180藤井貞和著『タブーと結婚――「源氏物語と阿闍世王コンプレックス論」のほうへ――』

書誌情報:笠間書院,vii+324頁,本体価格2,300円,2007年3月25日

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1年以上積ん読してしまった。連休中にようやく読了した。
かつて,栗原弘著『高群逸枝の婚姻女性史像の研究』(高科書店,1994年)を読んで,日本における女性史研究に大きな足跡を残した高群が資料操作をおこなっていたことを知り,ショックを受けたことがある。
著者は,源氏物語万葉集蜻蛉日記古事記などの古典に,結婚や性という社会学的な,また精神分析的アプローチをこころみる。高群が分析したように,日本の古代にあっては,通い婚や招婿婚を原則としながら,さまざまな結婚形態があった。本書は,ひとつの制度で説明できない多様な結婚のかたち(「ある種の自由」「ある種のルーズさ」)を認めるが,現代とは異なるとはしていない。婚姻関係や家族は,現代人から見て想定内の形態だ。一夫多妻や一夫一妻は変化するということだ。もちろん,変わらないこともある。平安の時代から大原則は男女合意婚という。
日本の古典文学が「文学的資料」としてもつ意味をあらためて示した著者の力量はさすがといえる。