神は沈黙せず

神は沈黙せず(上) (角川文庫)
電脳コイルのヒゲのエピソードが好きでした。
ある朝、急にヒゲがはえてくる。
そのヒゲがやがて知性を持って、主人公たちの頭部を惑星として栄えて行く。
クライマックスは、ほっぺたから人工衛星が飛び立った時。(関連:王立宇宙軍
しかし、やがて星間戦争(隣の人の頭部との間に星間弾道弾が飛び交う)が起きたりしながら、エクソダス(別の星への移住)、という伝統的な惑星の歴史観に則った時間が圧縮して流れて行きます。
そんなヒゲたちにとって、主人公の声は神の声。


この小説もそうした話と言えばそうなのだけど、ハードSFなので、圧倒的な博識をバックに徹底した2010年頃の世界の描写が圧巻。
「ウソを本当のように語るためにちょっとだけウソをつく」SF魂ここにあり。


かつてBRAIN VALLEYを読んだ時に受けた知的興奮を思い出しました。
BRAIN VALLEY〈上〉


ウソを上手につくためには、本当のことを知らないといけないし、整合性を取るための高い論理性が必要だとあらためて。
小さい頃から妄想していた神とはなにか、という問題のある側面を自分が考えていることと同じようなストーリーで書かれていたように思います。
信じる者が救われるとか言い出すと救われないのは信心が足りないからだ、という思考停止に陥ってしまいがちなのですが、本来、神様はそんなに都合良く人間を助けてはくれないし、助けてあげたらいいのに、というような人にこそ罰を与えているようにすら見えるほど。
遠藤周作の「沈黙」とかにも通じるテーマ?
聖書だとヨブの話が本書の中では重要な扱われ方をしていました。


1週間の夏休み中にタイミングよくこの本を読んだり、美術館で好きすぎる展示に出会えたり、科学館でセンスオブワンダーに出会えたり、日々の仕事、思索、読書が今この数日においては、きれいにリンクをして、自分が何をしたかったのか、を思い出しつつあるようなほのかな感覚があります。
あとはどうそれを形(自分や将来の自分の家族を養うに足る収入)にしていくか、という重い問題との擦り合わせになってくるわけですが。
結局、めんどくさすぎて、その擦り合わせまでは行かないのかもしれませんが、初手から逃げ腰、というのもかっこわるいのでなにかしてみなくちゃ、ね。