324泉修三著『スパイと公安警察――実録・ある公安警部の30年――』

書誌情報:バシリコ,269頁,本体価格1,600円,2009年1月19日発行

スパイと公安警察-ある公安警部の30年

スパイと公安警察-ある公安警部の30年

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購入・読了は第4刷(2009年3月29日発行)だった。公安警察官としての30年の実録という。巡査から警部まですべて優等だったという著者は,「スッポンの泉」とよばれ,執念深く,一度食らいついたら絶対逃さない辣腕ぶりだった。
警察官は,市民の味方,町の安寧を守るとともに(警備警察),国家治安,社会の安定も目的となっている(公安警察)。後者の問題点を抉った類書は,大野達三『警備公安警察の素顔』(新日本新書,1988年,isbn:9784406015929),青木理『日本の公安警察』(講談社現代新書,2000年,isbn:9784061494886),佐竹一彦『警視庁公安部』(角川文庫,2001年,isbn:9784043451043),社会批評社編集部編『公安調査庁スパイ工作集』(社会批評社,2001年,isbn:9784916117465),鈴木邦男公安警察の手口』(ちくま新書,2004年,isbn:9784480061980),同『公安化するニッポン』(WAVE出版,2005年,isbn:9784872902297)などがある。本書は公安警察官(警視庁公安部)本人の叙述というこれまでにない新しさがある。公安警察官として全身全霊を傾け,スパイ,国際テロ,右翼と極左暴力集団,連続企業爆破事件などと対峙した結果が神経をやられボロボロの身体になるとは,常日頃「「睡魔」「寒さ」「過労」との闘い」(19ページ)をしている「全国26万人の警察官よ,がんばれ!」(「あとがき」)もやりきれない。
「公安刑事は三,四万円を常に財布に入れている」(124ページ)そうだ。たしかに公安警察の「暴露本」(「あとがき」)ではない。あえて類書にある公安警察批判への論評を避け,日々の公安捜査を詳述することで,公安警察の正統性を主張したかったのだろう。