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創作小説公開場所:concerto

2017-08-07

32.夏休みの始まり(3)

| 18:12

 だいぶ人通りの少ないところまで来ると、ルベリーの様子はだいぶ落ち着きました。シザーの支えを断り、自分で普通に歩けるまで回復したようです。確かに、霧も渦もすぐに薄れて、今では殆ど見えなくなっています。しかし、まだ顔色は優れなかったので、みんな心配していました。
「ごめんなさい、ごめんなさい……迷惑かけてごめんなさい……」
「迷惑なんて思ってねーよ。それより本当に大丈夫か?」
「……人混み、苦手なだけ、だから。も、もう平気。ごめんなさい……」
 ルベリーはたどたどしく言葉を発し、何度も腰を折って謝り続けています。かえって困り果て頭を掻くシザーに代わって、エレナが出てきました。努めて作っているのがわかる優しい笑顔でした。
「そんなに謝らなくていいわよ。わたしこそ、無理させたみたいでごめんなさい」
 そして、パンっと胸の前で一度手を叩き、明るく次の言葉へ続けます。
「じゃあ、人の少ないところで遊びましょ!」

 聞くところによると祭りは夜からが本番だそうで、商店街の賑わいと反比例するように他のところは静かでした。民家の明かりがどこもかしこも消えていて、町から人だけがすっかり消えてしまったようです。しかしエレナが連れてきてくれた場所は、それ以上に静かな町はずれでした。キラが冷静に辺りを見て尋ねます。
「暗くてよく見えないが……坑道か何かか? こんなところに何の用が」
 スズライトの南には山地があり、その山を越えると私の故郷でもある隣国との国境があります。どうやらここはその付近らしく、何年か前から使われなくなった廃坑のようです。三メートルくらいの高さの穴がぽっかりと空いていて、中は真っ暗。にわかに風が吹いてきます。入り口の横にはトロッコが打ち捨てられていますが、積まれているのは砂ばかりでした。線路も引かれていて、人の手が入った形跡は確かにあるはずなのに、その気配はもう感じられません。
「みんなには内緒にしてたけど、ここで肝試ししようと考えてきたのよ! 立ち入り禁止って別に書いてないし、いい場所だと思わない?」
「別にぼくは何でもいいが、鉱山でするのか? 墓とかじゃなく? この辺りなら、大昔悪魔にやられたとかいう街の跡地も確かあっただろう」
「ああ、あの遺跡は本当に洒落にならないのが”出る”から遊びで行っちゃダメよ。うふふ」
「ひえええ」
 それはそれは清々しい満面の笑みが返ってきたので、ぞっとしたのを覚えています。思わず隣にいたネフィリーにしがみつくと、彼女の顔と体もこわばっていて、私には恐怖心を抑えているように見えました。
 エレナがおもむろに杖を取り出して、くるんと一振りします。すると彼女のもう片方の手が一瞬煙に包まれて、割り箸が数本入った空き瓶が現れました。部屋辺りにあらかじめ準備しておいたのでしょう、用意のいいことです。
「入る順番はくじでね。はい、まず男子引いて」
「俺らだけ? 四本しかないじゃん……あ、俺一番だ」
「じゃあトップバッターよろしく。次は女子に引いてもらうから、確認したら戻してちょうだい。いい、同じ番号の人とペアで回るのよ」
「やっぱりそういうこと考えてたか〜。ぶれないねエレナは」
 くじを引きながら、ミリーは苦笑いしました。ところが、はたと何かに気が付き、
「これ、女子一人余っちゃわない?」
「わたしを抜いて四人よ。下調べで一回中入っちゃったし、わたしはいいわ。案内役ってことで」
「とか言って、怖いから入りたくないだけなんじゃねーの?」
 横からレルズが茶化します。
「あら、失礼ね。わたし幽霊も悪魔も殺人鬼も怖くないわよ」
「さ、殺人鬼……」
 彼女が言うと嘘に聞こえないのですけれど、さすがに殺人鬼は恐れた方が良いのではないかと私も思いました。まさか本当に遭遇したことはないでしょうし。
 それはさておき、エレナを除いた男女四人で組み合わせを確認したところで、いよいよ肝試しのスタートです。魔法で小さな炎を出して灯りにするのですが、その真っ赤な火の玉さえ私には未だ怪奇現象のような存在でした。
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