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March 11(Sun), 2012

「ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない」がスゴイ!

この本を読んでも、仕事の効率が10倍アップしたり、年収が10倍に増えたり、お掃除するだけでときめいて暮らしがハッピーになったり、心に響くマーケティングの神髄を会得できたり、レバレッジがかかってスキルが飛躍的に向上したり、(中略)その手の効能は、おそらく一切期待できません。

この書き出しが既にビビっと来ました。


ビジネス書を読んでもデキる人にはなれない (マイナビ新書)


本書では、出版市場の低迷(公益社団法人 全国出版協会・出版科学研究所)やビジネス書で不安をどうにか解決したいという読者心理など、視点を広く持ってビジネス書をとりまく状況を俯瞰しています。

まず注目すべきは第1章、ここでは過去10年間のビジネス書ベストセラー10位までを、ノンフィクションのそれと対比させながら、国内外の情勢と共に振り返っています。それらを全て表化し、多くの情報を系統的にまとめて、そこから読み取れる傾向に考察を加えるという、正に1つの研究といってよいほどの仕上がりです。この1章を読むだけでもビジネス書の概観を眺めることが出来ます。これが、830円は安すぎる。

また、書店のビジネス書棚に並べられているものの中でも、著者は実務書や、資格取得のための参考書を仕事のために読むことは諸手を上げて賞賛しています。それらを分類しながら・・・

昨今のビジネス書市場を支える稼ぎ頭であり、売れ筋といえば、「自己啓発」「成功法則」「ライフハック」の3系統でしょう。・・・(中略)・・・なぜこれらにフォーカスするのか。

それは、これらの本こそが昨今のビジネス書ブーム、誤解を恐れずにいうならビジネス書バブルを牽引する一方で、どこか眉唾で、どこか胡散臭く、どこか薄っぺらい……というような、「どうもビジネス書って微妙に気持ち悪い」というムードを醸成している元凶になっていると考えるからです。

・・・言い得て妙とは、こういうことを言うんだなというほど、現状にピッタリくる評価だと思います。

上記の自己啓発・ライフハック系のビジネス書は、ナポレオン・ヒルの「思考は現実化する」、デール・カーネギーの「人を動かす」、スティーブン・リチャーズ・コーヴィー「7つの習慣」などの上澄みをすくって引き伸ばし、再利用を繰り返していることを指摘します。また、それらを米国におけるキリスト教文化、ニューソート主義など偉大な著者達の拠ってたつ思想体系の影響も説明しています。

ニューソート - Wikipedia

New Thought - Wikipedia, the free encyclopedia


皮肉たっぷりにビジネス書を揶揄している部分は、読み手によって好き嫌いが別れるかな?とは思いますが、私は楽しく読めました。2章の成功本のお約束ストーリーや、時間管理のマトリックスを見て「またか」と思う感覚など、「あるある!」と思う人は多いと思います。


個人的には、ビジネス書作家が主張する、できるビジネスパーソンはそうでない人と比べてビジネス書をたくさん読んでいるという論理を見事に論破しているあたりが痛快でした。

ビジネス書作家達は自らの著作の中でビジネス書を多読することを異口同音で推奨することが非常に多いのです。さらには速読を当たり前のことのように謳い、「毎日最低1冊」「年間で数百冊」と煽り、さまざまな言い回しで“読まないヤツは成功できない”というムードを醸成していきます。

有能な実務者、優れたビジネスパーソンには、たしかにビジネス書を読んでいる人が少なくありません。でも、ビジネス書を読んでいるから成功したわけではないのです。自分なりに目的や問題意識を抱き、視野を広く持ち、何事も貪欲に吸収してやろう……といったことを強く意識しているから、本もよく読んでいる、というだけのこと。そういう人は、本を読むことに限らず、誰かの話を聞いたり、問題や目標に対してどう取り組めばよいか熟考したり、失敗をいとわず試行錯誤を繰り返したりという取り組みを日ごろからしているものなのです。その方策のひとつとして、読書も取り入れているに過ぎません。

単なる相関関係因果関係のように言ってのけるのは、エセ科学の代表的な手法の一つです。この著者が科学的だ!とは言いませんが、主張やデータを鵜呑みにせず疑って自分の目で見ようとする姿勢は参考になります。

何とかお金を生み出したい出版社と、自己顕示欲を満たすためにひた走る一部の作家達の利害によって加速されるビジネス書ループ、そのうねりから一歩距離をとって自分が読みたい本を自分のペースで読むということを本書は助けてくれるんじゃないでしょうか。

まず、実務者としての自分の仕事をしっかりとすること。その足場が揺らいでしまっては、働くということを大切にしているとは言えないですよね。・・・と最近の自分への自戒もこめて面白く読めました。



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