貧乏人のインフレ率

コメント欄での指摘を受け、政府統計の「勤労者世帯年間収入五分位階級別中分類指数(全国)」を基に年間収入五分位階級別の消費者物価指数データから年間収入五分位階級別の前年同月比のインフレ率及び2005年を100とした物価指数をプロットしてみた。

年間収入五分位階級というのは,世帯を年間収入の低い方から高い方へと順に並べて,世帯数を5等分したグループのことで,収入の低い方から順にI,II,III,IV,V階級となっている。

http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020102.do?_toGL08020102_





2007年4月頃と2011年1月頃を比べるといわゆる消費者物価指数(全体平均)はほぼ同じであるが、年間収入五分位階級別に見た場合はかなり様相が違う。

なぜこうなるかについての一つの説明としてはバイフレーション(biflation / mixflation)の英語版Wikipediaが分かりやすいと思う。what_a_dude様が翻訳されていたのを引用させていただくと、

バイフレーション(時にミクスフレーション)はある経済圏においてインフレーションとデフレーションが同時に発生している過程を示す表現。この単語ははじめ、フェニックスインベストメントグループの上席金融アナリスト、オズボーン・ブラウン博士により紹介された。バイフレーションが起こっているときは、コモディティや経常的に消費される資産価格が上昇(インフレーション)する一方で、同時に、負債を利用して購入される資産の価格は低下(デフレーション)することを指す。

全ての資産の価格はそれらに対する需要とそれらを買う中で循環するマネーの量によって決定される。

バイフレーションでは、経済は中央銀行によって注入された有り余るマネーによって加熱される。最も本質的なコモディティ資産(食糧、エネルギー、衣服)は本質的であるがゆえに高い需要が続くことによって、それらの価格は増加したマネーによって希求され、価格が上昇する。これらの本質的な資産を購入するためのコストが増加するのがバイフレーションのインフレ的側面である。

バイフレーションのもう一方では経済は失業の増加と、購買力の低下によって調節されている。その結果、増加したマネーは本質的な資産に集中し、本質的ではない資産から逃避する。負債に基づいた資産(大きな住宅、ハイエンドの自動車、その他の典型的な負債に基づいた資産)は更に本質的でなくなり、需要は更に低下する。その結果、それらの価格はそれらを希求するマネーの量の低下により下落する。これらの資産を購入しようとするためのコストが低下していくのがバイフレーションのデフレ的側面である。
http://d.hatena.ne.jp/what_a_dude/20110215/p1

ということ。


もっとも日本は世界的なコモデティ価格の高騰とほぼ同時期に進行した円高の恩恵を受け、他国ほどコモデティ価格が名目で上がってないので影響は比較的軽微だったのかもしれない。英国や米国で同じような図を作ってみようと思ったがデータがどこにあるか良くわからなかったので、保留中。

英国統計局では以前「Personal Inflation Calculator」というものを用意し、各個人の消費内容によって実際に各人が直面する消費者物価指数が計算できるようになっていたが、いつの間にか無くなっていた。ただ、同じものを今でもBBCのサイトで使うことができる。


Personal Inflation Calculator
http://news.bbc.co.uk/1/hi/business/7669072.stm


色々試した感じではやはり貧乏人のインフレのほうが金持ちのインフレより高くなっているように見えるし、その差は日本より大きいようにも見えるが、まあこれだけではなんとも言えないだろう。しかしこれでもはっきり分かる両国間の大きな違いはそのレベルが貧乏人、金持ち共に高い(4%超!)ということである。


ちなみに年間収入五分位階級で(I )に分類されているのは世帯収入433万円以下の層(2010年)であり、下位10%、或いは5%にすれば恐らくはもっと高いインフレ率になるだろう。インフレ、特にバイフレーションは貧乏人の家計には優しくないようである。


[追記]
ちなみにwhat_a_dude様が書かれている次の部分も全く同意。

まぁ純粋に経済学的な用語で言うところのインフレーションやデフレーションというのは一般物価の連続的上昇や下落のことであるから)

このようなことをいうのは経済学のイロハのイである相対価格と一般物価の違いが全くわかっていない素人だけである。(キリッ)

って誰かさまはおっしゃるのでありましょうが。

インフレの最も大きな問題点ってまさにコモディティ価格の上昇によって貧乏人が苦しむことであって、

コモディティ価格の上昇は相対価格の上昇であってインフレじゃないから問題ないんだ、っていう主張をする人を俺は心底馬鹿だとレッテルを貼ることにしています。