書誌情報:新泉社,298頁,本体価格2,500円,2010年7月25日発行
- 作者:ジェームズ スタンロー
- 発売日: 2010/07/01
- メディア: 単行本
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日常の日本語には英語由来の外来語・文章が5〜10%を占めているという。「日本ほど英語が広く使われている非英語圏の国はない」(5ページ)。本書で紹介されているある調査(1996年)によれば,子ども向け漫画で18%,成人向け週刊雑誌では12%の英語語彙だった。日本語の乱れの表れとして,また英語帝国主義批判の文脈から,英語話者には通じないことの多い和製英語(カタカナ英語)の氾濫が問題視されることになる。
アメリカ人言語人類学・認知人類学者の手になる本書は,「一つのよそ者の見方を提示」(「日本語版あとがき」,291ページ)した日本語論だ。英語と英語由来の外来語の使用例,Jポップ(これも和製英語だ)のレトリック,広告・コマーシャル・Tシャツなどのビジュアルな英語表現は和製英語の分析にあたる。幕末以来の言語接触の歴史,言語とナショナリズムとの関連を論じ,(和製)英語なしには成り立たない日本語を確定する。
和製英語は英語をそのまま借用したものではなく,「日本国内でよく使われている英語のほぼすべてが日本でつくられたもの,もしくは日本でリメイクされ,修正されたもの」(31ページ)である。和製英語は「英語から生み出された日本語」(49ページ)というわけである。
90年代の人気探偵漫画『葛飾Q』の表紙には「KATSUSHIKA Q(葛飾Q)」とタイトルがあった。著者はこれを「視覚的かつ聴覚的な英語の使い方」であり,日本語の類い稀な「創造性」とみる。日本語は英語を「ひとそろいのシンボル,またはひとそろいの言語資源」(118ページ)とする。「記号体系が変換されたり混和されたりしながら,真に(日英:引用者注)二カ国語使用の状態」(133ページ)である。和製英語の多用は,日本人の模倣や外国語崇拝からではなく,好奇心や関心と創造性のなせるワザとみるのだ。
「西洋人の批評家であれ日本人の批評家であれ,一つ理解していないことがある。それは,この外来語の使用が,日本語の言語レパートリーを増やす一つの創造的道具であり,日本人のための伝達手段となるということである」(217〜218ページ)。受験英語も「日本人の目的に沿った英語」(233ページ)となる。
「再異国情緒化(re-exoticization)」(247,250,252ページ)――多言語の語彙や表現を吸収し日本語化すること――をキーワードにした著者の和製英語論・日本語論は,日本人の言語創造力に光をあてた。
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