財政再建の「プランB」

数回にわたって財政についてエントリーを書いてきたが、最後にすこし趣向を変えて財政再建の「プランB」を考えてみたい。

先のエントリーでの考察では、国債残高、支出、税収のバランスから財政をみてみたが、財政が現状まで悪化した所からスタートした場合、財政再建のハードルは非常に高く、短期的にはこれといった解決策が無いというのが一つの考察結果であった。

しかし、それで終わるのはなんなので今回は筆者なりに財政再建の「プランB」を考えてみた。


いきなり結論から書けば、それは

 「為替介入資金でユーロ建て国債を買い支える」

である。 


今の日本経済の現況を考えると税収を急激に増加させることや、支出を急激に減らすことは困難である。よってもし財政再建に抜け穴があるとすれば、(広義の)政府が税収以外で金を稼ぐしかない。

幸いなことに政府は日銀というある種のうちでの小槌を持っている。特に為替介入の資金についてはかなり自由に使えるし、ここからお金を引き出す限り利払い負担も殆ど掛からない。


もちろん通常であれば、こういったゼロコストのお金を使って政府が市場で利益を上げるなんて行為は市場のかく乱要因にしかならない。しかし、市場が既にかく乱している時であれば逆に政府が動くことにより経済の安定化と政府の収益確保を両立することも十分に可能ではないかと筆者は考えている。


今、円高が大きな問題となっているが、その理由の一つはユーロの金融不安、特に一部国家の国債への信用不安が懸念され、そのリスクヘッジとして比較的安全と目された通貨(円・スイスフラン・米ドル)に資金が集まっていることである。

これはリスクプレミアムを除いて各国経済のファンダメンタルズのみを考えた場合には過度な円高、ユーロ安になっているという事を示唆している。

そして、ユーロ各国の国債金利の上昇は、自己実現的な財政破綻を懸念(もしくは期待)した投機筋の動きが大きく反映されている。


ユーロ金融危機の火種となっているギリシャについては、残念ながらデフォルトは避けがたい情勢であり、この部分の負担は債権者とギリシャを中心としたユーロ各国で分担するしかないだろう。しかし、その後に続いているといわれるイタリアやポルトガル、スペインについては、自己実現的な財政破綻の可能性さえ排除すればかなりの確率で財政維持可能と考えられている。


自己実現的な財政破綻の可能性を完全に排除することは難しいが、もし日本が円高で更に強化された資金力でこれを買い支えると表明すれば、沈静化する可能性は高い。 又、これらの国は財政懸念によるポジティブフィードバックで金利が高騰していきさえしなければ、それなりに財政維持可能な状態であり、日本が購入した国債もしっかり利子付で戻ってくるだろう。

更にユーロ圏の金融不安が緩和されれば、ユーロに対するリスクプレミアムも下がり、過度なユーロ安・円高も緩和されるだろう。為替介入自体の影響も考えると、リーマンショック前の水準(160円超)は無理でも、ショック後の水準(120-130円)くらいまでは戻るのではないか。


つまり日本はイタリア、ポルトガル、スペイン等のユーロ建て国債をサポートすることにより、相対的に高い金利によるインカムゲインと、ユーロ不安が解消されることによるキャピタルゲインの両方を手にすることができるという事になる。


もちろんPIIGS諸国の国債なんかではなくもっと確実な資源権益等の実物資産を買い漁っても、政府が収益を確保することは可能であるが、それには国際的な批判が集まるだろうし、そもそも民間がやるべきことである。 実際にそういった動きも既に出てきている(参照)。


ユーロ建て国債を買い支えるという手段は、金融危機への懸念が高まっている市場を安定化に向かわせるという大義名分を達成する過程で収益も上がるという点がポイントであり、更に言えば通常は批判の対象となる為替介入もこの大義名分の為であれば好意的に迎えられるであろうという点も重要である。


そして財政再建という点で見れば、まずこの国債への投資によってインカムゲイン、キャピタルゲイン双方で直接的な利益を得ることができる。もちろんこれだけで財政再建できるほどの規模にはならないが、当面の財政の下支えにはなるだろう。

しかし筆者としてはむしろその間接的な効果を強調したい。

ユーロのリスクプレミアムを減少させれば、結果としてファンダメンタルズから乖離した過度な円高を解消し、日本国内経済への悪影響を防ぐことができる。そして更に重要なポイントとしてはユーロ圏の金融不安を緩和することにより世界経済全体が底上げされれば、外需等様々なルートを通して日本経済にもプラスの影響がもたらされるという点が挙げられる。又、「卵と鶏」的な話ではあるが、世界経済が回復すれば米国をはじめとする国々での過度な金融緩和も解除され、発展途上国を苦しめているコモデティバブル等も収まり、長期的な世界秩序、世界経済の安定にも繋がるだろう。 


誤解の無いように書いておくが、これは名目で円高だから為替介入で円安にしろという話では無い。 ユーロ圏において自己実現的な金融不安リスクが高まっているという現状を考えたときに、このリスクを緩和することによって一石二鳥も三鳥も狙える立場に日本がいるのではないか?という考察であり、ファンダメンタルズから乖離していなければ名目で円高水準であったとしても為替介入で円安誘導を行うことは無駄でありむしろ弊害が大きいという理解には変わりは無い。


現在の世界経済において、国内経済だけを考えた対策をうっても効果は限定的(一時的)である。ファンダメンタルズを無視して過度な通貨安誘導やドルペッグを行い、自国の輸出産業を守ろうという発想はその典型であろう。しかし世界経済の不安定要因を取り除くことによって、結果としてファンダメンタルズから乖離した過度な円高が解消されるという事は日本経済にとっても財政にとっても望ましい。

結局、日本の景気を考える場合にも財政を考える場合にも、長期で考えるならば先進国、発展途上国も含めて我々は同じボートに乗っているという事を常に考える必要があり、その基本に沿った対策でなければ効果は限定的なものに留まる一方で、その基本に沿っていれば様々なルートで複合的な効果が得られるというのが筆者の理解である。


[追記]
ユーロ国債の買い支えに関しては既に保有している米国債を振り返るというのも効果的と考えられる。 

ドルが基軸通貨であるということや、中国がドルヘッジしているという事から米国債がその経済状況に見合わない低金利になっているという事実も世界経済のかく乱要因の一つと筆者は考えているので、この面でも一石二鳥が狙えるはずである。