ツーリング日和21(第2話)同棲へ

 恋人関係が深まれば次に目指すのは同棲だ。絶対じゃないけどこのステップを通らないと再婚に進めないじゃない。これはステップと言う意味もあるけど、お互いをより深く知るのも重要ではある。

 ごくシンプルには同居する事で互いの生活習慣がわかるじゃない。生まれ育った環境が違うから相違点は必ず出て来るし、相手の本性だって見えてくる。たとえば実はDV男だったり、モラハラ男だったり、浪費癖が強くて借金があるとか。

 エラそうに言ってるけど同棲経験もあるし、そこから結婚もしてるけど、どこまで見抜けたかと言われると失格なんだよな。元クソ夫はマザコンだったし、モラハラ夫だったし、浮気男だったし、浪費癖さえあった。

 それぐらい結婚って難しいからあれだけ離婚するってこと。同棲したからって相手のすべてなんか見えるものか。それでもステップとしては重要だから待ってたんだ。だって女から言い出すのは、はしたないって思われちゃうじゃないの。

 瞬さんが同棲を持ち出して来るかどうかは、試験でもあるんだ。セフレに留めたいのなら持ち出しもしないだろうし、再婚の意志があれば出すはずだろ。もちろん同棲しないと再婚できない訳じゃないけど、二人とも同棲できない理由はないものね。

 そしたら出た。もっともベッドの上だったのは笑ったけどね。実はってほどの話じゃないけど、元クソ夫もベッドで誘ったから、瞬さんも同じなのが意外だっただけ。いつものようにラブホでトロトロにされた後に改まった感じで、

「一緒に暮らしたいと思うんだ」

 うんうん、もちろんイイよ。待ってましただ。

「そのために三か月待ってくれ」

 はぁ? なんだ三か月って・・・これも気にはなってたんだ。瞬さんがマンション暮らしなのは知ってたけど、まだ部屋に行ったことがなかったんだよ。なにが普通か知らないけど、同棲前にまず自分の部屋に連れ込みそうなものじゃない。

 そうなると三か月の猶予って、同棲のために必要な部屋の準備期間になるけど、考えられるのは他の女性関係の整理しか思いつかないよ。それが無い方が不思議と言うより不自然だけど、他に女がいるのはさすがに複雑だ。

 モヤモヤしたけど、まだ証拠をつかんでる訳じゃないし、他の理由の可能性もゼロじゃない。もし他に女がいたとしても、そいつらを整理してまでマナミを選んでくれたのかもしれない。モヤモヤだけでお別れにするにはもったいなさすぎるだろうが。

 三か月後に行ったよ、瞬さんのマンションに。これが広いんだよね。4LDKにウォークインクローゼットまであるんだもの。でね、部屋を見て回るとちょっと違和感があったんだ。妙なとか、変なじゃないし、他の女の影でもないよ。

 他の女の影は気になって仕方が無かったから、それこそ目を皿のようにして探したし、同棲してからも探し回ったけど結論から言えばゼロだ。それぐらいはマナミも女だからわかる。

「だから三か月待ってもらった。片付けるのに手間がかかってしまって」

 瞬さんの今の本業はライターであり、小説家だ。こういう職業の人は書くための参考資料が必要なんだ。ネット時代になって減ってる部分はあるかもしれないけど、それこそ書けば書くほど溜まっていく感じで良いみたいらしい。

 瞬さんの場合はそれが部屋三つ分を埋め尽くし、積み上がっていたみたいだ。だから生活スペースとしては、寝室兼書斎とリビングだけ。でもそれじゃ、いくら4LDKあっても同棲なんか出来ないから、

「一部屋だけは資料庫にさせてもらうけど、残りはトランクルームに運び込んだ」

 それだけじゃないんだ。マナミの部屋も用意してくれたけど、二人の寝室まで用意されてた。ダブルベッドが鎮座していたし、部屋の内装だってまさにマナミ好みそのもの。

「こういうのが好きだと思って・・・」

 三か月も準備期間が必要だったのは資料の整理だけじゃなく、マナミを迎え入れるためにリフォーム工事までやってたんだよ。だから二人の寝室だけじゃなく、マナミの部屋も、リビングも、浴室も、トイレだってマナミの好みどころかマナミの理想にド真ん中のストライクなんだよね。

 カマイタチ恐るべしだ。ここまで人を見抜けるかと思ったけど、瞬さんなら朝飯前かもね。そうやって同棲生活が始まってしまったのだけど、これも変わってると言えば変わってるかも。共同生活だから家事分担が出て来るけど、

「洗濯とか注文があったら言ってね」

 マナミは会社勤めだけど、瞬さんは作家だから自宅が仕事場じゃない。だから家の事はすべてやるって言うんだよ。この辺は学生時代から自炊してたし、前妻と離婚してたからやってたのはわかるけど、マナミもビックリさせられるほど手際が良いのよ。

 家事と言えば炊事、洗濯、掃除って事になるけど、料理は美味い。それもマナミの好みにピッタリなだけじゃなくヘルシーなんだ。良く女が男を落とす時に胃袋を掴むって言うけど、マナミの胃袋も鷲掴みにされちゃったもの。朝夕だけでなくお弁当まで作ってくれて参っちゃった。

 掃除だって隅々までピカピカだし、洗濯だって、それこそ服のたたみ方、整理の仕方までマナミ好みなんだ。掃除はまだしも、洗濯はさすがに抵抗があったんだよ。だって下着まであるじゃない。それも言ったけど、

「分けると手間がかかるじゃないか」

 押し切られてしまった。そうそう同棲って共同生活じゃない。生活費をどうするかも当然ある。マンションは瞬さんの持ち家だから家賃は良いとして、光熱費とか、水道代、言うまでもないが食費もある。この辺の分担だって、

「マナミさんだって欲しいものはあるだろうから・・・」

 すべて瞬さんが出してくれた上にお小遣いまでってなんなのよ。マナミだって働いてるし、お給料だってもらってるし、そのお給料で今まで自活して来てる。それがだよ、もろもろの家計も、家賃も、光熱費も、水道代も、すべて負担がなくなった上でさらに小遣いってなんなのよ。


 同棲期間の捉え方はあれこれあるけど、相手が結婚相手に相応しいか見極める意味もあるけど、一方で自分がいかに結婚相手に相応しいかの最終アピール期間でもあると思ってる。これは二人の関係であれこれ変わるだろうけど、マナミならその部分は大きいのよ。

 女なら家庭的な面のアピールは必要だと思うのよ。この辺は、女だから家事全般を引き受けるのは昭和の古い考え方って意見も強くなってるし、マナミだって家事分担はそれなりに必要ぐらいは思ってるよ。

 もちろん家事分担と言っても相手によりけりだ。家事分担が必要になる前提は女もちゃんと仕事をしているのはある。もうちょっと言えば女の収入が家計のために必要不可欠になってるもあるからだ。

 けどさぁ、瞬さんならマナミを余裕で専業主婦に出来る経済力はある。だから同棲になればマナミの家事能力を試されると思ってたんだ。だってだって、他に何を見るって言うのよ。だから気合を入れてたし、これでも専業主婦経験者だから自信もあったんだ。

 なのに蓋を開けてみれば、それこそ一緒に住んでるだけ状態じゃない。これでは良くないと思ったから、退路を断つために仕事を辞めて専業主婦に専念する相談もしたんだけど、

「どうして仕事を辞めないといけないんだ。まだ同棲させてもらってるだけじゃないか。もし別れる事になったら困るだろ」

 それはそうなんだけど、これじゃあ、完全過ぎるお客様扱いじゃないの。同性のはずなのにニート状態にも思えてしまうぐらい。そりゃ、居心地は文句の付けようがないぐらい良いけど、ふと思った。マナミって何者なんだって。

 たかがブサイクチビのアラフォーのバツイチ、子豚体型の子宮レス女に過ぎないんだよ。それなのに、まるでどこぞのお嬢様どころかお姫様扱いじゃない。皇室のモノホンのお姫様より丁重に扱われてる気さえする。もしかして前妻との結婚時代も、

「あの頃か。家政婦さんがいたからね」

 ガチのお嬢様だったから、一切家事が出来なかったそう。だから家政婦と言うより専属の執事みたいな人が付いて来ていたみたい。

「執事というより爺やと婆やみたいな人でした」

 それも代々の爺やと婆やで前妻の子どもの頃からって・・・どんなセレブの世界なんだよ。前妻の実家は資産家だって聞いていたけど、どうも半端な資産家じゃなかったみたいだ。

「戦後の財閥解体とか、相続税問題には苦労されたみたいだけど・・・」

 よくわからないけど投資かなんかで資産を築き上げたとか何とか。その資産のトンデモなさは、瞬さんの前妻時代の新居はマナミが聞く限り、実家の別邸だったみたいなんだ。そう別宅なんて規模じゃなく別邸だ。だったら実家はってなるのだけど、

「遺産相続の時に売り払ったのですが、ここです」

 はぁ?、はぁ?、はぁ?、このタワマンがかつての実家のお屋敷だってか。

「庭にかつての名残がありますかね」

 あそこか。タワマンなのに妙に年季の入った立派な池がある庭があるのだけど、あれがかつてのお屋敷の庭の一部だったのか。そうなると、

「その通りです。当時の庭の片隅だけ残っています」

 片隅っていうけど、元は金閣寺の庭園ぐらいあったんじゃないかと思うぐらいだ。

「家を売った代償の一部としてこの部屋をもらっています。あれこれ相続税対策もありましたし、一人暮らしならこれで十分です」

 このマンションはタワマンの一室だけど、これじゃわかりにくいよね、タワマンと言っても一棟じゃないんだよ。タワマン群なんだ。それが全部前妻の実家の敷地ってどんだけなんだよ。

 どこまで聞いても現実感が無さすぎる話なんだけど、そんだけのセレブの家から政略結婚を持ち出されたら断れる男はいない気がした。女だってそうだろ。マナミには縁遠い話だけど、かなりどころでないぐらいビビった。

「前の妻の家がセレブだっただけで、ボクは庶民の育ちですから」

 そ、そうだと信じたい。

ツーリング日和21(第1話)プロローグ

 大会社の社長さえ狙えた元エリート社員であり、今は人気作家であり、ダンディで、ジェントルメンで、インテリジェンスも高い瞬さんに告白され結ばれたのが武田尾の夜だ。まさに感動と試練の夜だった。

 試練はすべて克服されて恋人同士になれた。今でも信じられない気持ちで一杯だし、あの夜一回限りでも、セフレでも余裕で十分なんだけど、そうじゃなくて恋人、それも結婚まで考えてくれてるのはわかる。

 結婚と言ってもマナミはバツイチだし、瞬さんは前の奥さんと死別してる。だからお互い再婚になる。二人の家庭環境もそれなりに似ていて、両親を亡くしていて、お互い一人っ子だ。瞬さんにコブはいないし、マナミの息子は離婚した時に夜逃げしやがった元クソ姑と元クソ夫に連れ去られ行方不明のまま。

 結果で言えばなんかお互い綺麗サッパリの家庭環境なのよね。結婚となると家族が良い意味でも悪い意味でも口を挟むのだけど、それが消えてなくなってるから、それこそ当人同士の合意さえあればいつでもOK状態ではある。

 それでもやっぱり疑問と言うか、不安と言うか、謎がある。それが何かって? そんなものマナミがブサイクチビのアラフォーのバツイチ、子豚体型の子宮も失った女だからだよ。瞬さんは、

「チビっていうけど、小柄なぐらいだし、大柄の女の人がとくに好みじゃない」

 身長にはさすがにそれほどコンプレックスはないけど、

「アラフォーって言うけど、ボクなんてもう四十路にカウントダウン状態だよ」

 瞬さんは四歳上なんだよね。だから年齢の釣り合いだけなら無難ぐらいは言えなくもない。

「体型は男も女も誤解があると思うよ」

 それもどこかで聞いた事はある。男が理想とするのはマッチョだって。女だってだらしなく肥え太った男は嫌だけど、だからと言ってマッチョなら飛びつくかと言えば微妙だ。もちろんマッチョ好きな女は少なからずいる。

 だけど何事も過ぎたるはなんとやらで、筋肉ムキムキに引くのは少数派とは言えないと思う。理想を言えば引き締まった筋肉質の細マッチョぐらいだろう。もうちょっと具体的には水泳選手の逆三角形。

 女にも格闘技好きは案外多いから相撲体型も好きなのはいるけど、あれだってアンコ型よりソップ型だろ。もちろんアンコ型が好きなのもいるけど、とくにアンコ型の重量級とやっているのを想像するのも大変だ。

 だってあの体重と体格だよ。あんなのが圧し掛かってくるんだよ。どうやったらペシャンコにされないんだろう。それに腹だってあの腹じゃない。届くかどうかも疑問だ。やるとしたら女が跨るぐらいだろうけど初夜からそうだとか。まったくわからん。

「痩せて細い女だって似たようなものだよ」

 瞬さんの亡くなった前妻はスリムだったそうだけど、

「あそこまで細いとさすがにね」

 アバラ骨まで数えられるぐらいだったそう。言ってしまえば鶏ガラ体型だったみたいなんだ。この辺はそれだけじゃなく、夫婦の夜の営みの相性も悪かったみたいで、

「男だってポッチャリ型が好きなのは女が思うより多いんだよ」

 それも聞いた事はあるよな。スリム体型の女を好む男が多いのは瞬さんも否定しなかった。だから女は常にそれを頭に置いている。シンプルに言えばダイエットだ。これもガチで取り組んでいる者から、

『今日は食べ過ぎちゃったから、明日から気を付けないと』

 その明日からだけど何もしないよ。そう口だけ。それでもそうするべきだぐらいは常に考えてると言うか、そういう意識とプレッシャーの中に女はいると思っても良いと思う。だけどスリム体型の女しか恋を出来ない訳じゃない。

「その辺はポッチャリ好きなんて言うと、男でも色んな事を言うのが多いからね」

 ああそれも見たことがある。なんか趣味が悪いとか、ブサ専とか陰口どころか面と向かって言うのもいるのよね。あれはポッチャリ好きの男にも堪えると思うけど、それを耳にしたポッチャリ女にも突き刺さるんだ。

 少数派でもポッチャリ型が好きな男はいるのは認めよう。現実はどう考えたって惚れられているのは否定できないのよね。だけどだよ、顔だってブサイクなのよ。それもこれ以上は崩しようのない一円ブスじゃないの。

「顔だって好みの差は大きいよ」

 これも前妻との夫婦生活の影響はあると思う。前妻は美人ではあったみたいだけど、モロみたいな政略結婚で、だからとまで言わないけど底冷えするような夫婦生活だったらしい。その反動みたいなもので体型も合わせて前妻タイプは徹底的に忌避してる感じがあるのよね。

「マナミさんが子宮を失ったのは同情しか出来ないけど、ボクだって種無しだから辛うじてぐらいはバランスが取れるじゃないか」

 マナミが子宮を失ったのは妊娠した時の前置なんたらのせい。死ぬ一歩手前まで行ってたらしいけど、結果で言えば母子ともに生き残れた。命と引き換えのようなものだから、文句を言っても始まらないのよね。

 バランスとするには妙なところがあるけど、もし瞬さんが再婚して子どもが欲しかったら、最初からマナミのような子宮レス女は頭から除外されてたはずだけど、幸か不幸か瞬さんは種無しなのがわかってしまってる。

 子宮までレスなのはあれだけど、マナミが子どもを作れないのはハンデにならないどころか、瞬さんにとっては負い目にならないぐらいのメリットになってるぐらいは言えなくもない。

 ついでに言えば子宮レスでもやれた。理由なんてわからないけど、下手すると子宮があった時より良いんじゃないか思うぐらいだった。子宮レスになると出来なくなる女は多そうだったから、これだけはラッキーだったとしみじみ思った。


 それでもバランスの悪さはある。瞬さんはタダの人じゃない。エリートサラリーマン時代はカマイタチの異名を取ったほどの切れ者なんだよ。カマイタチの異名の由来は、

『カミソリより切れる』

 瞬さんの義父、つまり自分の娘と瞬さんを政略結婚させた人は雛形商事の専務で次期社長の最有力候補だった人で、カミソリのように切れる人だったらしい。そんなカミソリ専務よりさらに切れるからカマイタチだ。

 その切れ味はいつ切られたかどころか、切られた事さえわからないとされるほど。その一端ぐらいはマナミも見たことがあるけど寒気がするぐらいの切れ味として良いと思う。そんな切れ者と三流高校からせいぜいDラン大学出身者じゃ釣り合いがどう考えても悪すぎる。

「頭の良さの評価は学校の成績がすべてじゃない」

 そう言うけどさ、

「学校の成績は記憶力とその記憶への応用力みたいなものだ」

 それがすべてじゃない。そしたら瞬さんは苦笑いしながら、

「すべてじゃないのは社会人になったからわかってるはず」

 社会人は学生の延長にあるみたいなところはある。だからだと思うけど学生時代の成績をそのまま反映して活躍してる人だって多いけど、そうでない人もいるのは知ってるのよね。妙に細かい知識とか、聞いた事がないような小難しい理屈を並べるけど、

「ビジネスマンとして低能なのはいるだろう」

 い、いる。さらに逆なのもいる。マナミが勤めてる会社は殆どが名の通った有名大学の出身者なんだけど、そうでない人も多くはないけどいるのよね。そういう人は転職とか、それこそヘッドハンティングされて入ってるはずなんだ。だってだよ、今の部署の部長なんて高卒なんだよ。

「さぞ優秀なんだろうな」

 部下の面倒見が良くて、みんなから慕われてる。苦労人のイメージが強い人だけど仕事だって出来る。いや、出来るなんてものじゃない。

「そういう能力が社会人として求められるのだよ」

 と言われても。

「実戦で求められるのは分厚い経験と、経験から引き出される応用力だ」

 それって学生時代に求められる能力と同じじゃない。

「似てるから学生時代の成績のままに活躍する人は少なくない。だけどね、学生時代に求められる答えは一つなんだよ」

 あっ、そういうことか。学校時代の評価はテストだけど、あれって見ようによっては一つの答えを探し出すもので良いと思う。それを探せるだけの材料が問題文に散りばめてあって、学生は必ずあるはずの答えをひたすら探し求めるぐらいかな。

 けれども社会人が直面する問題の答えは一つじゃない。一つの事もあるけど、難度が上がるほどそうじゃなくなる。そもそも答えなんかあるかさえ途方に暮れる問題だっていくらでもあるものね。

「付け加えておくと解答へのヒントも不十分なんてものじゃない。その限られた情報で相手が欲しい回答をどれだけ出せるかがビジネス能力だ」

 あるはずの解答を探し出そうとするのが学生で、あるかも知れない解答を模索するのが社会人だよね。

「そういうことだ。そのためには常に頭を柔らかくしておかないと話にならないだろ。発想の基礎に分厚い経験は必要だが、実戦ではそれさえ飛躍することもごくごく普通に求められる。それがどれだけ出来るかが頭の良さだ」

 そうなのはわかるけど、

「それがわかるだけでもすごい事なんだよ。多くの者はそれさえわかっていない」

 そう言うけど、これだって瞬さんに教えてもらったからで、

「ボクも後輩の育成を手掛けたことがあるけど、それを実践出来たのは少ないよ。無知は必ずしも罪じゃない。本当に欲しいのは知っている事じゃなく、今教えられたことを即座に理解して吸収し、それを武器に変えられる能力になる」

 瞬さんに指導された後輩は大変だったと思うな。それこそ一を聞いて十を知るぐらいを当たり前のように要求されそうだもの。

「それは反省しているところはある。どうしてそれぐらいわからないのかってね。その辺の指導の呼吸を覚えるのも仕事の一つだったな」

 でもマナミはおバカだよ。

「だから無知は罪じゃないんだって。マナミさんの良いところは無知を素直に受け入れてるところなんだ。だから新たな知識はすぐに受け入れるし、受け入れた途端に次々に発想が広がるじゃないか。そういう人こそ頭が良いって言うんだよ」

 そうなのかな。

「成功体験は人に自信を与える。ボクもそうだった。けどね、成功体験に固執してしまうと弊害が大きくなる。発想の幅が狭くなるだけでなく、成功体験で出来たプライドが新たな知識の受け入れを拒んでしまうことも良く起こる」

 なんとなくわかるけど、

「プライドは聞く耳を塞ぐってことだ。とくに目下の意見を聞き辛くする。わかるだろ、無知であることを受け入れられないのだよ。そうだな、小学生ぐらいなら先生の教えてくれることを素直に聞き入れるし、聞いて覚えた瞬間から、その知識をなんのこだわりもなく自由に使えるってことだ」

 こりゃ、求めてるレベルが高すぎるよ。

「学生と社会人では別世界だ。社会人の世界は学生より桁違いに広い。言い切ってしまえば学生時代の知識ぐらいじゃ話にならない世界だ。常に新しい知識を貪欲に吸収し、それを即座に応用活用出来るかどうかかが評価のすべてだ」

 言ってることは間違いじゃないし、それが出来る人が出世していくのもわかるけど、そこまで出来る人なんて殆どいないのじゃないかな。もっともそれが出来たからエリートビジネスマンの世界でもカマイタチと畏怖されてたんだろうけどね。

「マナミさんの美点はそれだけじゃない。一緒にいるだけで、これだけ楽しい気分にさせてくれる人なんて初めてなんだ。こんな素晴らしい人を恋人に出来るなんて、どれだけ幸せ者なんだろうっていつも思ってる」

 サヤカも同じような事を言ってたけど、そこのところがよくわからないな。

次回作の紹介

 紹介文は、

 色々と夢を持っていたマナミが最後に目指したのは結婚。なんとか夢を実現させましたが手にした物は悪夢でした。なんとか離婚できたマナミが目指したのがバイク女子。バイクを選び、免許を取り、ツーリング先で男に出会います。


 舞い上がるマナミでしたが、相手は腰を抜かすほどのイイ男。バツイチ同士こそ釣り合いが取れていましたが、地位も名誉も財産もあり、平凡すぎるアラサーのブサイクチビでは引け目を感じてしまいます。


 それでも何故か男の好意を感じてしまうマナミ。そんな二人の恋の行方はどうなるか。

 ラブロマンスがメインで、ツーリングがサブになってしまっているのは御愛嬌です。シリーズも長くなり過ぎて、ツーリング先をメインに持って来るのが難しくなってしまったぐらいにご理解ください。

 ラブロマンスの組み合わせは容姿にコンプレックスを持つ女とイケメンにしてみました。イエメンと言うより大人のイイ男ぐらいの設定です。さらにその男は地位も財産もあり、才気さえ豊かです。

 そういう二人が結ばれるのは定番の設定ですが、そこで求められるのは、どうして男がその女に惚れたかの理由付けです。そこに工夫の余地があると勝手に考えています。ストーリーとしてはシンプルですが、肩の力を抜いてお楽しみください。

 そうそう、ついに表紙が追い付かなくなりました。表紙を作るのもかつては楽しみでしたが、これだけツーリング日和シリーズを続けるとネタも尽きてしまいした。誰か描いてくれないかといつも思っています。

アルコール依存症じゃなかったみたい

 お酒は好きで毎日飲んでます。あれこれ飲んだのですが、今は酒飲みの終着駅とも呼ばれるジンをロックで飲んでます。量としてはオールドファッショングラスになみなみと入れて2~3杯ぐらいです。酒はケモ中の味覚異常の時期さえ欠かさなかったぐらいで、今年だってつい先日まで連日と飲んでました。

 どこかでアルコール依存症になっている可能性を考えていたのですが、そこに持病の癪が起こってしまいました。癪とは上腹部から胸部に起こるキリキリした痛みですが、何年か周期で起こります。だから持病です。これは学生時代からあり、そのたびにのたうち回らされていたのですが、何度目かの胃カメラで、

    逆流性食道炎です
 なるほどと納得はしましたが、だからと言って根治法があるわけじゃありません。ただ癪が起こればPPIが有効ぐらいは判明したぐらいです。ですから癪の気配があれば間髪置かずにPPIが対処法になります。

 でもって先々週に癪が起こりました。直ちに対応はしたのですが、十年ぶりぐらいに症状が強めで連日のPPIでもヤバそうぐらいな状態になりました。

 さすがにそこまでになれば酒は中止せざるを得ません。あの状態で飲めば悲劇しか待っていません。そのまま今に至るです。それでわかったのは、

    酒を飲まなくても眠れるんじゃないか
 酒を飲む理由で一番大きかったのは、軽い不眠症傾向があり、飲まないと寝られないのがあったのです。ハルシオンを使っていた時期もありましたが、あの手のクスリの入手のハードルが高くなり酒を眠剤代わりに使っていた部分はあります。

 それが酒無しで眠れるのであれば不要ぐらいです。となるとアルコール依存症は無いぐらいで良さそうです。たった、それだけで2週間も休肝日を作れましたからね。

 酒無しになって生活がどう変わったかですが、就寝時刻が早くなりました。夕食を食べたらやることがないのです。テレビは見なくなっていますし、スマホで画面を見るのも辛くなって来てます。それなら寝ようって。

 禁酒をする気は1mgもありませんが、これからは休肝日をちゃんと作ろうかな。

六甲山

 毎日見ている六甲山ですが、ここはかつては走り屋の聖地みたいな時代がありました。とにかく聖地過ぎて二輪噺さんより、

 赤線のところが二輪車通行禁止で、紫色のところが土日休日二輪車通行禁止です。こんな地図を見せられても土地勘のない人にはピンと来ないでしょうが、神戸市街地に住んでる人間からすると、六甲山に上がろうと思えば表六甲しかないじゃないかの感覚になります。

 私が知らなかっただけですが、奥摩耶が二輪車通行禁止なのは意外でした。ここは六甲山牧場があり、終点は掬星台があるところですが、こんなところをとは思いましたが、ここは盲腸道路ですからレースもどきをするバイクが集まっていたのかもしれません。

 こういう状況でバイクで六甲山に登るには表六甲一択みたいな感じにはなるのですが、モンキーで登りたくないのが本音です。それぐらいキツイですし、これでもかのヘアピンが待っています。

 表六甲は六甲山トンネルを使う時に走りますが、モンキーには辛いので最近は回避してしまうぐらいだからです。登れるのは登れますがカメになるってところでしょうか。そこでぐらいの話ですが、有馬街道からアプローチしてみました。具体的には山麓バイパスの天王谷料金所下車です。

 有馬街道も混みますし、休日の六甲山も混みますから早朝も早朝、5時半スタートでトライです。有馬街道から東に稜線伝いに走り県道82号で西宮に下り、山手幹線で無事帰ってきました。


 感想は甘くない。延々とワインディングですし、とくに丁字が辻を越えてからのアップダウンはモンキーにはきつかったぐらいです。ちゃんと六甲山を走った証拠として、

 一軒茶屋と言われてもハイカー以外にはピンと来ないかもしれませんが、魚屋道にある休憩拠点みたいなところです。ここから少し上がれば六甲最高峰で、この辺りで標高は900m弱ぐらいのはずです。砥峰高原と良い勝負ですが、麓からの標高差からしたら六甲山の方が上ぐらいでしょうか。


 早朝ですから空いていましたが、店はまだどこも開いていませんでした(当たり前か)。ただ少ないながらも走っているクルマもバイクも気合が怖かった。あんな時間帯に六甲山を走るぐらいですから、そりゃ、もうってぐらいの勢いでした。

 なんかかつては、ああいう感じのが夜になるとゴッソリ集まっていたんだろうなと思った次第です。こちらとしては、

    走ったことがある
 このメモリーが刻めたのに満足出来ましたから、もう来ないだろうな。モンキーにも私にも楽しめるとは言いにくい道でした。