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洛中乱読乱写日記 このページをアンテナに追加 RSSフィード Twitter

2012-02-19

構造的にいって、日本で革命や内乱は起こらない、のか―『自爆する若者たち』 グナル・ハインゾーン著

実はあまり読み込んでない本について書いてしまうのだが、なぜかといえば、この本が提示する基本的な概念が、そもそも極めて示唆的なので、まずは、そこからまとめてしまおうと思ったわけだ。

最近、こんな議論がある。

日本の若者たちは、なぜ、怒りを爆発させないのか。
たとえば、エジプトで体制を倒すために立ち上がった若者たちのように。
経済は閉塞し、既得権をもった大人や年寄りたちの利権ばかりが守られようとしているというのに、現状に満足し、ちまちまとした個人の世界に閉じこもって、社会をよりよくしようというエネルギーも持たず、だめだねえ日本の若者は・・・というような。

そんな議論にガツンと一発打ち込もう、という感じである。
この本。



著者は1943年ポーランド生まれ。ベルリン自由大学でまなび、社会学・経済学博士号を取得。
1993年からブレーメン大学で、欧州初の「ジェノサイド研究所」を主催しているのだそうな。
ジェノサイドとは大量虐殺のこと。
「ジェノサイド研究」とはつまり、歴史上に見られるジェノサイドはなぜ起こるのか、どうしたら防げるのかを研究する、ということだろう。

本書の議論の根底をなすのは「ユース・バルジ(youth bulge)」という概念だ。
bulgeというのは、「(外側への)ふくらみ」「(たるなどの)胴」そして、「(しばしば一時的な、数や量などの)増加,膨張; 急騰 」という意味である・・・と辞書に出ている。

ユースバルジとは、男性の若者の人口が、全人口の中に占める比率が高くなり、人口ピラミッドを描くと、そこが外側に膨らんでいるという現象である。

具体的には、「男性100人につき15歳から29歳までの年齢区分の人口が30人以上となったとき、人口ピラミッド上にこのユース・バルジの存在を示す外側へのふくらみが現れる」という。
で15歳以下を「チルドレン・バルジ」という。
この子らは早番、成長して「ユース・バルジ」に移行するわけで、つまり15歳以下の人口が30%を超える国は、いろいろな危険をはらんでいますよ、ということだ。

たとえば、父親1人につき、3人ないし4人の男の子が生まれれば、子供のうちから争う関係におかれ、やがて家を出て職に就かなければならないわけだが、そのとき、「あぶれた」ものはどうなるか。
著者によれば、次の6つの行動になるという。

1 国外への移住。
2 犯罪に走る。
3 クーデターを起こす。
4 内戦または革命を起こす。
5 集団殺害や追放を加え、少数派のポストを奪おうと試みる。
6 越境戦争にまで及んで、流血の植民を経てポストを手にする。


著者はこれを、過去450年のヨーロッパの歴史(たとえば植民地主義による世界制覇)や、現代のイラク、パレスチナの紛争、イスラムのテロなど幅広い領域の実例や統計数値や歴史の知識を駆使して、実証してみせるのだ。

そこにあるのは、宗教や文化の対立といった問題ではない。
むしろ、宗教や文化は、この圧力にたいして、その力を正当化する方向に解釈され、利用されていく。
著者の考えに従えば、つまり「イスラム国家だからテロが頻発する」とかいうことではなく、「現在のイスラム文化圏が、ユース・バルジの問題を抱えているから、イスラム教が、ユースバルジの爆発を補強する方向に解釈されるようになる」ということである。

一方で、産児制限の考え方や、女性の地位の問題も密接に絡んでくる。
当たり前のことだが、「女性が子供を何人産むのか」ということが、ユース・バルジの発生と密接に絡んでくるからだ。


著者は、こう語る。

貧困や飢えからテロリストが生まれるのではない。パンはせがめばもらえる。殺人を犯すのはステータスと権力に眼がくらんでのことだ。戦略家が将来のユース・バルジを国際的脅威として恐れるのは、その大半がわが身が生き延びるために闘わなければならないからではなく、むしろ、なんにでも使える力と自由を持っているからなのである。

そう、ある程度、「明日の食べ物」には困らない程度の生活があって、教育を受けているやつのほうが、テロを起こしたりする危険は大きいのだ。
明日食べるものをどうしよう、と悩んでいては、それどころじゃなくなるんだろう。

著者によれば、現在、世界の飢餓人口はわずかずつではあるが、減っている。
しかしテロや紛争は減る気配が無い。
飢餓が問題なのではなくて、社会に出て行く男性の野心を満たす場を提供できない、そのことが、いろいろな「爆発」を起こす根本原因なのだ、と、そういうことだろう。

そして、今世紀、このユース・バルジは、発展途上国を中心に、史上、例の無いふくらみを見せている。
そのとき、世界はどうなるのか・・・。

どうですか? きわめて興味深くないですか?

もちろん著者が「16世紀への変わり目に人口爆発が始まったとはいえ、そのユース・バルジだけでヨーロッパの世界征服を説明できるわけではない」というように、全てをこれだけで説明できるわけではないのだが、しかし著者は、世界史の様々な事象、とくにそこで発生した「ジェノサイド」を、この切り口で絶妙に解釈していく。

たとえば、南米を征服したエルナン・コルテスやフランシスコ・ピサロといった人たちに従ったのは、次男、三男たちだったのだという。

そりゃ、そうだよね。親の財産を受け継いで、安定した生活できるやつが、あんな冒険(あの時代、帆船にのって南米に行くなんて、現代の宇宙旅行に行くよりも危険な、「のるかそうかの一発あてる旅」だったはずである)に、そうそう出かけるわけが無い・・・という気になってくる。

詳細な内容と著者の切れ味は、本書で確かめて欲しいわけだが、いずれにしろ、国際ニュースとかをみても、あまり語られてていない(けれど、きわめて重要な論点)、という気がする。

ちなみに、日本史に置き換えて言えば、江戸時代というのは、人口の増加が極めて緩やかであったらしい。
そして、近代に入って、日本でユース・バルジがやや膨らんだのは、1927年〜1936年と団塊世代が世間を闊歩した戦後の時代、になるらしい。

前者は、まさに日本が戦争に突き進んだ時代(国内的にも、5・15事件や2・26事件といったテロが起こった時代。2・26を主導したのは「青年将校」である)。

団塊世代というのは、学生時代には戦後最大の市民運動、就職してからは日本企業の海外進出を主導していった世代、でもあるのだ。

今の日本での若者は、すでに少数派。
そりゃ、多少はデモや運動は起こっても、社会を動かす力にはなりえないし、ま、あれだよ、親が二人に子供1人だったら、なんとか親も面倒見れちゃうしなあ。
命をはってまで、だれが「革命」なんて起こすものか。

これ、物凄く矮小化して企業の話とかすると、「終身雇用」を維持しようとして、でも世代間の採用の仕方がいびつで、ポストがうまく割り当てられなかったり、給与が社員の納得するように分配できない状態にある会社って、ゴタゴタするらしい・・・ってそんな話に落としてしまっていいのかな。

それにしても、あまり読み込んでない本でブログを書くのは、ややムリがありました。
あんまり、本の内容自体も紹介してね〜し(いろいろ面白いトピックあるのに)。
反省。

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