351曽野綾子著『貧困の僻地』

書誌情報:新潮社,214頁,本体価格1,400円,2009年5月15日発行

貧困の僻地

貧困の僻地

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新潮45』2007年1月号から2008年9月号(最終回)まで連載されたレポート・エッセイ「夜明けの新聞の匂い」の単行本である。日本財団や海外邦人宣教者活動援助後援会(JOMAS)などの活動をつうじて得た著者の関心――人間が生きる最低条件に係わる水位――が通奏として響く。自動車,電気,水道,電話,印刷物,広告,騒音など一切無い世界の僻地の貧困が胸を打つ。
いくつかの伏線がある。ひとつは戦後日本の教育を日教組教育として断罪していること。ふたつにトリアージュ(治療優先順位の選別)への原則を社会のルールとして希求していること。みっつに使途不明金や職員の特権階級化しているという判断から国連関係機関へ不信感があること。よっつに料理と読書を動物とは違う人間的行為とみなしその意義を高く評価していること。さらに貧困の僻地への支援は教育と医療につきると経験的に語っていること。
エッセイという文章から紡ぎ出した人間への眼差しは文学者兼キリスト者のそれであり,日本の格差や貧困がそれよりましと言っているわけではない。支援活動から見えた貧困の現実を直視したところに本書の魅力がある。惹句にいう「これが海外の「貧困」の現実だ。日本に「格差」などあるといえるのか。」とは著者の真意ではないはずだ。