再生可能エネルギー増加に伴う予備力の確保

米国の電力事情やシステムは日本とかなり違う。良い悪いは別にして、正確に理解する事が必要である。
筆者も勉強中であるが、忘備録として幾つかのポイントや用語を。

  • 系統安定化(Balancing)
    • 水力発電は、風力発電の変動性に対する系統安定化(Balancing)に適している。米国西海岸の北部(オレゴン州ワシントン州)は、水力発電源を多く有しているため、同電源(揚水式水力を含む) を利用できない他の多くの地域よりも風力発電の出力変動に対する安定化において有利。
    • PJM管区内では、風力発電の変動性に対する系統安定化のため、複数の揚水式水力発電プロジェクトが実施されている。
  • 予備発電(spinning reserve, ready reserve, operating reserve)
    • 予備発電の利用は、再生可能エネルギーの出力変動への対処に活用される手法である。
    • 米国のすべての電力会社は、ある種の予備電力を維持しており、これらは瞬時に負荷が確保できる瞬時予備力(spinning reserve)、比較的短時間で電力を供給することができる即時予備力(ready reserve)または運転予備力(operating reserve)等で構成される。
  • 天然ガス火力発電
    • 水力発電のほか、短時間での対応能力を持つ予備発電施設として、天然ガス火力が多く活用される。
    • モンタナ州の電力会社、ノースウェスタン社(Northwestern Corporation)は、風力発電に対する系統安定化の予備発電施設 として、50MWのガスタービン発電機を3基導入した。
    • 同社は、国内でも極めて風が強く吹く立地にあり、遠方の供給業者から調整供給量(regulation service)を購入していたものの、購入の継続が困難となったため、自ら風力発電の予備発電容量を確 保するため同施設への投資に踏み切った。
    • 同社が導入した50MWのガス発電機のうちの1基は、他の2基が利用できなくなった場合の予備。
    • なお、モンタ ナ州の同社系統におけるバランシング要件(需給安定化のため確保が必要な予備容量)は、約60MW。

風力発電の出力予測

風力発電は「風任せ」と言いながら、近年では各種のセンサーやコンピュータ化により、昔に比べれば出力予測の精度は上がって来ている。

  • リアルタイム市場と出力予測
    • 地域送電系統運用機関(ISO/RTO7)が運用する市場では、リアルタイム市場において5分間隔で発電事業者が入札を行う制度が浸透してい る。
    • しかし、ISO や RTO の管区以外の地域では、このような 5 分間隔のスケジュー ル決定の制度は存在しない。連邦エネルギー規制委員会(FERC; Federal Energy Regulatory Commission)が最近推進している制度では、RTO 管轄区域外の電力会社は、 15 分間隔のスケジュール提供(既存の火力発電と風力発電の両方)を義務付けている。
    • このような区域に該当する電力各社は、現在同義務の履行に取り組んでいる段 階にある。
    • なお、電力会社は、(15 分)より短い間隔でのスケジュール提出を行うことも可能であるが、RTOの管区以外の電力会社はこれを行っていない模様。
    • なお、風力発電の場合は予測または気象データの報告のみである。風力発電はリアルタイム市場での取引はまだ行われていない。
  • 西海岸
    • 主にワシントン州オレゴン州で運用を行っているボンネビル電力局 (Bonneville Power Administration:BPA)が、1 時間以内、15 分間隔でのスケジュール提出制度を採用している。
    • BPA は、連邦制定法により設立された公共電力事業者で、BPAの系統には、多くの風力発電、および水力発電が統合されている。水力発電は、風力発電の変動性に対する系統安定化(Balancing)に最適の電源であり、BPA水力発電源を多く有しているため、同電源(揚水式水力を含む) を利用できない他の多くの地域よりも風力発電の出力変動に対する安定化において有利である。
  • 将来の対応
    • 将来的には蓄電池による対応も考えられるが、現時点で同技術はコスト的に商業レベルで実現する段階に達していない。
    • このため風力発電および太陽光発電の出力変動性 に対処するには、15 分以下の間隔での予測を行うことが望ましい。
    • 風力発電業者が、 先 1 時間のスケジュール間隔をさらに短縮することで(たとえば 5 分間隔等)、より 確実な供給安定化を実現することができる。
    • RTOやISO に関しては、風力発電の出力変動への対応には、5分間隔の予測(スケジュール提出)で現時点では十分であることが証明されている。

米国電力卸売市場における価格決定メカニズム

自分の為の忘備録の続きです。細かいので、興味の無い人は無視して下さい。

  • 電力卸売市場価格
    • 電力卸売市場価格は、基本的に電力会社による市場への入札に基づき決定される。
    • 同市場は「オークション形式」であり、需給のバランスに基づく「需要曲線(高負荷時ほど取引価格は高くなる)」を基盤に価格が決定され、その価格は「変動費用(燃料費等)」のみを反映したものである。
    • ここで、同レベルの需要を持つ地域内においては、各発電源による出力に応じた「利用可能性(Availability)」が価格を左右する。
    • 例えば一般的に、石炭や天然ガス等の化石燃料は「稼働時間の80%が利用可能」との前提で価格(レート) が算出される。
    • 一方、再生可能エネルギー、特に風力発電の場合は火力に比べて稼働率が低く、「稼働時間の20%を利用可能」として計算される。
      • なお、これらの「稼働率」は米国における一般的な数値であり、地域により異なる。
      • 稼働率は各 ISO や RTO の電力信頼度協議会や NERC(北米電力信頼度協議 会)の承認を受けて決定されている。
    • 仮にオークション取引において価格が$120/MW (日)となった場合、化石燃料発電の場合は$120/MW (日)の 80%を、風力発電ではその20%を回収することとなる。
    • この価格決定メカニズムでは風力発電の取引価格が火力発電等と比較して安くなるため、経済合理性の観点から、風力発電から調達できる容量があれば優先的に取引される仕組みとなっている。
  • 容量市場
    • 一部のRTOやISO では、容量市場(Capacity Market)を運営している。
      • 容量市場を運営しているISO/RTO : PJM、NYISO、ISO-NE
      • 容量市場を運営していないISO/RTO : ERCOT、MISO
  • 投資費用の回収
    • 発電開発事業者は、この(変動費用のみを反映した)卸売り市場の価格メカニズムをもとに、初期投資費用を含む総コストの回収、および収益性を踏まえたうえで、プロ ジェクトの実現可能性を判断する。
    • 風力発電開発事業者は、PTC 等の再生可 能エネルギーに対するインセンティブも加味した上で採算性を決定している。
    • 電力小売市場において利用者から初期投資費用を別途回収できる場合は、これも考慮する。
    • このように開発事業者は、卸売、小売市場において相対的に収益性を分析した上で、事業の実現可能性にかかる意思決定を行う。
  • 市場原理を優先
    • FERCでは、市場原理に基づいた価格決定メカニズムこそが消費者利益と生産者のビジネス機会の双方にとり最善であると考えており、できる限り市場原理を優先するアプローチをとっている。
    • 卸売市場価格(タリフ)は、各 RTO/ISO の信頼度評 議会(Reliability Council)により承認され、さらに FERC がこれを承認する。
    • また、各地の北米電気信頼度協議会(NERC; North American Electric Reliability Corporation) の承認も要求される。

FERC 指令 764

自分の為の忘備録の続きです。環境省が2012年12月にFERCに面談したときの資料を参考にしています。細かいので、興味の無い人は無視して下さい。

  • 再生可能エネルギーによる発電施設開発にかかる見通し
    • 地域送電機関(RTO)内における透明性のある市場アプローチの導入が、再生可能エネルギーによる発電施設開発にかかる見通しを容易としてきた
    • RTO/ISO がない地域においては、再生可能エネルギー源の相互接続(系統統合)にかかる見通しを改善するための環境整備が必要である。
    • このため FERC は、RTO/ISO 対象外の地域において、信頼性の高い再生可能エネルギーの系統統合をより容易とするツールを提供 するための新しい規則「FERC 指令 764」を制定。
    • 同規則はFERC管轄区全体に適用されるが、特に RTO/ISO 対象外の地域における「再生可能エネルギーの統合」を促進する目的で導入したものである。
  • 稼動スケジュール報告(予測)時間の短縮
    • 米国では特に、MISO 等の既存の RTO/ISO に取り込まれていない西部の市場におい て、大量の風力発電が送電系統に統合されつつある。
    • このため「FERC 指令 764」では、従来は 1 時間毎であった発電事業者に対する稼動スケジュール報告(予測) を 15 分間隔に実施するよう義務付けた。
    • 従来これらの地域で行われてきた 1 時間毎の予測では、実際には90分前のデータに基づきスケジュール決定を行うことも少な くなく、風速と風向が頻繁に変化する環境下で正確な予測が困難な状況であった。
    • したがって、「FERC 指令 764」ではより正確な予測が行えるよう、間隔を15 分に短縮した。
  • 予測データの精度向上
    • 系統運用者にとって、各風力発電ファームの運用者は、現場の実情に最も近い 正確なデータを保有する重要な情報ソースでもある。
    • 「FERC 指令 764」により、変動しやすい風力発電や現場の気象データをより頻繁に提出するよう発電事業者に求めることで、「市場運営者」は該当地域のすべての風力発電ファームの状況をより正確に予測し、最も効率的で低コストな系統運用につなげることができる。
    • また、「FERC 指令 764」において発電事業者に対し、国立海洋大気庁(NOAA; National Oceanic and Atmospheric Administration)へ同様のデータ提出を勧めている。
    • NOAA は、 このデータを活用し、米国全体のより良質な風の予測開発を実現しようとしている
    • これにより、直近の データに基づく精度の高い予測が可能となり、系統運営者は予備容量の必要性をより正確に計算できるようになる。

テキサス州に於ける風力発電状況

これも、自分の為のメモです。環境省が2012年12月にERCOTと面談したときの資料(報告書)を参考にしています。

  • 「ERCOT」
    • Electric Reliability Council of Texas(テキサス電気信頼性評議会)の略
    • テキサス州およびその近辺をテリトリーとするRTO
    • 顧客数:23,000,000
    • 総配電網距離:40,500 miles(テキサス州の85%)
    • 管轄内の発電所数:550個所
    • 発電ミックス:天然ガス:40%、石炭:40%、原子力発電:10%、 風力発電:10%
  • 予備発電の制度
    • ERCOT は、「ノン・スピニングリザーブ」と呼ばれる予備発電の制度を導入している。
    • 同制度では、「普段は稼働していないが、必要になった際に 30 分以内で起動すること が条件とされる予備発電」の確保を発電事業者に求めている。
    • これらは通常、天然ガス による発電施設である。しかし、風力発電容量が 15GW に達した場合、ノン・ スピニングリザーブ10 分以内に起動出来るような制度が必要となる。
    • つまり、現状の風力発電比率 10%のレベルであれば、予備発電は 30 分以内の起動で対応できる が、これが仮にピーク時の電力需要の 20%の電力を供給する場合、10 分以内の起動 が必要となる。
    • アンシラリーサービスを増強するために、ERCOT ではノンスピニングリザーブの量を増量してきたが、起動時間を既存の 30分から10 分以内に短縮する制度の改正は行われていない。
    • 古いスチーム型のシステムを除いて、ガスタービンシステムの多くは5分以内の起動が可能である。つまり、技術的には不可能ではない。
    • 起動時間を短縮する為には、ERCOT が発電所制度としてより短時間での起動を義務化する必要がある。
    • 稼働中(オンライン)の設備により補填することも可能である。

  • 送電混雑解消を目的としたCREZプロジェクト
    • ERCOTでは数年前に、風況にかかる大規模な調査のもと、「Competitive Renewable Energy Zone (CREZ)」を特定した(上図で色の付いている西部のエリア)。
    • 同調査は、テキサス州西部における強風を効果的に活用するために実施した。
    • この結果に基づいて、約7,000,000,000ドルをかけた送電線インフラの改善に向けた大規模なプロジェクトを実施中である。
    • 同プロジェクトは、風力発電で生産された18GWの電力を テキサス州西部から東部の都市部に送電することを目的としている。
    • 既存のERCOTの送電容量は約9GWであるため、これを倍増させることとなる。
    • 同プロジェクトは、2013 年末に完了する予定である。
  • 安定性
    • テキサス州西部で発電された大量の風力発電の電力を、東部の都市部までの長距離を送電する際に生じる周波数の変化のため、安定性の問題が付きまとう。
    • 上記の調査の結果、ERCOTでは風力発電容量が約15GW(ERCOTにおけるピーク時の需要の約20%に相当)に到達すると、「アンシラリーサービスによる補填が必要となる」ことが判明。
    • この際に必要となるのが、安定性の分析(Stability Analysis)である。
    • このため ERCOTは最近、リアルタイムで安定性の分析を行う取り組みを始めた。これまで ERCOT ではリア ルタイムのデータを用いてこなかったため、保守的な分析をせざるを得ず、送電上限を必要以上に低く設定するといったエラーが生じていた。
    • しかし最近では、リアルタ イムの分析を行うことにより、より実際の状況が反映された正確な予測が可能となった。これにより、送電容量にして約300~400MWの増量に成功した。
  • 送電混雑
    • 送電混雑を避けるためには、「風力発電の出力抑制(dispatch wind down)」を行う必要があり、このためにも、風力発電の予測は必要不可欠である。
    • ERCOTではこの風力発電と負荷の両方の予測を重要視している。
    • このため ERCOTでは、各風力発電ファームに対して、5分毎に気象情報を提供することを義務化している。
    • これにより、さらに正確な風力発電の予測が可能となる。
    • また気象情報に加えて、タービンの稼働状況、各発電所のメンテナンス状況等の運用計画(Current Operating Plan)の報 告も義務付けている。
    • これにより、特に翌日の運営状況の把握に注力しつつ、先7日間に亘る運用状況を把握することで、正確、かつ無駄のない供給バランスの維持が実現する。
  • 送電網整備と予測精度向上の効果
    • 風力発電の出力抑制(dispatch wind down)」は、過去数年の間に減少傾向にある。(以前は頻繁にあった)
    • これは、ERCOT が送電線の整備を進め、送電混雑のポイント(congestion point)の削減に努めてきたことが理由のひとつである。
  • テキサス西部の風力発電地帯
    • テキサス州では、メキシコ湾から吹く風と州西部から吹く風の特質が異なるため、(各地域に複数の風力発電施設を運用することによる)「ならし効果」がある程度得られている。
    • CREZ の大部分はテキサス州西部に位置している。
    • テキサス州西部の殆どは砂漠であるため、同州東部と比較して土地の価値が低い。
    • このため、立地を巡る問題も生じていない。
    • さらに、テキサス州西部は風力発電施設により経済的恩恵を受けているた め、地元住民も風力発電を好意的に受け止めている。
    • 一方で、都市部であるテキサス 州東部に近づくに伴い、立地等への反対意見が目立つ傾向にある。
    • 風力発電が盛んなテキサス州西部においては、主な経済効果は風力発電によりもたら されるため、発電施設の建設終了後の経済効果も期待できる。
    • 例えば、風力タービン が建設された土地の所有者は借地料(Royalty Fee)として風力タービン一基につき年間 4,000 ドル程度の収入を得ている。広大な土地所有者の場合、高額な収入を得ることが出来る。

ERCOT(テキサス州)における「価格設定方法」と「送電混雑コスト」

自分のメモが続きます。環境省が2012年12月にERCOTと面談したときの資料(報告書)を参考にしています。

  • 価格設定方法
    • ERCOT では、LMP(Locational Marginal Pricing、地点別限界価格)と呼ばれる価格設定方法を採用している。
    • 従来、ERCOTでは、負荷ゾーン価格(load zone price) 制度と呼ばれる、特定の地域(ゾーン)内における全ての電力価格の平均値により価格が算出される方式を採用していた。
    • これをERCOTでは近年、接続地点(ノード、node)単位で卸売価格を決定する方式へと転換した。
    • 同方式では、送電混雑がない場合は、価格曲線に基づき全ての発電事業者の卸売価格は同額になるが、送電混雑が発生し、安価な電源からの電力供給が出来なくなった場合は、ノード別に送電混雑費用や限界損失費用を考慮した卸売価格が決定される方式である。
    • 本方式のもと、 ERCOT が各発電事業者単位で入札価格を決定し、FERC の承認を得ている。
    • 同方式のもと、発電事業者は独自のリスク要素を考慮の上価格設定を行うほか、「価格変動」にかかるリスクヘッジのため、長期的な相対契約締結や一日前市場での取引を活用している。

(下図は米国でLMPを採用しているISO/RTOの地域)

  • 送電混雑のために売電出来ない場合の補償
    • ERCOT では、送電混雑のために送電することが出来ない事業者に対する特別な補償は支払っていない。
    • 事業者は、価格曲線に基づいて事業者自らが判断の上決定した価 格で取引を行うため、事業者は価格提出時に当然、(出力抑制への)リスクを想定したうえで利益が出るような価格設定を行っていると想定している。
    • なお、従来の負荷 ゾーン価格制度が採用されていた当時は、発電事業者に出力抑制を要請する際に補償 を支払うという計算式(formula)が存在していた。
    • しかし、価格曲線を基盤とするノード方式に転換した現在(価格曲線が出力抑制コストやリスクも反映するという考えのもと)、このような計算式は利用されていない。