どうやら二次元に行った人がいるようだ。「けいおん!!」OPとテロップから見えるもの

けいおん!!」では、いわゆるオタクが「好きなものの追求」と、それにも増した「嫌いなものの排除」が徹底的になされているというのは、誰に言われるまでもなく自明の事として皆さんも感じていることでしょう。その代表例が、男性キャラの不在。「俺の嫁を奪う敵」と扱われてしまう男性キャラは、家族・店員・教師くらいでしか本編に登場しません。つまり、あのアニメは「私たち」の及ぶ範囲しか描かれず、「他の誰か」はその存在すら許されていない。これが特徴と人気の要因のひとつなので文句はないですし、そのことをガタガタ言っても埒が明かない。本編を見ている視聴者は、さしずめ透明人間にでもなって彼女たちにばれない様に「日常」を覗き見させてもらっているような状況にあるわけです。時折描かれる、やたらフェティッシュなカットは我々の煩悩の現れみたいなものなのでしょう。
そんな徹底した作りこみがなされている作品だからこそ、違和感を覚える場面があります。それが、OPのグルグルです。「あれはいったい誰が撮っているんだ?」まずは、それについて考えて見ましょう。


以下、この文章を読むときは、あなたの中の気持ち悪い部分を想像しうる限りMAXにしてお読みください。大丈夫!誰も見てませんよ。自分は気持ち悪くないと仰る方は、文章の後に「(笑)」を付けて読んでくださいね。


まず1期のOPをおさらいしておきましょう。
1期にはOPが2種類(梓いる/いない)ありますが、完成型と思われる9話以降(5人ver.)で検証します。注目していただきたいのは、全員が目線をカメラに向けているシーンです。

全員登場するが目線がこちらを向いてないシーン(写真を撮る・部室で駄弁る・海で遊ぶ・川の飛び石・自転車・踏み切り・走る)はあなたが覗き見したシーンです。
目線がカメラに向いているシーンでも、キャラクターが個々に登場する場面は、他のメンバーに向けたor撮ったと考えられますから無視していいでしょう。
全員が登場し目線がカメラを向いているのは、演奏しているシーン(部室・正門前)と、レンガの建物でポーズをとるシーン(梓はいませんが、変更前から継続で使われたカットなのでこの場合は4人)の箇所になるでしょうか。しかし、これらのシーンはずっと同じ構図。つまり固定カメラで撮ったと考えられますから、撮影者が不在でもなんら問題ないでしょう。つまり、1期のOPには「私たち」しかいないと考えられる訳です。


続いて、2期のOPです。
忘れないように言っておきますが、あなたの中の気持ち悪さを全開にしてご覧ください。

これも1期と同じで、目線が向いてないシーンはあなたが覗き見したもの。目線が向いているが、個々に映っているシーンは他の部員に向けたor撮ったと場面と考えられるので問題ありません。
2期でも「私たち」以外の存在が排除されている好例として挙げられるのが、『制作 京都アニメーション』の辺りの梓と憂・純のシーンです。これ微妙に背景がずれてますよね。つまり、「これ交代で順番に撮ったシーンなんじゃね?この後、憂と純で撮るんでしょ?」みたいな事が容易に想像できる作りになっているわけです。他にも個々の演奏のシーンでは、後ろに譜面台があったりで流れとは別に撮影されたと思わせるような仕掛けがされています。これだけ徹底されているにも関わらず、謎の撮影者、つまり「他の誰か」の存在を想起させる場面があります。それがグルグルです。
5人全員が映っていて視線を向ける場面は、カメラのフレームに収まっている箇所(写真撮影なのでここは無視できます)を除けば、グルグルのところだけです。1期の演奏シーンは固定カメラによるものでしたが、2期は動く。しかも高速で円を描いて。
ああいったシーンを撮影するには、レールを敷いてリモコンか何かでカメラをグルグル廻すか、人が高速で正確な円を描きながら走って撮影する必要がある。
「レール説」なら紬がいるのでレールを準備できないことはないかもしれない。「走って撮影説」も憂あたりなら「お姉ちゃーん!」とか言いながら正確に高速で走り回れそうな気もする。「トンちゃんの背中にカメラ説」も考えたのですが、高さが足りないし、そもそもOPには水槽が映ってないので違う。一見紬がレールを用意したのも、憂が走って撮ったのも行けそうなのですが、「私たち」しかいない世界であれを撮影しようとすると、どうしても障害になるものがある。


オルガンが邪魔になるんです。


あの位置にオルガンがあると、レールならカメラがガシガシぶつかって画面がブレる。憂なら腰がガンガンぶつかる。本編で憂が腰痛に悩まされている描写はありませんから、どっちも厳しい。しかし、「私たち」しかいない世界で、無理なくあの映像を撮れる唯一の人物がいる。


「あなた」です。


あなたはあの世界でその実体を持たないものの、覗き見することが許されている存在です。実体がないのだからオルガンの位置なんて問題ないはずです。
つまり、あのグルグルの場面はあなたの思念が軽音楽部のメンバーの周りをクルクル廻って撮ってくれ、私たちに見せてくれた映像なのです。

ありがとう。そして、おめでとう。あなたの思いは二次元に届きましたよ。あなたの姿を彼女たちは見ることが出来ないかもしれませんが、その存在には気づいているようです。その現われが、あなたへ向けた視線と笑顔なのです。おめでとう。本当におめでとう。


もう気持ち悪さのボリュームは正常値に戻して大丈夫です。お疲れ様でした。
排除が徹底されている作品だからこそ、誰が撮ってるか分からないグルグル映像にキャラクターが視線と笑顔を向けることにどうも違和感があったので、以前このブログでも書いた「けいおん!!」が視聴者の事をかなり意識して作られているという持論でもって、視聴者が覗き見していることにキャラクターが気づいている・バレているという風に飛躍させてみましたが如何だったでしょうか。

あと1ヶ月くらいでOPは新しいものに変わるんでしょうか?よく分かりませんが、新OPになった場合、それは誰が撮影したものなのかを意識して考えてみるのも楽しそうですね。



続いての冗談は、テロップが入る時間について。
ここで言うテロップは「最近インターネット上での〜」の文言で始まるものです。
大抵の場合はアバンパートかAパートの冒頭で流れるもののように思いますが、「けいおん!!」では流れる時間が実にバラバラ。「他のアニメも流れる時間はバラバラじゃね?」という意見は無視して先に進めます。

OP終わりのCM明け(Aパート開始)を基準にして、何秒後にテロップが流れたかを各話毎に書き出します。

  • #01 1:25
  • #02 0:05
  • #03 1:38
  • #04 1:32
  • #05 1:53
  • #06 1:48
  • #07 4:13
  • #08 4:59
  • #09 0:49(単位は全て「秒後」)

大雑把に計算してるので誤差はあるでしょうが、バラバラなのはお分かりいただけると思います。
テロップの先頭が画面に入って、文末が流れきるまで約25秒あるのですが、その間、画面では何が描かれていたかを適当に書き出します。

  • #01 部室からクラス発表へ向かう3年生の4人・分け目を逆にした唯
  • #02 「大掃除をします」の澪アップ・唯と律が肩を組んで「掃除が嫌いだー!」
  • #03 ギターを持った律・ギー太が浮気したと泣く唯
  • #04 新幹線車内で、澪が和に助けを求める
  • #05 純がパンでバッティングポーズ
  • #06 唯の足湯
  • #07 回想、澪が曽我部先輩にときめく
  • #08 ロリ唯がクレヨン舐めようとする
  • #09 授業中寝てる唯・律にほっぺたふにふにされる唯

これらの場面って、結構「おいしい場面」ですよね。所謂、MAD動画の素材に使いやすそうな。
このテロップは映像データに埋め込まれた情報なので、完璧に消すのはほぼ不可能なはずです。下だけカットしたり、モザイクをかけたりも出来るでしょうが多分面倒くさいですよね。
つまり、このテロップが流れる場面は「そっとしておいてほしい」場面なんじゃないかと思うわけです。流さなきゃいけないテロップをただ流すのではなく、作品にプラスに作用するような使い方をしているんじゃなかろうかと。
「あれは販促の為の制作による陰謀だ!」みたいな奇特な意見の方を除いて、あのテロップが流れるシーンは制作サイドの「ここは触らんといてほしい」というメッセージだという電波を受信してみるのも、なかなかオツなもんじゃないかと思います。


1期では「私たち」しか描かれず、しかも挿話毎に話をカットして上に順に重ねていった結果としてラストのライブが描かれた、しかし、ただ上に積み上げているだけだから「物語がない」という意見が出たという感じでしたが、2期では「他の誰か(但し、嫁を奪う敵ではないこと)」の存在が段々と許されるようになってきました。それが、曽我部先輩や隣のおばあちゃん、はたまた進路のような外部世界とのパイプの役割を担う人物や事柄です。これらが巧く配置されていることで挿話が分断された積み上げ型ではなく、繋がりを持った横並びの一連の流れとして描かれるようになった。その結果、そこに物語が生じる余地が生まれたという印象です。これに加え、覗き見している我々の存在に配慮しつつも、守るべきところは守る作品作りがされている以上、「けいおん!!」の人気は揺るがないでしょう。視聴者に新たな嫁が生まれない限りは。