2010-02-25 ULYSSES ユリシーズ No.2

『ULYSSES ユリシーズ No. 2』(『CROSSBEAT』2010年04月号増刊、シンコーミュージック・エンタテイメント)が出ました(実はまだ手元に届いてないのですが)。
私はその中で、
という文章を書いています。以前ここでチラッと書いた音楽雑誌とは、これのことでした。
編集の方いわく「濃厚な、他誌ではありえない執筆陣によるビートルズ特集」を目指したとのことですが、実際その通りのものが実現されていると思います。というかそもそも、福島恵一さん、柴田元幸さん、その次に私、という名前の並び自体、どんな媒体であれ、これまでも、そして今後も、まずありえないかと。
(小)特集の題名である「ポスト・ザ・ビートルズ 1970-2010」というのも、よく練られていて、こうした視点でビートルズに関する原稿が集められることはあまりない(なかった)ように思います。私が書いた内容も、言ってみれば、ビートルズなきあとに、しかしながらそれにもかかわらずビートルズがどう経験されているか、もっとベタに言えば、それで誰がどう飯を食っているか、という話です。まともな音楽雑誌では絶対に載せられない内容(笑)ですので、書いている時点では、きっと誌面から浮いちゃうだろうと予想しており、その懸念は予め先方にもお伝えしたのですが、蓋を開けてみたら「ポスト〜」ということで、ぴったりはまっています。うまくはまってよかったなと思うと同時に、こういうまとめ方をした編集サイドの手腕とセンスの良さに脱帽です。鼎談も面白いです。
ところで、今回久しぶりに(というかほとんど初めてといって良いほどの)編集サイドとのアツイやり取りを経験しました。私が送った原稿に対して、深夜(ほとんど明け方)に編集長の方(お会いしたことはないのですが)からメールで長文のメッセージをいただき、しかもそれが私の原稿(というより私自身の立場)に対する本質的な批判を含むもので、こちらも反射的にそれに対する長文の返事を書いてから就寝。そのメッセージを読んだあたりで、あちらは発熱してダウン(原因は私の原稿?)、こちらはそれから数日はその原稿のことで頭が一杯にもかかわらずなかなか時間が取れず(理由はもう忘れたが時節柄とにかく忙しかったので)次にまとまった時間が取れ次第、急いで改稿して、送信(やはり明け方)、あちらは熱がおさまってからそれを読んで、また即座に長文のメッセージ、それにこちらがすぐにまた返答、それから就寝、といった感じで、校了まできわめて濃密かつ刺激的なやり取りをさせていただきました。瞬発性・即時性・本気度・昼夜逆転性(?)の面で、アカデミックな仕事ではなかなか経験できないハードさで、掛値なしでたいへん勉強になりました。本当にありがとうございました。ああいうアツイ雑誌を作るには、編集サイドはあそこまでやらなきゃダメなんですね。
この雑誌の前号(創刊号)の扉には「何はともあれ雑誌が存在するのはよいことです」というミシェル・フーコーの言葉が引いてありますが、「雑誌が存在する」ということは、そうしたアツイ(実際の発熱すら伴う)コミュニケーションが存在するということであり、それ自体が「何はともあれよいこと」だなとあらためて感じました。加えて、音楽がそうしたコミュニケーションのメディア・孵卵器になってることも「よいこと」だなと。振り返れば、私も今回のテーマがビートルズじゃなかったら、もうちょっとクールに対処した(できた)だろうなと思います。編集長とのやり取りの中で問題になった点も、世代・記憶・経験・アイデンティティ(自己認識)と密に絡み合ったものでしたし、音楽が持っているそうした要素は、やはり強力・強烈だなあと。いまここで何か言わなくちゃ、俺、死んじゃうから、言う、で、言った、言い切った、疲れた、もう寝る、みたいな。ともあれ、だからこそ、お互い体には気をつけたいものですが(笑)。
と、まあいろいろ書きましたが、要は(私の文章は措いても)すごい雑誌なので絶対に買うべきです、買った方がいいでしょう、いやお願いですからぜひとも買ってくださいよ、ということです(笑)。
シンコーミュージック・エンタテイメントのサイトの当該ページはこちら、Amazonはこちらですので、よろしく。
一応、以下に目次も(てきとうに端折ってますが)貼っておきます。ご覧の通りの豪華執筆陣であります。
ULYSSES No.2
同時代の最重要バンド、ゴーゴル・ボーデロのライヴをウクライナで見た 石田昌隆
Dream of Life with Patti Smith
歌うことと踊ること──大野一雄のために
アントニー・ハガティ(アントニー&ザ・ジョンソンズ)、その表現の核心を語る 熊谷朋哉
特集
インターナショナルな左翼と音楽の自由 パンタ・インタビュー 鈴木泉
「左翼」とは何か 四文字熟語をめぐって 河添剛
ディスコグラフィ 高沢正樹
特集
★外国人ミュージシャン・評論家、日本人ミュージシャン、読者が選ぶ10 枚のアルバム
特集
クロストーク
存在と時間 ビートルズの"現在" 大貫憲章×河添剛×清水久靖
あたかも水や空気のように……ビートルズ解散後四〇年──その不在と遍在 福島恵一
誰かがどこかで彼らの歌をうたっている ビートルズ・カバー雑感 柴田元幸
われわれは何を買わされているのか 新リマスターCDから考えるビートルズの「オーセンティシティ」 吉田寛
特集
サラヴァ・レコード
サラヴァ讃 L'Improbable Ulysses 河添剛
サラヴァの時代 ピエール・バルー、人生とインディの真髄を語る 河添剛
La Discotheque SARAVAH du pollen dont on s'est nourri...
世界の恐怖を前にして ブリジット・フォンテーヌとアレスキが語る ベルナール・ブラン 翻訳= 河添剛
Who's Who(De qui parlez-vous?)サラヴァのアーティストたち 編集部
[ユリシーズ レ・ヴァリエテ]
●真理の紋章として現れた大いなる自由、活力、爆笑の魔術
●「直島銭湯『I LOVE 湯』」──死を経ず「極楽」に詣でる 朝吹真理子
● HIP HOPとはなにか? 佐藤雄一
●連載 Check the Wardrobe 松井清
GALLERY
Devendra Banhart
Tokyo,February,2010
photographs by IZUMI SAITO
Greetings from ULYSSES
リゴドン 主張する「ギョーカイの張本人」
DISC REVIEW

曰く「食べるものは売り払い、何か飢え死にするものを買え」(アンドレ・ブルトン&ポール・エリュアール)と。
ULYSSESの記事、興味深く拝読しました。
記事のなかで触れられていた件ですが、『Help!』と『Rubber Soul』のオリジナル・ステレオ・ミックスは、カナダで一時期
CDで市販されていました(意図しないエラーによるものですが)。
海外を中心に、ディープなファンの間では有名な話なのであるいはご存知かもしれませんが、私がブログで記事にしたものをご参考までに。
http://pub.ne.jp/nora/?entry_id=2611799
私はクラシックは門外漢ですが、吉田さんのブログは色々と興味深いです。
これからも楽しみにしています。
はじめまして。
>『Help!』と『Rubber Soul』のオリジナル・ステレオ・ミックスは、カナダで一時期CDで市販されていました(意図しないエラーによるものですが)
これ、不覚にも知りませんでした。ご教示ありがとうございました。
もっともビートルズについては、LP時代から各国(英・米・日・独など)のマスターが違うために異なるミックスが出回っていたわけですから、CDについても色々ありうると思います(日本でも回収された『Abbey Road』がありますよね。持っておりませんが)。
オフィシャル(レギュラー)盤以外は全部ブート、みたいなかたちで今回は(分量の制約もあって)論じましたが、オーセンティシティの問題は、本当は一作品ごと(もっというと一曲ごと)にじっくり論じてみたいところです。