須永朝彦の埴科便り

2018-04-20

《新編日本幻想文学集成》完結

 過ぐる3月末に国書刊行会の《新編日本幻想文学集成9 鴎外の系譜》が刊行されました。
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 中島敦矢川澄子 編)、神西清池内紀 編)、石川淳池内紀 編)、芥川龍之介橋本治 編)、
森鴎外須永朝彦 編)の五作家を収録、第一囘配本が2016年6月でしたから1年9箇月を經て無事
完結をみたのであります。〈新編〉と冠してゐるからには資(もと)となる叢書がある譯で、1991年
3月より數年に亙つて刊行された《日本幻想文学集成》全33巻(一作家一巻)が其れです。當時の
内容見本には「全33巻+別巻1」とあり、其の別巻は「古典編 須永朝彦編訳」となつてをりますが、
途中で書肆編集長の方針が「別巻は廃して代りに三巻本の現代語譯」と變り、全く別の企畫として
刊行をみたのが私の編譯に成る《日本古典文学幻想コレクション》全三巻であります。

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《日本幻想文学集成》全33巻の第一囘配本は私が擔當した『1泉鏡花』と橋本治さん擔當の『2三島
由紀夫 』でした。鏡花集は重版が確か6刷ぐらいゐまでゆき、礒崎純一編集長にも私にも豫想外の
嬉しき出來事でありました。

 元版は収録作家を故人に限定してゐたので、《新編》刊行に際しては其の後故人となられた4人の
方(安部公房倉橋由美子中井英夫日影丈吉)を新たに加へて第一巻が編まれてゐます。
 實は編集長より依頼を受けて、私は元版も新編も全巻の校閲に從事してをります。校閲は讀んでは
ならないのが鐵則とされてゐますが、其れは夫れとして、二度に亙り明治・大正・昭和を代表する
作家たちの秀逸短篇に接する機會に惠まれた譯で、得難き體験であつたと顧みられます。
 

2018-04-14

忝し、御差し入れ

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「膝に痛みを抱へての買物は大変であらう」と〈ものぐさセット〉と稱して今月も菅原多喜夫さんから
食品の御差し入れをいたゞきました。好物の〈ちりめん山椒〉や〈蓮根牛肉〉をはじめレトルト食品
浅蜊真空パック、乾物類、走りの筍・柑橘・根菜……等々、加へて煎茶焙じ茶・紅茶も。暫くは
買物に出かけることなく凌げさうです。昨日は頂いた蓮根拍子木に刻み金平にして食しました。
 多喜夫さんは四谷シモンさんのアシスタントマネージャー、來月の《エコール・ド・シモン人形展》
開催を控へて御多忙でせうに、斯樣なお心遣ひをいたゞいては罰が當りさうです。
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 お茶と申せば、森野薫子さんからも京都・一保堂の焙じ茶と莖茶を頂戴しました。私は臺灣産の凍頂
烏龍茶が好きで、東京在住時は日本橋高島屋池袋西武などで量り賣りのものを購入して愛飲してをり
ましたが、當地へ移つて以來、入手が困難となりました。記憶は曖昧なのですが、多分左樣な事どもを
薫子さんに話したのだと思ひます。その後、神戸南京街の茶舗で此のお茶を需めて送つて下さるやうに
なりました。今月初め「そろそろ凍頂茶を送りませうか?」といふ有りがたき御來信がありましたので
殘量を確かめたところ、數ヶ月は保ちさうなので、折から焙じ茶が切れてゐたものですから、香り高き
一保堂の其れをお願ひしたのであります。
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 私は泌尿器系疾患も抱へる身ゆゑ、水分の過剩攝取は控へるべきなのですが、煎茶焙じ茶・紅茶・
凍頂烏龍茶、そして珈琲、此れを毎日すべて飲まないと片づかない氣持になるのです。

 左膝關節炎は未だ快癒の曙光も見えません。
 外氣温は關東並に上がつてきましたが、朝晩は冷え込むので炬燵が仕まへません。實際座椅子に背を
凭れさせて足を炬燵の中に投げ出しておく姿勢がいちばん樂なのです。痛くても歩かなければ駄目だと
言はれたので、堪(こら)へつゝ散策に出たりしてゐます。櫻は散り果て、花木は木蓮・花蘇枋・椿・
梨・海棠・ゆすら梅・雪柳などが眞つ盛りです。追つゝけ鬱金櫻も咲き始めることでせう。

 *いやはてに鬱金ざくらのかなしみの散りそめぬれば五月(さつき)はきたる  北原白秋

2018-04-09

展覧会情報を二つ〜金子國義さん/四谷シモンさん

 KUNIYOSHI KANEKO EXPOSITION 夢の中
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 第37回エコール・ド・シモン人形展
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 露臺で麝香水仙ムスカリ)が咲いてゐます。
 葡萄のマスカット、瓜科のマスクメロンと同じやうな香りがします。
 源を辿ると麝香猫や麝香鹿の香腺に行きつく譯でせう。
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2018-04-08

悲傷の提琴王子

 昨秋のこと、YouTubeヴァイオリンの獨奏曲を探してゐましたら、眉目秀麗なる
若者の演奏が纏めてUPされてゐるのに出遭ひました。肖像寫眞は鮮明なのですが、
すべてモノクロームで今時の撮影とは趣が異なります。
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 演奏家の姓名はPeter Deltchev、名の發音は獨逸語圏ではペーター英語圏ならば
ピーターでせうが、姓から推量すればスラヴ系ですね。 インターネットで檢索した
ところ、歐文の記事が少々見つかつたものゝ大方はYouTube絡み、あとは同姓同名の
別人の記事ばかりでした。
 獨力では此れが限界ゆゑ、クラシック音樂に滅法詳しくていらつしやる菅原多喜夫
さんに御教示を仰いだところ、次のやうな御返信を頂戴いたしました。

 「お尋ねのヴァイオリニストは、ブルガリア出身のペタル・デルチェフかと思われ
ます。名前のローマ字表記は、ドイツ語圏向けのものなのではないでしょうか。
デルチェフの ローマ字表記は、他にDelcevもあるようです。
  1967年68年と続けて2回、ジェノヴァで開催のパガニーニ・コンクールで第4位と
なっており、その頃17歳〜18歳だったようですので、1950年頃の生まれでしょう。
  その後ブルガリアで活動していたようです。その後、イタリア亡命し、2004年
以降はヴァイオリンを演奏していないようです。頑健な人ではなかったようです。」

 西歐世界を知つて社会主義政権下の母国を捨てたのでせうが、西歐で成功を収めたと
いふ形跡もありません。此れに加へて「その後の消息は杳(えう)として知れない」と
いふことになれば、シュビンの、といふより森鴎外譯の中篇小説『埋木(うもれぎ)』の
主人公を髣髴とさせる悲傷の樂人として記憶されたかも知れません。然し引き續き畫像
などを探しておりましたら、「2003 in Sofia」といふキャプションの附いた肖像寫眞を
發見、我が妄想も爰にて斷たれたのであります。

https://www.youtube.com/watch?v=eXlLXqZaY48
ジョルジュ・ブーランジェ Georges Boulanger「Avent de」

https://www.youtube.com/watch?v=zt-LcpJZjh8
ヤコブ・ガーデ「ジェラシー」Jealousy

https://www.youtube.com/watch?v=KPh38nKMK0w
ショパン Chopin「ノクターン Nocturne」

https://www.youtube.com/watch?v=UqHAIuuIiXs
サンサーンス「序奏とロンド・カプリチオーソ」
Camille Saint-Saens「Introduction and Rondo Capriccioso」

https://www.youtube.com/watch?v=x_Cj8Tc_w8s
ブラームス「匈牙利舞曲第五番」
Jahannes Brahms「Ungarischer Tanz 5G」

https://www.youtube.com/watch?v=stEIMxWat1c
パブロ・サラサーテチゴイネルワイゼン」ジプシーの唄
Pablo de Sarasate「Zigeunerweisen」

 2003 in Sofia
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2018-03-27

忘れえぬ廿世紀後半の櫻歌

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 妙子の櫻

さくらばな咲きしときこゆ猫よりも怠りふかき目をわれは擧ぐ

薄黄(はくわう)のさくら湖岸に咲きたればまぶたに塗りぬ油一しづく

かかるさくらありしとおもへ遠草野「平野夕日」といふ櫻ばな


 智惠子の櫻

さくらばな陽に泡立つを目守(まも)りゐるこの冥き遊星に人と生まれて

夕櫻つひあはざれば夢の書に芽吹けるものの病むごとく在り

今日萬朶さくらは殘りたちまちに馭者の座若く風めぐるかな