Aerodynamik - 航空力学

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観覧記録 東京女子流「4th JAPAN TOUR 2014 CONCERT*04 〜野音Again〜 with 土方隆行バンド (bonsai.)」@日比谷野外音楽堂

http://www.barks.jp/news/?id=1000104676
http://www.entamenext.com/news/detail/id=660
http://www.cdjournal.com/main/news/tokyo-girls-style/59693
http://news.dwango.jp/?itemid=8081



http://ameblo.jp/ayano-tokyogirlsstyle/entry-11879053341.html
http://ameblo.jp/mei-tokyogirlsstyle/entry-11879282678.html
http://ameblo.jp/miyu-tokyogirlsstyle/entry-11878727343.html
http://ameblo.jp/yuri-tokyogirlsstyle/entry-11878743399.html
http://ameblo.jp/hitomi-tokyogirlsstyle/entry-11878680179.html


東京女子流の4度目のツアー「4th JAPAN TOUR 2014〜Royal Mirrorball Discotheque〜」は2014年の3月から5月にかけて行われた。そのツアー中、東名阪公演を終えて残るは地方公演だけというタイミングで、昨年末の武道館公演が4月に映像商品として発売された。プロデューサー松井寛ソロアルバムリリースイベント「松井病院」の2日前。*1 通常盤に2枚の別ディスクがついた初回盤は1万円となかなかの値段を付けて売られたが、その2枚目のディスクに収められた2013年のツアードキュメンタリーの内容は想像を遥かに超えるショッキングなものだった。店頭スポットで流れていた2枚目の商品説明は以下の通り。

「3rd JAPAN TOUR 2013 〜「約束」〜 DOCUMENT」


「史上最悪のツアー」「満身創痍のステージ」となった、困難の連続となった3rd JAPAN TOUR 2013 『運命』。声帯炎、過呼吸、体調不良、ステージ本番中の途中離脱など、数々の壁にぶつかり、思うようにパフォーマンスできない彼女たちの裏側の姿。ミーティング風景や、個別のインタビューなども交えた2時間の映像。このツアーのどん底から、今、再び、進化を始める彼女たちの忘れられないツアーが、遂に映像化。


過度に感動を売り物にしない東京女子流運営がこんなコピーを付けている時点で、異様な状況なのは見て取れる。東京女子流は、けじめと清算という行為に一際強い拘りがあるのだろう。プロジェクトの舞台裏までを娯楽として曝け出すドキュメンタリーでも、「プロジェクトX」のように世界を変える成功が約束されているのなら、安心して全ての困難の過程を娯楽として見届けられる。テリー・ギリアムの映画撮影が数々の災難に襲われ中止に至る「ロスト・イン・ラ・マンチャ」のように、「如何にして我々は失敗したのか」を描き出すこの「約束ツアードキュメント」は、あまりにも壮絶凄惨で救いが無い。肉体と精神の両面が追い込まれ崩壊する中で続けられていたツアー過程を裏方から全部晒し出す。AKBドキュメンタリー映画二本目で「これは戦争映画だ」という評があったけれど、あの映画ですら前田敦子による壮絶なカタルシスの瞬間が用意されていた。そのカタルシスはこの「約束」ドキュメンタリーには用意されていない。ドラマチックな物語を運営側から過剰なまでに提供するAKBと、初の武道館公演ですら定期公演の延長のようにフラットに終えてしまう東京女子流のスタンスの違いなのだろう。このドキュメンタリーに対するカタルシスは、その後の成長によって補完される。しかし本当にその後に成長があるのか、未来の事など誰にも分かりはしないのだ。


ツアーが始まる丁度一月前の02/14に、突然東京女子流の「人事異動」がustreamを通じて報告された。新リーダー庄司芽生、ボーカル小西彩乃、ダンス中江友梨、副リーダー新井ひとみ。山邊未夢はリーダー更迭、新体制では役職すらなかった。これを何かの懲罰人事と捉える向きもあったが、ドキュメンタリーを通して、メンバー全員が余りにも多くの苦悩を抱え込む中で、山邊が明らかに適性でないにも拘らずリーダーとして如何に戦ったか、そしてリーダー交代劇が適切な判断なのであろう事を理解させられる。メンバー全員が気力も体力も失い不安の中で結束力すらも失ってしまう中、「いち、いち、いちに、そーれ」と掛け声をかけながらメンバー達が山邊を先頭に狭い舞台裏の通路をぐるぐると走り回る、もう温かい助言や応援などでは彼女達を一ミリたりとも救えない、ただその「走り込み」という馬鹿らしさ、無意味さに縋るしかない。当初の山邊リーダーに求められていた役割はこれだったのだ。ぼろぼろ泣いた。リーダー職を離れた彼女がその無邪気で自由で伸びやかな笑顔を取り戻したのは説明するまでも無い。彼女のほんわかした無邪気さが、生真面目で前に出られないメンバーのストレスをカバーし続けてきたが、それはムードメーカーであってリーダーでは無い。山邊は戦ってきた。グループが陥りやすいシリアスさとリラックスを切り替えさせる事に最大の注力を割いていた。新井をエースとすれば、前へ出るための新リーダーは中江でもよかったかもしれない。しかし、庄司リーダーは自らが指揮を取るというよりも、常に周囲そして全体の状況を把握し、その中で女子流がどう動くべきか、一歩引いた視点で観察しコントロールする役割を期待されているのだろう。





梅雨入りしたばかりの東京は猛暑と豪雨がくるくると入れ替わる不安定な天候が続いていた。この日は風も無く酷く暑かった。しかし快晴だ。これ以上ない位に快晴だ。夕立に備えて鞄に野外フェス用のポンチョを詰め込み、日比谷へ向かった。珍しく早く着きすぎてしまい、有楽町で食事を取る。一時期仕事で頻繁に通い詰めた場所だが、その時に食事に使っていた店は無くなっていた。スパニッシュアールデコの美しいクラシック建築だった三信ビルディングも解体工事が半ば終わっていた。歴史的建築として補強を行い残していこうという運動も無駄に終わったらしい。




リハの時点で「今日の演奏がやばすぎる」「バンドかっこ良過ぎ」とTwitterのタイムラインが騒がしくなる。野音なので音は外に素通りだが、この期待を大切にしようと、リハが終わるまで有楽町を歩き回る。開場後しばらくして「Royal Mirrorball」Tシャツに袖を通し会場へ入ると、そこで流れていたSEがまた渋い。「Discotheque」を掲げた4thツアーではディスコクイーンKylie Minogue姐さん固めだったが、今回のアルバム「Killing Me Softly」の流れを汲んで、Stevie WonderGipsy Kingsといった渋すぎるファンクネスが続く。傾き始めた日差しの中でひたすら渋くそして色っぽい。あまりに気持ちがいいので席に着かず立見席で踊っているとスタッフに着席を急かされる。Roberta Flack「Killing Me Softly」も流れるが、開演時間が迫るとニュージャックスウィング「運命」の下敷きとなったBobby BrownRick Astleyに空気が換わる。


Toto featuring Cheryl Lynn - Georgy Porgy


Stevie Wonder - Superstition


Earth, Wind & Fire - Fantasy


Gipsy Kings - Inspiration


Roberta Flack - Killing Me Softly


Stevie Wonder - Blackman


Bobby Brown - My Prerogative


Rick Astley - Never Gonna Give You Up




一旦音が途切れ、次に大きなボリュームで流れ始めたのはツェッペリン「移民の歌」。大ボリュームで流れるRobert Plantの雄叫びのなか、バンドメンバーがステージに上がる。今回演奏を務める「bonsai.」は、ギター土方隆行/ドラム渡嘉敷祐一/ベース湯浅崇/キーボード松田真人。吉田美奈子バンドの渡嘉敷祐一初参加。女子流バンド常連の湯浅崇以外は1955/1956年生まれという相変わらずのベテラン勢で、演奏スタイルはYardbirdsやJeff Beck Groupかという。松井さんのアルバムの女子流曲のタイトルが「Paint It Black」なのもすべてここに繋がる。比較になると思うので過去のバンドメンバーも書いておく。


Led Zeppelin - Immigrant Song


Rolling Stones - Paint It Black


bonsai.オリジナル曲フルサイズ初公開。bonsai.000


それから始まったライブは二時間半。このライブをこのクオリティで乗り切った、歌い切った、それだけでここには壮大な背景がある、武道館の小西さんドラム「Get The Star」、そして今日の「ヒマワリと星屑」「約束」、ぼろぼろだった東京女子流と小西さんの復活劇。楽曲の質、円熟したバンド演奏、そういう部分だけでは欠落する物語。



一曲目から「ヒマワリと星屑」。初期に分かり易い形で「カッコいい女子流」を提示したギターのカッティング。そして「歌姫」と自他ともに称してきた小西さんが、2年近く続く声の不調から、昨年末からは遂に自身のパートを新井さん/中江さんに渡すことになった因縁の曲。それが「負荷」であるならば、それを分散させるのがチームというもの、しかしこの日彼女は自身のパートを歌った。歌った。歌った!歌った!いつもは苦々しいあの「あーちゃん!あーちゃん!」の被せコールも、今日ばかりは一緒に叫びたいと思った。被せたら結局聴こえない、そういう話ではないのだ。安定した音程を取れるのは唯一新井さんだけ、その女子流が終盤の数曲を除いてほぼ安定した歌唱を魅せた、この重要な意味を置く大舞台で。昨年のツアーからの絶望的な状況と、今目の前で歌い踊る彼女達、それは一線で繋がる存在だとは思えない、しかしこれが東京女子流なのだ。最初は自分の耳とその認識力を信用しなかった、ここには野外マジックであったり、生バンドマジックというものがある。数日前に相変わらずの辛そうなステージを目にもしている。あまりに安定した、いやそんなネガティヴなものではない、歌唱の魅力を取り戻したその歌に、補正や被せを導入したのかとすら思った。酷い話だが、そう思わせる位に、目の前にいる彼女たちの歌はかつて無いほどに輝いていた。


東京女子流の日比谷野音でオリジナルのボーカルが復活!」「3rdツアーの反省からの復活と今後の飛躍を宣言!」「挫折を乗り越えた4thツアーファイナル」、そういう見出しが音楽メディアを飾った。確かにそうなのだけれど、挫折だの復活だのはファンが思い入れとして抱いていればいい、メディアの煽る言葉ではないだろう、そう思うけれど、「約束」ドキュメンタリーを商品化した時点で、メディアが「復活」という物語を描くこと、3rdツアーが「挫折」だったと書くことを認めたという事なのだろう。2年近くも苦しんだ女子流がたった一回のライブで「復活」などというのも気が早すぎる、ずっと運営が示しているように、彼女達は長いスパンでの活動を見据えている。ただ、このライブを成功に終えたことは、彼女達に大きな財産と自信を与えてくれたことだろう。




松井寛の独特の「短い」リズムトラックが好きなので、女子流ライブの面白さを加速させるバンド演奏でも正直ドラムのタイム感の違いを楽しめたことが無くて、徹底して松井ワールドな「Royal Mirrorball Discotheque」ツアーのファイナルとしてこの公演を位置づけたことに違和感を感じる位だったのだけれど、今回の渡嘉敷祐一のグルーヴと自分が期待するリズムとの嵌り具合に、終始嗚咽に近い程興奮をしていた、そして何より松田真人のキーボードが歌いまくっていた。「Don't Be Cruel」のフェンダーローズソロの色っぽさ、日没近くに続けて披露された爽やかな「はなかっぱ」3部作「おんなじキモチ」「大切な言葉」「ちいさな奇跡」でのクラヴィネットソロのドファンキーさ、「それでいいじゃん」での土方ギターとピアノソロのスリリングな掛け合いからユニゾンになるあの瞬間。思い出しても震えが来る。「十字架」もオリジナルバージョンを聴きたかったが、この一曲だけバンドが控えに入り「怪談」バージョンだった。2012年武道館の時のようにパーカッションがいたらバンド演奏だったかもしれない。


女子流メンバーは並々ならぬ決意と覚悟をもってこの場に臨んでいた。二ヶ月活動休止と年末の武道館公演が発表された2年前の同会場公演を「あの頃は何も考えずただただがむしゃらだった」と振り返る。2年前の公演での写真をそれぞれ1枚づつ出して語り合う。庄司さんは気合を入れ過ぎてトレードマークの前髪ぱっつんを完璧にすべく何度も整えるうちに短くなりすぎてしまったと恥ずかしがりながら1枚を出し、汗っかきの中江さんは奇跡的におでこに前髪が張り付いていない1枚をセレクト、新井さんは公演中に眠くなり目が垂れ下がるガチャピン状態を1枚、自己プロデュース意識の高い山邊さんは武道館公演が決まって期待にキラキラしている自信の表情の1枚をセレクトするも、「笑うと三日月目」の昔の自己紹介を持ち出され「黒歴史」だなんだとわちゃわちゃに。最後に小西さんが出したのはごく普通の1枚。「最近ずっと変な作り笑いになってた、ありのままの自然な笑顔でいたい」とこれまでの自身を切実に振り返るも、周りが「ありのままの」に反応。山邊さんがあの曲を歌いだしそうになるも、中江さんが「待って待ってあそこ権利関係厳しいから」とリアルな駄目出しでブレーキをかける。


夏至が近いこの時期でもすっかり日が落ちて暗闇の中でステージの照明と周囲の官公庁ビルの照明が眩しくなり、ペンライトが輝く時間帯から、「Pain」「Limited addition」「運命」のクールでシリアスなブロック。「Pain」の初披露を激渋なバンド演奏で聴く感動。そして久し振りの「Limited addition」。小西さんと新井さんのヴォーカルの鬩ぎ合いで成り立つこの曲、もうやらないのだろう、そう諦めていたこの曲が再び披露される、そして「Limited addition」から「Unlimited addiction Mirrorball Royal Mix」へ繋ぐ展開。これだこれだバンドならこれだ。


そして本編最後、庄司さんがその曲の前にファンに向けて語る。「3rdツアーは、体調不良だったり、私達自身のメンタルの弱さだったり、凄く色んなことを改めて考え直す事ができるツアーとなりました。それを乗り越えて今回の4thツアーでは私達メンバーは『女子流ってどんなグループなんだろう』って改めて考え直すことができました。ファイナルのこのステージでは、私達の思いを込めて、これからもっともっと上を目指していきたいという気持ちを込めて、『約束』を最後に歌わせていただきたいと思います。今ここまできて、新たなスタートを切ろうというメンバーの想いが詰まった曲です」。「東京女子流は、けじめと清算という行為に一際強い拘りがあるのだろう」と先に書いたのはこういう事だ。武道館の「Get The Star」演出、迷走から4thツアーでのMirrorball Royal縛りのディスコ回帰、そしてこの場での「約束」。会社で毎日のようにPDCAPDCAだと呪文の様にそれを突きつけられて、しかしそれを実感するのは女子流のライブだという。




告知として、過去のアルバムを1公演づつ取り上げる「TGS Discography」(赤坂BLITZで行われることも含めてKRAFTWERK「Retrospective」ツアーっぽい *2 )、そして大野雄二ネタのダンディズムソウル「Count Three」の女子流バージョンを軸にして新曲のアナログ7インチを5枚切る「HARDBOILED NIGHT」5公演を発表。色々な挑戦に取り組む中でもこの筋の通った感じは昨年の女子流には無かったものだ。そこでスクリーンに映った「Count Three」7インチのジャケのフォントがまたしても「Killing Me Softly」にかけてだろう、The Fugees「The Score」を思わせるものだったのが信頼できる。TGS41は「ゲーム」というタイトルだとMCで話していたが、これも「Killing Me Softly」縛りで「G.A.M.E.」という表記だったりするかもしれない。「Killing Me Softly」を略すと「KMS」、つまり東京女子流4thツアーの下敷きとなったディスコティーク路線「運命」のカップリング「ふたりきり Royal Mirrorball Mix」がKevin Saundersonネタなのは次のアルバムへの伏線だった、とまで言うと単なるネタだが。



The Fugees - Killing Me Softly With His Song


東京女子流 / 4th Album Killing Me Softly 全曲ダイジェスト


東京女子流 - Killing Me Softly


  1. ヒマワリと星屑
  2. 頑張っていつだって信じてる
  3. W.M.A.D
  4. Liar
  5. Don't Be Cruel
    • MC
  6. おんなじキモチ
  7. 大切な言葉
  8. ちいさな奇跡
    • MC
  9. それでいいじゃん
  10. ふたりきり
  11. ずっと 忘れない。
    • MC
  12. 十字架
    • MC
  13. キラリ☆
  14. 孤独の果て
  15. Rock you!
    • MC
  16. Pain
  17. Limited addition / Limited addition Unlimited addiction Mirrorball Royal Mix
  18. 運命
  19. 鼓動の秘密
    • MC
  20. 約束
    • EN
  21. Attack Hyper Beat POP
    • MC
  22. Killing Me Softly


シチュエーション、パフォーマンス、ストーリー、全てが最高のライブだった。結論的な物を付け加えるとすれば、それは東京女子流に課せられてきた歌とダンスのハードルにようやくメンバー達の年齢と体力が追い付きつつあるということだろう。そもそもデビュー前に作られたにも関わらずこれまで封印されてきたTGS00「Killing Me Softly」が、彼女達の成長に見合った頃合いになったと判断され、このアルバムで日の目を見た、そういうことなのだろう、そして彼女達はこの日のステージでそれに応えてみせたのだ。


最後に、2013年年末の小西さんのブログへのリンクを貼っておきます。
http://ameblo.jp/ayano-tokyogirlsstyle/day-20131231.html




Score

Score

  • アーティスト:Fugees
  • Columbia
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