今日はコトリちゃんが会いたいとの事でお食事会。
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「ところでみいちゃんは何か言ってた」
「えっと、会えて嬉しかったって」
「他には」
「うんと、うんと、次に返事をもらうんだって」
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「返事ってやっぱり・・・」
「うん、それしか考えられへん」
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「ちょっと思ったんやけど」
「なに?」
「シオリちゃんて、もしかして」
「もしかして何よ」
「好きだったんじゃない、いや付き合ってたんじゃない。だって知り過ぎてるもん」
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「あれはねぇ、もう何年前になるかなぁ。写真の勉強のために、ある先生のところの弟子になったんやけど、襲われそうになって飛び出しちゃったのよ。そのうえもう一人でも出来るとも思ったのよねぇ。思えば若かった」
「で、どうなったの」
「飛び出してはみたものの、仕事が殆どこなくて、1年もしないうちに食うにも困るようになってもてん」
「やっぱり厳しいのね」
「なんとかありつけた仕事をしてる時に山本君とたまたま会ったのよ」
「へぇ、そうなんだ」
「ゴメン、ちょっと話を飾っちゃった。ホントはね、タマタマだったのは山本君の通ってた大学での仕事だっただけで、私は一生懸命になって山本君を探したの」
「好きだったから?」
「それも違うの。できたら御飯ぐらい御馳走してもらおうと思ってたの。それぐらい切羽詰まってたの」
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「で、会えたんだ」
「仕事も終り、もうあきらめて帰る途中にタマタマ通りがかったんよ」
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「御馳走してくれたん」
「うん、焼肉やった」
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「そんなに困ってるんやったら、うちに一緒に住まへんかって。家賃も光熱費もいらんし、食費だって一人も二人もあんまりかわらへんし。でも、まあ男と暮らすのは嫌やろけどってなって」
「そんなこと言ったんだ」
「そう。さすがに迷ったけど、このままじゃどうしようもなくなるから・・・」
「同棲したんだ」
「うん」
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「一緒に暮らしてみてわかったんやけど、かなり無理して私を引き取ってくれてたの」
「狭かったの?」
「下宿は古かったけど、間取りは2DKで一部屋を使わしてくれたの。広さは良かったんだけど、問題は時期ね。五年生だったから勉強が大変だったのよ」
「そんなに」
「うん、実際に横で見てると、こっちが息苦しくなるぐらい」
「炊事とか洗濯は」
「掃除と洗濯はやったけど、炊事はね」
「シオリちゃん料理得意やん。料理教室もやってたぐらいやし」
「今はそうなんやけど、エヘヘヘ、当時はさっぱりで実は山本君に教えてもらった」
「山本君って料理作れるんだ」
「そんなレベルじゃないよ、本当にレストランみたいやった」
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「で、どうなったの」
「どうにもならないよ。たまに舞い込んでくる仕事の日はともかく、近くに友達はいないしカネはないし、服だって。家事っていっても洗濯も掃除もしれてるからね」
「同棲気分とかは?」
「それがね、友達の一線を絶対に崩さないのよ。下着を洗わしてもらうのに半年かかったもん。『友達に洗わすもんじゃない』って」
「ふふふ、山本君らしいね」
「そうでしょう」
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「それでもでしょ」
「うん、だって一緒に暮らせば情が湧くやん。このまま専業主婦になってもイイって思たぐらいやもん」
「ほんで、ほんで」
「そう言ってみたの。そしたらね、思いっきり怒られた」
「山本君でも怒るんや」
「専業主婦にするために居てもらってわけじゃないって、サッサと自立してもらうために居てもらってるんやって」
「格好イイやん」
「ちょっとしびれた。そこからガムシャラに頑張ってなんとかなったんよ」
「そんなところもあるんや、でもやっぱり気になるの」
「あったわよ、二年近くしてからやっとね」
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「なんで別れたん」
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「・・・・それでも離れたら寂しくなったの。それまで当たり前のように山本君が一緒の生活だったもんね。だからついやっちゃったの、心を試したの」
「わかる、わかるけど、その流れって・・・」
「そう、終わっちゃったの」
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「それっきり?」
「次に会ったのは中学のクラス会」
「そこでは」
「私の記憶も封印されててすごい悲しかったよ。だってさ、あの苦しい時にあんなに無理してくれたんよ。なんとか恩返ししたいやん。でもさぁ、なんとか友達には戻れたけど、あの時の話は絶対に触れさせてくれないの」
「なんか悲しいね」
「でもさぁ、コトリちゃんの件で相談してくれた時には本当に嬉しかったの。やっと私にも恩返しのチャンスが回ってきたと思ったのよ。それがプロポーズまで行ったって聞いて超ビックリ。私には言ってくれなかったもん。それだけじゃなくて、私にはそこまで甘い言葉かけてくれなかったなぁ。私へのはたぶん愛情じゃなくて同情だったと思ってる」
「そんなことないよ。もしさぁ、シオリちゃんが試さなかったら結婚してたかもしれないやん」
「うん。結婚してたかもしれない。カズ君は優しいし義理堅いからね」
「あれっ、カズ君って呼んでたの」
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「でもやっとわかった気がする。だから、みいちゃんじゃダメなんだ。ひょっとしてシオリちゃんってダイエットを勧めた彼女じゃない」
「あははは、そんなことまで話してんだ。そうだよ、あれもやりだしたら徹底してて驚かされたよ」
「最後に聞いてもイイ。シオリちゃんはどうなの?」
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「コトリちゃんこそが正式の婚約者やん。私は友達でいられるだけで十分。またシャシャリ出て横取りする気は全然ないよ。山本君は優しいけど、ハンサムでも格好良くもないから、あれ以上のもっとイイ男を見つけてみせるわ。それぐらい幾らでもいるやん・・・・・・」