『ラジ&ピース』

『ラジ&ピース』絲山 秋子著(講談社

テンポというかリズムというか、読んでいて非常に心地がよい文章だと感じる。
ストーリーにおいては、ほとんど何も特別なことは起きないけれど、物足りないと感じることもない。
自分の思うままの道を淡々と生きていく主人公(女性)の描き方がとてもいい。

『バニラ・スカイ』

バニラ・スカイキャメロン・クロウ監督(2001年米)

ストーリーは、ざっと説明するのが難しいような内容なので割愛。
途中からかなりSFチック(?)になるのだけれど、実際のところ最後まで見終えても、解釈が幾通りもあって、あれこれと考えさせられる(というのは好意的な言い方)。

本当は、こうした映画だったら、どこかにカギ(ポイント)があって、正解(解釈)はひとつであるべきではないか、とも思う。

もちろん作る側・作る時点ではそれがあるのかも知れないが、やはり、最後に目を覚ますシーンで終えてしまっては、全てが夢だった、という解釈が可能なわけで、それはないんじゃない、って思ってしまう。
まあ、つまらなかったわけではないので、それなりにおススメはします。

というわけで、この映画はリメイクなので、オリジナルの邦題『オープン・ユア・アイズ』も一応見てみなくては、と考えているところ。

『蛍』

『蛍』吉村昭著(中公文庫)

9編の短編からなる短編小説集。

最初の一編を読み終えたところから、これは何なのだろう、という「微妙な違和感」のようなものを感じた。面白い、とか、つまらない、という感覚とは別の次元のもの、それが何なのだろう、何からくるものだろう、ということが気にかかるのだ。

最初の一編は『休暇』という短編。
刑務所の看守が主人公の物語。
子連れで再婚となる女性と結婚することになった男は、死刑執行の「支え役」という係りを自ら願い出て、一週間の特別休暇をもらう。そしてその休暇に家族3人で“新婚旅行”に出かける、という話。

淡々と描写だけで綴られていく物語は、読者に何かしらの決められた感情を強いない。最初は物足りないように感じたけれど、ひとつずつ短編を読み進むうちに、少しずつ慣れてくる。

ああ、よかった、と思える結末もなく、落とし前をつけるような展開にもならず、あっさりと途切れるように終わっていく短編は、様々な印象を残していく。
その残していくものが、普通の小説より、少し長くあとをひくようで、ひとつを読み終えても、すぐに次へ、と進ませない。

結局最初に感じた「違和感」については、最後の短編まで読み終えて、もう一度考え、それは「居心地の悪さ」なのではないかという思いに至った。

『ジェイン・オースティンの読書会』

ジェイン・オースティンの読書会ロビン・スウィコード監督(2007米)

本を読む、という行為を物語りの中心に据えた映画である。他の本好き(読書好き)の人はどうだかわからないが、少なくともボクは、けっこう人の読書スタイルに関心がある。
“読書スタイル”なんていうと大袈裟だが、要は、ある人がどんな本に関心を持ち、それが何故なのかを含め、どんなふうに本を読み、それをどんなふうに“消化”していくか、というようなことだ。
なので、こういった“読書”そのものを通じてストーリーが動くということだけで、かなりの関心を持つのだ。例えば日本でも少し前に『いつか読書する日』という映画があったし、フランス映画でも『読書する女』なんていう映画があった。(どれもしっかり見ている)

で、今回は、読書は読書でも、読書スタイルは“読書会”である。つまり独り孤独に本を読むわけではなく、みんなで同じ本を読んで、あ〜だこ〜だ、と話し合うわけです。実はこういう読書も、とても関心があるのだけれど、学校の授業とかを別にすると、残念ながら実際には体験していません。

と、かなり前置きが長くなってしまったのだけれど、この映画は、妙齢の女性(プラス数人の男性)が読書(会)を通じて、自分を見つめ、他人と語り合い、自らを変化させていく、というオハナシである。で、その題材となるのが、ジェイン・オースティンという200年近くも昔の女性の作家なのですが、実はハズカシながらその小説に関しては未読であります。
ただ、映画自体は、小説を全く読んでいなくても、ほぼ問題なく楽しめる内容と言えるでしょう。いや、もしかすると、そういった知識がないほうが、余計なことを考えずに映画として楽しめるかもしれないとも思えます。

最後は、絵に書いたような、何もかもうまくいくハッピー・エンド。賛否はあろうかと思われる最後だけれど、まあ好き嫌いでいいのでしょう。ボクとしては、どんでん返し的な部分がないところに、逆に好感が持ててOKかな。

『風味絶佳』山田詠美著

『風味絶佳』山田詠美著(文春文庫)

旅行には必ず本を持っていく。乗り物での移動には欠かせないものだ。特に飛行機では窓から景色を見る楽しみがないこともあって、本を読むことは多い。
このところしばらく読書らしい読書をしていなくて、軽めの読み易そうな本ということで、シンセン・香港への旅行の時はこの本を選んだ。

デビューした頃から、それなりに関心を持ち続けて読んでいる作家で、どれを読んでもハズレがない、という印象を持っている。(え〜と、前の文章はフランス人的表現(※)とご理解下さい。)
今回の『風味絶佳』は、様々な分野での"職人"(手に職がある人、あるいは専門家)的な人に関わる物語を短編として7つ集めたもの。面白かったとは思うけれど、ちょっと“軽い”ような感じがして物足りないという思いもある。ということで感想もこの程度でいいかな。

※フランス人は、よいと思ったものでも、“良い”とは言わず、“悪くない”という表現を使うらしい。

コニカミノルタプラザにて写真展

木村伊兵衛賞受賞作品展
岡田敦「I am」
志賀理江子「CANARY」「Lilly」

本当はしっかり写真集やブックも目を通してから書くべきなのだろうけれど、30分しか時間がない中で、3つの展示を見て回ったので、展示されたものしか見ていません。

「I am」は、
展示サイズも大きく、瑕を写したものより、ポートレートの表情の方が印象的。表情というのは『目』によるものが大きいということをつくづく感じる。
どれも“空ろ”な印象を受けるものばかりなのだが、この表情に意味を求めるべきなのか、少し考えてしまう。

「CANARY」「Lilly」は、
写真表現として作り込まれた感じの中に、不思議さ、オモシロさ、美しさ、不気味さ、色々な思いを感じる。


どちらも、現代とか、内面とか、美の範疇とかイロイロあるだろうが、自分にとっては何度も見たい、身近に置きたいという写真ではない。


綿貫淳弥「豪雪の村 〜秋山郷〜」

ドキュメンタリー写真そのもの。
展示サイズにも変化をもたせているけれど、ボクが一番感じたのは、アングルや構図のバリエーション、のようなものだろうか。
それは勿論撮影でなくてセレクトの領域かもしれないが、作者の若さの証なのか、資質なのかと考えつつ見る。


谷井 隆太「えきすとら」

面白いし、興味もあるのだけれど、ここまで同じ感じの写真ばかりだとやっぱり飽きるかな、という感じ。
作家さんが在廊していたので、キャプションから掴み難い、撮影時の意図とか、プリントの雰囲気のことなど聞いてみたい気がしたのだけれど、時間もなく、ま、いいか、と後にする。