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2016-10-13 メーヴェ型飛行具のプロジェクトに参加した話

 メーヴェを見にいこうと思ったのは、2014年の夏、5年勤めた会社を辞めて、さてこれからどうしようかというときだった。八谷和彦さんのOpenSkyプロジェクトが北海道で初めて公開テスト飛行をおこなうということを聞いて、特急スーパーカムイに乗って、たきかわスカイパークまでいくことにした。ところが、現地に到着したくらいから天候がくずれ、その日のフライトは中止になった。運もついていない。

 

 その代わり展示された機体を間近でつぶさに観察することができた。M-02Jという正式名称もそのとき知った。離れたところから見ると白くなめらかな機体の曲線に目を奪われるものの、細部はホームセンターにありそうな部材だったり、自転車用のパーツのようなものをベルクロや補修テープでくくりつけた無骨さ。ナウシカというより、どちらかというとこれはハウルだ。アクセル制御にいたっては音楽用ミキサーのフェーダーで、0dBまで上げるとジェットエンジンが吠える。時代考証が無茶苦茶なテクノロジーの塊だった。

 

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 1週間後、八谷さんからメッセージが届いた。

「先日のカメラを機体に取り付けて撮影しませんか?」

 公開飛行がおこなわれるはずだった日、空の端から現れて反対側の空へ消えていくM-02Jを撮影しようと、特殊な全天球動画カメラを持っていったのだ。それを地上からではなく機上から撮影できるとは。

 

 早速、次の週チームに合流した。朝7時、メンバー全員を集めてブリーフィング。驚いたことにすぐに機体の移動補助や飛行記録といった責任ある役割をまかされる。後から知ったことだが、他のメンバーも初参加や2回目などが多かったようだ。

 ブリーフィングが終わると次はエンジンの試動。万が一のときのために、少し離れたところから消火器を手に待機する。アニメ調の機体から獰猛な燃焼音が響く。普段はグライダープロペラ機しかいない、のどかな飛行場で、ジェットエンジン異次元の音だ。地鳴りのようなサブソニックと高速回転する金属音。イヤーマフをしていても頭蓋骨に響きわたる音に意識がゆっくり遠のいていくような気分になる。いまだに実感のわきづらい光景もあいまって現実とSFとが少しずつ融けていくような感覚を味わっていた。

 

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 たった2年前なのに全天球動画撮影環境は今とかなり異なる。専用のカメラなどではなく、6台のGoProカメラを3Dプリンタで製作したリグで固定したものだ。これらをWi-Fi接続のリモコンから操作する。たいていひとつくらい電波が届かずリモコンに反応しないので目視確認して手動で録画開始する。数を重ねるうちに、手鏡を使って確認したり、映画用のカチンコアプリで合図を入れたり、とノウハウがたまっていく。

 

 撮影した映像はその日のうちにスティッチング。テスト飛行は朝9時には終わるので、昼の空き時間や就寝前の夜間、6本の動画を専用ソフトでひとつに合成する。作業してわかったことだが、複数カメラ映像の合成加工は、至近距離から地平線まで映り込む空撮にはあまり向いていないようだ。パイロットに合わせて合成すると遠い景色の輪郭がずれてしまい、かといって遠距離を合わせると今度は翼端の映像がずれる。もっともつなぎめが目立たないポイントを時間をかけて探していく。全フライト分を翌日に確認できるよう作業をするとなるとけっこう忙しい。

 

 動画の確認もノートPCで見るだけでは十分伝わらないので、あるときはOculus Riftを持ち込み、あるときはハコスコと自作アプリで即日確認できるようにした。

 

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 そのシーズンの最終日、ドローンの操縦を任された。ドローン撮影はチームとしても初めてだったのであまり効率よく撮影することはできなかったが、それでもワンカット、M-02Jが飛び立つ様子を上空からとらえることができた。*1

 

 このプロジェクトに参加する中、とても興味深く見ていたのは、八谷さんのプロジェクト運営、チーム運営方法だった。ボランティアベースのコミュニティということで、オープンソースプロジェクトのような、ゆるいつながりに近い。とはいえ、なにしろ航空機なので大きなお金も動くしミスがあったら人が死ぬ。そういった作業の一端を、初めて会ったばかりの大学生にもどんどん担当させていく。

 ボランティアベースだとスパルタ式にはいかない。丁寧な言葉で明確に指示をする。搭乗姿勢になった後は細かい指示は出せないので、メンバーそれぞれ自律的に動く必要がある。さらには700mほど離れたテイクオフ側とランディング側で2つのチームが独立して正しく機能する必要がある。八谷さんは、メンバーのスキルを見極めた上で全面的に信頼して担当を依頼する。それでも経験が浅いとミスはあるので、要所には関東から呼んだベテランスタッフを配置する。 

 また、利用させてもらう各種施設やコラボレーション先と付き合うときも、一方的な立場になるのではなく、相手側にもメリットのあるようにして、良い関係を長く続けられるようにする。周りの人たちとお互いにリスペクトした関係性を、わずかな期間で実にたくみに作り上げていってしまう。そのあたりの立ち回り方の秘密について何度か本人に聞いてみたのだが「偶然」とか、「出会いを大切に」とか、いつも普通の言葉でかわされてしまう。いや、それ絶対普通のスキルではないと思う。たぶん、それができれば今頃みんな、空を飛んでる。

 

 M-02Jは地面に映る影が非現実的なくらい美しい。この影を見る限り、八谷さんは完全に鳥だ。僕がこのプロジェクトに参加して撮影した全天球映像は、ハコスコアプリの「きみはテト2」で見ることができるので、ぜひ自分の目で確認してほしい。

   

 そんなOpenSkyプロジェクトであるが、2015年以降は参加できていない。時間的に都合がつかなかった、というのが直接的な理由ではある。本当の理由は、八谷さんを見て、なにかひとつ自分の大きなプロジェクトを始めたくなってしまったからだ。人間とコンピュータが融け合うSFを実現するプロジェクト。そのために働きながら大学院に入りなおし、土日はすべて研究の時間にあてるようにした。なにもかも手探りの状態なので、10年以上かかるかもしれない。

 

 OpenSkyプロジェクトの方は、今年無事目標だった場周飛行を成功させていた。クラウドファンディング支援者向けのテストフライト報告会が開かれ、その会場で久しぶりに八谷さんとお会いすることができた。プロジェクトは僕が参加していたときにくらべて、さらに加速していた。エンジン出力が倍になり、ずっと鋭角に上昇していた。ナウシカテーマ曲の生演奏に乗せて、石狩平野のはるか上空で八谷さんは自由自在に飛んでいた。

 

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*1H ZETTRIOMV「Wonderful Flight」で使われているドローン映像はこのとき撮影したものだそうです https://www.youtube.com/watch?v=-mlI_hZAS6U