それはアニリール氏だけの事なのか?

1)アニリール・セルカン氏(元東京大学大学院工学系研究科助教)による研究費私的流用疑惑の報道

 東京大は29日、論文盗用などが見つかったトルコ人の元助教アニリール・セルカン氏が使用した研究費のうち、補助金や寄付金など100万円超が私的流用されたことが判明したと発表した。東大はこれらの金額の一部を既に提供機関に返還、残りも返還する方針。 東大は、元助教が2005年に工学系研究科助手に就任して以降、提供を受けた研究費計約1千万円の使用状況を調査。うち、パソコンやデジタルカメラなどの購入費約105万円が私的流用に当たると判断した。
 元助教は、10年3月に学位授与の元となった宇宙ビジネスなどに関する論文で盗用などが見つかり、博士号が取り消された
(共同)

 アニリール・セルカン東京大学大学院工学系研究科助教(以下「アニリール氏」という。)に係る研究費の執行状況について、国立大学法人東京大学における競争的資金等の不正使用に係る調査の手続き等に関する規則(平成19年9月27日東大規則第32号)」第4条に規定する調査委員会を設置し、本調査委員会で平成22年9月から平成23年5月にかけて調査を行った結果、不適切な使用による会計処理が判明しましたので報告します。
 なお、本学の規則上、最終的な事実認定(裁定)を行うにあたっては、本人に弁明の機会を与えることが必要であるため、本学としてはアニリール氏に連絡を試みてきたが、居所不明のため弁明の機会を設定できない状況にある。

 詳細はこちらのPDFファイルをご覧ください。

 研究費1千万に対し1割に私的流用疑惑、、、「それは、こんな仰々しい調査せな発見できんもんなのか?」と思った。これが「論文盗用でもなきゃ見つからんかった」とゆう事なら、世の中「灰色先生だらけ」ではないか。とゆう意味でもある。

2)東大調査の概要

a)目的外支出発見の経緯: 論文盗用事件を受けて後、学内規則に基づく特別調査委員会を編成して調査にあたった結果、判明。
b)調査対象年度はH17〜21度の5ヵ年度。
c)この間にアニリール氏が決裁権限を持った総額は1008万5467円:5カ年度のうち、もっとも研究費が裕福だったのはH18度。H20度がこれに次ぐ。

d)このウチ、調査委が不適切疑惑を持った支出総額は105万7950円:1年あたりの概算では、経費200万に対し20万。比率にして約10.5%。この間、灰色率は右肩上がりで伸び続けている。

  • ※最も裕福だったH18度の灰色率は1.25%に過ぎないが、共同研究のサイフを任されたと思しきH21度の灰色率は(H17度に次ぐ貧窮であるにかかわらず)34.99%にまで伸び続けている。
  • ※この間に、なんらかの学習効果がドライブをかけた可能性を疑うべきだろう。例えば「他人のフリ見て我がふり直す」、「朱に交われば紅くなる」などだ。
  • ※1a〜3cの各項は、それぞれ「別のオサイフ」と思われる。うち3系には灰色支出がまったくない。疑惑は1.と2.。つまりアタマに「本人が代表者等として」がつくサイフに集中している。これらは「決裁と執行を出費者から権限委譲され、実務上の細かい監査をウケないサイフ」と思われる。

3)分析1:各サイフのカモられ度

サイフ別にみた「カモられ度」は「2a. GCOE経費(文科→日本学術振興会)」と、「1c. 共同研究」が高い。

「学者にとっての研究費」というのは、いまいち感覚がつかみにくいが、ひとまず「公務員(や本社部門)にとっての予算」に当て推量しておく。そのココロは「貰ったカネはオレのカネ。使いきらねば損だ損」である。電卓タタキをやる時は、学問の価値がどうだの研究テーマがなんだの、そういうのは八ッ場ダムの治水効果や、整備新幹線の必要性と同じ「我田引水のじゅもん」だ。この例えでは1a〜3c.までの出資者が「水門番」にあたる。眠たい事やっとる門番は、カモられる事だろう。

あるいは「参考書を買うと言ってママに貰ったカネでゲームを買ったら叱られる」でも良いだろう。そこをすり抜けるには練達の技巧が必要だが、電卓タタキをやる時は、ゲームの価値もお勉強の意味もみな同じ「莫迦には見えない服」だ。この例えでは1a〜3c.までが「ママ」や「ママのママ」、あるいは「パパのママ」にあたる。鷹揚すぎるマダムはカモられること請け合いなのだが、納税者の最大公約数はママぢゃねぇ(プライスレス!とか通用しませんw)。

4)分析2:灰色支出の91.62%は、デジカメやPCが占める。


  • ※支出費目でまとめて見ると、灰色支出は「調査時点で所在不明なので私的流用の疑いのある物品購入」が目立つ。ほとんどがデジカメやPCだ。構成比では、これが灰色支出の91.62%を占める。
  • ※端的には大学当局や日本学術振興会が「資産管理」を行えば、こうした灰色支出の91.62%はほとんど抑止できるだろう。具体的には、研究完了後のPC,デジカメなどの物品を回収し、プールして他の研究者に回す、リフォームして売却する、小中学校に寄付する、などだ。
  • 公共工事や農業補助金だって「監査」はあるものだし、有価証券報告書を出す程の企業なら資産管理と少額資産管理は、株主に対する義務だ。この体たらくは「申請来ました!書類おっけー。んじゃ振り込んで、報告書来たら、あとしらね」になってるとしか思えん。資産管理を自治できてない者の言う大学の自治だの研究者の自由だのは、なんか勘違いした中学生と大差ないだろう。

5)おまけ:各サイフのカモられ度詳細

東大調査では個々の支出項目まで木津千里と記載してある。せっかくなので打ち込んでみた。

1a. 寄附金(財団等助成金)


1b. 科学研究費補助金:(文科→日本学術振興会→)

科学研究費助成事業(学術研究助成基金助成金/科学研究費補助金)は、人文・社会科学から自然科学まで全ての分野にわたり、基礎から応用までのあらゆる「学術研究」(研究者の自由な発想に基づく研究)を格段に発展させることを目的とする「競争的研究資金」であり、ピア・レビューによる審査を経て、独創的・先駆的な研究に対する助成を行うものです。


1c. 共同研究


2a. GCOE経費(文科→日本学術振興会→)

学際・複合・新領域も含めたすべての学問分野を対象として、特に、産業界も含めた社会のあらゆる分野で国際的に活躍できる若手研究者の育成機能の抜本的強化と国際的に卓越した教育研究拠点の形成を図るため、平成19年度から、「グローバルCOEプログラム」を実施します。


6)所感:

6a)まず、管理の不在は不正の温床である:この程度の事柄が、論文不正に伴う『平成19年9月27日東大規則第32号第4条に規定する調査委員会を設置』てな仰々しい事やらなきゃ出てこないというのは、ずいぶんヌルいんだな。と思った。これは個人の資質というよりは、監査などのシカケが不在であるか、またはあってもほぼ機能していない可能性を示唆する。繰り返すが「経費の10%が目的外支出」で「その9割がデジカメ・パソコン」で、「学内規則に基づく特別調査委員会でもなきゃ見つからない」てのは、ザルだ。

学内でどういう管理をしてるのか知らないが、2年3年たった後で「あのPCドコ行ったかわかりません」では、管理してるとは言えない。それを避ける為の恒常的な資産管理のシカケがありませんでは、世の中「灰色先生だらけ」と見られても仕方がないだろう。

経費で落としたデジモノがいつの間にか自宅に!。というのは、日本の大企業に通底する悪弊でもある。だから中には「デジカメくらいそう大した事とは思わない」方もあるかとは思う。だがそれらは簿価ゼロ・除却処分になったのをチョッパっているケースがほとんどで、それ以前の段階で紛失が露見した日にゃ追手がかかるのがフツーだ。どれほどユルい企業でも買値20万以下の少額資産は3年は草の根わけても追うものだし、GCOEに見える40万のPCは、その域を超えている。そもそも納税者の最大公約数が、総予算180万の補助金で買った40万のPCを紛失しましたなんて、そんな管理を許容するだろうか。

そーんな細かい事いわれてたら研究なんか出来ねーよ!という気分になる向きもあるだろうが、株式会社では日常業務の一環だ。それがスポンサー(株主)に対する責任の第一歩だから。もちろん学者はサラリーマンより「関取」に近く、大学は「相撲部屋のようなもの」かもしれない。世の中には「良い取組を見せてくれりゃあこの程度w。なんでもないよ!ぜんぜんおっけー!」とゆう気前の良いタニマチもあるだろう。駄菓子可視。「納税者の最大公約数」にソレを期待する事はできない。むしろ株主より厳しいと覚悟すべきだろう。

6b)科研費そのもの、あるいは日本学術振興会の管理体制にも疑問を呈したい。「チェックの不在」は「誰も見てないんだからこのくらい」を生む。「みんなやってる」は「このくらいあたりまえ!」を培養する。本人の言う「私たちはちゃんとやってます!」が通用する事はない。決裁権者と実際の使用者が同一だったり、距離が近すぎる場合、良い事はあまりないからだ。もちろん資産棚卸は楽しい作業ではないが、少なくとも税金を原資とするサイフについては、それが納税者に対する責任かと思う。

6c)科学技術振興費の伸びにも注意を喚起したい。いわゆる「国会版シワケ」で京速京にかみついた亀井善太郎氏のサイトに興味深い資料が載っている。

構造的なチェックを欠く予算が、継続的に増えてゆく場合、必ず「誰も見てないんだからこのくらい」もリニアに増えてゆく。「このくらいあたりまえ!」は、その程度を加速させてゆく。費目や目的や「ばかにはみえないふく」は問題ではない。電卓タタキをやる時は「適正なチェックの仕組みを欠いた支出が、右肩上がりで増えてゆく」この流れが問題だ。

6d)最後に。論文不正と私的流用疑惑は明白な因果関係を持たない。推定有罪で水に落ちた犬を叩きたいだけならまた話は別になろうが、もしも東大が金銭不正の再発防止を考えるなら、論文不正とは別個の対策が必要になる。両者は別の問題だからだ。東大のリリースにはこの観点がない。それを欠いたままにここまで詳しい疑惑資料を公開する意味を、自分は理解しかねる。いやゲンミツには「全頭検査を避けるためのミセシメ」という想像は可能だが。

はたしてこの私的流用は、アニリール氏だけの事なのだろうか?

産経新聞 3月2日(金)13時36分配信

 多数の大学教授らが本来なら返還すべき公的研究費を取引を装って業者に預ける不正経理(預け金)をしていたとされる疑惑で、文部科学省は2日、東大や大阪大など40の大学や研究機関で計約7900万円の不正経理があったと発表した。不正経理の大半は研究費の捻出が目的とみられるが、一部で私的流用があり、公表済みの大阪大の180万円以外に上智大の約480万円が判明した。調査中の機関もあり、総額はさらに膨らむ見通し。
 文科省は平成19年、大学側が納品の検査機関を設けるなど不正を防止するためのガイドラインを作成、20年度から運用されていたが、20年度以降も大阪大の約520万円など14機関で計約600万円の不正経理が行われていた。19年以前は、34機関で計7300万円の不正経理があった。
 調査は東工大で研究費の不正が相次いで発覚したことを受け、昨年8月以降、文科省が国の科学研究費補助金科研費)など公的研究費を受け取った約1200機関を対象に実施した。

『大半は研究費の捻出が目的とみられる』かどうかは関係ない。単年度会計が研究にそぐわないという声も、一切考慮する必要がない。ルール違反で得た金が清くただしく使われる事はないからだ。