に密接な関係がある公益法人」と定義されます。
一  一般の閲覧に供されている直近の事業年度の決算(次号において単に「直近事業年度決算」という。)において、当該公益法人が国から交付を受けた補助金、委託費その他これらに類する給付金(以下「給付金等」という。)のうちに占める当該公益法人が第三者へ交付した当該給付金等の金額の割合が二分の一以上であるもの(ただし、当該事業年度の次年度以降において、当該公益法人が国から交付を受ける給付金等のうちに占める当該公益法人が第三者へ交付する当該給付金等の金額の割合が二分の一未満であることが確実と見込まれるものを除く。)
二  直近事業年度決算において、当該公益法人の収入金額の総額に占める当該公益法人が国から受けた給付金等の総額の割合が三分の二以上であるもの(ただし、当該事業年度の次年度以降において、当該公益法人の収入金額の総額に占める当該公益法人が国から受ける給付金等の総額の割合が三分の二未満であることが確実と見込まれるものを除く。)
三  法令(告示を含む。以下この条において同じ。)の規定に基づく指定、認定その他これらに準ずる処分により、試験、検査、検定その他これらに準ずる国の事務又は事業を行うもの(ただし、法令の規定に基づく登録を受けて行うものその他これに準ずるものを除く。)
四  当該公益法人が独自に行う試験、検査、検定その他これらに準ずる事務又は事業を奨励することを目的として国が行う法令の規定に基づく指定、認定その他これらに準ずる処分を受けて、当該事務又は事業を行うもの(ただし、法令の規定に基づく登録を受けて行うものその他これに準ずるものを除く。)
※昭和22年法律第120号第106条の24第1項第4号、平成20年政令第389号第32条、平成20年内閣府令第83号第9条

従って、話題の機構のあのリリースの主旨としては、「同機構は上記の4条件の何れにも該当しない公益法人である」という主旨になります。

「特別な関係」のある法人というとアレコレ想像できそうですが、この文脈でいう「特に密接な関係・その関係の存否」というのは、「国家公務員の退職管理において上記の4条件に当てはまるかどうか?」という観点に限られます。

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