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July 13(Fri), 2012

どんなビジネス書より「アルケミスト」を読むべき理由

ブラジルの作家パウロ・コエーリョによって書かれた小説「アルケミスト」。最初に読んだのは、おそらく中学3年か高校1年の時でした。当時は、その物語に引き込まれて楽しんだ記憶がありましたが、30歳目前の今読み返してみると、自分が日々を歩んでいくことへの大きな示唆があります。「自分の価値観にそって行動することの意味」「恐れを抱きしめ、それでも進んでいく鍵」がテキストの中にあります。

パウロ・コエーリョ - Wikipedia

The Alchemist (novel) - Wikipedia

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アルケミストとは

主人公であるスペイン羊飼いの少年サンチャゴは、ピラミッドにあるという宝物を探しに行くことを決意します。自分の羊を売り、全財産を盗まれ、命を危険にさらしながらも、彼は旅を続け、その道中で錬金術師(アルケミスト)に出会う。絶望や諦め、迷いを経験しても尚、彼は旅を続けていく。

本書のタイトルは錬金術師ですが、錬金術についての創作が中心に描かれているわけではありません。著者のパウロ・コエーリョ自身も、地位と名誉を投げ打って世界を旅した経験があり、彼の生についての考え方が色濃く反映されたのが、本書だと言えます。「西の魔女が死んだ」や「モモ」とも共通する示唆があります。

西の魔女が死んだ (新潮文庫)モモ (岩波少年文庫(127))


価値観と恐れと一緒に生きること

本書では、自分の恐れや不安とどうやって付き合っていくか?自分の大切なものをどうやって大事にしていくのかということについて、主人公サンチャゴが何度も悩み、時に間違え、それでも新たな発見をしていきます。

メッカへの巡礼を夢見るクリスタル屋とサンチャゴの会話を引用します。

  「ではどうして今、メッカに行かないのですか?」と少年がたずねた。

  『メッカのことを思うことが、わしを生きながらえさせてくれるから、そのおかげでわしは、まったく同じ毎日をくり返していられるのだよ。・・・もしわしの夢が実現してしまったら、これから生きてゆく理由が、なくなってしまうのではないかとこわいんだよ。・・・実現したら、それが自分をがっかりさせるんじゃないかと心配なんだ。だから、わしは夢を見るほうが好きなのさ』・・・

  誰もが、同じ方法で夢を実現できるとは限らないのだ。

  ・・・

  『今の店は、わしが欲しいと思っていたちょうどその大きさだ。わしは何も変えたくない。どうやって変化に対応したらいいかわからないからだ。わしは今のやり方に慣れているのだ。・・・おまえはわしに、今まで知らなかった富と世界を見せてくれた。今、それが見えるようになり、しかも、自分の限りない可能性に気がついてしまった。そしてお前が来る前よりも、わしはだんだんと不幸になってゆくような気がする。なぜなら、自分はもっとできるとわかっているのに、わしにはそれをやる気がないからだ』

この文章を読んだときに、自分の大切なものを突き止めることすら痛みを伴うのだ、と腑に落ちました。今まで見えていなかった、今はまだ実現できていない大切なものが見えてくると、それが叶えられなかった過去やおざなりにしてきた自分の過ちを嫌でも意識せざるを得ない。それって結構胃が痛くなる作業と言うか、目を背けたくなることだったりします。大切なのに、見たくない、それでも触れていかなくてはいけないものが自分にもあります。


サンチャゴは、錬金術師と砂漠を横断する中で、自分の心との付き合い方を模索していきます。

  進みながら、少年は自分の心に耳を傾けようと努力した。・・・

  次の三日間、二人の旅人は、たくさんの武装した男たちとすれちがった。そして、地平線上にも、他の武装した男たちの姿を見かけた。少年の心は恐怖を語り始めた。そして少年に、大いなる魂から聞いた物語を話した。宝物を探しに行ったものの、成功しなかった男たちの物語だった。そのために、少年は時々、宝物をみつけられないのではないか、この砂漠の中で死ぬのではないかと考えて、こわくなった。・・・

  「なぜ、僕の心に耳を傾けなくてはならないのですか?」

  『なぜならば、心を黙らせることはできないからだ。たとえおまえが心の言うことを聞かなかった振りをしても、それはお前の中にいつもいて、おまえが人生や世界をどう考えているか、くり返し言い続けるものだ』

  「たとえ、僕に反逆したとしても、聞かねばならないのですか?」

  『・・・おまえは自分の心から、決して逃げることはできない。だから、心が言わねばならないことを聞いたほうが良い。そうすれば、不意の反逆を恐れずにすむ。』

  <時々私は不満を言うけれど>と心はいった。<私は人の心ですからね。人の心とはそうしたものです。人は、自分の一番大切な夢を追及するのがこわいのです。自分はそれに値しないと感じているのか、自分はそれを達成できないと感じているからです。永遠に去ってゆく恋人や、楽しいはずだったのにそうならなかったときのことや、見つかったかもしれないのに永久に砂に埋もれた宝物のことを考えただけで、人の心はこわくてたまりません。なぜなら、こうしたことが本当に起こると、非常に傷つくからです。>

  「僕の心は、傷つくのを恐れています」ある晩、月のない空を眺めているとき、少年は錬金術師に言った。

  『傷つくのを恐れることは実際に傷つくよりもつらいものだと、おまえの心に言ってやるがよい。夢を探求しているときは、心は決して傷つかない。それは、追求の一瞬一瞬が・・・永遠との出会いだからだ』・・・

  「僕が真剣に自分の宝物を探しているとき、毎日が輝いている。それは、一瞬一瞬が宝物を見つけるという夢の一部だと知っているからだ。本気で宝物を探しているときには、僕はその途中でたくさんのものを発見した。それは、羊飼いには不可能だと思えることに挑戦する勇気がなかったらならば、決して発見することができなかったものだった。」


傷つくのを恐れることは実際に傷つくよりもつらいものだ


この一文だけでも、この物語には意味がある。自分の痛みですら、それを抱きしめて進むことができれば、そこには生きている実感と次の景色がある。

「なんの苦労もせずできるビジネスマンになれる7つの方法」なんてものよりも、必要な痛みを、「今の自分と、自分の大切なものをつなぐもの」として認識し、一緒に歩いていけるようなそんな普通の歩みを続けていけるようになりたい。

僕が村上春樹さんの作品の登場人物に惹かれるのと同時に、「浮世離れしている」と批判したくなるのは、彼らはみんな「何者でもないけれど、自分のやるべきことを、淡々とやっている人」であり、「それを自分で受け入れている人間」だからなのです。

2011-09-29

自分の価値観と目の前にいる人、仕事をつなぐ。そして目の前、今に集中して、できることに只々、心を砕く。突拍子もないことをするのではなく、普通の日常の中で命を燃やす。そうしていきたいと思わせてもらえる物語でした。

アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)アルケミスト―夢を旅した少年 (角川文庫―角川文庫ソフィア)
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