689日本建築学会編『いまからのキャンパスづくり――大学の将来戦略のためのキャンパス計画とマネジメント――』

書誌情報:日本建築学会,191頁,本体価格2,800円,2011年11月15日発行

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建物の統一感がなく,サインもバラバラで,自転車だらけのある大学のキャンパスを見ているだけに,本書が強調するキャンパスづくりとキャンパスマネジメントは待望の書物だ。「大学キャンパスの計画内容は,大学の研究教育,経営・運営を支え,社会の要求に対応したものへの転換が求められています」(「はじめに」)に共感する。
キャンパスマスタープラン作成を大学の理念と使命にかかわらせていること,キャンパスマネジメントを国内外の競争的環境と学生確保に不可欠としていることも正論だろう。キャンパスの立地形態は,大都市立地と地方都市立地,都心部の立地と郊外立地,単独キャンパスと分散キャンパス,サテライトキャンパス,バーチャル・キャンパス/Eキャンパスなど多様だ。また,安全性や環境への配慮も必要になっている。とくに,地方都市の大学は地域再生やまちづくりの拠点でもあるし防災拠点にもなりつつあり,大学キャンパスの持つ意義は大きい。
欧米大学や日本の大学の実例を多く紹介し,空間デザイン,マネジメント,地域連携からキャンパスづくりを提唱している。一部実例,一部理念と混在しているようにみえるものの,「大学の将来戦略」と大学の公共性とのかかわりで論じる大学キャンパス論は建築学会からの大きな問題提起だ。
「コラム 戦略的なキャンパスマスタープランの策定に向けて」(33ページ)ではなぜキャンパスマスタープランが必要かについて,国立大学法人化,各大学のミッションを支える計画,魅力あるキャンパスづくり,環境問題への貢献,安全性・機能性への適切な対応を挙げ,「国立大学法人等は,国民から負託された資産であるキャンパスを最大限に活用し,教育研究の質の向上を図り,教育研究の成果が経済的価値や社会的・公共的価値を創出していくことが求められてい」るとまとめていた。