『オンリィ・イエスタディ』志水辰夫著(新潮文庫)

先日大腸内視鏡検査を受けることになり、事前に診察と予約、そして当日の注意点を聞いたところ、準備の時間が長いですから、読むものなどお持ちくださいね、と言われていた。

あまり心地よい環境ではないかもしれないが、独りの時間を読書に費やすことができるなら、それはそれで嬉しいこと。さて何の本を持ち込もうかと考えていた。やっぱり"雑念"を取り払うには、夢中になれる小説が一番だろうということで、選んだのがこの本でした。
ボクの中では、比較的"当り外れ"があるものの、好きな作家であることは確かです。色んなジャンルを書いているけれど、やっぱり好きなのはミステリー系の小説。これはわりと初期の作品ながら未読でありました。

謎解きに関するオモシロさ、仕掛けはあまりないけれど、ストーリーの展開で引っ張る小説と言えるでしょう。オトコとオンナを中心に据えながら、甘い方向に進まず、というか進みそうで進まないというのが“引っ張り”の要素ですが、クライマックスを迎えるわけです。

傑作だ、とおススメする作品ではない、というのが感想ですが、すぐ後に控えた憂鬱な検査のことも忘れさせてくれるくらい楽しめた小説だったことも確か。ちょうど待ち時間約3時間で読み終えたのでした。
しかしワタシの中での志水辰夫の傑作は、やはり『あした蜻蛉の旅』ですなあ。