アクチュアリー試験の学習時間及び受験科目数に関する考察

久しぶりの投稿になり申し訳ありません。


そろそろ受験申込締切も近づき、何科目にエントリーされようか迷っていらっしゃる方もいらっしゃると思います。
今回は、その科目数を考えるにあたって、
合格するためにどの程度の学習時間数が必要なのか?
という問題があります。


大昔の2ちゃんねるの投稿
http://cocoa.2ch.net/hoken/kako/1002/10025/1002554774.html の4番)
で「1科目あたり100〜500時間の学習が必要かなあ」というのがあり、これは間違いではないとは思うのですが、この幅を縮めるべく受験時間に関してマクロ面、ミクロ面両方から考察してみたいと思います。


結論を先に申し上げますと
150時間〜200時間/科目
一つの目安になると考えられます。


ただし、
(a)受験科目
(b)個人の習熟度(どの程度の基礎力があるか、過去の受験の経験があり、その蓄積*1があるか)
(c)勉強方法
等によって大きく変動するものであることは言うまでもなく、
150時間に満たないから絶対合格できないとか、200時間以上やったから必ず合格できるとかいうものではない
ことにご注意ください。


以下では一応
(ア)社会人(内定者を除く)
(イ)初めての受験
(ウ)数学をメイン
で述べていきます。


(1)マクロ面
基本的には、社会人の場合は(よほど試験勉強に専念できる方を除き)1年に1科目〜2科目の受験が精一杯だと考えます。
(合格一覧で3科目以上合格している方の中で会社名が入っている場合がありますが、それらの方の中には少なからず内定者が含まれていることに注意が必要です。(内定者でない)社会人で1年に3科目以上合格する方はあまり見かけません。)


9月から開始するとして約15週間ありますが、1週間に20時間確保するとして300時間、直前期に合宿等で確保するとして+50時間で合計350時間となります。
これで2科目合格と考えると、1科目にすると175時間であり、上記の範囲が妥当な線でないかと考えられます。
一口に1週間に20時間と申しましたが、例えば平日各2時間、土日5時間を「毎日」繰り返すことになり、仕事をしながらこの時間をコンスタントに確保することはそんなに簡単なものではないことは、特に社会人の皆様はご理解いただけると思います。


(2)ミクロ面
次に150〜200時間で具体的にどのような取り組みになるかを考えてみます。
(a)基本事項の理解
(b)実践演習
(c)仕上げ
という3段階だと考えられます。(以下述べるように(a)と(b)は一体となって進めることも考えられますが)


(a)基本事項の理解
基本となる公式等の理解を行います。なるべく早く次の実践演習に移りたいのでできるだけ短期間で(あるいは次の実践演習と並行でもよい)纏めあげる必要があると考えます。

例えば、アクチュアリー会の講座(会員にならないと受講できないのですが・・・)
http://www.actuaries.jp/examin/traning.html
では確率・統計の講義で34時間となっています。他の民間の講座でも大体30時間前後のようです。
モデリングもあることも勘案して、30〜50時間が一つの目安と考えられます。
確率や統計については、基本的な(自分の馴染みの)書物でよいので基本的な部分を一通りカバーするようにすればよいと思います。(難しい部分は次の実践演習のところで補う)
モデリングは、アクチュアリー会の教科書しかないと考えます。(各分野についてはそれぞれ参考書がありますが、それらはアクチュアリー試験の内容からはどんどん離れていくので)

アクチュアリー試験研究WIKI
http://actuary.upthx.net/pukiwiki/
では過去問題の出題傾向を踏まえて押さえておくべき事項をまとめたつもりです。
(ただし、特にモデリングについては補完の必要があると考えています。また「確率・統計・モデリング」以前の数学の基礎事項については、現在工事中です。)

なお、ここでは数学を例にとりましたが、例えば会計・経済・投資理論の場合などでは、ここである程度時間が必要になると思います。特に会計では配点が低い割に相応の学習時間を取らないと身につかないので、これを捨てる(会計を落としてそれ以外の2科目でカバーできる)という作戦も去年までは可能だったのですが、今年からは会計についても
「4割程度取らないと他が全部できても不合格」
なので要注意です。

(b)実践演習
取り組みのメインとなるべきところです、基本事項の理解と並行で進めてもいいとかんがえます。
過去問題集を解いていくことになります。10年以上やられる方もいらっしゃるようですが、5年分も取り組めば十分だと思います。
ただし、最初はほとんどできないのではないかと思います。その場合は参考書を見ながらでよいので、あるいは分からなかったら答えを見ながらでもよいので、
どういう事項が分かっていたらその問題が解けるか(どういう事項を知らないとその問題が解けないか)
を把握し、その事項について教科書その他の参考書の該当箇所を探すというほうが効率的です。

この際身につけておくべき事項を紙の形で纏めておくと(c)で役に立ちます。

また、試験に使うのと同じ電卓(関数電卓は不可)をたたいて最後まで答えを出せる訓練をする必要があります。
これを怠ると、折角立式はできても最終的に正しい答えを導けなくなり今のマークシート方式では0点となってしまいます。

過去問を1年分につき3回・「くろよん」(9・6・4;1回目正規の試験時間の3倍の9時間、2回目は正規の試験時間の2倍の6時間、3回目は正規の試験時間+解答の確認1時間で4時間)で行うと考えて、合計19時間、5年分で95時間ですが、基礎事項の補完も含むので100〜120時間といったところでしょうか。


(c)仕上げ
実践演習が身につけておくべき事項(試験に出ているが、自分の「長期記憶」が固定していない事項)が出てくるので、それらは最終的には「暗記」という形をとってでも「中期記憶」*2として残さざるを得ないと考えます。紙に書き出して(打ち出して)それを書いたり、唱えたりして覚えることになります。

これに加えて、ご自分たちで問題を作りあって、あるいは、周りの正会員の方(々)のご協力を得て、実際の試験問題の傾向・形式を踏まえた模擬試験を作って(もらい)それを解くと言う訓練が有効です。
(これはだれもができるわけではないので、できない場合は上記の(b)で最後まで答えを出す訓練を特に念入りにすべきです。)

これ(ら)に20時間〜30時間といったところだと考えます。
もちろんこの段階のうち暗記については机に向かって行う必要はなく、電車の中や会社の休み時間でもできることになります。


以上を合計して150時間〜200時間になります。


最後に科目数の話に戻りますと、徒然草第九十二段に「諸矢」(2本の矢)を持ち込んで弓の稽古に来た人がたしなめられたという話があります。
http://d.hatena.ne.jp/tsureduregusa/20090421/1240294120


アクチュアリー試験では諸矢まではいい(それでも社会人での「諸矢」は上記のとおり相当の覚悟が必要だと考えます)と思いますが、「四矢」とか「五矢」というのはいかがなものかと考えます。
いくら学生で時間に余裕があったとしても5科目全部だと1,000時間かかってもおかしくなく、特に何も準備をしていない場合、今から毎日8〜10時間ずつの学習時間を確保できるかどうかということは考えてみられるとよいと考えます。


なお、以上の記述は数学的な基礎力があることを前提とするものですが、それがまた問題となるところなのでそれについては次回に考察することといたします。

*1:当然ながら単に受験しただけでは「蓄積」には該当せず過去の受験の際にノート等をまとめたものがあればそれを生かせることができるいう意味です。

*2:「中期記憶」については、http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20081215 をご参照下さい。