024島田次郎著『日本の大学総長制』

書誌情報:中央大学出版部(中央大学学術図書67),x+207+10頁,本体価格2,300円,2007年6月21日

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寺崎昌男著『東京大学の歴史――大学制度の先駆け――』について紹介した時,総長制についてこうコメントした。「総長。そういえば,旧帝国大学はすべて現在学長を総長と呼んでいる。東京から始まり,京都,大阪に続き,東北,九州,名古屋,最後に北海道が総長となった。名称はともあれ官選総長から大学による総長選出にいたる経緯が中心に書かれている。学長選挙の持つ意味や法人化後の選挙制度の改変など触れるべき事項は多かったろうにと思う(「III  その後の東京大学」で簡単に触れられている)。」(https://akamac.hatenablog.com/entry/20070530/1180527532)。本書は国立大学だけでなく私立大学でも採用されている総長制度について検討を加えたものだ。
総長は公法的な裏付けをもっていない。「公務を掌り,所属職員を統督する」(学校教育法)のは学長である。しかし,旧帝国大学や主要な私立大学では総長がいる。総長制度に問題点があるとすれば,大学制度や教育研究活動の特質がそこにあるのではないか。本書は,中世荘園制と村落史を専門とする著者が中央大学百年史編纂事業にかかわったことをきっかけにして生まれたひとつの総長論である。
国立大学総長制については,森戸事件,滝川事件,天皇機関説問題,人民戦線事件,平賀粛学など大学における学問の自由や大学の自治問題と関連していたとみる。1992年に旧帝国大学を母体とする7大学が総長制を復活させたのは「特権意識」(22ページ)によるものであったとするのは的を射ている。ただし,後述する私立大学の総長制について「総長・学長の公選」(56ページ)にひとつの焦点をあてているのにたいし,この点からの総長制の検討はない。
私立大学の場合,ほぼ帝国大学の創立と平行して開設され,総長,塾長,校長,校主などと称した初期段階から今日の総長(学長)制にいたっている。著者は,「大学の首長はその自治と改革の総括者であるとともに,国民に対する研究教育上の社会的な責任者である。したがって大学教職員を中心とする公選制によって,これが保証されるべきである」(136-7ページ)。この観点から私立大学の総長制を3種に分類しその特徴をまとめている。「私立大学の場合,大学自体に(学校法人ではなく国公立大学のように)すべての教育機関(研究所や諸学校)を附置していれば,総長の地位・役割は自ら学長が担うことの(「に」の間違いか:引用者注)なり,二元型の学長となり,総長は不用となる」(92-3ページ)。
国立大学と私立大学の総長制を検討してはいるが,前者については総長と称するごく一部の大学の首長に限定されてしまっており,またもっぱら公選制の採否の点から後者を分析することで首尾一貫していない。しかし,国立大学法人化以降(2004年4月以降)数大学で生じた学長選考をめぐる問題は,本書の分析と無縁ではない。大学首長の選考にもっと注目されていい。
本書にまとめられている主要私立大学の3類型は資料的意味があると思う。以下にまとめておく。
法人教学一体制=一元型(○公選 △非公選)

大学(学校法人)名 首長名称 総長(院長・塾長)の選出 学長の選出 総長(院長・塾長)の位置づけ・役割 備考(学生参加) 出典
慶應義塾大学慶應義塾 塾長=理事長=学長(三役兼任) ○選挙手続:2段階(1)塾長候補者推薦委員(教職員が11部門にわかれてそれぞれ選出された合計432人)会が各部門毎2名ずつ延べ22名の候補者を選び,この候補者について2回にわたる投票を行う。その結果,上位3名の塾長候補者を塾長候補者銓衡委員会(塾長,元塾長,学部長,職員代表者,及び評議員会議長,評議員代表以上合計21名前後)に推薦する。(2)塾長候補者銓衡委員会は,その3名中の1名を選考して評議員会に推薦し,評議員会で決定する。 - 塾長は塾務を総理し,かつ塾務全般につき慶應義塾を代表する。 戦前では塾長は,評議員によって選挙されていた。戦後になって大学学部長の参加ができるようになった。1964年に「塾長候補者推薦委員会規則」を申し合わす。 慶應義塾規約」「同塾長候補銓衡委員会規則」
法政大学(法政大学) 総長=理事長=学長(三役兼任) ○被選挙人:本学専任教員で立候補した者,又は専任教員10人以上が推薦人となり,学内もしくは学外から推薦された者。選挙人:専任教職員及び評議員・助手・高校教員。ただし,当選者は総投票数の過半数及び同時に教員投票総数の過半数を必要とする。また得票計算では選挙人の各層に格差あり。備考参照。 - 理事長(総長,学長を兼任)はこの法人を総括し,この法人を代表する。 選挙得票の計算:専任教員・部長職員及び評議員は1人につき各2票。助手・専任職員・高校教員は各1票。 「寄付行為」「理事会が選定する総長候補者選挙細則」
早稲田大学早稲田大学 総長=理事長=学長(三役兼任) ○選挙手続:3段階(1)総長候補者の推薦(同候補者推薦委員会)(2)学生による信任投票(3)決定選挙人による決定選挙。(1)候補者推薦委員は大学,各学校,研究所の専任教員の代表及び専任職員の代表,学外評議員の代表,いずれも互選。93名前後。(2)信任選挙は各学部,各研究科在籍学生の過半数以上の不信任によってその候補者を排斥される。(3)決定選挙の選挙人は全専任教員,専任職員(勤続8年以上又は年齢30歳以上)及び全学外評議員,全商議員,校友会幹事他役職者(2002年現在で計2,076人)。 - 総長はこの法人の理事長とし,かつこの法人の設置する大学の学長とする(とくにその職務権限に規定なし)。 総長候補者に対する全在籍学生による信任投票が行われた後に決定選挙が実施される。ただし,1969年から2002年まで除斥者はいない。 早稲田大学校規」「同総長選挙規則」「同総長選挙公報2002年5月25日第5号」

法人教学分立制=二元型(○公選 △非公選)

大学(学校法人)名 首長名称 総長(院長・塾長)の選出 学長の選出 総長(院長)の位置づけ・役割 備考(学生参加) 出典
亜細亜大学(アジア学園) 理事長,学長(会長) 会長は「理事の互選により置くことができる」(ただし現在空席のまま)「会長はこの法人の重要な業務につき理事長の要請に応じて意見を述べる」 ○学長候補者の推薦人の理事・監事・評議員及び学長選挙人(学長・専任教員及び課長・参事以上の職員)によって推薦された候補者(複数)を上記選挙人が投票。 学長は亜細亜大学の校務をつかさどり,所属職員を統督する(会長は五島昇逝去(1989年)以後空席) - 「寄付行為」「亜細亜大学学長に関する規定」
関西大学関西大学 理事長,学長 - ○学長の被選挙権は現職専任教授に限る。学長候補者選考委員会(専任教員及び専任職員のそれぞれ代表)は3名の学長候補者を選ぶ。この3名について全院生・学生による除斥投票を行う。しかるのち,残った候補者について専任教員のみで投票する。 学長の職務権限については,その専決事項(非常勤講師の委嘱など4項目)以外に規定はない(「事務専決に関する理事会内規」)。 学生の除斥投票は在籍学生数の1/3以上の除斥のあった候補者を失格とする。 「寄付行為」「学長選挙規定」
上智大学上智学院 理事長,学長 1951年に新制大学移行後,従来の総長・学長呼称まちまちであった制度を改め学長とした。 ○学長候補者選考委員会(理事・評議員会の代表,各教授会の代表及び職員の代表)によって学長候補者3名を選ぶ。この3名の候補者について専任の教職員のみによって投票を行う。 学長は本学を代表し,大学の校務全般を統括する(学則第8条第2項)。 かつて理事長と学長が兼任したことがある。69年紛争当時に学生の要求があったが,その学長選挙参加は認められなかった。 「寄付行為」「学長の選考に関する規則」『上智大学50年史』
日本大学日本大学 理事長,学長 他に総裁,会頭及び理事会長などあり,いずれも不常置。 ○総長候補者推薦委員会(法人・本部・各学部・通信教育部・短大・付属校校長のそれぞれの代表66人)が同大学教授又は元教授の中から2〜5名の候補者を推薦する。この候補者に対して選挙人(大学専任講師以上,高校教頭以上職員の一定資格者以上の全員)による投票。 「総長はこの法人の設置する大学の学長となり,この法人の設置する教学に関する事項を総理する。」 公選制化した総長選挙規則は1969年8月の制定であり,同時に最初の総長選挙が行われた。現行規則も基本的には同じ内容。 「寄付行為」「総長選挙規則」
立命館大学立命館 理事長,総長 ○総長候補者は専任教員か又は元教員に限る。総長候補者推薦委員会(理事7人,大学協議員8人,評議員2人,専任教員8人,高等学校・中学校教員3人,専任職員4人,学生3人計35人)の協議により,3〜5人の候補者を選ぶ。以上の候補者に対して選挙人による投票。選挙人は,理事・監事から12人,評議員から13人,専任の教員は各学部から計96人,高等学校・中学校から計36人,専任職員から計32人,学生・生徒の代表62人,以上合計251人による間接選挙。(1998年10月現在) - 「この法人の設置する学校その他一般教学に関する事項を総括するために総長を置く。」「総長は立命館にあっては本学の学長を兼ねるとともに,外に対しては教学に関した法人及び大学を代表し,内にあっては大学高等学校及び中学校の教学に関する諸事項を総括する」 総長選挙において選挙人251人のうち,学生,生徒代表が62人である。この学生参加の規定改定は1968年12月である。 「寄付行為」「同細則」「総長選挙規定」「学園通信」1998年10月1日号総長選挙特集

法人教学分立制=三元型(○公選 △非公選)

大学(学校法人)名 首長名称 総長(院長・塾長)の選出 学長の選出 総長(院長)の位置づけ・役割 備考(学生参加) 出典
青山学院大学(青山学院) 理事長,院長,学長 △院長選考委員会(評議員全員)により同候補者3名を選定する。理事会はその3名について投票する。総投票数のうち2/3以上を必要とする。院長に学長を兼任することは可。 ○学長選考委員会(院長,各学部より互選の専任教員,大学職員の互選による3名計22名)の選挙による上位者3名について選挙人(大学専任教員全員とその1/6の大学職員)による投票。 院長「学校法人青山学院理事会に対して責任を負う」,「外部に対して学院を代表する」,「学院全教職員会の議長となる」。学長「本学を代表し,校務を総括し,嘱託の職員を統督する」,「教育上の成績に対する責を負う」 院長の理事長及び学長兼任時代があった(大木金次郎時代)。院長の諮問機関に全学院協議会がある。 「寄付行為」「同施行細則」「同大学職制」
関西学院大学関西学院 理事長,院長,学長 △院長の有資格者は専任教職員且つ福音主義キリスト者,院長選考委員会(理事全員,同数の教職員代表)によって選定された5〜10名の候補者に対して選挙人(理事,評議員,専任の教職員)の選挙による。理事長,院長の兼任可。 ○学長の有資格者は専任教授・助教授。選考は第一選挙,除斥投票及び第二次選挙による。第一選挙:専任教員(専任講師を含む)が投票して上位5人を候補者リストに登録する。除斥投票:全学生により除斥投票,在籍学生の過半数に及んだ候補者は除斥。第二次:除斥後の候補者リストについて,専任教職員の投票を行う。 院長は「この法人の設置する学校の一切の校務を統括するとともに(中略)教学と経営との調和発展を図るものとする。」(施行細則第3条)学長については職務権限に関する規定はない。 1969年以降全学生による学長候補者の除斥投票が行われている。最近の投票率3%。「学長辞任請求規定」によって,教職員と並んで学生の学長辞任請求も認められている。 「寄付行為」「同施行細則」「院長選任規定」「学長選考規定」『同百年史』『「関学ジャーナル』175号(2001年10月1日)
専修大学専修大学 理事長,総長,学長 △「総長は創立精神を護持する」「この法人は理事会の定めた総意に基づき総長を推薦することができる」。常置ではなく,現在は空席。 ○学長候補有資格者:(1)専任教員,(2)現職の学長が推薦する学識者,(3)専任講師以上の教員の20名以上が推薦する学識者。選挙人:講師以上の専任教員と主任以上の専任職員。 「総長はこの法人統合の表徴であって,これによって創立の精神を護持する」(寄付行為)「学長は大学を代表し,校務を掌り職員を統督する。」(学則第40条) - 「寄付行為」「学長選任に関する規定」
中央大学中央大学 理事長,総長,学長 △総長は原則として中央大学教授の中から選任する(基本規定改正の附帯決議1978年7月)。総長選考委員会(学長以下教職員の代表及び理事会・評議員の代表計60人)が選考した候補について理事会が選任する。総長・理事長の兼任及び総長・学長の兼任は可。 ○学長の被選挙資格:選任教授。選挙人:各学部教授会員(教授,助教授,専任講師)及び専任職員中一定の有資格者(参与,参事,副参事は全員。主事及び副主事は互選による若干人で計150人。 総長たる理事を理事長に選任すること及び,総長と学長を兼ねることはできる。ただし三役兼任はできない。「総長はこの法人の設置する学校その他学術研究機関を総括統理する」(基本規定),「学長は中央大学の校務を掌り,所属職員を統督する」(学則第2条) 全学的な教学または研究教育問題に対する総長の諮問機関として,「教学審議会」及び「研究教育問題審議会」がある。前者は法人所属の研究所・学校の教育問題について審議し,後者は諮問に対する答申の他,教授会の議を経た意見具申を行うことができる。 中央大学基本規定」「総長に関する検討委員会答申」「学長に関する規則」「教学審議会規定」「研究・教育問題審議会規定」
東海大学東海大学 理事長,総長,学長 △理事会が評議員の意見を聴いて選任する。総長・学長・理事長の兼任可。2002年11月現在,3職は兼任されている。 △理事会の同意を得て理事長が任命する。学長・副学長とも職務権限の明記はない。 総長の建学の精神に則り,この法人の設置する学校教育を総括する。 総長は学長会議の議長(東海・九州・北海道の差3大学)。法人設置の諸学校は大学・短大・高校・中学・小学・幼稚園。 「寄付行為」『東海大学五十年史』「学長及び副学長選任規定」
同志社大学同志社 理事長,総長,学長 ○1955年以来暫定的手続 理事長があらかじめ,延人数10名の総長候補者(教職員から5名,校友会から3名,同窓会から2名)の推薦を求め,この推薦された候補者について,教職員の直接選挙によって総長を選任する。総得票の過半数を得たものが当選する。理事長の総長兼任は可。 ○1954年以来暫定的手続 被選挙人:65歳未満,在職1年以上の専任教授。選挙人:選任教員,職員及び学生。第一次投票:教員1人で2票,他は各1票,総有効投票の2/3の得票者が当選。当選者欠の時は上位3人を選び第2次投票に進む。第二次投票:専任教員のみで投票し,その過半数で当選。 総長制復活の根拠:学校教育法・私立学校法制定により,総長制は不要と判断して一旦廃止した。しかしのち「多くの学校を設置する法人としては」「これらの諸学校の教学を統轄するために総長は必要と」して復活した。学長の職務権限については不明記。 学長選挙への学生参加について1954年4月27日の学生大会で学生参加が要求され,同6月から実施,第1回目は大下角一教授が当選。最近では約3%の投票率 「寄付行為」「同志社学長選出施行要綱」『同志社百年史通史編二』「社史資料室」
明治大学 理事長,総長,学長 △総長は評議員会で選任する。手続は総長選考委員会(評議員9人,各学部,短大教授会で選出した専任教授各1人,理事長の推薦した2人で構成)において2/3の委員の同意によって候補者を決め,評議員会において専任する。 ○学長の選任は学部連合教授会の選考を経なければならない。選考した学長候補者は,理事長がこれを評議員会の承認を得なければならない。 「総長は,この法人の設置する学校の教育を総括する」。総長の学長兼任は可。学長の権限については不明記。学則も同じ。 総長と学長の選任の順序は必ず,総長を先とし,学長はその後とする。現在兼任は慣行としていない。 「寄付行為」「同施行細則」。2005年4月1日総長制を廃止した。
立教大学立教学院 理事長,院長,総長 △院長の選任は,理事会においてこれを行う。 立教大学総長の任命は,立教大学教職員の選挙にもとづき,理事会においてこれを行う。第一次選挙:総長選挙候補者推薦委員会において推薦された候補者について選挙人(専任の勤務員でチャプレン,専任教職員等,校務職員も含む)が投票し,上位3名まで候補者をしぼる。第二次選挙:上記の3人について第二次選挙人(専任教授以下教員とチャプレン・カウンセラー及び一部の職員・技術員)が投票し,1人を選出する。 院長はこの法人の設置する学校及び研究に関する事項を統轄する。総長は大学を代表し,校務全般を統括する。 院長は総長を兼任することは可。 「寄付行為」「立教学院職位職制規定」「立教大学総長候補者選挙規定」