Cafe Ligia-exotica / 純喫茶 船虫

よしなしごとを。読書とか映画とか観劇と港の街の話しとか

読書感想文 『新世界より』 (上・中・下) 貴志祐介 を読んだ

 いらっしゃいませ。



 ・・・あんまり沢山氷を入れすぎると、肝心の水が少なくなってしまって、飲み応えが無くなってしまいます。




 過日彼は貴志祐介の小説、『新世界より』を読了したらしい。今回はそれについての感想とかをぺろりぺろりと書いていきたいらしい。

久しぶりの貴志作品であるが、どうであったか。






「かなりなページ数でしたが、そこそこのペースで読めたんじゃないでしょうか」






・・・ほう。サクサク読めたと・・・。

と言うことは、面白かったと云うことかね。







「・・・うーん、面白くなかったわけではないけど、どうもまどろっこしい感じで・・・」







サクサクなのにまどろっこしい?







「あと、結構突っ込みどころがあって、そんなシーンが出てくるたびに『???』と突っ込みながら読んでいたり・・・」







ほう・・・。

先ずは例によって例の如くであるが、内容に触れてみるかね。もちろんネタバレ注意報発令ということで。






「貴志氏お得意の『ホラー』というより、もっとSF色の濃い作品になっている。まあ、部分部分ホラー的な感じでもあるが。


 物語は、主人公の渡辺早希の過去への回想を綴っていくという一人語りのかたちで進行していく。


 利根川の上流にある、美しい自然と共にある集落、『神栖66町』。八丁標(はっちょうじめ)と呼ばれる注連縄(しめなわ)で松の周囲をぐるりととり囲まれていて、基本的に住人はその注連縄の外に出ることはない。特に子供だけで出ることは固く禁じられていた。八丁標の外には恐ろしい化け物のような生き物がいて、子供に危害を加えると言われていたのだ。

 住人は集落で、電気などをほとんど使わずに自給自足のような(しかし高度な社会文明を持って)生活をしていた。

 科学文明が既に千年も前に崩壊し、古代史の中にしか出てこなくなった時代。この時代の人間は、“呪力”と呼ばれる“サイコ・キネシス”を自在使うことが出来、ほとんどの労働などをその念動力で行っていた。神に授かったかのような力を使って、平和に暮らす人々・・・。しかしその平和は、血塗られた歴史を覆い隠した上で成り立っている物だった・・・。



 幼い子供達は、主に情操教育を中心に教育を受ける。そして10代半ばで“ほとんどの”子供が呪力を発動し、徐々に自分の能力として使いこなせるようになる。

 しかし、情操教育中に問題があった者や、呪力がなかなか使いこなせない者などは、人知れず“処分”され、記憶操作によりまるで最初から居なかった者のようにされてしまう・・・。果たしてこのような社会はどのようにして成立していったのだろう・・・。


 早希達は、課外授業のサマー・キャンプで、子供達だけで八丁標の外へ出て行くことになったのだが、興味本位で本来立ち入りが許可されていない場所まで行き、そこで『ミノシロモドキ』と呼ばれる不思議な生物を捕獲する。
 しかしそれは、生物に擬態した、既に滅び去った古代の日本の国立国会図書館の移動型端末装置であった。子供達はその装置によって、今まで知ることの無かった、古代の血塗られた歴史の一部を垣間見ることになってしまったのだが・・・」





ずいぶんとだらだら書いたな。





「実はこれでもさわりだけって感じなんだけどね」





・・・ほう。





「物語は主人公の早希の幼少時代から、三十代までの物語なので、物語の全体はなかなかあらすじとしては書ききることは難しい。書こうとすると、本当に物語の芯の部分まで書いてしまいそうで・・・」






ふむ。





「まあ、感想を書きつつ内容的な者にも補足的に触れていこうかな。もちろんネタバレ注意報発令で」






・・・ふむ。





「構成的に、主人公の早希が、幼少時代からの出来事を自分を中心にして(確かに事件のほぼ中心にいるわけだが)、語っていくという形をとっている。なので、物語の進行自体は序盤かなりゆっくりに感じられる。主人公達を取り巻くパラレルワールド的環境、その不思議環境での生活、そういったものを、幼少期であった早希の目を通して語っていく。この辺りがまったりと長いが、綿密にその世界観を描くことによって、読者にそのパラレルワールドが自然と想像出来るくらいまでになっていく。ちゃんと世界が出来上がっているのはなかなか良くできていると思う。ただ、それが個人的にはやたらと長ったらしいイントロのようで、物語の中枢がなかなか見えてこなくてちょっとジリジリさせられた」






・・・ほう。





「言わんとしていることは分かる。サイキックだけしか存在しない世界。その世界観を違和感なく読者に伝えるためには必要なことかも知れないが、もしかしたらもっと分かりやすい(もしくは簡潔な?)描き方があったかも知れない」







・・・ふむ。






「あと、主人公達の行動にもイライラさせられる。やたらと禁忌を犯そうとする行動をする割りには、全く自分の尻ぬぐいが出来ないが為に後々にその行動が問題の種となり、大きな事件の火種となる」







ほう・・・。





「しかもやたらと優柔不断であるし、やたらと細々した禁忌に触れる行動をして問題を起こすのに、結局無罪放免で大人になっていく。究極事件の原因は元を正せばこの主人公達である。この世界の得意技でもある『不穏分子は“処分”』と言う行動をとれば終わってしまう話であるのに、ご都合主義的に無罪放免で終わらせて小さな事件を積み重ねさせていく辺りはどうも納得いかなかった。まあ、無罪放免になるのはそれにも理由はあるんだけど、それでも、どうも納得いかない」






・・・ふむ。








「あと、ボノボのような平和的社会を構築するために、精神の不安定や怒りなどを性的快感や性的興奮に置き換えて人間の攻撃性を抑えるという設定なのだが、」






もろネタバレ的であるが。








ボノボのように、性器にふれあうことでお互いの攻撃性を抑えるであるとか、疑似性行によってオス同士でも攻撃し合わないようにするとかって言うレベルではなくて」







ふむ・・・。






「攻撃意欲をそらす、沈んだ気持ちを高揚させるそんなためのボディ・タッチではなく、感じとしては“生本番以外なんでもアリ”といった感じで、必要以上に快感を求める感じがどうも納得いかない」





・・・ほう。






ボノボが“社会性を高めるために”と言う理由で、そんな本気の性行為をしているはずもなく、なぜそこまで性愛がクローズアップされているのかがどうも分からない」





ふむ・・・。






「それは、かなり幼い頃から当たり前とされ、男女問わずそれぞれを性愛の対象として快感を得ようとする。その上、単に性行為の対象としてだけでなく、恋愛の対象としても存在する。主人公達も結構幼い頃から裸で抱き合い、肉体的快感を覚え、男性同士、女性同士それぞれが平然と恋愛する」






ふうむ・・・・。







「恋愛や性的欲求の対象としてって、それはもう攻撃的行動をしないための社会性ではなく、全く人間的肉欲なんじゃないのかって思ってしまうんだけどねえ・・・」






ふむ・・・。






「あと、あちこちに小さな矛盾点が見られるんだけど、それが意外に物語の根幹に関わってしまうような感じで、突っ込むと物語が成立しない感じで、読み終わってからそういう所を幾つか発見してしまい読後がすっきりしなかった」






ほう。







「・・・ああ、あと“古代の大量殺戮兵器”ってのが出てくるんだけど、どうもそれも個人的には突っ込み対象で・・・」






・・・・。






「・・・あと、敵の切り札的存在があるんだけれど、それの倒し方も個人的には突っ込みの対象で・・・」






・・・・あまりにもネタバレしそうなので、その辺りにしたまえ。

要するに、面白くなかったと云うことかね。







「面白くなかったわけではありませんよ。ただ、突っ込みどころがやたらと多い。突っ込まれるということは物語として破綻しかけているということで。やはり、100%とは言わないけど、ちゃんと辻褄が合っていないと、物語としておかしく感じるよねぇ・・・」






・・・ふうむ。






「個人的には、簡潔にまとめられている分、『天使の囀り』とかのほうが好みかな・・・。もちろんこちらもあちこち突っ込み所はあるんだけど」






なるほどねえ・・・。

面白いんだか面白くないんだか、よく分からない感想であるな。

どうかね、この本はおすすめであるかね。





貴志祐介氏のファンなら買って損はないでしょう。やたらとページ数があるので、長編を読むのが苦手な人は無理して読むほどでもありません。あと、細かい矛盾点に目をつぶれる人には良いんじゃないでしょうか。そんなところをすっ飛ばせば全然面白いと思いますよ。何度も言うけれど、決して面白くなかったわけではないよ。ネガキャン打つつもりなんか毛頭無いので。あくまで個人の感想なんで」






まあ、興味のある方は、と言うことで。


少々尻切れであるが今回はこの辺りで終わる。