2008/08/20
■[Medical]無罪。
まずはこの件で亡くなられた方のご冥福をお祈りします。
医者だって全てを予見できるわけではありません。
瞬間的に最善と思われる方法を選んでいるだけです。
結果として残念なことになることもないとはいえません。
それを「過失」とされてしまうと、医療は成立しません。
日本でも「善きサマリア人法」に相当する法が
成立することを願ってやみません。
以下は朝日新聞の記事全文です。
http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY200808200054.html
産科医に無罪判決 帝王切開での女性死亡事故 福島地裁
2008年8月20日13時47分
福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性(当時29)が死亡した医療事故で、福島地裁(鈴木信行裁判長)は20日、業務上過失致死と医師法違反罪に問われた医師、加藤克彦被告(40)に無罪(求刑禁固1年、罰金10万円)を言い渡した。事件は、治療における医師の判断、手術法の選択にまで捜査当局が踏み込んだものとして注目されていた。
判決では、加藤医師が女性の癒着胎盤をはがした判断と行為について「胎盤をはがさずに子宮摘出に移れば、大量出血は回避できた」としながらも、「胎盤をはがしはじめたら、継続するのが標準的医療。はがすのを中止しなかった場合でも具体的な危険性は証明されていない」と述べ、過失にあたらないとした。異状死の場合、死亡後24時間以内に警察へ届けなければならない医師法違反にも問えないとした。
判決によると、加藤医師は、福島県大熊町にある大野病院の産婦人科医で、手術は04年12月に行われ、女性にとって第2子となる赤ちゃんを帝王切開手術でとりあげた。女性は第1子も帝王切開で出産していた。
胎盤は通常、お産後に、自然にはがれる。しかし、女性の場合、胎盤が子宮から離れない「癒着胎盤」で、かつ胎盤が産道につながる部分をふさいでいた。胎盤を手ではがそうとしてできなかった加藤医師は、手術用のはさみを使ってはがしたが、大量出血。輸血しながら子宮の摘出手術に切り替えたが、女性は4時間半後に死亡した。
検察側は鑑定などから女性が前回帝王切開した時の傷跡に胎盤が接触しており、加藤医師が事前の診断で癒着胎盤を予見できたと主張していたが、判決では、弁護側の主張通り、「胎盤が前回帝王切開した傷跡に(接触して)なかった」と認定した。
鈴木裁判長は「(検察側が証拠とする)一部の医学書と齟齬(そご)があるために、臨床現場で迅速な判断ができないのなら、医療現場に混乱を与える」と検察側の立証の甘さを指摘した。
検察側は、加藤医師の過失について、「胎盤を無理にはがせば大量出血すると予見できたのに、子宮摘出に移らず、はさみで漫然とはがし続けた」と指摘。一方、弁護側は「胎盤をはがせば通常、血は止まる。はさみを使っても出血量は増えておらず、被告の行為は臨床医学の水準に反していない」と無罪を主張していた。(高津祐典)
◇
〈福島県立大野病院事件〉 04年12月17日、帝王切開手術を受けた女性(当時29)が死亡。外部の専門家による県の医療事故調査委員会が、執刀医の判断の誤りを認める報告書を作成したのをきっかけに、福島県警が06年2月に医師を逮捕した。医療界は「医療全体の萎縮(いしゅく)を招く」として強く反発していた。
http://www.asahi.com/national/update/0820/TKY200808200207.html
福島県立大野病院事件の福島地裁判決理由要旨
2008年8月20日14時16分
福島県立大野病院で帝王切開手術を受けた女性患者が死亡した事件で、福島地裁が言い渡した無罪判決の理由の要旨は次の通り。
【業務上過失致死】
●死因と行為との因果関係など
鑑定などによると、患者の死因は失血死で、被告の胎盤剥離(はくり)行為と死亡の間には因果関係が認められる。癒着胎盤を無理に剥(は)がすことが、大量出血を引き起こし、母胎死亡の原因となり得ることは、被告が所持していたものを含めた医学書に記載されており、剥離を継続すれば患者の生命に危機が及ぶおそれがあったことを予見する可能性はあった。胎盤剥離を中止して子宮摘出手術などに移行した場合に予想される出血量は、胎盤剥離を継続した場合と比較すれば相当少ないということは可能だから、結果回避可能性があったと理解するのが相当だ。
●医学的準則と胎盤剥離中止義務について
本件では、癒着胎盤の剥離を中止し、子宮摘出手術などに移行した具体的な臨床症例は検察官、被告側のいずれからも提示されず、法廷で証言した各医師も言及していない。
証言した医師のうち、C医師のみが検察官の主張と同趣旨の見解を述べている。だが、同医師は腫瘍(しゅよう)が専門で癒着胎盤の治療経験に乏しいこと、鑑定や証言は自分の直接の臨床経験に基づくものではなく、主として医学書などの文献に頼ったものであることからすれば、鑑定結果と証言内容を癒着胎盤に関する標準的な医療措置と理解することは相当でない。
他方、D医師、E医師の産科の臨床経験の豊富さ、専門知識の確かさは、その経歴のみならず、証言内容からもくみとることができ、少なくとも癒着胎盤に関する標準的な医療措置に関する証言は医療現場の実際をそのまま表現していると認められる。
そうすると、本件ではD、E両医師の証言などから「剥離を開始した後は、出血をしていても胎盤剥離を完了させ、子宮の収縮を期待するとともに止血操作を行い、それでもコントロールできない大量出血をする場合には子宮を摘出する」ということが、臨床上の標準的な医療措置と理解するのが相当だ。
検察官は癒着胎盤と認識した以上、直ちに胎盤剥離を中止して子宮摘出手術などに移行することが医学的準則であり、被告には剥離を中止する義務があったと主張する。これは医学書の一部の見解に依拠したと評価することができるが、採用できない。
医師に医療措置上の行為義務を負わせ、その義務に反した者には刑罰を科する基準となり得る医学的準則は、臨床に携わる医師がその場面に直面した場合、ほとんどの者がその基準に従った医療措置を講じているといえる程度の一般性、通有性がなければならない。なぜなら、このように理解しなければ、医療措置と一部の医学書に記載されている内容に齟齬(そご)があるような場合に、医師は容易、迅速に治療法の選択ができなくなり、医療現場に混乱をもたらすことになり、刑罰が科される基準が不明確となるからだ。
この点について、検察官は一部の医学書やC医師の鑑定に依拠した準則を主張しているが、これが医師らに広く認識され、その準則に則した臨床例が多く存在するといった点に関する立証はされていない。
また、医療行為が患者の生命や身体に対する危険性があることは自明だし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難だ。医療行為を中止する義務があるとするためには、検察官が、当該行為が危険があるということだけでなく、当該行為を中止しない場合の危険性を具体的に明らかにしたうえで、より適切な方法が他にあることを立証しなければならず、このような立証を具体的に行うためには少なくとも相当数の根拠となる臨床症例の提示が必要不可欠だといえる。
しかし、検察官は主張を根拠づける臨床症例を何ら提示していない。被告が胎盤剥離を中止しなかった場合の具体的な危険性が証明されているとはいえない。
本件では、検察官が主張するような内容が医学的準則だったと認めることはできないし、具体的な危険性などを根拠に、胎盤剥離を中止すべき義務があったと認めることもできず、被告が従うべき注意義務の証明がない。
【医師法違反】
本件患者の死亡という結果は、癒着胎盤という疾病を原因とする、過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果といわざるを得ないから、医師法にいう異状がある場合に該当するということはできない。その余について検討するまでもなく、医師法違反の罪は成立しない。
