シノビガミのレビュー

いろんな方が大絶賛しているシノビガミ。僕もついに読んじゃいました。実はリプレイ部分しか読んでないですが、それでもわかるすばらしさ。こいつぁよくできていますね。

なんかさいきんはてなはクリック回数と購入人数と出してくれるみたいですが、クリック数も多いし、いかに話題の作品なのかわかります。

ドラマ要素のギミック化

目的の変化

近年のTRPGのトレンドのひとつとして、ドラマ要素のギミック化というのが挙げられます。たとえば人間関係の獲得や喪失といったものはドラマチックになりやすい要素ですが、ダブルクロスではロイスという形でそれを管理資源にしています。こういったことは例に挙げたダブルクロスに限らずさまざまなTRPGシステムでみることができます。

さて、ではそういったトレンドの中でシノビガミは何が新しいのかといいますと、まずハンドアウトに”時間変化”を加えたことです。ハンドアウトという形でPCが達成すべき目標をセッション前に端的に示すというやり方はいろんなシステムでみることができますが、それは今までは最初に与えられたら与えられっぱなしの変化のないものでした。そこをこのシノビガミでは”使命”という形でPCの目的を示し、その使命を特定の条件で変化させることで、物語に転換期を加えています。

転換期というのは物語上最も重要なシーンといっても過言ではありません。べたな例でもうしわけありませんが、言われるがままに戦ってきた主人公がほんとうに守りたいものを見つけそのために戦うようになるとか、そういった登場人物の目的の変化というのは、うまく扱えれば非常に熱いシーンとなりえます。この使命の変更がさらにすばらしいのは、それをGMが全部決めるわけではなく、PLと時の運に大きく依存した形でその転換期を導入できるからです。使命の変化には条件が必要でその条件が満たされるかどうかはセッションの流れしだいというわけです。

ヒロインの管理資源化

登場人物の欲しいもの(人)、あるいは守りたいもの(人)をここでヒロインと呼ぶことにしましょう。アルシャードガイアのルールブックなどで強調されていると思いますが、このヒロインは登場人物の動機に直接的に関わってきます。

このシノビガミではヒロインをプライズという形で定義しており、ちょっと非人道的な言い方ですがアイテムのように管理するようになりました。そうすることでヒロインの奪い合いなどがよりシンプルにわかりやすく表現できるようになっていると思います。

情報収集の一元化

シノビガミでは各人とNPCが秘密を持つことで、シンプルかつ奥の深い情報収集を実現しています。秘密は少なくとも各人にとってはクリティカルなものですから、どうでも良い情報が少なくセッションがだれないんじゃないかと予想します。また人の数だけそういったクリティカルな情報があるので、クライマックスに至るまで一本道に情報がおかれているよりもセッションが多様になりやすいのではないでしょうか。

セカイ系からバトルロイヤルへ

さて、あとはちょっとふざけて微妙なことを述べてみようと思います。

ゼロ年代の想像力の著者、宇野常寛は誰も人を傷つけない、自分も傷つきたくないというフラジャイルなヒーローではなく、とりあえずでも自ら目標を定めそのためにバトルロイヤルを勝ち抜きながら生き抜いていくヒーロー像に着目し、前者が象徴するセカイ系ばかりに着目するサブカル系思想.批評界を痛烈に批判しました。

シノビガミの登場にこのこととちょっとアナロジーを感じてしまいました。シノビガミは登場人物の間でのバトルつまり傷のつけあいを取り扱えるシステムですから、誰も人を傷つけない、自分も傷つきたくないとジクジクと悩む気質の主人公を励ましたり叱咤したりして目的を達成する協力型のシナリオとはまた違ったヒーロー像で遊べるのではないかと期待しています。