円城塔『オブ・ザ・ベースボール』

ファウルズ。とある町の名前でこの町の名前。人が降ることで有名で、地理の試験に出ることは決してないが、誰もがみんな知っている。人が降るっていうのは人が降るってことで、つまり文字通り人が降る。降るなら雨か雪、せいぜいがところ蛙程度にしておいて欲しいという要望は上まで届いたことがない。そんな町に送られてきたユニフォームとバットを身につけたレスキュー・チーム=町の英雄たちの物語。第104回文學界新人賞受賞作。

視界が一気に開けてくること間違いなしの新しい文学世界。
表題作は、ファウルズという人が降る町で、送られてきたユニフォームとバットを身につけたレスキュー・チームの一員の物語。
伝え聞くところでは難解な小説群を発表している円城氏ですが、これは割に読みやすかったです。一方、併録作は鳥肌必死でかつ物語の内容は意味を持たない類のものです。
文學界新人賞を表題作で受賞したとき、選評で島田雅彦が的を得た評を展開しているので、一部引用させていただきます。
<ゴタクを並べる語り口の強度は高く、ゴタクオタクの面目躍如たる作品に仕上がっている>
でも、この評は併録作「つぎの著者につづく」に対してこそ用いられるべきで、この作品の強度は並のものじゃありません。
「つぎの〜」は改行なしの文章に、否定形がとめどなく溢れるスタイルですので、読みながら即時に理解するのは難しいのですが、エーコカフカなどの影響を多分に受けながらも、新たな地平を切り拓こうとする強い意志みたいなものが文中に滲み出ていました。でも、気負いすぎていないところが大物感を漂わせています。
バットは何のためにあるのか? 打つためにあるんじゃないのかい。エネルギーと質量は一緒だ〜。
落下点を確率で表現するなんておかしい……。私的には色々なことを叫びたくなる小説でした。

オブ・ザ・ベースボール

オブ・ザ・ベースボール