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アクチュアリー試験数学の研究



 アクチュアリー試験
 (社団法人日本アクチュアリー会資格試験、アク試験)
 に関して、一定の基礎力を有する方を対象に、
 より合格を確実にするための
 効率的な解法
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2010-10-27 年金数理のご質問

平成19年度資格試験問題集の年金数理の問題1(8)についてブログの読者の方からご質問を受けたので、ご質問者の許可を得て掲載いたします。

私は年金数理の専門家ではないのでその点はご容赦ください。


問題の概要とご質問者のご質問内容は次のとおりです。


(問題の概要)

ある年度の年金制度の諸数値が以下のとおりであった時、この年度の差損益として正しいものを選べ

期初責任準備金 2000 期末責任準備金 2300

期初過去勤務債務 500 

標準保険料 (年一回期初払い) 400 給付(年一回期末払い) 300

予定利率 5.5% 実際利回り 7.5%

過去勤務債務償却方法及び償却割合 初期過去勤務の30%を償却(年一回期初払い)


(ご質問内容)

問題では予定利率5.5%と実際利回り7.5%があります。実際利回りで

(1500+400+150)*1.075−300=1903.75

として期末積立金を求めています。

同じようにして予定利率で

(1500+400+150)*1.055−300=1862.75

とすることができないのはなぜですか?答えを見ると予定利率の場合では期末積立金は1930.75とならなければなりません。

問題に載ってある「ある年度の年金制度の諸数値」は実際利回りで運用した時の値なのですか。

今回は保険料期初払いで給付期末払いなので利率の違いにより

(1500+400+150)*1.055−B=1930.75

と給付額が実際利回りの場合と予定利率の場合では異なるのですか。

予定利率の場合では

B=232となってしまいます。

答えでは予定利率の場合で

(500−150)*1.055

と期末債務を求めていますが、同じように

(500−150)*1.075

と実際利回りの場合でも求めることができないのはなぜでしょうか?


年金数理、特にこのような年金財政を考える問題については、基本的な簿記・会計の知識が前提になっていると考えられます。

もちろん、「会計・経済投資理論」に合格するよりもずっと初歩的な知識で十分です。

それについては、例えば会計の入門書等で補ってください。


以下基本的な簿記・会計の知識はあるという前提ですすめます。


(1)期初時点((標準)保険料収入・過去勤務債務償却前)の貸借対照表は次のようになります。

資産)1,500負債)責任準備金 2,000
(純資産) △500

資産の1,500は、

2,000(責任準備金)−500(過去勤務債務)=1,500

として算出されるものです。

つまり、500の分だけ債務超過であり、それが正しくここでいう「過去勤務債務」です。


(2)標準保険料収入・過去勤務債務償却直後の貸借対照表は次のようになります。

資産)2,050負債)責任準備金 2,400
(純資産) △350

まず、過去勤務債務の500の30%を償却するので特別保険料

500×30%=150

であり、資産

1,500+400(標準保険料)+150(特別保険料)=2,050となります。

このうち標準保険料400は将来の年金の給付原資にあてるべきもの年金契約者に対する債務を負ったことになり、責任準備金(負債)の増加につながります。

特別保険料は過去勤務債務(マイナスの純資産)の埋め合わせに使われるので責任準備金の増加にはつながりません。


(3)「差損益」を聞かれているのですが、「差損益」とはどのようなものかを改めて振り返っておきます。

保険では三利源で捉えることとされています。

死差損益(損保では「危険差損益」):予定される死亡率(事故発生率)等と実際の死亡率(事故発生率)等の差により生じる損益

利差損益:予定利率と実際の利回りとの差により生じる損益

費差損益:予定事業費と実際の事業費の差により生じる損益

この問題では、

(a)利差損益

(b)利差損益以外の差損益

を考えることになります。

(b)は、予定利率以外の基礎率(加入者数、昇給率、脱退率etc)が予定と違っていたことによる差損益です。具体的には予定どおりであったときの責任準備金と実際の責任準備金との差異を求めます。


(4)まず、利差損益ですが、

期初(標準保険料収入・過去勤務債務償却直後)の資産2,050

×(実際の利回り7.5%−予定利率5.5%)

=41

となります。


(5)次に利差損益以外の差損益の方ですが、予定どおり推移した場合の期末の責任準備金を求めます。

「予定どおりの推移」、利率も予定利率を使います。*1

保険料導入直後の責任準備金は2,400だったので、年金を支払う直前には、

2,400×1.055=2,532

になります。

年金300を払うことは、年金契約者に対する債務(の一部)を履行したことになるのでその分負債(責任準備金)が減少します。したがって、

2,532−300=2,232となります。

これと期末の実際の責任準備金2,300との差は

2,232-2,300=△68

です。これがマイナスというのは予定より債務が膨らんだことになるので、「差損」となります。


(6)したがって、(4)の利差益と(5)のそれ以外の差損を通算して

41−68=△27

が答えとなります。


責任準備金については、

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100109

もご参照ください。

*1:責任準備金を予定利率で評価することを暗黙のうちに仮定していますが、実は責任準備金のこのような評価方法自体について議論のあるところです(例えば、s_iwkさんのブログ http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-4688.html 等ご参照)ここでは、「(現在のところ)責任準備金は、予定利率で評価」という整理をします。

peace7peace7 2012/08/22 02:15 勉強になります・・・。

peace7peace7 2012/08/22 02:15 勉強になります・・・。

2010-10-04 「『災害保険金の話』の話」の話

(2010/10/11 追記:生保災害保険金地震免責かどうかは、会社によって違いがあるのは確かですが、損保系生保かどうかではないというご指摘を受けました。

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20101011

をご覧ください。)

かなり長い間空いてしまいましたが、今日は、災害」を巡る生保と損保の考え方の違いについてなかなか興味深いことが分かったので、それを書いてみたいと思います。

いわき( @ )さんが、

あるFP(フィナンシャルプランナー)氏が著した

地震時には受け取れない?! 「災害保険金の話

http://trendy.nikkeibp.co.jp/lc/gofun/070110_saigai/

を受けて、

災害保険金の話」の話

http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/10/post-6c2d.html

というのを書かれています。

災害特約」とか「傷害特約」といった商品は約款上、保険金が受け取れないことがあるがそれは「この特約の計算の基礎に影響を及ぼすとき」であり、阪神・淡路大震災でも「計算の基礎に影響を及ぼす」とはいえないので、支払条件を曲解して不安をあおるのはFPとしてどうか

という話です。


ここで、件のFP氏がなぜ「曲解」したのか考えてみました。


FP氏は、「損保・生保の本店業務部門を経て独立系FP」とあり、損保が主なバックグラウンドであることがわかります。(あとでの考察から「生保」とは「損保」の子会社の「生保」だと思われます。)


損保の傷害保険では確かにFP氏のおっしゃるとおり、(割増保険料を払って特約を付帯しない限り)地震に対しては保険金が支払われません

(例えば、東京海上日動火災の傷害保険普通保険約款

http://www.tokiomarine-nichido.co.jp/service/pdf/kokunai_yakkan.pdf

のp1

では、

第3条(保険金を支払わない場合−その1)

*1 当会社は、次の各号に掲げる事由のいずれかによって生じた傷害に対しては、保険金を支払いません。

(8)地震もしくは噴火またはこれらによる津波

となっています。

確かにいわきさんの御指摘のとおり、地震による死者が生命保険会社の経営に与える影響は少ないと考えられますが、地震台風等の自然災害の発生は損害保険会社の経営には大きな影響を与えるので、これらのリスクにはセンシティブになり、免責としたのだと考えられます。(傷害保険だけではなく自動車保険等でも免責となっています。)


問題の規定はいわきさんが引用されている「日本生命の新傷害特約(H11)の例」では、

http://www.nissay.co.jp/kojin/shohin/shiori/shushin/pdf/02-193-196.pdf

のp3)

では、

第2条(災害死亡保険金、障害給付金の削減支払)

前条の規定にかかわらず、被保険者がつぎのいずれかにより死亡しまたは身体障害の状態(別表12)に該当した場合で、その原因により死亡しまたは身体障害の状態に該当した被保険者の数の増加がこの特約の計算の基礎に影響を及ぼすときは、会社は、災害死亡保険金もしくは障害給付金を削減して支払うかまたはこれらの保険金もしくは給付金を支払わないことがあります

(1)地震、噴火または津波によるとき

(2)戦争その他の変乱によるとき

(太字引用者)

となっているのですが、損保系生保では、書き方が微妙に異なっているようです。


例えば東京海上日動あんしん生命保険の「5年ごと利差配当付終身保険」の

http://ykn.tmn-anshin.co.jp/affix/yakkan2/nagawari/D79-11660/MCNG9C0_%92%B7%8A%84%82%E8%8FI%90g.pdf

「傷害特約条項(本人型)」(約款105ページ)

では、

第1条(災害死亡保険金・障害給付金の支払)

で、

地震、噴火または津波

支払事由に該当した場合であっても保険金・給付金を支払わない場合(以下「免責事由」といいます。)

とした上で、

第2条(災害死亡保険金・障害給付金の支払に関する補則

(6)被保険者が地震、噴火、津波または戦争その他の変乱により死亡し、または身体障害の状態(別表3)に該当した被保険者の数の増加について、当会社が、この特約の計算の基礎に及ぼす影響が少ないと認めたときは、当会社は、その程度に応じ、災害死亡保険金または障害給付金の全額を支払い、またはその金額を削減して支払います

(太字引用者)

この内容が親会社の損保の傷害保険の影響を色濃く受けていることはいうまでもないでしょう。もちろん、このような内容だからといってその後の中越地震などにおいて、損保系ではない生保と支払内容が違っていたということもないはずです。(もし違っていたら社会問題になります。)

まさかのとき、保険金の請求漏れを防ぐためにも、こうしたコマゴマとした特約について一度チェックしてみましょう。契約時に渡された「契約のしおり」という冊子の「約款」をひも解いてみると、どんなときに保険金が支払われるのかよく理解できていない特約や、自分のイメージしている保障内容と異なっているものが、思った以上にたくさんあることがわかります。

と書くFP氏がまさか約款を読んでいないことはないのではないかと考え調べてみたのですが、生保と損保の違いをまた一つ知ることとなった次第です。

このような違いについてはまた、機会があれば記したいと思います。

*1:原文はいわゆる丸数字の1ですが、機種依存文字のため、ここでは普通の1で表現しています。

siba9791siba9791 2013/04/18 13:53 何事も穏便にすめばいいですね

2010-08-24 アクチュアリー・インターンシップのES

今日はアクチュアリー・インターンシップのES(エントリーシート)の書き方について考えてみたいと思います。

きっかけは、教えてgoo(OKWave)の

http://oshiete.goo.ne.jp/qa/6106055.html

とそこでリンクされている

https://docs.google.com/document/pub?id=1bEmUER4vglY1_L7-J2-wkQqtGYU2X2XJAgveFfatLL4

ご質問者(rewさん)は、アクチュアリー・インターンシップの申し込みを考えているらしく、ES(エントリー・シート)に関するコメントを求めています。


もちろんそちらで答えてもよいのですが、

(1)この内容がご本人だけでなく、それ以外の読者の方にも資する内容であること。

(2)アクチュアリー関連に限定すれば、教えてgooをご覧になっている方よりこちらのブログをご覧になっている方が多いのではないかと考えられること。

(3)制限の字数を超過すると考えられること。*1

(4)後でも述べるようにアクチュアリーとして必要な資質の一つの「情報収集力」があると考えられ、ご本人がここに辿りつかれない場合は、「ご縁がなかった」と考えられること。

などの理由でこちらに記載することといたします。

(2010/8/25 追記:その後、rewさんが、Twitter上相互にフォローしている方だと(ご本人のTweetで)分かりました。やはり、「ご縁があった」模様で、こちらに書いて良かったと思った次第です。)


 また、私自身が向こうでここへのリンクを張ることは規約違反なのでいたしません。*2


0.表現上の問題

これは全般的にいえることですが、いくつかの表現で改善すべき点があると思われます。例えば

○「シュミレーション」→「シミュレーション」

○「アクチュアリーという職務を通じて自身の強みを最大化し、…」アクチュアリーの仕事をしていると数理的能力etcが更に増進するのでしょうか?「アクチュアリーという職務を通じて自身の強みを最大限生かし、…」といった意味でしょうか?

○「下記に示すように、」→「下記」とは文字通り「下に記す」だから「下記に示す」だと「下に記し示す」と2重表現(「馬から落馬」の類)の恐れがあるので整理したほうがよいでしょう。


1.「アクチュアリーに必要だと思われる能力」について

rewさんが挙げられた3つ「数理的能力」、「コンピュータリテラシー」及び「説明能力」以外に(あるいはそれ以上に)大事なものとして、

情報収集力

があると思います。

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100531

でも述べたように、アクチュアリーの2次試験は「情報戦」という面もあり、また、実務においても情報を収集し活用することが強く求められると考えます。(これらは、最近では、主にインターネットを使って行われるので、「コンピューターリテラシー」と共通する部分もあるのですが)

また、rewさんの場合は、「英語力」もアピール可能と考えます。

(外資系は別として)英語そのものが業務で必要になる部門は必ずしも多くないのですが、海外の動向(ソルベンシーIIやIFRS等)に関する情報収集において英語力があるのとないのとではその効率が大きく違ってくるからです。

rewさんの場合は、「米国カリフォルニア大学留学」経験があるので、それなりの英語力があると考えられるので、それを、例えばTOEIC、TOFEL等のスコアや、英検等の合格実績(があればそれ)を示せばよいと考えます。

(2010/8/25 追記:rewさんのTwitter上でのプロフィールでは、TOEIC、TOFELのスコアとも相当のものでした。)


2.「何故左記の能力がアクチュアリーに必要なのか」について

「計算やシュミレーション*3の際にエクセルを中心としたソフトウェアを使うため」

という部分で、エクセルは、アクチュアリー業務では基本的なツールで実際によく使うことは間違いがないと思うのですが、「中心」といってよいかどうかは議論があるところだと思います。

更に、その右にある

「・物理学実験、金融勉強会、他社アクチュアリーコースインターンシップでのデータ処理作業においてエクセルを駆使した経験がある」

などの表現を読むと、rewさんが、

エクセル以外のソフトウェアに思いが至っていないのではないか?

と危惧されます。

例えば、

○十万件単位(以上)のデータだとエクセルでは困難*4なのでアクセスを使う

○それよりさらに大きな百万件単位(以上)のデータだとアクセスでも厳しい*5ので、さらに別の方法を考える必要がある

といった具合です。

また、

○将来収支分析のようなものは、エクセルやアクセスなど汎用のツールでは難しく、専門のソフトウエア*6を用いることが少なくない

し、更には、

○文書や資料を作る際にはワード、パワーポイントなどが使われることもある

といった要素もあります。

もちろん、学生・院生さんの段階でこれらすべてのソフトウェアに習熟することは不可能だし、また、その必要もありません。将来、どんな新たなソフトウェアを導入することになるかは全く予想できないので。

ただ、未体験のソフトウェアを扱う際には、エクセル等での既存のソフトウェアでの経験は当然役に立つはずだし、それはアピールしてよいのですが、

「エクセルを駆使した経験がある」

だけでは具体性に欠けると考えられます。

例えば、

○VBAは使ったかどうか?使った場合、どのようなコードを書いたか。

○アドイン、関数その他の機能でどのようなものを使ったのか?

等を書くと「駆使」のレベルが分かってよいのではないかと考えます。


3.「左記の能力が私の強みであるといえる証拠」欄について

上記の「エクセルを駆使した経験」でも述べたことですが、表現に具体的・定量的な記述が不足していると思われます。

例えば、

○「高校時代に全国模試で数学の偏差値が80を超える」というのはどのような模試か。偏差値などは母集団の質によっていくらでも変動するので、模試の中身をしめさずにこのような偏差値だけ表現することにそれほど意味があるとも思えません。また、「超える」のは1回だけの現象か、それとも常時超えていたのか。これが例えば「○○大模試」(○○にはいわゆる難関大学名が入る)といった難関大学の受験予定者ばかりを集めた試験での結果であればアピールの価値もあるのかも知れませんが…

○「大学・大学院においてシュミレーション*7プログラム開発している」という部分は、プログラミング言語やソースコードの行数などの具体的な情報があったほうがよいと考えます。

○「米国カリフォルニア大学留学中」

「カリフォルニア大学」とは大学群をさす

http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%AA%E3%83%95%E3%82%A9%E3%83%AB%E3%83%8B%E3%82%A2%E5%A4%A7%E5%AD%A6

ので、

例えば、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)といった具合に「○○校」の部分まで示すのが普通だと考えます。

(2010/8/25 追記:rewさんのTwitter上でのプロフィールを拝見するとUCSC(University of California,Santa Cruz;カリフォルニア大学サンタクルーズ校)に留学されていたことが分かりました。)


4.表の下の文章について

「アクチュアリーという職務を通じて自身の強みを最大化し、貴社の企業価値上昇に大きく貢献していけると考える。」

で前半については上記のとおりですが、

それが自身の強みを最大限生かすこととしても、後半の「貴社の企業価値上昇に大きく貢献」につながってきません。

ごく乱暴に言えば、「企業価値上昇」の主な手段は、「収入を増やす」and/or「支出を減らす」なのですが、具体的にどのような手段で企業価値上昇を考えているのかが見えてきません。


5.研究内容について

下の方で、「現在大学院でコンピュータシュミレーション*8の為の数理モデリングを研究」とあるのですが、これも違和感があります。

「コンピュータシュミレーション*9」はあくまでも手段であり、目的ではないはずです。

何らかの意味で解明したい自然現象・社会現象等があり、その手段(の1つ)としてシミュレーションがあるのだと思います。


6.「インターンシップで感じたいこと」の記載

このエントリーシートでは最初の質問の

「今回のインターンシップへの応募動機、インターンシップで感じたいことなど自由に述べてください」

とあるのですが、「応募動機」(もっと言うと、自己のアクチュアリーとしてのPR)がメインで、

「インターンシップで何を知りたいか」

という点の記述がないようです。

もちろん当該インターンシップは、就職活動の選考の前段階なのだもと考えられ、アクチュアリーとしての適性をアピールされるのは大いに結構なことだと思われますが、あくまで、建前は「アクチュアリーの職務疑似体験」のはずであり、実際に、会社側にアクチュアリーの仕事の中身を知ってもらいたいという動機もあるはず(学生・院生さんと会社側とのミスマッチを避けるため)なので、そのリクエストはしたほうがよいのではないかと考えます。

rewさんの場合は、他社で同様のインターンシップに参加していることを表中に書いているので*10、他社のインターンシップで更に知りたいと思った点等を書けばよいのではないでしょうか。

あるいは他社のインターンシップのご経験がない、あるいはそれを書かないほうがよいと判断された場合は、先輩のアクチュアリーに聞いてみたいこと等を書くのもよいのではないかと思います。


以上いろいろとケチをつけたのですが、

ここまでのエントリーシートを書くのは相当大変

だったと思います。

この方は、アクチュアリーに必要な特に「説明能力」を挙げてその理由を

数学的に算出された結果を、数学に馴染みのない人に対してもわかりやすく説明できる必要があるため

としている点は大いに評価すべきと考えられます。*11

自分が学生のときには、このようなインターシップはなかったはずですが、もしあったとしてもここまでのものが書けたかどうか自信がありません。


(余談)「アクチュアリーの業務で、特に興味があるもの」の項

rewさんは、恐らく「責任準備金の計算」というものに対し、古い、面白みのないものというイメージを持たれていることを危惧します。

確かにこれまでの責任準備金は、「保険料及び責任準備金の算出方法書」*12に書かれたとおりに機械的に算出されるものであることは確かです。

ただし、IFRS(国際財務報告基準)やEUのSolvency II等では、「経済価値ベース」*13と呼ばれる新しい資産負債評価が検討されています。

IFRS(国際財務報告基準)やEUのSolvency II等がまだ検討中であることからも分かるように、経済価値ベースの保険負債評価はまさに発展途上であり、まさしくrewさんがおっしゃる「創る」行為そのもので、大学院で研究してきたモデリングを駆使できるだろうし、第三分野の商品と同様あるいはそれ以上に「新しい」分野だと考えます。

もっとも、これは各人の興味の問題であり、口をはさむものではないかもしれないのですが、アクチュアリーの業務に対するステレオ・タイプな観念からは脱したほうがよいと思われるし、そういった先端の話題を先輩から引き出すために、折角のインターンシップの機会を活用してみるのもよいのではないかと思います。

*1:何回かに分けて投稿することは可能ですが

*2これをご覧になられた皆様のうちのどなたかが張られることを妨げるものではありません。

*3:原文ママ

*4:Excel2003だと65,535行が限度

*5:アクセスは、1ファイル2GBの制限があります。1レコード1kBだと200万件。また1つのデータから派生していくつものテーブルを作ると、元データが数十万件程度でもこの制限に到達することがあります。

*6:一からプログラミングするのはあまりにも時間がかかりすぎます。

*7:原文ママ

*8:原文ママ

*9:原文ママ

*10:このことの是非はさておき、もし書くのであればということです。

*11:表現自体には少し違和感があるのですが…

*12:保険業法第4条第2項第4号 http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/2010-04-01/hou/a004.html に規定される生命(または損害)保険業免許申請書に添付すべき書面の1つ

*13:日本アクチュアリー会のサイト内の文書 http://www.actuaries.jp/info/ISPT/ISPT-IntRep_NewsRelease.pdf では、「※経済価値ベース(市場整合的な評価)・市場価格または市場整合的な手法を用いた資産負債のキャッシュフローの評価。」とされています。「時価評価」という言い方をされることもありますが、安易な「時価」という言葉の使用については、s_iwkさんが警鐘を鳴らされています。 http://iwk.cocolog-nifty.com/blog/2010/08/post-4688.html 参照

2010-04-08 日本の民間医療保険の「黒字」に関する考察

民間医療保険、過去最高の黒字1兆5千億円(か?)

というTweetsがTwitterのTL(Time Line)上を駆け巡りました。

ライフネット生命保険株式会社(以下「ライフネット」)副社長の岩瀬大輔さんの次のTweetsがその発信源になっています。


http://twitter.com/totodaisuke/status/11801665099

「健保組合、過去最悪の赤字6605億円」と合わせて流して欲しいニュース「民間医療保険、過去最高の黒字1兆5千億円(か?)」 公表データは「第三分野の保険料収入4.7兆円、入院・手術給付金0.7兆円」しかない。社会保障を考える際に、公的保険と民間保険を統合的に見る視座が欠落している

http://twitter.com/totodaisuke/status/11801733921

see this page for statistics http://bit.ly/d0BG7n

http://twitter.com/totodaisuke/status/11801998369

医療保険の利益がいくらかは非公開なので、3割と仮定した。利益を上げることは悪いことではないが、公的な役割を担う医療保険においては何らかのガイドラインが必要かと。米国では、保険者の利益額を適正化すべく minimum loss ratio が定められていますよね?確か。

また、ここの「3割」の根拠ですが

http://twitter.com/totodaisuke/status/11817785026

業界関係者へのヒアリングに基づく推計値です。二割かも知れませんが、一割ではなさそう。なんせ、データが非開示

だそうです。


以下、日本の民間生命保険会社の医療保険の「黒字」について考察してみたいと思います。


結論から先に申し上げると、

生命保険業界(かんぽ生命を除く)の医療保険の「黒字」は6千億円と上記の数字の4割程度と「推定」されます。


以下の分析で日本における第三分野の「大手」であるアフラック(アメリカンファミリー生命保険会社)の例を出しますが、私は

アフラック社ともライフネット社とも利害関係にはない

ことを念のために申し添えておきます。

また、私は生保会計の専門家ではないので、以下の理解が違っている点があるかも知れませんので、それについては、ご指摘くだされば幸いです。


1.「第三分野の保険料収入4.7兆円」

これは、生命保険協会の年次統計の

http://www.seiho.or.jp/data/statistics/annual/index.html

平成20(2008)年度(以下とくに断りのない限りすべて2008年度の数値を使用)

「年換算保険料の状況」

http://www.seiho.or.jp/data/statistics/annual/xls/2008kessan/2008nenkansan.xls

の大和生命、かんぽ生命を除く44社計の

4,680,319百万円(4.7兆円)

からだと思います。*1


2.「入院・手術給付金0.7兆円」

これのデータソースを探すことができませんでした。

保険金年金・給付金明細表」

http://www.seiho.or.jp/data/statistics/annual/xls/2008kessan/2008hokenkinmeisai.xlsの44社計では、

入院:627,359百万円

手術:292,426百万円

で合計すると

919,785百万円(0.9兆円)

です。それでも4.7兆円に比べて小さく見えますが、その他の給付金や一時金等の中に第三分野からの給付が含まれている可能性は皆無ではありません。


3.アフラックの年換算保険料

アフラックについても年換算保険料をみます。

同社のディスクローズ資料

http://www.aflac.co.jp/corp/report/disclosure/pdf/2009/p07_24.pdf

のp11にあるように

保有契約の年換算保険料

1,125,416百万円で

そのうち992,652百万円(88.2%)が第三分野です。

つまり、同社の保険のほとんどが第三分野なので、同社の収益性が日本の第三分野の収益性の1つのメルクマールになると考えられます。

また、同社の第三分野の年換算保険料生命保険業界全体の約2割(19.7%)を占めていることにも注意しましょう。


4.アフラックの「基礎利益」

次にアフラックの、「基礎的な期間収益の状況を表す指標である」「基礎利益」をみます。

http://www.aflac.co.jp/corp/report/disclosure/pdf/2009/p07_24.pdf

のp18によると

147,728百万円となっています。(その91.6%の135,271百万円が危険差損益

年換算保険料(1,125,416百万円)に対する割合は、約13.1%です。

(なお、同じページによると

保険料収入等は1,162,628百万円でこれに対する割合は、約12.7%です。)


5.第三分野の基礎利益の推定

これを基に第三分野の基礎利益の推定を行います。

アフラックの基礎利益÷アフラックの年換算保険料×第三分野の年換算保険料

=147,728百万円÷1,125,416百万円×4,680,319百万円

=614,363百万円

つまり6,000億円程度推計されます。


6.損害率に関する考察

最後に、

米国では、保険者の利益額を適正化すべく minimum loss ratio が定められていますよね?確か。

というのがあったので「loss ratio」つまり「損害率」についてかんがえてみます。


損害率とは保険金÷保険料のことです。保険金が通常の事業の「原価」とも言え、1−損害率が通常の事業の「粗利益率」という比喩もないわけではないと考えます。


「minimum loss ratio」で検索すると

http://www.familiesusa.org/assets/pdfs/medical-loss-ratio.pdf

というのがヒットしました。

これによると、米国の健康保険では、損害率(保険金÷保険料)の下限が定められている模様です。

具体的にはこのファイルのp3に表があり、個人市場(Individual Market)だと

55%〜80%の範囲となっています。


「損害率」とは損保での管理指標であり、生保では通常「損害率」による管理は行っていないのですが、それを第三分野保険に当てはめるとどうなるでしょうか

アフラックの損益計算書をみてみましょう。

http://www.aflac.co.jp/corp/report/disclosure/pdf/2009/p90_105.pdf

のp91によると、

保険料等収入が1,161,681百万円で保険金等支払金が564,562百万円なので

単純に前者を後者で割ると48.6%となります。


となると、「粗利益率5割」と言いたくなるかも知れませんが、ここで考慮すべき事項があります。

それは、「責任準備金」と「支払備金」の存在です。


保険会社が収受する保険料には将来の保険事故発生のための支払に備えるための金額が含まれており、そのような金額は「責任準備金」として貸借対照表負債の部に計上されます。

また、既に発生した(と考えられる)事故に対する保険金(給付金)支払見込額については「支払備金」という形でやはり貸借対照表負債の部に計上されます。


損保の収益管理で「損害率」を考える場合は、上記のような単純に、保険金÷保険料(これを「リトン損害率」といいますが、)を用いることはまずなく、「責任準備金」と「支払備金」を調整した


保険金+支払備金繰入額)

÷(保険料+再保険収入−再保険料−解約返戻金−その他返戻金−責任準備金*2繰入額)

で計算される「アーンド損害率」を通常使用します。


生保と損保の違いではこれでは目をつぶることにして、「アーンド損害率」を計算すると、

アーンド損害率

=(62,494+3,356+336,881+1,956)

÷(1,162,628−1,568−157,585-2,677−375,306)

64.7%

となります。

3割が事業費を含まない「粗利益率」だとすればそれは当たっていない話ではないとも考えられます。また、米国の健康保険制度とは単純に比較できないのですが、上記の各「minimum loss ratio」の値とそれほど遜色ないものではないかとも考えられます。


<備考>ライフネットの「アーンド損害率」

参考までに、ライフネットについても同じ値を計算してみましょう。ライフネットの場合は2008年度の計数が小さいため、2009年度第3四半期(2009年4月〜12月)の計数を使用することにします。

http://www.lifenet-seimei.co.jp/shared/pdf/LIFENET_disclosure_2009Q3.pdf

のp9により、

アーンド損害率

=(20+8+34)

÷(367−0−117)

=24.8%

*1:かんぽ生命を加えた45社計では、4,729,308百万円

*2:正確には未経過保険料ですが

2010-04-03 日本アクチュアリー会「標準生命表」について

今日は日本アクチュアリー会が作成している(生命保険の)標準生命表について述べたいと思います。

一定以上の知識・経験のある方には既知の話ですが、ご容赦ください。


保険業法第116条

http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/2010-04-01/hou/a116.html

には、

第116条(責任準備金)

2.

長期の保険契約で内閣府令で定めるものに係る責任準備金の積立方式及び予定死亡率その他の責任準備金の計算の基礎となるべき係数の水準については、内閣総理大臣が必要な定めをすることができる。

とあって、それを受けて

標準責任準備金の積立方式及び計算基礎率を定める件(平成8年大蔵省告示第48号)

http://www.nn.em-net.ne.jp/~s-iwk/2010-04-01/H08-048/index.html

1.

責任準備金の積立方式、予定死亡率及び予定利率の水準は、次に定めるところによる。

予定死亡率は、保険業法(以下「法」という。)第122条の2第1項の規定により指定された法人*1が作成し、金融庁長官が検証したものであり、次のとおりとする。

平成19年3月31日までに締結する保険契約 生保標準生命表1996(死亡保険用)又は生保標準生命表1996(年金開始後用)の死亡率の欄に掲げる率

平成19年4月1日以降締結する保険契約 生保標準生命表2007(死亡保険用)、生保標準生命表2007(年金開始後用)又は第三分野標準生命表2007の死亡率の欄に掲げる率

とされています。


ここで何度も出ていることですが、この標準生命表は「責任準備金」*2つまり貸借対照表負債勘定の金額を決めるために用いられるなものです。


負債の金額の決定に用いるものなので、会計上の「保守主義の原則*3が適用され、死亡率は(死亡保険に使う場合には)高めに補整されています。(年金等の生存保険に使う場合は逆に低めに設定)

(2010/4/3 17:42 注:

国際財務報告基準(IFRS)が導入されると、保守主義の原則は見直され、したがって上記の法令が抜本的に見直される可能性もあります。

これは現行の会計基準においてはこうだということを述べていることをご理解ください。

詳細については、

http://d.hatena.ne.jp/equilibrista/20100402/p1#c

のコメントをご参照ください。)


例えば

http://www.actuaries.jp/info/seimeihyo2007_B3.pdf

の3ページには、

変動予測を超える確率を約2.28%(2σ水準)におさえるように補整(中略)粗死亡率*4の130%を上限として補整した。

とあります。

つまり簡単な数式で書くと、

min(補整前の死亡率+標準偏差×2,補整前の死亡率×1.3)

として計算していることになります。

より詳細なプロセスについては、

日本アクチュアリー会会報別冊第228号

「標準生命表2007の作成過程」

http://www.actuaries.jp/lib/annex_09.html

としてアクチュアリー会会員でない方でも2,000円で購入可能です。(会員は1,200円)

別段アクチュアリー会は作成プロセスを秘匿しているわけではないことに留意する必要があります。


ここで重要なことは、

標準生命表は会計上の負債金額の決定に関する縛りであり、保険料の決定とは直接に関係していない

ということです。

もちろん、標準生命表とまるで乖離した保険料決定はありえないですが、かといって、保険料決定にあたってこの標準生命表をガチガチに守らなければならないということでもありません

現に、保険毎日新聞2006年11月30日 日刊 3面

http://www.homai.co.jp/kotoba/kotoba/50on/hi-hyoujunseimei.htm

によると

大手各社のいわゆる準有配当商品では標準生命表よりやや低い予定死亡率が用いられており、無配当保険商品ではさらに低い予定死亡率が使われているようだ。

とあります。


ところが、「標準生命表」が保険料決定の縛りとなっているかの如き記述に出会うことも少なくありません。

例えば、

http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100217

で取り上げた*5岩瀬大輔さんの「生命保険のカラクリ」(isbn:4166607235)の128ページ〜129ページには

保険会社が保険料を算出する際に、各社が使用している共通の死亡率をまとめたのが、「標準生命表」である。日本アクチュアリー会という、保険数理の専門家集団が作成している。

とあるといった具合です。


生命保険料の高さの原因を標準生命表に求めるのは、

会計基準のせいで物価高

という議論に近いのではないかとも考えられます。

*1:引用者注:現在のところ指定を受けているのは「社団法人日本アクチュアリー会」だけです。

*2:責任準備金については例えば http://d.hatena.ne.jp/actuary_math/20100109 をご覧ください。

*3:例えば http://financial.mook.to/accounting/02/kg/kg-k08.htm をご参照下さい。

*4:引用者注:経験値から得られた補整前の死亡率

*5:これで3回目でしょうか?