十五夜&受贈本

 新暦十五夜太陰暦八月十五日の夜)、白露(二十四節季の一)で、候鳥の交替季でもあります。露臺の矢筈芒(ヤハズススキ)も出穂(しゆつすい)してをりますが、此れを剪るのは忍びないので、近所の藪へ調達に。まづ心當たりの近場の藪へ出向きましたが、此處の芒は未だ穗を出してをらず、次のお目當ての場所は藪が根こそぎ取り拂はれ更地と化してゐるではありませんか、致し方なく三番目の藪へ。襲ひ來る藪蚊を拂ひ除(の)けながら、人の背丈よりも高く蔓延(はびこ)る蔓草や渡來植物などの雜草を掻き分けて何とか採集、地味が良いのか些か育ち過ぎにて猛々しい尾花ですが、更にほかを當たる氣力はもう無かつたので、此れを活けて供花(くげ)としました。
 朝は陽が射したのに10時頃から雲が擴がり、午からは涼し過ぎる強風が吹き始めたので、お月見は出來ないかなと思つたのですが、14時を廻つたらまた晴れて來ました。豫報では夜遲く降雨とのこと、晴天が何時(いつ)まで續くか、ひよつとしたら滿月が仰げるかもしれません。

 露臺の矢筈芒

 十五夜の供花

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 長いこと紹介を怠つてゐましたので、受贈本の書影を掲げます。

泉鏡花『初稿 山海評判記』別冊解説附き*国書刊行会
 今年目にした書物の中で最も美しい一冊(裝幀は柳川貴代さん)であります。礒崎編集長(現在は出版局長)の要請に應へて、企畫段階で初出紙(時事新報)125囘分のコピーを貸し出したのですから、私も些かの貢獻をしてゐるのですよ。

☆ハンス・へニー・ヤーン『岸辺なき流れ』上下二冊*国書刊行会
 待つこと久し、待望の邦譯完本であります。

☆柿沼裕朋・編著『版と画(え)の間(あわい)』*平凡社
 編者眷戀の昭和戰後〜平成を代表する6人の版畫家(駒井哲郎・加藤清美・坂東壯一・日和崎尊夫・柄澤齊・菊池伶司)の代表作を収録、渾身の見事な解説が附されてゐます。

南條竹則・譯『完訳 エリア随筆 Ⅰ』『完訳 エリア随筆 Ⅱ』*国書刊行会
 南條さんの邦譯、藤巻明さんの註釋・解説、いづれも入魂のお仕事です。全4冊の刊行ゆゑ、完結の折に更めて紹介致しませう。

東雅夫×下楠昌哉:責任編集『幻想と怪奇の英文学』*春風社
《ジェイムズ・ホッグからアンジェラ・カーターまで。気鋭の英文学者らによる、本格的な研究・批評の集成!》と帶にあります。實は編者の下楠さんが「美しき吸血鬼―須永朝彦による西洋由来の吸血鬼の美的要素の結晶化」と題して、私の吸血鬼譚(短篇といふより殆どが掌編)を採り上げて論じて下さつてゐるのですが、何分20代前半の若書きなので嬉しさよりも面はゆさが先にたちます。

高原英理・編『リテラリーゴシック・イン・ジャパン』*ちくま文庫
 此れは1月に出たアンソロジー、私の掌編も採つていたゞいたのに紹介が遲れて申譯なく存じます。すぐに重版された由、何よりです。688頁の大冊です。

間村俊一句集『抜辨天』*角川学芸出版
 裝幀家として知られる間村さんの第二句集。何と活版印刷ですぞ!

☆レオ・ベルッツ/垂野創一郎・譯『ボリバル侯爵』*国書刊行会
ナポレオン戦争時代のスペインを舞台に、謎の侯爵、さまよえるユダヤ人、青年将校らが織りなす宿命の物語》と帶にあります。

☆林美登利人形写真集『Dream Child』*アトリエサード:發行、書苑新社:發賣
 人形:林美登利×写真:田中流×小説:石神茉莉のコラボ作品集です。

東雅夫・編『明治の怪談実話 ヴィンテージ・コレクション』*メディアファクトリー
 昭和篇・大正篇に續く第三弾。

東雅夫・編『宮沢賢治怪異小品集 可愛い黒い幽霊』*平凡社ライブラリー
宮沢賢治の〈常識〉を覆す、幻視と恐怖と強迫観念に満ちた、文豪商品シリーズ、第三弾》と帶にあります。

☆「幽」vol.21*10周年記念號、特集〈怪談ベストブック〉*KADOKAWA

☆俳誌「白茅」3*白茅俳句会
 昨年創刊された俳句誌、外部の詩人や評論家などに稿を求めるなど意欲的な編集。此の號には私の舊稿「森茉莉譯著『マドモアゼル ルウルウ』奇談」が掲載されてゐます。

☆「ユリイカ」9月臨時増刊号〈総特集☆イケメン・スタディーズ〉*青土社
 私などのところにも「400字詰め30枚ほど、エッセイを」と原稿の依頼があつたのですが、抑(そもそ)もイケメンなる語に些かの反感を抱いてゐたので、また斯樣なテーマで30枚も書くなど氣の遠くなる話なので、お斷りしたのですが、「内容も枚數も御自由に」と仰有るので、「それでは5、6枚」と應じて、「世々の男色(なんしよく)――戦国時代まで」と題して舊著『美少年日本史』の摘要のやうなものを7枚か8枚くらゐ歴史的假名遣で書きました。送られて來た雜誌をぱらぱら繰つて見ましたら、私の頁だけ黒々と漢字が犇めいてゐたので唖然としましたよ。目次で執筆者を見渡すと知る方は皆無だつたので、これまた唖然……、昔の人となりにける哉。

『初稿 山海評判記』『岸辺なき流れ』『版と画の間』に就いては、いづれ更めて幾許かを記す所存、また下楠昌哉さんのお仕事に就いてもきちんと記すつもりであります。

午後6時半過ぎ、東山の上に仲秋の月が昇りました。

初稿・山海評判記

初稿・山海評判記

岸辺なき流れ 上

岸辺なき流れ 上

岸辺なき流れ 下

岸辺なき流れ 下

幻想と怪奇の英文学

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完訳・エリア随筆 I

完訳・エリア随筆 I

完訳・エリア随筆II

完訳・エリア随筆II

Dream Child (TH ART Series)

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幽 Vol.21 2014年 08月号 [雑誌]

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ユリイカ 2014年9月 臨時増刊号 総特集◎イケメン・スタディーズ

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