冗談のちゅーと本気のちゅー

お前にとってちゅーっていうのは、たったそれほどの価値しかないんだろうな。
騒がしいはずの呑み会が、一瞬で五月蝿いくらい静かに感じた。
皆手にグラスを持ち、口々に笑い合ってる。きっと、静かなのは俺の中だけ。
俺の中だけが、五月蝿いくらいの静寂だ。


誰にでもキスくらいできる。
お前はそう言っておきながら、俺にだけはキスをしなかった。
どうしてだよ。俺の方を見ろよ。
その、アルコールで弛緩しきっただらしない顔をこっちに向けてさぁ。
ちゅーしていい?って、女の子に言われたら嬉しい台詞を男のお前が吐いてみろよ。
何で俺には言わないんだよ、何で俺の方を向かないんだよ。
なぁ、俺にもちゅーしてみろよ。



気づいてるよ、お前が恨めしそうに俺を見てるって。
気づいてるよ、お前もちゅーして欲しいんだって。
女じゃないけどさぁ、こんなビッチにちゅーして欲しいのかよ、笑える。
何が一番笑えるって、さっきまで馬鹿みたいにコールしてたお前がさ。
気がついたら一言も喋らずに、ずーっと俺を眼で追っていることが一番笑える。
ちゅーされたいんだろ?知ってるよ、知ってる。
知ってるけどさぁ。
お前はいつまでそうして、ただねだるだけでいるつもりなんだよ。


本気で俺にちゅーされたいの?
イカレタ呑み会の場所だから、じゃなくってさ。
俺のちゅーが、本気で欲しいの?
本気で欲しいならさ、それなりに本気になれよ。
今の俺がしてるちゅーは、呑み会のテンションに任せた冗談のちゅーだよ。
お前はそれだけで満足できるの?
できないっていうならさ。もっとその先を期待するならさ。
お前が、本気で、俺を誘ってみな。
そうしたら、ちゅーくらい幾らでもしてやるよ。
明日、頭痛と吐き気を抱えるお前に対して、飽きるほど、な。

【雑記】春休みは長い

春休みが始まって、早一ヶ月が経ちました。
毎日gdgd過ごすのも、何だか勿体無い気がしたから、何ができるかな?って考えた結果、1日1つお話を書こう!と思いついたのです。
けど、そう毎日ぽんぽんぽんぽんネタも思いつかないので、こちらのお力に頼ろうと思います。

odaidepon みんなで作るお題ジェネレーター

このお力を借りれば、毎日お話も書けるかなって。
このスペースも使わず仕舞いで持て余していたところだし、丁度いいね、色々。

という訳で、見てくださってる方がいたのなら、私の暇つぶしにお付き合いして下さったら嬉しいな。

君の物語に、私は登場しない。

分かりきった結果だった。
彼とは知り合いですらない、「クラスメイト」という肩書きすら持っていない。
ただ、本当にただ、この学校の中からたまたま彼を見つけてしまって。
すきになってしまった。俗に言う、一目惚れだった。


黒縁眼鏡がとてもよく似合っていて、笑うとびっくりするくらいかわいい。
無表情の時は、「男性」特有の凛とした表情が顕になっていてかっこいい。
彼を見ていると、飽きなかった。幸せだった。遠くから、みているだけでよかった。
いい、はずだったのに。
友達との恋愛話。お決まりの、「すきな子いるの?」という問いかけに。
私は馬鹿正直に答えてしまったのだ、彼の名前を。
すき、とかつきあう、とかそういう想いじゃなかったのに。
ただ、見ているだけで幸せ、アイドルみたいな存在だったのに。
結局は彼も私と同じ学校の、同じ学年なのだから少しは手が届くんじゃないか、だなんて。
馬鹿らしい思い違いをしていたんだ。
アイドルに、手が届くわけもないのに。


「本当に、申し訳ないけど……」
言葉が、すっごく遠くから聴こえてくるような錯覚に陥っていた。
彼は目の前にいて、びっくりすることに今、私とだけ会話してくれているのに。
彼は別の誰かとお話していて、私はその話を盗み聞きしているような、そんな気持ちだった。
頭が、ぼんやりした。
頭が白いまま、「そうだよね、ごめんね困らして」と言っている自分がいた。
どうしてそんな言葉を言っているんだろう。
今は私だけが彼と会話しているのだから、「せめて友達から、」くら言えればいいのに。
いいのに、私の口は動かなかった。
ただ、気持ち悪い作り笑顔を張り付かせていた。


笑顔が溶けない。ずっと、張り付いたままだ。もう、いいのに。
もう、彼は教室から出ていったのに。
ひとりでにやけている子、になったまま気がついたら涙が出ていた。
どうしてかな、なんて思いながら。ひとりでぽたりぽたり、泣いていた。
自分をここまで客観視できたのも初めてじゃないだろうか。
こころが、すっごく冷えていた。
私が泣いてるよー、なんて思いながら、泣いた。
そして泣きながら、気づいたんだ。
私の世界にとって、彼は中心的存在だったけれど。
彼の世界には、私なんて登場してもいなかったんだ、と。
クラスメイトですらない。知り合いですらない。
私の名前が登場するページなんて、一ページもなかったんだ、って。

だいすき なんて言ってあげない

「まあ、そういうとこが好きなんだけど」

軽い冗談みたいに笑いながら、なんてことないみたいに紙パック入りのジュースを飲みながら、
あなたはまたさらりと私を困らせる。
嬉しいです。私も、あなたが好きです、もちろん大好きです、あなたより好き、なんてバカみたいなことを言いたいです。
けど、どうして好きになってくれたの?と逆に問いただしたい気持ちでいっぱいなんです。
だって、好きの先にあるのは、嫌いしかないじゃないですか。

「それはまた考えが飛躍してると思うけど……。仮にそうだとして、じゃあお前は俺に、嫌われたいの?」
違います!そうじゃないんです。もちろん、好きでいて欲しいです。そのままでいて下さい。
ただ、ただ妙に怖いんです。説明はうまくできないけど。
できないけど、なんだろう。

あなたが好きです。私を、好きになって欲しいです。嫌わないで欲しいです。ずっと、一緒にいたいです。
けど、喧嘩しないなんてことあり得ないんです、きっと。だから、そう。
じゃあ、って。あなたが私のことを好きになるのが怖いんです。だって、いつかは嫌われちゃうから。

「だから……」
そうやって、ため息をつかれるとすごい怖くなります。知ってましたか?
「知らん。どうでもいい。」
ですよね、ごめんなさい。
「謝らないで、余計にイライラする」
そう言われると、私、何も言えなくなりますよ?だって、この次に言っちゃう言葉はごめんなさいなんですから。

無意識的に、下を向いた。人は、気分が盛り下がったら自然と下を向いてしまうのでしょうか。
駄目だ、前を向けない。世界が歪んでる。これじゃあ、アイメイクが落ちちゃうな。
化粧道具とかないし。あっても精々ビューラー止まりですよ。
どうします?
あ、今完璧アイラインが落ちました。あーあ。どうしようかな、これから。
どうしようかな。



「泣いてんの?こっち向いてよ」
「嫌ですよ、絶対。化粧落ちて酷い顔ですもん」
「こっち、向け」
たまにそうやって命令口調の俺様系になっちゃうのがまた笑えるっていうか。なんなんですか?何様ですか?
でも、いいですよ。好きですからね、向いてあげますよ。
「泣いてんじゃん」
ええ、泣いてます。誰のせいだと!
「嫌だった?ごめんごめん。コワカッタネー」
そうやってバカにした態度で私の涙を指で拭き取っていくあなたが、ムカつくんですけど。
あのですね、そうされたらパウダーが落ちるんですよ。これ以上化粧をはげさせないで下さい?
はいはい、知ってますよあなたが泣いてる女の子が好きだってのは。庇護欲がうずくんですよね、存じあげております。
なんだか、手のひらの上で踊っているようで、悔しいじゃないですか。もう。

「なにそれ、違うけど。まあ、可愛いからどうでもいいけど」
どうでもいいって……まあ、ですよね、私なんてどうでもいいですよね。
どうせ変なあなたのことなんて何も分かってないですよ。はいはいすみませんでした。
「そういう意味じゃないって、ねえごめんって。あーもう可愛いなあ」
なんか、バカにされてる気がするんですけど。気のせいですか?」
「気のせいじゃないから気にしなくていいよー。ああもう、すきだよ。」
そうやってまたあなたはさらりと、すきだって言うから、きらいなんです。

終わりかけた世界

今時クーラーもない教室だなんて。薄っぺらい教科書に向かって、汗が自由落下していく。
こうやって教科書がまたぼろぼろになっていくんだ、なんて思いながら
汗を拭いながら、黒板をじっと見つめてみた。
紫外線という敵から私たちを守っている正義の味方は、時折吹きこむ食料を取り込み膨らんでいた。
色白な正義の味方を見ているだけで、なんとなく涼しくなったような気がするから不思議だ。
どことなく、風鈴のもっている効果と似ているような気もする。
そうだ、教室に風鈴を下げればいいんだ。そうすれば、きっとみんな涼しくなるんじゃないだろうか!
なーんて、複数人いる敵のせいで私の頭はほとんど活動を停止していた。
うん、今日も平和ですね。


じっと見つめてみた黒板の中では、平家が滅亡へと向かっていた。
荒々しい場面、ではあるのだろうけれど。おじいちゃん先生の声で、全てが台なしである。
大体真夏の5時間目に、平家滅亡なんて話題はそぐわない。
先生たちの中で時間割を組みなおして、『雪国』についてでも語ればいいんだ。
そうすれば、どこかしら涼しくはなるだろう。こころ、とか。
大体こんな平和な日に滅亡、だなんて話題自体がそぐわない。
もっと穏便に『枕草子』についてでも語ればいいんだ。


正義の味方が、また膨らむ。真夏の5時間目は、やはりキツい。
真面目が売りの、目の前に座っている友人でさえ今日は教科書にキスをしている。
いつもは背筋をピンと伸ばして先生たちに質問攻めを繰り広げているというのに。
今日に限っては、とても素晴らしい猫背を提供していた。
きっと彼女のことだから、に出場すれば優勝は確実であろう猫背だ。
……私も、教科書にキスしようかなあ。
ゆっくりと瞼を下ろしてみる。ああ、もう少しで私も全日本猫背コンクールに出場だわ。
出場、できたのに。


正義の味方が、また膨らむ。膨らむと同時に、嗅ぎ慣れた香りが教室内に運ばれてきた。
いつもの香り。私とは、切っても切り離せない香り。
ああもう、これだけ平和な日にどうしてこうなるのかしら。
全日本猫背コンクールへの出場は、どうしてくれるのかしらね。
こころの中で溜め息をつく。まあ、これも仕方がない。「日常」なのだから。
お相手はしますよ、正義の味方がね。
こころの中で悪態(に、なるのだろうか?)をついた、一瞬後のことだった。
いつも自分に自信を持っていない子全員が、粉々になっていく。
ああ、すごい音。いつも思うけど、どうしてもっと優しくできないのかしらねえ。
風鈴と材質は同じはずなのに。轟音をたてて、崩れ落ちていく。
教室中に、悲鳴が充満した。
「みんな伏せて!」
きっとアイツは窓から来る。
いつものように窓から侵入して、みんなに にやあ って哂いかけて
そして、首を
「起きろ!」
すぱこーん。え、何?私やられたの?
何がなにやら分からない。痛くなった首を持ち上げると、目の前にはおじいちゃん先生が仁王立ちしていた。
「本当に、お前はいつもいつもだな!」
「え、はあ……」
「いつも通り、今日もお前だけに宿題だ!次の段落を日本語訳、当てるからな!」
「は、はーい。がんばりまーす……」


「いい加減覚えなよー、アイツには眼ェつけられてるって」
「いや、そう言われてもみんな寝てたじゃん」
「アンタは何故か眼ェつけられてんの。それ、自覚しなきゃ」
「は、はあ……理不尽だわ」
いつも、いつもこうなんだ。あのおじいちゃん先生は、私が嫌い。
いい加減覚えようかなー、面倒だなー。
むう、としながら私は机の中に拳銃を押し込んだ。
と、友人が妙に真面目な顔で振り返る。
「そう言えば、最近みんな休みがちだよねー」
「そうだね、今日なんてクラスの半分しか来てないね」
「今になって風邪かな、なんか季節外れだね」
「そうだね、みんな早く治ればいいね」
そうだね、早く 治ればいいね。


この世界が。