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concerto

2016-12-04

30.夏休みの始まり(1)

| 17:57

 たとえ結果がどうであっても、時間さえ流れてしまえば夏休みは目と鼻の先です。遊びたい気持ちがはやる私たちは、すぐに予定を立て始めました。
「それは別にいいけど何でわざわざオレの部屋来るんだよ。教室で済むだろ」
「学校じゃシザーと話せないじゃないの」
「それにキラのとこならいつ行っても片付いてる、っていう信頼つーか?」
「そーなの? ワタシ初めて入るよ」
 キラ、エレナ、シザー、ミリー、私の五人で、キラの部屋に集まっています。全員制服姿で、通学鞄も持ったままです。
 シザーの言い方からして、キラは元々几帳面なのだと思います。モダンな雰囲気の、きちっと整った部屋でした。ブラインドを上げて、閉めていた窓を全開にします。建物の構造上どの部屋の窓も全て木陰になっているので、吹き込んでくる風はいつでも心地よいものでした。
 部屋中央のガラステーブルに雑誌やチラシを広げて、その周りを囲うように座ります。みんなで集まって遊ぼう、と最初に言い出したのはやはりエレナでした。彼女のような人が身近に一人いるだけでも日々は変わっていきます。
「まずは海ね! 夏といえば海は外せないわ! 城下町にも海水浴場はあるけど、サンローズの方が近いしきっと空いてるはずよ。そっちでいい?」
「うん、城下は混むよ〜。ワタシ浜辺で花火したいな!」
「お祭りやってない? スズライトのお祭り見てみたいんだけど」
 女子三人が盛り上がり、口々に言いました。それにシザーも加わってきて、横ではキラが雑誌をパラパラ捲っています。それぞれが思い思いのことを言い終えた頃、エレナがビラから顔を上げて問いかけました。
「みんな帰省するわよね。日付はどの辺りが都合いいかしら?」
「オレは別に。帰る日特に決めてないし、合わせられる」
「あ、私は早めがいいな」
 手を上げて発言します。当然ですけれど、私も長期休みには一旦自宅へ帰ることにしていました。手紙で伝えた日程は休みの中頃で、家族や向こうの友人たちにより多くの思い出話を持ち帰りたかったので、帰省前を希望したのです。
「うん、ワタシ大丈夫だよ。シザーは?」
「俺もキラと同じだな。あとレルズとスティンヴも呼びてえんだけど、二人の予定は聞かないとわかんねーや」
「じゃあ、ひとまず早めね。あ、人数増えるのは大歓迎だから、どんどん誘っていいわよ」
 どうやら、私のように他国から来る生徒は稀なようでした。皆の実家はほぼスズライト国内にあり、箒で飛んで行ける所にあるそうです。馬車や機関車などの交通システムを一度も見なかったのは、箒一本で済むからだということだったのでしょう。

「んん? ねーキラ、机の上にあるのってお手紙の封筒?」
 話もまとまり出した頃、ふとミリーが尋ねました。壁に面して置かれているデスク上に一つ、パウダーブルーの封筒があります。傍まで近寄りました。
「……それは」
「招待状……としか書いてないけど、何?」
「別に大したものじゃない。爺さんが勝手に、オレのとこにまで持ってきてるだけだ」
 膝を崩して座ったまま、キラは不愛想に言います。
「お爺さん?」
「ああ、ミリーは知らないわね。キラのお爺さんって、うちの校長先生なのよ」
「ええっ!?」
 声を上げたのは私でした。
「あら、ルミナにも教えてなかったの?」
「わざわざ話すことでもないし。というか、お前にも教えた覚えはない。どこで知ったんだよ」
「秘密♪」
 いつの間にかエレナがミリーの隣に立って、封筒を手に取り掲げています。
「なんだ、中身何もないじゃない。つまんないの」
「人の手紙を読もうとするな。……どうした、シザー」
「いや、違ってたら悪いんだけど、それスズライト家からのやつじゃね?」
「なっ!? 何でお前が知って――!」
 指摘されガバッと向きを変えたとき、テーブルの脚に脛をぶつけました。派手な音がして、チラシの山が動きます。シザーはぶつけたところを押さえるキラに「大丈夫か」と苦笑いで声を掛けつつ、頭を掻きました。
「見覚えあるだけなんだけどさ。知り合いが、父親の仕事の関係でスズライト家の奴らとよく会ってたんだ。いつもその色の封筒で手紙来てたから、もしかしてと思ったんだがやっぱりそうだったか」
「へえ! うちの校長宛てにスズライト家から手紙が来てるなんて、初耳だわ」
 封筒を元の位置に戻し、エレナは驚いた様子でキラの方へ視線を向けます。彼は黙ったまま、目を逸らしていました。
「スズライト家って、実は学校にも何か関係してるのかな?」
 何気なく口にした私の問いにも、答えません。
 その時一瞬視界が陰ったことは気付いていたのに、愚かな私はそれを単なる気のせいとしか思わずに見過ごしたのです。

 最終的には確か、夏休みに入った週の最後の日に決まったのだと記憶しています。大陸東端のサンローズの海水浴場も、家族連れや若者グループで賑わっていました。水着に着替え終えて浜辺に出ると、色とりどりのパラソルが随所に立っているのが見えます。ざらざらした砂の感触と焦がすような熱を、足の裏に感じました。
「ぼくは次の大会に向けた調整で忙しいんだが」
 いつもかけているサングラスを外し、日差しの眩しさに目を細めながら不機嫌そうにしているのはスティンヴです。
「そう言いながらも来てんじゃねーか」
「誘われたからには断るわけにはいかないだろう」
「何それ。ふふ」
 その横でレルズが突っ込みを入れ、ネフィリーが笑います。先日は都合が合わなかったためいませんでしたが、シザーとミリーがそれぞれ声をかけて連れてきました。
「いつの間にか随分仲良くなったのね?」
 三人の話し声を聞いて、エレナが寄ってきます。普段下ろしている髪はゴムで一つにしばっていました。
「別に」
「いいって言ったのに、時々花壇の様子見に来てくれてたの。それで話してたからかな」
「ふふ、そう」
 ネフィリーの言葉に含みのある笑顔と返事をして、浮き輪を貸し出しているところにいた私たちを呼びます。他の三人も傍にいましたが、皆運動神経が良く泳ぎも得意なので実際に借りたのは私一人でした。
「この前はちゃんと顔合わせできなかったから、改めて。こっちがホウキレースに出てたスティンヴ。こっちがシザーとはぐれたチビ助のレルズよ、ルミナ」
「ちょっ、その紹介の仕方やめろ」
「嘘ではねえなー」
「シザーさんまで!」
 “この前”というのは、初めて見に行ったホウキレースの試合の日のことです。エレナは元々あの時に彼ら二人を私に紹介するつもりだったそうですが、一位を逃したことでスティンヴが機嫌を悪くしてしまったので、結局殆ど話せなかったのでした。そのため、顔と名前を知ったのはこの日のことであります。これまでの語りの中では何度も登場していましたから、少々おかしな感じがしますね。
 レルズは夏が似合う明るい人柄で、すぐに仲良くなれそうだと感じましたが、逆にスティンヴはどこか取っつきにくそうな雰囲気がありました。愛想がよくないという点ではキラもそうなのですけれど、彼よりも鋭い言葉を率直に発するからでしょうか。
「そういえば、ミリーとスティンヴが同じ場にいるのって何気に凄くないかしら? 二大有名人じゃない!」
「大袈裟だよ、エレナ」
アイドルだとか、ぼくは興味ないがな」
 本人が目の前にいようと構わずズバズバ言い放つので、見ている私たちの方が焦ってしまいました。ミリーも彼とはあまり面識がなかったらしく、呆気にとられています。
「あ、あの、ほんとあいつがすいません!」
「誰にでもあんな感じだし、気にすんなよ。悪い奴じゃないから」
 後でレルズとシザーがフォローしていました。思い返してみると、彼らは二人揃うことでバランスが取れていたのかもしれません。
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