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2014-07-24

[]972加藤哲郎著『ゾルゲ事件――覆された神話――』

書誌情報:平凡社新書(725),254頁,本体価格820円,2014年3月14日発行

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ゾルゲ事件の被告ゾルゲと尾粼秀美が死刑となって70年になる。本書はそのゾルゲ事件の発覚が伊藤律だったという「神話」を掘り崩し,「同時代の国際的諜報戦の一環」として,「米ソ冷戦下の情報戦」として再考した力作である。「神話」解体はすでに松本清張著『日本の黒い霧』改訂の際の断り書き挿入で始まっていた(文春文庫第16刷から)。

歴史に残る諜報事件であるゾルゲ情報をネット上と足で収集し,「ネチズン・カレッジ」で情報開示してきただけに(→http://www.ff.iij4u.or.jp/~katote/Home.shtml),本書の主題であるゾルゲ事件はもとより原発導入期のCIAのエージェント「ポダム」――読売新聞社主・正力松太郎――への言及は他の追随を許さない。

ウィロビー,マッカーシズム,「清里の父」・「日本フットボールの父」ポール・ラッシュ,川合貞吉,鬼頭銀一などについて既知と新発見の事実を突き合わせ,「ゾルゲ事件発覚の本当の端緒」は「伊藤律の検挙・供述以前の,特高警察による米国共産党日本人部の監視・内偵であった可能性がいっそう強まった」(228ページ)。

冷戦後アメリカに渡った旧ソ連秘密資料,米国国立公文書館,同議会図書館,英国国立公文書館,ドイツ連邦公文書館などの第一次資料の公開にくわえてさらに中国共産党中央档案館資料が公開されれば「国際的諜報戦」の実像に迫ることになるだろう。

ゾルゲ事件が示す秘密の諜報活動とそれに対抗する防諜が意味するのはなにか。各種の謀略と言論思想弾圧の諜報戦である。「知る権利,言論・思想の自由と情報公開の必要性,公文書の作成・保管と歴史資料の収集・保全の重要性」(241ページ)である。