灼眼のシャナ 15 高橋弥七郎

灼眼のシャナ〈15〉 (電撃文庫)

灼眼のシャナ〈15〉 (電撃文庫)

本編が盛り上がっているところで急に過去編でがっかりしたけど、けっこう深くていい話。

灼眼のシャナは本編がかなり盛り上がっていて、クライマックスに向かうところだったのに、次の巻で急に過去の話になってしまって正直がっかりしてしまいました*1ウパさんと似たような印象です。そのせいで、ほぼ発売日に買ったにも関わらず、正直なところ全然読む気がが起きず、結局今になってしまいました。

でも気を取り直して読んでみると、けっこういい出来だったかなぁと思います。1巻でうまくまとめてるしヒロインのキアラ・トスカナに魅力があるし、複雑な人間ドラマ、フレイムへイズの矛盾、そういったことがよく描けていたと思います。また、冷静に見ればタイミングもよくはかられています。この話は本編の前に回収しておかなければならない伏線を回収しており、さらに、今後の展開への伏線にもなっているので、このタイミングでこなくてはいけないエピソードでしたね。

今回僕はいいなぁと思ったのは、今回の敵役の論理です。”征遼の睟”サラカエルは紅世の徒が人間を捕食しているという真実を、人間に認知させることを目論んでいます。
専門用語が多いので一般的に言いなおしますと、普通の人間が知らない秘密の真実を暴露しようとしているタイプの敵役です。
このタイプは”日常を守る”タイプの正義に対する典型的な悪なのですが、なぜこのタイプの敵が悪となるのでしょうか。みなさんわかりますか?

要するにこのタイプの敵は真実を明らかにすることで一般の人の日常を侵そうとしてるんですね。それで、それを守るタイプの正義が成立すると。たぶんTRPGシステム、ダブルクロスを知っている人なら、UGNとFHの基本的な対立もここにあることが分かってもらえるでしょう。

キリスト教グノーシス主義では、むしろ世界の秘密を隠蔽しているものこそ悪なわけで、正義と悪の関係が反転します。

今回のようなタイプの悪の不思議さを分かってもらえたでしょうか。

本書は、この思想的な対立をうまく取り扱っていて、楽しくよむことができましたね。もちろん物語のレベルではこんな頭でっかちな理屈をこねるのではなく、むしろ感情的な愛憎でこのテーマにせまっています。

フレイムへイズが正義で紅世の徒が悪。こういった簡単な構図はアニメなどでやるなら迫力があるし、ぐだぐだしなくていいのかもしれませんが、小説でやるのはちょっと単純すぎるかもしれません。実はシャナが活躍する話にするとなると、構図が難しすぎるのは向かないと思うんですよね。フレイムへイズの歪みに視点を当てて、本編をサポートするという意味でもよくできた番外編だったなぁと思いました。

*1:まぁ5巻10巻が過去編なんだから15巻も過去編だってのは予想すべきなんだけど、全く失念してましたね。