新小児科医のつぶやき

2018-07-11 女神伝説第3部:ヴェチカン銀行

ここは専務室。

    「シノブちゃんどうだった」
    「ざっとぐらいしかわかんなかったけど」

結崎経営戦略本部長が依頼されていた調査はヴァチカン銀行こと宗教事業協会についてです。

    「ヴァチカンとナチスの結びつきは有名だよね」
    「そうみたいね。ナチスの戦犯の結構な数が南米に逃げてるものね」

俗にヴァチカン・ルートと呼ばれ、逃亡のためにナチスの金塊が使われたとして集団訴訟も行われています。

    「アンブロシアーノ銀行は」
    「凄いね、これこそイタリアって感じもした」
    「悪い方の意味でね」

アンブロシアーノ銀行はヴァチカン銀行の資金調達と資金運用の中核を担っていた主力行です。

    「どこから話をしようかな。とりあえずミケーレ・シンドーナてのがいるんだけど、米軍占領下のイタリアでラッキー・ルチアーノと組んで物資の横流しで一財産築いた上でこれのマネー・ロンダリングを手がけてるの」
    「へえ、ルチアーノと組んでたんだ」
    「ジョバンニ・バッティスタ・モンティニ大司教とも親交を結ぶんだけど、この大司教が後のパウロ六世ってところ」
    「ズブズブだね」
    「さらにアメリカにルチアーノと渡ってアメリカン・マフィアや金融機関とも関係を構築するの。イタリアに舞い戻ってからはルチアーノの幹部のジョー・アドニスと組んでヘロイン密輸やマネーロンダリングを行って、マフィアの五大ファミリーのマネーロンダリング担当みたいな地位に着いてるわ」

話は複雑になるのですがシンドーナはフリーメイソン団体のロッジP2に入りますが、ロッジP2代表のリーチオ・ジェッリを介してヴァチカン銀行の主取引行アンブロシアーノ銀行総裁のロベルト・カルヴィとも関係を結びます。なんとことはありませんがカルビィもまたロッジP2のメンバーです。

    「それでね、シンドーナはヴァチカン銀行総裁のマルチンクス大司教とも親交を結ぶのよ」
    「全部ロッジP2つながりね」
    「そういうこと。ヴァチカン銀行はシンドーナの銀行であるプリバータ・フィナンツァリア銀行の大株主になり、そこでマネーロンダリングと不正融資に使ってたみたい」

マルチンクス大司教もパウロ六世と親交を結んでおり、その関係でヴァチカン銀行総裁に就任しているぐらいです。この後にシンドーナは『ミラノ・ショック』と呼ばれる株式の大暴落の影響で自らが経営する銀行が破たんし、ヴァチカン銀行に二億四千万ドルの損失を与えたとされています。

シンドーナはこれで表舞台から去るのですが、アンブロシアーノ銀行のカルビィもヴァチカン銀行総裁のマルチンクス大司教も健在で、カルビィはシンドーナの代役をアンブロシアーノ銀行で展開する事になります。つまりはマフィアのマネーロンダリングと不正融資です。

ヴァチカン銀行の大改革を目指したヨハネ・パウロ一世はマルチンスク大司教とヴィヨ国務長官の更迭を言い渡したものの、一九七八年九月に就任三十三日目に寝室で急死。今でもその発見の経緯から暗殺説が強く囁かれています。

    「マルチンスク大司教は次のヨハネ・パウロ二世に上手く取りいったみたいだね」
    「そうなのよ、マルチンスクとカルビィのコンビはヨハネ・パウロ二世の庇護下で再び我が世の春ってところ」

さすがにいつまで我が世の春とはいかず、ついにアンブロシアーノ銀行も一九八二年五月に十五億ドルにものぼる巨額の損失を出して倒産します。カルビィはシンドーナと確執もあってか六月にロンドンで暗殺されます。

    「それでさぁ、最後に残ったマルチンスク大司教はどうなったの」

一九八三年にアンブロシアーノ銀行の経営責任を問われてイタリア司法から逮捕状まで出されたものの、ヴァチカンは外国だから無効と判断されヨハネ・パウロ二世の庇護の下、一九八九年までヴァチカン銀行総裁の地位に留まり一九九〇年に辞任。アメリカに帰り二〇〇六年に自宅にて八十四歳にて死去。

    「ロッジP2はどうなったの」

ロッジP2は数々の違法活動を行ったために一九七二年にフリーメイソンから破門されています。ただ組織自体は健在で地下化して活動を続けテロ活動まで行う事になります。そこに一九八一年にP2事件が起こります。P2代表のジェッリの家を捜索したところメンバー・リストが見つかり、スペインで亡命生活を送っていたイタリア王国王太子を始めとして、三十人のイタリアの現役将軍、三十八人の現役国会議員、四人の現役閣僚、情報機関首脳、後のイタリア首相となるシルヴィオ・ベルルスコーニなどの実業家、大学教授など九百三十二人の名が記されており、これをイタリア政府が発表して大騒ぎになったというものです。

    「シノブちゃんどっちだと思う」
    「やっぱりマルチンスク大司教かな」
    「コトリも基本的には賛成。P2代表のリーチオ・ジェッリも怪しそうだけど、感触として単なるコマね」
    「式神使ったのかなぁ」
    「たぶんね。じゃなきゃ、マフィア相手に大変でしょ」
    「マフィアの中にも使ったかもね」
    「適任と言えば適任だし」

小島専務は、

    「シノブちゃんご苦労様」
    「お役に立ちましたか」
    「十分よ。やはりイスカリオテのユダは生きてるね」
    「抱かれてみますか」
    「会ってみんとわからん部分は残るけど、タイプとは言いにくいな」

結崎常務は、

    「デイオダルスとは違うと」
    「コトリは陰険な男は好みじゃないの」
    「でもそれだけですか」
    「やっぱりバレてた」
    マグダラのマリアでもされますか」
    「どうせなら、そっちじゃなけりゃワクワクしないし」

結崎常務は一礼して退室しました。小島専務は一人になった部屋で、

    「クソエロ魔王、デイオダレス、そしてユダ。続く時は続くものね。これを人生と言えるかどうかはわかんないけど、長過ぎる時間のヒマつぶしぐらいにはなりそう」

BugsyBugsy 2018/07/11 11:37 確かにヴァチカンとナチスのつながりは有名です。繰り返し報道されるマフィアの事件でもバチカン系の銀行が取りざたされています。日本のヤクザと違って非合法化されていないので良い顧客である限り取引可能でしょう。

やたらと話題になるP2やフリーメーソンですが過大評価かなと思っています。アメリカではフリーメーソンはどこの街でも表通りにあり 会員が減ってるのでネットで公募しているくらいです。日本でも入会可能で東京タワーのそばにロッジがあります。入会していた人を知ってますが あれは儀式好きのじいちゃん達の集まりでロータリーと一緒で寄付とボランティアに終始してとても退屈で うまい汁なんてこれぽっちも無いそうです。お決まりの帽子をかぶって米軍基地ではホットドッグを売っています。儀式を覚えてランクが上がってるだけです。

自分は陰謀小説も好きですが 最大の弱点は事件の最大の利益を得たものが黒幕と思い込んでしまう点です。現実は偶然の連続でそうそううまくは行きません。アメリカの建国の父達はフリーメーソンが多かったのでフリーメーソンの陰謀とするむきが多いのですが 当時も公然とした社交的クラブでそれは間違っています。だから小説にあっても底が浅いのです。

YosyanYosyan 2018/07/11 12:54 Bugsy様

陰謀小説の構成要素の定番に謎の巨大秘密組織の創作があります。あれって簡単そうで難しいと思っています。フィクションであってもというか、フィクションであるからこそリアリティが求められるところで、そこを考えると組織の表の顔と裏の顔みたいな手法にならざるを得ないところもあるんじゃないかと思っています。そりゃ、世界征服を目指す組織だって組織員には給料払わないといけませんし、それを裏稼業だけで全部稼ぎ出してるとするよりも、表の平和そうな組織が稼いでいるカネで動いてるの方がリアリティが出て来るってところです。

後は作家の技量でしょうが、表の組織も架空のものでリアリティを出せる人もいるでしょうが、実在組織を借りると言うのも手法として確立していると思っています。確立というか、常套手段の方が良いと思います。そんな表の顔の組織にフリーメーソンが良く使われていると思っています。有名だし、他の作品でも頻用されていますから出すだけでリアリティてな感じでしょうか。

一つだけわからないのは、訴訟社会のアメリカで名誉棄損とかの対象に良くされないものだと思ってます。まあ、されないから余計に使われるのかもしれません。

BugsyBugsy 2018/07/11 14:36 訴訟がないのも大人しい紳士の親睦団体だからで 誰でも入れるし何らか政治目的はないので争いが起きません。自分も参加したことがありますが、儀式ごっこの後慈善事業だけで死ぬほど退屈でした。

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